2 領事サービスと日本人の生活・活動支援
(1)領事サービスの向上
海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を毎年実施している。2021年1月に145公館を対象とした調査では、1万8,349人からの有効な回答が得られ、在外公館が提供する領事サービスにおおむね満足しているとの評価が示された。一方、言葉遣いや態度が事務的に感じられるなど、職員の接客態度について改善を求める意見も寄せられており、このような利用者の声を真摯に受け止め利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく考えである。
また、旅券、査証及び証明申請のオンライン化など領事手続のデジタル化を進めるとともに、これらの手数料のキャッシュレス化を図り、利用者の利便性向上に努めていく。


(2)旅券(パスポート):信頼性の維持と利便性向上・業務効率化
2020年以降、新型コロナの感染拡大のため世界的に海外渡航者が減少したことにより、日本の旅券の発行数は引き続き低迷している。2021年の旅券発行数は63万冊であり、2020年比で53.1%減少した。また、有効な旅券の総数は12月末時点で約2,440万冊であり、2020年比で11.9%減少した。
2021年7月から市町村で発行開始した海外渡航用の新型コロナワクチン接種証明書は紙の証明書で日本の独自仕様であったが、同年12月から発行開始した2次元バーコード付証明書(電子版)の海外用においては旅券が本物であるかを認証するシステムを活用した国際民間航空機関(ICAO)のVDS-NC(制約のない可視化デジタル証印)規格が採用されている。
2020年12月に改定された「デジタル・ガバメント実行計画」に基づき、デジタル庁を始め関係省庁と緊密に連携しつつ、定期的な都道府県との協議や有識者による研究会などを通じ多様な関係者の意見を踏まえ、2023年3月末までに旅券のオンライン申請を開始すべく準備を進めている。具体的には、国内においてはマイナポータル(政府が運営するオンライン行政サービス)上に、申請サイトを作成し、顔写真や署名はスマートフォンなどによる撮影及び提出を可能とすることで、戸籍謄抄本の提出が不要である旅券の切替え申請(更新)は原則として申請時に窓口に赴く必要がなくなるようにする。また、同時にデジタル技術の活用などにより旅券業務の効率化も進め、併せてそのための法整備にも取り組む。
2024年度からは、戸籍電子証明書の参照が可能になることで、新規の申請も原則として窓口に赴く必要がなくなるよう取り組んでいく。さらに、旅券の偽変造防止の向上のため、熱可塑性プラスチック基材にレーザー印字を行う次世代旅券を導入するとともに、マイナンバーカードを活用した本人確認などによる安全かつ確実な交付のためのシステム構築・制度設計に向け、希望者に対して配送による旅券の交付を可能とすることについての検討も開始した。
2022年1月に発表された英国民間会社のパスポート指標(査証(ビザ)を必要としない渡航先国数)において日本の旅券はシンガポールと同率で111位中の第1位となった。引き続き、旅券の信頼性を維持しつつ、申請者の利便性向上及び旅券業務の効率化に取り組んでいく。
(3)在外選挙
在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に赴く必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られた。投票は「在外公館投票」、「郵便投票」又は「日本国内における投票」のいずれか一つを選択することができる。
在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。2021年は第49回衆議院議員総選挙の実施に伴い、15回目となる在外公館投票を226公館・事務所で実施した。2022年には参議院議員通常選挙も予定されていることから、引き続き登録者数増加や在外公館投票に向けた広報活動などに取り組んでいく。

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援
ア 日本人学校、補習授業校
海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省では、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師謝金、安全対策費などへの一部支援)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。
2021年には、新型コロナの拡大により児童・生徒数が減少したため、学校運営に影響を受けた日本人学校・補習授業校に追加的な支援を行った。また、海外で生活する3歳から18歳の子供が、感染症対策をとりながら学習できるよう、電子ライブラリーやオンライン学習サービスの提供を行う日本人会・日本人学校などへの支援についても2022年3月まで実施した。
イ 医療・保健対策
外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している(2021年度は新型コロナの影響により実施なし)。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域を対象にオンラインにて専門医による健康安全講話を実施している。
ウ 海外在留邦人・日系人への支援
2021年3月から12月の間、新型コロナの感染拡大により生活に支障が出ている海外の在留邦人・日系人を支援するため、感染拡大防止を目的としたPCR検査事業、マスク・消毒薬の配付を含む啓発事業など、また、ビジネス環境作りを目的とした法務・税務相談窓口事業など、在外の日本人会、日本商工会議所、日系人団体などが実施する事業への支援として、海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業を実施した。また、在留邦人などへの医療及び精神カウンセリングの提供事業についても2022年3月まで実施した。
エ その他のニーズへの対応
外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。
例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車などを運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。
また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。さらに、「孤独・孤立」で悩まれている方が相談できる団体を紹介している(301ページ コラム参照)。