4 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施状況
ハーグ条約は、子の利益を最優先するという考えの下、国境を越えた子供の不法な連れ去りや留置をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして、子供を元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力などについて定めた条約である。
この条約は、日本については2014年4月1日に発効し、2021年12月末現在、日本を含む101か国がこの条約に加盟している。
条約は、各締約国の「中央当局」として指定された機関が相互に協力することにより実施されている。日本では外務省が中央当局として、様々な分野の専門家を結集し、外国中央当局との連絡・協力をしながら、子を連れ去られた親と子を連れ去った親の両方に、問題解決に向けた支援を行っている。
ハーグ条約発効後2021年12月末までの7年9か月間に、外務大臣は、子の返還を求める申請を302件、子との面会交流を求める申請を166件、計468件の申請を受け付けた。日本から外国への子の返還が求められた事案のうち、55件において子の返還が実現し、43件において返還しないとの結論に至った。外国から日本への子の返還が求められた事案については、53件において子の返還が実現し、29件において返還しないとの結論に至った。
2021年3月には、ハーグ国際私法会議(Hague Conference on Private International Law)と共催し、アジア太平洋地域におけるハーグ条約に係る協力強化を目的として、「ハーグ条約に関するアジア太平洋ウェビナー」を開催し、12か国の裁判官や中央当局関係者が参加した。
また、幅広い層へハーグ条約を周知するため、ハーグ条約に関するリーフレット(電子版)を在外公館に送付するとともにウェブサイトへの掲載を行った。さらに、在留邦人向け啓発セミナー(オンライン形式)、国内の地方自治体や弁護士会などの関係機関向けセミナーの実施に加えて、ハーグ条約に関する啓発動画を作成し、外務省ホームページや動画共有プラットフォームに掲載するなど、広報活動に力を入れている。
返還援助申請 |
面会交流 援助申請 |
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日本に所在する子に関する申請 | 164 | 126 |
外国に所在する子に関する申請 | 138 | 40 |
2月、日本では孤独・孤立対策担当大臣が設置され、孤独・孤立対策が始まりました。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)が流行する前から、日本において自殺や児童虐待、家庭内暴力(DV)といった問題は深刻な状況でした。その背景の一つには、周りに頼りたくても頼れないという「望まない孤独」がありましたが、新型コロナにより「人とのつながり」が絶たれ、この「望まない孤独」の問題がより一層顕在化したのです。
私たちは24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口を開設し「望まない孤独」を抱える人たちからの相談を受け付けています。最も相談が増える夜間から深夜にかけては、私たちの活動に参加している海外在住のボランティア相談員が相談に応じることで、24時間の相談支援体制を構築しました。政府が一体となって孤独・孤立対策に取り組むべきとの私たちの提案が実り、日本において孤独・孤立対策が始まった直後の3月、在外邦人子女から、親から虐待を受けているという相談が入りました。チャット相談という性質上、これまでも在外邦人からの相談が寄せられることはありましたが、緊急対応(児童相談所や警察などと連携した危機介入)が必要な相談は初めてでした。しかし、日本の児童相談所は在外邦人子女の虐待に対応することはできず、また、現地の言葉が分からないという相談者に対して、私たちも現地当局や支援団体に助けを求めるよう促すこともできませんでした。また、私たちのような民間の相談窓口と、外務省や在外公館との間に連絡系統もなく、文字通り為(な)す術(すべ)がないという状況に陥ったのです。
自殺や児童虐待、DVといった問題は、当然、在外邦人にも発生します。言語や文化の壁、生活習慣の違いなどもあり、在外邦人は特に孤独や孤立に陥りやすい状況にあります。実際、在外邦人の死因の2番目は自殺です(出典:2020年外務省海外邦人援護統計)。外務省も在外公館を通じて様々な支援を展開していますが、在外邦人の孤独や孤立に取り組むには、民間団体との連携も含めた更なる対策強化の必要がありました。そこで私たちは、茂木外務大臣に対して、在外邦人の孤独・孤立対策の要望書を提出し、外務省として具体的対策の検討を始めるよう提案しました。その結果、7月から、外務省は私たちを含めた国内の五つの相談窓口と連携して、在外邦人に対してこれら相談窓口の案内を行い、緊急対応が必要な相談者に対しては、外務本省と私たち相談窓口との間に開設された連絡系統を利用して対応に当たることになりました。実際に緊急対応を行った事例もあり、在外邦人の孤独・孤立対策が徐々に成果を上げています。本取組の開始後、私たちの窓口では月に約200名の在外邦人からの相談に対応していますが、例えば米国在住の邦人からの相談を、英国在住の邦人ボランティア相談員が相談に応じる場合もあります。「望まない孤独」に国境はありませんが、支援にもまた国境はありません。私たちが世界中に張り巡らせている相談員ネットワークと外務省との連携が在外邦人の望まない孤独の根絶のために更に効果を発揮するよう、引き続き相談支援に全力で取り組みます。

茂木外務大臣に要望書を渡す筆者(右)
