8 ジェンダー平等・女性のエンパワーメント
新型コロナの拡大は、既存のジェンダー不平等を一層浮き彫りにした。このため、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進は国内外の最重要課題の一つと位置付けられ、新型コロナ流行下からのより良い復興を実現していく上で女性・女児を様々な施策の中心に位置付けることが不可欠である。また、紛争下での女性の脆(ぜい)弱な立場を踏まえ、紛争の武器としての性的暴力を防止し、女性の人権保護・救済促進に向けた国際的な取組に積極的に貢献することは日本にとっても重要である。こうした中で、第5次男女共同参画基本計画にも明記したとおり、日本は、今後も、女性に関する国際会議の開催や、各国や国際機関などとの連携を通じた開発途上国支援を強力に推進し、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進に貢献していく。
(1)G7
ジェンダー平等は、G7英議長国の下において、開かれた、包摂的な、公正な社会の中核と位置付けられ、女子教育、女性のエンパワーメント、女性及び女児に対する暴力の終焉(えん)が三つの主要な優先事項として取り上げられた。6月のG7コーンウォール・サミットで発出された首脳コミュニケには、「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」に対し、G7として、今後5年間で計27.5億ドルをプレッジすることなどが盛り込まれた。
(2)G20
8月、G20イタリア議長国下で、G20では初となる女性活躍担当大臣会合がサンタ・マルゲリータ・リグレで開催され、丸川珠代女性活躍担当大臣がオンラインで開会セッションに参加した。10月のG20ローマ・サミットで発出されたローマ首脳宣言では、無償ケア労働やジェンダーに基づく暴力を始めとする、新型コロナの拡大により不均衡に影響を受けた女性と女児の諸問題の解決に向けての取組や、ブリスベン目標に向けた毎年の進捗状況の共有と行動を再確認した。
(3)国際協力における開発途上国の女性支援
日本は、JICAや国際機関を通じ、教育支援・人材育成のほか、開発途上国の女性の経済的エンパワーメントやジェンダーに基づく暴力の撤廃に向けた取組を行っている。
ア 教育支援・人材育成
2018年のG7シャルルボワ・サミットの機会では、女児・女性のための2億ドルの質の高い教育及び人材育成支援を表明し、着実に実施した。2019年3月に開催された第5回国際女性会議WAW!において、安倍総理大臣から開発途上国における女性の教育機会拡大のため、2018年から2020年までの3年間で、少なくとも400万人の女児・女性に質の高い教育、人材育成の機会を提供するコミットメントを表明し、着実に実施しているところである。また、2021年7月に開催された世界教育サミットで、少なくとも750万人の開発途上国の女子の教育及び人材育成支援を約束した。
イ JICAを通じた女性支援
女性の経済的エンパワーメントを推進するため、パキスタンにおいて低所得層の女性家内労働者の生活改善支援や、ベトナムにおいて女性のニーズに応じた金融サービスなどの提供促進支援を行った。また、女性の平和と安全の保障を推進するため、メコン地域を対象に人身取引対策に携わる関係組織の能力と連携強化を支援するとともに、南スーダンやパキスタンにおいてジェンダーに基づく暴力の生存者の保護や自立支援を行う協力を開始した。
ウ 紛争下の性的暴力への対応
紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題であり、加害者不処罰の終焉(えん)及び被害者の支援が重要である。21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に積極的に取り組んでおり、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC)65事務所などの国際機関との連携、国際的な議論の場への参加を重視している。
2021年、日本はSRSG-SVC事務所に対し、約90万米ドルの財政支援を行い、新型コロナ拡大下のレバノン、ヨルダン、イラクを含む中東における紛争関連の性的暴力やジェンダーに基づく暴力の女性被害者支援などに貢献している。また、2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師及びナディア・ムラド氏が中心となって創設した紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)66に対し、2020年同様、2021年も200万ユーロを拠出し、日本は理事会メンバーとして同基金の運営に積極的に関与している。さらに、国際刑事裁判所(ICC)の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、性的暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、被害者保護対策にも取り組んでいる。
このほか、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も行っている。
(4)国連における取組
ア 国連女性機関(UN Women)との連携
日本は、2013年に約200万米ドルだった拠出金を、2021年には約2,100万米ドルにまで増額し、UN Womenとの連携を強化している。とりわけ、開発途上国の女性・女児に対し、新型コロナからの予防のための啓発活動、新型コロナ下における生計支援や起業支援などの経済的なエンパワーメント、また、オンライン上の暴力を始めとするジェンダーに基づく暴力への対応などに取り組んだ。このほか、雇用創出・職業訓練を通じた女性の経済的エンパワーメント支援、女性の権利や女性に対する暴力撲滅に対する意識の向上、心理社会的支援に取り組んでいる。さらに、暴力的過激主義を防ぐため、女性のエンパワーメントによる強靱(じん)なコミュニティ作りを南アジアや東南アジア諸国で実施している。

イ 女子差別撤廃委員会
日本は、1987年から継続して女子差別撤廃委員会(23人で構成(個人資格))(CEDAW)67に委員を輩出している。9月、第9回目となる日本の条約実施状況に関する報告書を提出した。
ウ 国連女性の地位委員会(CSW)68
3月に開催された第64回国連女性の地位委員会(CSW64)は、新型コロナの感染拡大を受け、大幅な日程短縮及び規模を縮小しての開催となり、関係者によるオープニングステートメントや、政治宣言や各種決議などの採択は行われたものの、加盟国からの発言の機会は見送られた。
エ 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)
日本は引き続き、第2次「女性・平和・安全保障行動計画」(女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及びその関連決議の履行に向けた行動計画)に沿って、主にUN WomenやSRSG-SVC事務所などの国際機関への拠出により中東、アフリカ、アジア地域のWPS分野に貢献しているほか、実施状況のモニタリング及び評価として報告書を策定している。日本国内では3月に国際女性デーを記念したウェビナーを開催し、WPSをテーマの一つに取り上げ議論した。
65 SRSG-SVC:Special Representative of the Secretary-General on Sexual Violence in Conflict
66 GSF:Global Survivors Fund (Global Fund for Survivors of Conflict-Related Sexual Violence)
67 CEDAW:Committee on the Elimination of Discrimination against Women