外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第4節 中南米

1 概観

(1)中南米情勢

中南米地域には、民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を日本と共有する国家が多い。同地域は、約6億4,000万人の人口を抱え、鉱物、エネルギーなどの天然資源や食料の一大産出地であるとともに、巨大市場を擁するなど大きな経済的潜在力を有している。

2020年においては、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の世界的な感染拡大の影響を受け、経済活動の縮小、輸出・海外送金減、債務負担増などにより、中南米経済は大きく落ち込んだ。政治面においては、一部で情勢の不安定化が見られたものの概(おおむ)ね安定した秩序が維持され、多くの国で平和裡(り)に民主的な選挙が実施された。一方、ベネズエラでは引き続き政権側と野党側の対立が継続しており、同国の政治経済社会情勢の悪化により避難民として周辺国に流出したベネズエラ人は12月時点で540万人を超え、その受入れは引き続き地域的課題となっている。

また、中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める200万人以上から成る日系社会が存在している。日系社会は100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じ、中南米地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方で、移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進み、日本とのつながりが相対的に希薄な若い世代も増えている。

(2)日本の対中南米外交

日本の対中南米外交は、安倍総理大臣が2014年に提唱した「3つのJuntos!!(共に)」の指導理念の下で展開されてきた。2018年12月には、同理念の成果を地域全体として総括し、次なる協力の指針として日・中南米「連結性強化」構想を安倍総理大臣が公表した。本構想の実現に向け、中南米諸国との協力関係の深化が目指されており、2020年は新型コロナの影響により物理的な人の往来が制限されたものの、様々なレベルにおいて電話会談などにより継続的な政策協議を行い、二国間関係の強化や国際場裡(じょうり)における諸課題解決に向けた連携強化に取り組んだ。

経済分野においては、日本企業の中南米地域拠点が2011年の約2倍に達するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されており、日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。

中南米地域では、経済成長を遂げた被援助国からの「卒業国」、又は「卒業」を控えた国々により南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。また、中南米地域は、新型コロナの被害が深刻であることに加え、医療体制が脆弱(ぜいじゃく)である国も少なくない。日本は、二国間協力の枠組みでは、中南米18か国に対し、感染症対策及び保健・医療体制の強化に資する保健・医療関連機材供与のための無償資金協力(計約79億円)を実施している。また、多国間の枠組みでは、汎米保健機構(PAHO)や米州開発銀行(IDB)を通じた支援を行った。11月にはハリケーンにより被災したニカラグアホンジュラスグアテマラコロンビアに対して緊急援助物資の供与や緊急無償資金協力を実施した。2021年1月には、茂木外務大臣が就任後初めて中南米5か国を訪問した。

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