外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

8 女性

(1)G7ビアリッツ・サミット

8月にフランスが議長国を務めたG7ビアリッツ・サミットでは、「不平等との闘い」をテーマとしてジェンダー平等が議論され、その結果、「ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントに関するG7宣言」が採択された。アフリカのセッションでは、アフリカにおける女性の起業の促進も議論され、付属文書として「女性起業家支援」が発出された。

(2)G20大阪サミット

6月に開催されたG20大阪サミットでは、女性が主要議題の一つとして取り上げられ、女性の労働参画推進、STEM(科学、技術、工学、数学)分野を含む女子教育支援、女性起業家を含む女性ビジネスリーダーの声を反映することなどが首脳宣言に盛り込まれた。また、公式サイドイベントの一つとして女性のエンパワーメントに関する首脳特別イベントが開催され、G20首脳や国際機関の長が、女性のエンパワーメントに対するG20のコミットメントを再確認した。

(3)国際女性会議WAW!

日本は、女性の活躍推進のための日本の取組を国内外に発信するとともに、女性をめぐる様々な課題について、政治、経済、社会分野の第一線で活躍する国内外のトップリーダーが議論する場として、2014年から国際女性会議WAW!を開催している。5回目となったWAW!は、2019年3月にG20のエンゲージメント・グループ(国際社会の活動にかかわる関係者により形成された、政府とは独立した団体)の一つであるW20(Women20)と同時に開催された。

第5回国際女性会議WAW! ロゴマーク
第5回国際女性会議WAW!での議論の様子(3月23日、東京)
第5回国際女性会議WAW!での議論の様子(3月23日、東京)

第5回WAW!のテーマは「WAW! for Diversity」で、持続可能な開発目標(SDGs)に謳(うた)われた「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向けて、あらゆる視点を取り込んでいくことが重要との認識の下、現在の日本社会及び国際社会が抱える今日的な課題について、女性の視点を中心に議論を行った。「地方活性化と雇用創出、そのためのリーダーシップ」、「多様性を育てるメディアとコンテンツ」、「女性の参画と紛争予防・平和構築・復興」、「多様性を成長に:企業経営や職場環境」、「家族の未来:頼る・活(い)かす・分かち合う」などのトピックについて議論した(193ページ 特集参照)。

また、W20では「ジェンダーギャップの解消を通じた新しい成長のカタチ:女性のエンパワーメントを実現するガバナンスとは」、「女性起業家が創る新しい市場価値」、「ジェンダー投資:世界の新潮流」、「デジタル時代のジェンダー平等」、「患者や介護者としての女性の就業:健康格差の是正による男女平等と労働参加の向上」、「労働におけるジェンダーギャップを解消する:ハッピーなワークとライフの実現へ」について議論した。

なお、2020年4月3日及び4日には、6回目となるWAW!が開催予定であったが、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況を踏まえ、開催を延期することとした。

第5回国際女性会議WAW!
~マララ・ユスフザイ・ノーベル平和賞受賞者の言葉~

3月23日及び24日に日本政府主催で「第5回国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)」が開催されました。5回目の開催となった今回は、7か国から女性外相が出席したほか、日本及び27の国と地域、3つの国際機関から様々な分野で活躍するトップ・リーダー82人が登壇し、2日間で約3,000人が参加しました。「WAW! for Diversity(多様性)」をテーマに、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」持続可能で包摂性と多様性のある社会の実現に向け、若者や男性を含め、多様な背景を持つ参加者が国内外の課題について議論しました。各参加者からのアイデアや提案は総括文書として取りまとめられ、国連文書(番号:A/73/861)としても登録されました。

ここでは、この会議に参加したマララ・ユスフザイ・ノーベル平和賞受賞者による基調講演と、マララさんが参加したパネル・ディスカッション「技術革新と変容する社会における人材育成」を紹介します。

マララ・ユスフザイ・ノーベル平和賞受賞者による基調講演

基調講演では、マララさんから、生まれ育ったパキスタンの故郷で女子が学校に通えなくなり、自身が11歳の時に声を上げることを決意し、現在の活動に至った経緯について述べました。その上で、教育を受けることができない人生は未来を閉ざし、社会に貢献する機会を奪うものであると指摘しました。加えて、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の女子教育の推進は、技術革新の貢献にもつながることを強調し、G20及びビジネスリーダーなどに、女子教育への更なる投資と支援を進めてほしいと訴えました。

マララ・ユスフザイ・ノーベル平和賞受賞者(3月23日、東京)
マララ・ユスフザイ・ノーベル平和賞受賞者
(3月23日、東京)
パネル・ディスカッション「技術革新と変容する社会における人材育成」

パネル・ディスカッションでは、第4次産業革命とも言われるIT産業の発達の中で、どのように人材を育成し、人々が取り残されることなく、公平にその恩恵を享受するのかについて、議論が交わされました。マララさんは、技術革新から取り残されている女子が10億人もいることを指摘し、各国政府やビジネスリーダーからの支援を呼びかけ、誰でも権利を行使できる社会を目指すべきと訴えました。また安倍総理大臣が2020年までに少なくとも400万人の途上国の女性たちに質の高い教育の機会を提供すると約束したことを受け、大変嬉(うれ)しく思うとした上で、他国からも同様の取組が増えてほしいとの発言がありました。さらに他のパネリストから、企業、大学、国家政策などにおける具体的な取組事例として、ブルガリアでは民間企業の協力を得てITエンジニアになる女子生徒の数が世界で1位となったことが紹介されたほか、ある大学関係者からは、今後は専門分野のみならず幅広い知識を持った人材育成が必要であるとの認識の下、女子をSTEM分野へ進学させることへのためらいをなくすことを目的とした大学での保護者への啓発活動が紹介されました。

パネル・ディスカッションの様子(3月23日、東京)
パネル・ディスカッションの様子
(3月23日、東京)

(4)国際協力における開発途上国の女性支援

安倍総理大臣は2016年5月に、開発協力大綱に基づく新たな分野別開発政策の一つとして「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表するとともに、2016年から2018年までの3年間で、約5,000人の女性行政官などの人材育成と約5万人の女子の学習環境改善の実施を表明し、日本はこれらを着実に実施した。また、同2016年12月に開催された第3回WAW!で、安倍総理大臣は、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、①女性の権利の尊重、②能力発揮のための基盤の整備及び③政治、経済、公共分野におけるリーダーシップ向上を重点分野として、2018年までに総額約30億米ドル以上の支援を行うことを表明し、日本はこれらを着実に実施した。2019年3月に開催された第5回WAW!では、安倍総理大臣から、途上国における女性の教育機会拡大のため、2020年までの3年間で、少なくとも400万人の女児・女性に質の高い教育、人材育成の機会を提供するコミットメントを再度表明した。

(5)国連における取組

ア 国連女性の地位委員会

3月に第63回国連女性の地位委員会(CSW47)が開催され、日本からは、田中由美子(城西国際大学招聘(しょうへい)教授)日本代表、各府省庁、国際協力機構(JICA)及びNGOから成る代表団が出席した。会議では、「ジェンダー平等及び女性と女児のエンパワーメントのための社会保護システム、公共サービス及び持続可能なインフラストラクチャーへのアクセス」を優先テーマに議論が展開された。田中代表は、一般討論演説で、保育・介護の受け皿拡大、性犯罪・性暴力対策の推進といった国内の取組をアピールした上で、国際的な支援としては、安全で快適な公共交通機関の向上を通じて、女性と児童の教育や保健サービスへのアクセス改善及び経済活動への参加促進に貢献していることを紹介した。また、引き続きユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進に努めるとともに、本年のG20議長国として重視する教育分野においても支援を継続していくことを述べた。

イ 国連女性機関

日本は国連女性機関(UN Women)との連携を強化しており、2013年に約200万ドルだった拠出金は、2019年には約1,790万ドルまで増え、主にシリアやイラクからの難民を抱えるエジプト、ヨルダン、トルコなどの中東地域やナイジェリア、ニジェール、チャド、マリ、南スーダンを含むアフリカの紛争影響国において、性的及びジェンダーに基づく暴力被害者女性のニーズも踏まえた女性のための専用施設の確保、心理的・社会的支援、職業訓練を含めた経済エンパワーメント支援を実施している。また暴力的過激主義を防ぐため、女性のエンパワーメントによる強靱(きょうじん)なコミュニティ作りや、レバノン、スリランカでは幅広く平和構築、和平・和解プロセスへの女性の参画支援を実施している。

ウ 性的暴力への対応

紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題であり、加害者不処罰の終焉(しゅうえん)及び被害者を支援していくことが重要である。21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に積極的に取り組んでおり、国連アクションや紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC)事務所といった国際機関との連携、国際的な議論の場への参加を重視している。

日本は、2019年、SRSG-SVC事務所に対し、約153.5万米ドルの財政支援を行い、イラク、コンゴ民主共和国、中央アフリカの警察・司法能力強化などに貢献している。さらに、国際刑事裁判所(ICC48)の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、累計約80万ユーロの拠出中、約60万ユーロを紛争下における性的暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、被害者保護対策にも取り組んでいる。

エ 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)

日本は、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及びその関連決議の履行に向けた「行動計画」を2015年に策定し、2019年3月に第2版となる改訂版を策定した。本行動計画に沿って、主にUN WomenやSRSG-SVC事務所などの国際機関への拠出により中東、アフリカ、アジア地域のWPS分野へ貢献している。また、実施状況のモニタリング及び評価として年次報告書を策定しており、外務省のウェブサイトに公表している。2018年のG7トロント外相会合で決定したG7女性・平和・安全保障パートナーシップ・イニシアティブにおいて、日本はスリランカをパートナー国として、2019年から同国のWPS行動計画策定支援や紛争寡婦を含めた女性世帯の経済エンパワーメントなど、WPS分野の実施を支援している。

オ 女子差別撤廃委員会

日本は、1987年から継続して女子差別撤廃委員会(23人で構成(個人資格))に委員を輩出している。現在は、2018年に行われた同委員会委員選挙で当選した秋月弘子亜細亜大学教授が委員を務めている。

47 CSW:United Nations Commission on the Status of Women

48 ICC:International Criminal Court

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