外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

3 欧州地域機関との協力及びアジア欧州会合(ASEM)

(1)北大西洋条約機構(NATO)との協力

NATO2は加盟29か国の集団防衛を目的とする同盟であり、加盟国の集団防衛のほか、コソボにおける治安維持活動、アフガニスタン支援、テロ対策など、加盟国の領土及び国民の安全保障上の直接の脅威となり得る域外の危機管理や、域外国・機関との協力による協調的安全保障に取り組んでいる。12月にロンドンで行われたNATO首脳会合では、集団防衛に関する北大西洋条約第5条へのコミットメントを再確認するとともに、中国の影響力拡大がもたらす機会と挑戦についてNATOで初めて議論された。

日本とNATOは基本的価値を共有するパートナーであり、2014年5月に安倍総理大臣がNATO本部を訪問した際に署名した国別パートナーシップ協力計画(IPCP)(2018年5月に改訂)に基づき、具体的な協力を進めてきている。日本は、これまでNATOの危機管理演習(CMX)や人道支援・災害救援(HA/DR)に関連する演習にオブザーバー参加してきているほか、12月には、NATOサイバー演習(サイバーコアリション2019)に初参加した。さらに、女性・平和・安全保障(WPS)分野などにおける日・NATO協力促進のため、11月からNATO本部に3代目となる女性自衛官を派遣している。また、日本は、NATOの軍事的な専門知識を活用し軍備管理・軍縮、民主化・地域安定化促進を目的とした事業を行う「平和のためのパートナーシップ(PfP)信託基金」を通じて、ウクライナにおける不発弾処理支援及びセルビアにおける国防省造兵廠(しょう)の非軍事化能力の構築支援などに貢献してきている。

(2)欧州安全保障協力機構(OSCE)との協力

OSCE3は、欧州、中央アジア、北米地域の57か国が加盟し、包括的アプローチにより紛争予防、危機管理、紛争後の復興・再建などを通じて、加盟国間の相違を橋渡しし、信頼醸成を行う地域安全保障機構である。日本は、1992年から「協力のためのアジア・パートナー」としてOSCEの活動に関与しており、タジキスタン所在の国境管理スタッフカレッジ(研修機関)などを通じたアフガニスタン及び中央アジア諸国などの国境管理強化によるテロ防止、選挙監視及び女性の社会進出支援プロジェクトなどへの支援を行っている。また、OSCEはウクライナ情勢改善のため重要な役割を果たしており、日本はOSCE特別監視団(SMM)に財政支援を行っているほか、2015年8月から2019年3月までSMMに専門家を派遣していた。12月にブラチスラバ(スロバキア)で開催された外相理事会には中谷真一外務大臣政務官が出席し、アジアと欧州との相互依存が高まっている中でOSCEとアジア・パートナー国との協力を更に強化する必要性について言及するとともに、北朝鮮や海洋安全保障を含む東アジアの安全保障環境を説明し、「自由で開かれたインド太平洋」を紹介した。また、中谷外務大臣政務官は、グレミンガーOSCE事務総長と会談し、日・OSCE間の協力の更なる強化で一致した。

中谷外務大臣政務官とグレミンガーOSCE事務総長との会談(12月6日、スロバキア)
中谷外務大臣政務官とグレミンガーOSCE事務総長との会談
(12月6日、スロバキア)

(3)欧州評議会(CoE)との協力

CoE4は、欧州の47か国が加盟する地域機構であり、民主主義、人権、法の支配の分野で国際基準の策定に重要な役割を果たしてきている。日本はアジアで唯一のオブザーバー国として1996年に参加して以来、CoEの様々な活動に積極的に貢献している。11月、サイバー犯罪に対処するための国際協力促進を目的とした「オクトパス会合2019」(フランス・ストラスブール)に対し財政支援を行うとともに、同分野における日本の貢献などについて発信した。また、11月に開催された「第8回世界民主主義フォーラム」(同地)には日本の報道関係者を派遣し、日本におけるメディアの信頼度や情報操作の影響などについて発言した。

(4)アジア欧州会合(ASEM)における協力

ASEM5は、アジアと欧州との対話と協力を深める唯一のフォーラムとして、1996年に設立された。現在、メンバーは51か国・2機関であり、首脳会合、各種閣僚会合及び各種セミナーなどを通じて、①政治、②経済及び③文化・社会その他を三本柱の分野として活動している。

12月15日及び16日、マドリード(スペイン)において、EUによる議長の下で第14回ASEM外相会合が開催され、日本からは茂木外務大臣が出席した。茂木外務大臣は会合の中で、2019年に日本がG20議長国として主導した「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」、「大阪トラック」、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に触れつつ、多国間主義が依拠する国際社会のルールや国際秩序を維持し、これらを経済・社会の変化に対応できるようにしていくこと、共通のルールにのっとって二国間及び多国間の問題を解決することの重要性について発信した。

第14回ASEM外相会合に出席する茂木外務大臣(12月15~16日、スペイン・マドリード)
第14回ASEM外相会合に出席する茂木外務大臣
(12月15~16日、スペイン・マドリード)

また、茂木外務大臣は、北朝鮮情勢について、北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射は国連安保理決議違反であり、日本及び地域の安全保障を脅かしているとした上で、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆な廃棄(CVID)に向け、米朝プロセスを後押しすべく、国連安保理決議の完全な履行の確保の必要性を呼びかけるとともに、日本の最重要課題である拉致問題の早期解決に向けたASEM各国の協力を呼びかけた。海洋安全保障については、南シナ海問題の現場の状況に対する深刻な懸念を表明するとともに、一方的な現状変更の試みや他国に対する威圧への反対、係争中の地形の非軍事化、国連海洋法条約を始めとする国際法に従った紛争の平和的解決の重要性を改めて強調した。

この外相会合で発出された議長声明では、海洋安全保障について国連海洋法条約を始めとする国際法を完全に遵守することなどに言及するとともに、北朝鮮に対しては、核兵器及びその他の大量破壊兵器並びに弾道ミサイル計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄(CVID)の実現と今後の更なる核及び弾道ミサイル実験の自制を要求し、北朝鮮に関する国連安保理決議の完全な履行に対する支持を再確認するなど、力強いメッセージが盛り込まれた。拉致問題についてはこれまでの首脳・外相会合に続き、明示的に議長声明で言及された。

そのほか、文化・社会面の協力においては、タイとの共催によるバンコクにおける公衆衛生緊急事態のリスク・コミュニケーションに関するハイレベル会合(9月)、アジア欧州財団(ASEF)や上智大学などとの共催によるクラスルーム・ネットワーク会議(11月)の実施、ASEFへの拠出金の支出などを通じて、ASEMの活動に貢献した。

欧州の主要な枠組み
欧州の主要な枠組み

2 NATO:North Atlantic Treaty Organization

3 OSCE:Organization for Security and Cooperation in Europe

4 CoE:Council of Europe

5 ASEM:Asia-Europe Meeting

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