外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

2 官民連携の推進における日本企業の海外展開支援

(1)外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進

外国に拠点を構える日系企業の拠点数は近年増加し、2016年10月現在7万1,820拠点を数えた11。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開にこれまで以上に積極的に取り組んできたこともその背景にある。アジアを中心とする海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。

このような状況にかんがみ、外務省では、本省・在外公館が一体となり、日本企業の海外展開推進に積極的に取り組んでいる。在外公館では、大使や総領事が先頭に立ち、日本企業支援担当官を始めとする館員一同が「世界一開かれた、相談しやすい公館」をモットーに、各地の事情に応じたきめ細やかな具体的支援を目指し、日本企業への各種情報提供や外国政府への働きかけを行っている。また、現地の法令に関するセミナーやコンサルティング等の法的サービスの提供も行ってきており、2017年度にはアジア地域を中心に、11か国15公館で実施した。

在外公館での活動では、ビジネストラブルに係る相談だけではなく、天皇誕生日祝賀レセプション、各種イベント・展示会などで、日本企業の製品・技術・サービスや農林水産物などの「ジャパンブランド」をPRすることも、日本企業支援の重要な取組の一つである。日本企業の商品展示会や地方自治体の物産展、試食会等のPRの場として、さらに、ビジネス展開のためのセミナーや現地企業・関係機関との交流会の会場として、大使館や大使公邸等を積極的に提供しており、既に日本に親しみのある国から、これまで日本にあまり接することのなかったような国まで幅広くPRを行ってきている。

天皇誕生日祝賀レセプションの機会を活用した日本製品PR(12月7日、ロシア・在ロシア日本国大使館)
天皇誕生日祝賀レセプションの機会を活用した日本製品PR(12月7日、ロシア・在ロシア日本国大使館)

官民連携・企業支援という観点からは、これから海外展開をしようとする日本企業の支援だけではなく、既に海外に展開している日系企業の支援も重要である。2016年6月に英国でEU残留・離脱を問う国民投票が行われ、現在は、英国・EU間で英国のEU離脱に向けた交渉が行われているところである。英国・EU間の動き及び交渉結果は日系企業や世界経済に大きな影響を与え得ることから、政府は、2016年7月に内閣官房副長官を議長とする「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース12を立ち上げ、政府全体で横断的に情報を集約し、第3回会合で英国及びEUへの日本からのメッセージ13を採択し、英国及びEUに速やかに伝達するなど、英国及びEUとの戦略的な外交関係をいかした取組を行ってきている。

2017年1月にはタスクフォースの第4回会合を開催し、同年の活動に向けて萩生田内閣官房副長官から指示が出された。その後、3月29日に出された英国のEU離脱通知を受け3月30日に第5回会合、8月30日のメイ英国首相の訪日に備え同月28日に第6回会合、12月15日の欧州理事会では英国・EU間の交渉の第2段階(英国・EU間の将来の経済関係を含む議論が行われる。)への移行決定を受け同月18日に第7回会合を実施した。

外務省では、日本、英国、ベルギー及びドイツで英国のEU離脱に伴う日英・日EU関係分析の委託調査を実施し、その結果を第5回会合にて報告するとともに、報告書等をホームページに掲載している14

(2)インフラシステムの海外展開の推進

新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラ輸出を促進するため、2013年に内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置されて以来、これまで35回(2018年2月現在)の会合が実施された。当該会議では、戦略的広報の実施といった質的・量的な支援策の拡充に向けた「インフラシステム輸出戦略」の策定及びフォローアップ以外にも、インド・中東(第32回会合)、ASEAN(第33回会合)等の特定の地域における議題や個別の分野等の議題について議論してきている。

2013年5月に初版が作成された「インフラシステム輸出戦略」は、フォローアップにより累次改訂がなされているが、2017年改訂版においては「自由で開かれたインド太平洋戦略」等の下、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラの整備等を通じたアジア・中東・アフリカを始めとする各地域内や地域相互間の物理的・制度的・人的連結性の強化を支援し、当該地域の開発を促進することにより、関係国の経済・社会的な基盤強化や対象地域の安定と繁栄の確保を進めるとともに、日本企業の効率的な経済活動に向けた支援を行い、日本企業のビジネス展開を後押ししていくことなどへの方針が示された。

また、トップセールスの精力的な展開、円借款や海外投融資の戦略的な活用のための制度改善等も進めてきた。例えば、9月のインド訪問時には、日本の新幹線システムを導入予定のムンバイ・アーメダバード間高速鉄道事業の起工式への出席、1,000億円の円借款供与に関する書簡の交換がなされ、また、11月の日・フィリピン首脳会談終了後、両首脳の立ち会いの下、本邦企業の技術の活用が想定されるマニラ首都圏地下鉄案件の円借款供与に関する書簡の交換がなされる等の着実な成果を上げてきた。

さらに、在外公館においては、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を重点国の在外公館に指名し(2017年12月末現在、72か国93在外公館192人)、効果を上げてきている。

(3)日本の農林水産物・食品の輸出促進

日本政府は、「2019年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円にする」という目標(「未来への投資を実現する経済対策」)を掲げている。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体等と連携しつつ、世界各国の在外公館等を活用し、日本産品の魅力を積極的に発信している。特に、54か国・地域の58か所の在外公館等には、日本企業支援担当官(食産業担当)を設置し、農林水産物・食品の輸出促進等に向けた取組を強化している。

また、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から7年が経過したが、依然として一部の国・地域において、日本の農水産物や食品等に対する輸入規制が維持されている。外務省は、関係省庁と連携しながら、各国・地域の政府等に正確な情報を迅速に提供するとともに、WTOの枠組みも活用しつつ、科学的根拠に基づき輸入規制を可及的速やかに撤廃するよう精力的に働きかけを行っている。また、日本産農林水産物・食品に対する風評被害を払拭するため、世界各国・地域で日本産食品の安全性に関する情報発信に努めている。

こうした取組の結果、2017年にはカタール(4月)、ウクライナ(4月)、パキスタン(10月)、サウジアラビア(11月)及びアルゼンチン(12月)が、2018年にはトルコ(2月)が輸入規制を撤廃するなど、これまで計26か国(カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン、モーリシャス及び上記5か国)が規制を撤廃した。また、2017年には、レバノン、ロシア、米国、EU加盟28か国、スイス、ノルウェー、アイスランド及びリヒテンシュタインが規制を緩和するなど、規制の対象地域・品目は縮小されつつある(2018年2月末時点)。

引き続き、首脳・閣僚レベルによる申入れを始めとして、関係省庁と連携しながら、輸入規制を維持している国・地域に対し、可及的速やかな撤廃に向け、二国間及びWTOを始めとするあらゆるルートを通じ、粘り強く働きかけを行っていく。

11 外務省「海外在留邦人数調査統計」

12 2016年7月、萩生田内閣官房副長官を議長とする「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース」を設置。英国のEU離脱に関し、関係省庁(内閣府、金融庁、外務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び個人情報保護委員会事務局)を通じて、欧州進出日系企業を中心に経済界の懸念や要望を集約。これまで計7回の会合(2016年7月27日に第1回会合、8月18日に第2回会合、9月2日に第3回会合、2017年1月19日に第4回会合、3月30日に第5回会合、8月28日に第6回会合、12月18日に第7回会合)を開催

13 「英国及びEUへの日本からのメッセージ」の骨子は以下のとおり。①英国・EU及び国際の平和、安定、繁栄のため引き続き緊密な協力・連携を期待、②開かれた欧州、自由貿易体制の維持、日EU・EPAの年内大枠合意実現を期待、③円滑で透明性のあるプロセスを通じた離脱交渉による予見可能性の確保を希望、④日系企業の要望に最大限耳を傾け、きめ細やかな対応を要望及び⑤離脱プロセスが世界経済に大きな混乱を与えないよう英国及びEUと協力

14 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ie/page4_002892.html参照

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