外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

2 地球規模の課題への取組

(1)持続可能な開発のための2030アジェンダ

「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までの国際開発目標である。

2030アジェンダは、先進国を含む国際社会全体の開発目標として相互に密接に関連した17の目標と169のターゲットから成る「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げている。日本は、国際社会の議論が本格化する前から、2030アジェンダの議論や交渉に一貫して積極的に貢献してきた。そして、議長国を務めた2016年のG7伊勢志摩サミットでは、開発協力における優先課題としてSDGs達成へのコミットメントを確認した。また5月には、サミット議長国として、リーダーシップをとるべく、内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とするSDGs推進本部を設置し、SDGsの実施に向けた日本の指針を策定することを決定した。指針の策定を進める中で、9月及び11月にはNGO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まり意見交換を行うSDGs推進円卓会議を開催したほか、パブリックコメントを実施した。この結果、12月に開催されたSDGs推進本部第2回会合において、指針本文と付表から成るSDGs実施指針が決定された。同指針本文には、ビジョンとして「持続可能で強靱(きょうじん)、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことを掲げたほか、5つの実施原則とフォローアップの内容を定めた。また、ビジョンの達成に向けた取組の柱として、SDGsとして日本が特に注力すべきものを示すべく、SDGsの内容を日本の文脈に即して再構成した8つの優先課題を掲げた。付表には8つの優先課題のそれぞれについて、推進される具体的な施策として、関係省庁から提出された140の国内及び国外施策が記載されている。日本は同実施指針の下、広範なステークホルダーと連携し、SDGs達成に向けた国際社会の取組を引き続きリードしていく。

ア 人間の安全保障

人間の安全保障とは、人間一人一人を保護するとともに、自ら課題を解決できるよう能力強化を図り、個人が持つ豊かな可能性を実現できる社会造りを進める考え方である。日本は、人間の安全保障を外交の柱の1つと位置付け、国連などにおける議論や、日本のイニシアティブにより国連に設置された人間の安全保障基金の活用、草の根・人間の安全保障無償資金協力などの支援を通じ、この概念の普及と実践に努めてきた。2030アジェンダも、「人間中心」や「誰一人取り残さない」といった理念に基づくものとなっており、人間の安全保障の考え方を中核に据えている。

イ 防災分野の取組

防災分野については、毎年世界で2億人が被災(犠牲者の9割が開発途上国の市民)し、自然災害による経済的損失は年平均1,000億米ドルを超える。防災の取組は、貧困撲滅と持続可能な開発の実現にとって不可欠である。

幾多の災害を経験してきた日本は、2015年3月に第3回国連防災世界会議を仙台で開催し、同年から15年間の国際社会の防災分野の取組を規定する「仙台防災枠組」の採択を主導した。また、日本独自の貢献として「仙台防災協力イニシアティブ」を発表し、2015年から2018年までの4年間で計40億米ドルの協力の実施及び計4万人の人材育成を行うことを表明するなど、防災分野における協力を積極的に進めている。

さらに、日本の提案で2015年12月に第70回国連総会で制定された「世界津波の日(11月5日)」に合わせ、2016年には世界各地で津波に関する啓発のための各種会議や避難訓練等を主導し、11月には高知県黒潮町で「世界津波の日高校生サミット in 黒潮」を開催した。同サミットには日本を含む30か国の高校生約360人が参加し、日本の津波の歴史や防災・減災の取組を学ぶとともに、今後の課題や自国での取組等について発表し、成果文書として「黒潮宣言」を採択した。

今後も災害で得た経験と教訓を世界と共有し、各国の政策に防災を取り入れる「防災の主流化」を引き続き推進する考えである。

ウ 教育分野の取組

教育分野では、2015年9月の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択のタイミングに合わせて、日本の教育協力分野の新たな戦略となる「平和と成長のための学びの戦略」を発表した。新戦略では、基本原則として、「包摂的かつ公正な質の高い学びに向けての教育協力」、「産業・科学技術人材育成と持続可能な社会開発のための教育協力」及び「国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大」を掲げており、同戦略の下、世界各地で様々な教育支援を行っている。また、教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)などの教育支援関連会合にも積極的に参加している。

特集
持続可能な開発目標(SDGs) ~広範なセクターとの協働~

SDGsは、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された、先進国を含む国際社会全体の開発目標であり、2030年を期限とする17のゴール(目標)と169のターゲットを設定しています。SDGsは、前身のミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)に掲げられていた貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー、水と衛生などの目標を引き継ぎ、それらを更に推進するだけでなく、経済成長やインフラ、気候変動対策等、MDGsには明確に含まれていなかった目標も含んでいます。このように広範で包括的な目標であるため、達成には、広範なステークホルダー(民間企業、NGO、有識者等)との連携が必要不可欠です。

このため日本政府は、自らの取組の指針となる「SDGs実施指針」の策定プロセスにおいて、多様な分野の関係者と意見交換を行ってきました。具体的には2016年9月には、SDGsの達成に向けた日本の取組を広範な関係者が協力して推進していくため、行政、NGO、NPO、有識者、民間セクター、国際機関、各種団体等の関係者が集まり意見交換を行う「SDGs推進円卓会議」をSDGs推進本部の下に設置しました。同会議は同年9月に第1回会合、11月に第2回会合を行い、実施指針の策定に向け議論を行いました。また、その間、10月には第1回会合の議論も踏まえて決定された「SDGs実施指針」の骨子について、広く国民等から意見を公募するパブリックコメントを実施しました。このような過程を通じて寄せられた、多様な意見を踏まえたものとして、12月に「SDGs実施指針」がSDGs推進本部にて決定されたのです。

第2回SDGs推進円卓会議の様子(11月11日、東京・外務省)
第2回SDGs推進円卓会議の様子(11月11日、東京・外務省)

指針策定の当日には、SDGsを推進するNGO/NPOなど市民社会で作る「SDGs市民ネットワーク」の主催で共同記者会見が開催され、円卓会議のメンバーや政府担当者等が一堂に会し、実施指針の策定を歓迎するとともに、SDGsの実施に向けた決意を表明しました。日本政府は、同指針の下、広範なステークホルダーと共に「誰一人取り残さない社会」の実現に向けた協力を強化し、着実に取組を推進していきます。

「SDGs市民ネットワーク」共同記者会見の様子(12月22日、東京・日本記者クラブ)
「SDGs市民ネットワーク」共同記者会見の様子(12月22日、東京・日本記者クラブ)
エ 農業分野の取組

日本はこれまでG7やG20などの関係各国や国際機関とも連携しながら、開発途上国の農業・農村開発を支援している。4月にはG7新潟農業大臣会合を開催し、世界の食料安全保障の強化に向けた「新潟宣言」を採択・発出した。

オ 水分野の取組

日本は、1990年代から継続して水分野でのトップドナーであり、日本の経験・知見・技術を生かした質の高い支援を実施している。国際社会での議論にも積極的に参加しており、日本のこれまでの貢献を基に、水分野のグローバルな課題に取り組んでいる。

(2)国際保健

人々の生命を脅かし、あらゆる社会・文化・経済的活動を阻害する保健課題の克服は、人間の安全保障に直結する国際社会共通の課題である。日本は人間の安全保障を提唱し、それを「積極的平和主義」の基礎とするとともに各種の取組を推進してきており、保健をその中心的な要素と考えている。日本は、世界で最も優れた健康長寿社会を達成しており、保健分野における日本の積極的な貢献に一層期待が高まっている。日本は、保健分野への支援を通じて、人々の健康の向上、健康の権利が保障された国際社会の構築を目指している。

このような理念の下、日本はこれまで多くの国や、世界保健機関(WHO)、世界銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)、Gaviワクチンアライアンス(Gavi)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)といった様々な援助機関と協力しながら、感染症や母子保健、栄養改善などの保健課題の克服に大きな成果を上げてきた。特に2016年には、2015年に策定された開発協力大綱の課題別政策である「平和と健康のための基本方針」に基づき、全ての人への生涯を通じた基礎的保健サービスの提供を確保するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成を念頭に、指導力を発揮し、議論を主導した。

5月のG7伊勢志摩サミットでは、議長国として議論を主導し、「G7伊勢志摩首脳宣言」において保健を大きく取り上げ、①感染症等の公衆衛生危機への対応能力強化、②危機管理対応に資するUHCの推進及び③薬剤耐性(AMR)への対応強化の3分野で合意し、これらの分野に関する「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」を発出した。また、安倍総理大臣は、日本の具体的貢献として、公衆衛生危機対応、感染症対策やUHCの実現に向けた保健システム強化等のため、国際保健機関に対する約11億米ドルの支援方針を表明した。さらに、6月に行われた国連HIV/AIDSハイレベル会合では、濵地外務大臣政務官を首席代表とする政府代表団が参加し、同サミットの成果を紹介しつつ、国際保健分野に一層の貢献を行っていく決意を改めて表明した。

国連HIV/AIDSハイレベル会合にて日本政府代表演説を行う濵地外務大臣政務官(6月9日、米国・ニューヨーク)
国連HIV/AIDSハイレベル会合にて日本政府代表演説を行う濵地外務大臣政務官(6月9日、米国・ニューヨーク)

8月に行われたTICAD VIでは、保健を優先課題として掲げ、ナイロビ宣言では「質の高い生活のための強靱(きょうじん)な保健システムの促進」として公衆衛生危機への対応強化、危機への予防・備えにも資するUHCの推進について合意した。また、安倍総理大臣は、G7伊勢志摩サミットでの約11億米ドルの拠出表明に関しグローバルファンドやGaviを通じて、約5億米ドル以上の支援をアフリカで実施し、約30万人以上の命を救うこと、約2万人の感染症対策のための専門家・政策人材育成や基礎的保健サービスにアクセスできる人数を約200万人増加させることを表明した。

(3)環境問題・気候変動

ア 地球環境問題

日本は、多数国間環境条約、環境問題に特化した国際機関及び各種フォーラム等における交渉及び働きかけを通じ、資源の枯渇や自然環境の破壊に対処し、持続可能な開発の実現に向けて積極的に取り組んでいる。2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」においても環境分野の目標が記載されるなど、国際的にその取組の重要性がより一層認識されている。

(ア)生物多様性の保全

9月から10月にかけ、ワシントン条約(CITES)第17回締約国会議(COP17)がヨハネスブルグ(南アフリカ)で開催された。同会議では、密猟や違法取引に寄与している象牙及び象牙製品の国内取引市場の閉鎖のために必要な行動をとることが勧告されたほか、サメ・エイ類等が取引規制対象種としてCITESの附属書に掲載されること等が決定された。また、11月には、「野生動植物違法取引に関するハノイ会議」がベトナムで開催され、参加国による野生動植物の違法取引対策に係る具体的な行動の重要性を強調するステートメントが発出された。

ワシントン条約第17回締約国会議閉会式(10月4日、南アフリカ・ヨハネスブルグ)
ワシントン条約第17回締約国会議閉会式(10月4日、南アフリカ・ヨハネスブルグ)

12月、生物多様性条約(CBD)第13回締約国会議(COP13)がカンクン(メキシコ)で開催され、2010年のCOP10で採択された「愛知目標」の達成に向けた進捗状況、農林水産業及び観光業といったセクターにおける生物多様性の主流化等、生物多様性に関する諸課題について議論が行われた。

生物多様性条約第13回締約国会議(12月10日、メキシコ・カンクン)
生物多様性条約第13回締約国会議(12月10日、メキシコ・カンクン)

なお、9月には、国際自然保護連合(IUCN)の4年に1度の総会に当たる第6回世界自然保護会議(WCC6)がホノルル(米国)で開催され、IUCN活動計画の決定、各種勧告案の採択などが行われた。

(イ)森林保全

11月、国際熱帯木材機関(ITTO)第52回理事会において、持続可能な森林経営に向けた取組に関する議論が行われた。

(ウ)有害化学物質・有害廃棄物の国際管理

水銀に関する水俣条約(2013年10月採択)については、発効に向けた議論が関係国間で継続されている(2016年末時点で35か国が締結)。日本は2月に同条約を締結した。

10月、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第28回締約国会合がキガリ(ルワンダ)で開催された。同会合においては、同議定書の規制対象に、特定フロンの代替物質として開発された、オゾン層は破壊しないが地球温暖化効果の高いハイドロフルオロカーボン(HFC)を追加する議定書改正が採択された。

(エ)海洋環境の保護

9月、廃棄物の海洋投棄等を規制するロンドン議定書第11回締約国会議が開催され、戦略計画、放射性廃棄物の投棄禁止等について議論された。

また、日本海及び黄海の海洋環境保全については、10月にソウル(韓国)において日本・中国・韓国・ロシアが協力する北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の第21回政府間会合が開催された。

5月、日本が開催国となったG7伊勢志摩サミットにおいては、首脳宣言の「資源効率性及び3R」の項において、海洋ごみ問題にも対処することが再確認された。

イ 気候変動
(ア)パリ協定の発効と国連気候変動枠組条約(CUNFCCC)第22回締約国会議(COP22)

地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減には、世界全体での取組が不可欠であるが、1997年のCOP3において採択された京都議定書は先進国にのみ削減義務を課す枠組みであった。そこで、2011年の「ダーバン合意」4を始めとする数年にわたる精力的な交渉の結果、2015年12月、パリで開催されたCOP21において、先進国・途上国の区別なく、温室効果ガス削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成に向けた取組を実施すること等を規定した公平かつ実効的な枠組みである「パリ協定(Paris Agreement)」が採択された。日本は、この交渉過程において、制度設計に関する具体的な提案を行い合意採択に積極的に貢献したほか、安倍総理大臣が表明した2020年における約1兆3,000億円の対開発途上国支援実施表明は合意妥結への大きな後押しとなった。

同協定採択後、協定の早期発効が次なる焦点となったが、2016年9月の米国・中国による同時締結等を受けた国際社会の機運の高まりもあり、締約国数55か国以上及びその排出量の合計が国際社会全体の排出合計に比して55%以上となるとの要件を満たし、11月4日にパリ協定は発効した。日本も5月の伊勢志摩G7サミットにおいて2016年中の発効という目標を掲げる首脳共同宣言を議長国として取りまめる等パリ協定の発効に向けた機運の醸成に努め、11月8日、同協定を締結した。

2016年11月にマラケシュ(モロッコ)で開催されたCOP22及びパリ協定第1回締約国会合(CMA1)では、パリ協定発効後のプロセスとして協定実施のための指針策定作業の進め方が焦点となった。この点、日本は、①協定の締結・未締結にかかわらず、引き続き全ての国が実施指針等の検討に参加することを通じ、策定された指針等に各国が当事者意識を持つこと及び②今後の協定実施指針に係る行程に関する議論の進展、の2点を重視し交渉に臨んだ。特に、今後の作業に明確性を持たせるためにも2018年までに指針等を策定すべきことや同期限に向けて速やかに技術的な作業を進めるため、2017年5月に開催される次回会合までの具体的な作業計画を策定すべきであると主張した。2週間にわたる関係国による議論の結果、①今後とも全ての国が参加する形でパリ協定の実施指針の策定交渉を行うこと及び②2017年に関連会合を開催し実施指針策定作業の進捗状況の確認を行った上で、実施指針を最終的に2018年までに採択すること等が決定された。このように、日本の主張が反映される形で実施指針の策定行程が具体的なタイムスケジュールと共に合意されたことは、2016年の気候変動交渉に関する大きな成果である。また、今回のCOPでは、様々な主体の取組強化がポイントとなり、自治体や企業等の非政府主体の行動を強化するためのイベントが開催された。日本は今後ともパリ協定を更に実効的なものにすべく、関係国と緊密に連携しながら、関連交渉に積極的に取り組んでいく。

国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(11月7~18日、モロッコ・マラケシュ 写真提供:UNFCCC事務局)
国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(11月7~18日、モロッコ・マラケシュ 写真提供:UNFCCC事務局)
(イ)開発途上国支援に関する取組

多くの開発途上国は、自国の資金と実施能力だけでは十分な気候変動対策を実施できないことから、日本を含む先進国は積極的な対開発途上国支援の取組を進めてきている。

上記取組の一環として、2009年、先進国は2020年までに官民合わせて1,000億米ドルを動員することにコミットした(コペンハーゲン合意)が、これに関連し、2016年10月、先進国は、COP22に先立って開催された事前会合で「1,000億ドルに向けたロードマップ(Roadmap to $ 100 billion)」を発表した。これは、1,000億米ドルの資金動員の実現に至る道筋を明確化するための先進国によるイニシアティブであり、COP22等の関連交渉の場において、開発途上国を含む国際社会から歓迎された。

また、開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への適応を支援する多国間基金である緑の気候基金(GCF)も重要な役割を果たしている。日本は、2015年に成立した「緑の気候基金への拠出及びこれに伴う措置に関する法律」に基づき、資金を拠出しているほか、GCF理事国として支援案件の選定を含む基金の運営に積極的に参画している。2016年12月までに35件の支援案件がGCF理事会で承認された。

(ウ)二国間オフセット・クレジット制度(JCM)

JCMは、開発途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラなどの普及や対策実施を通じ、温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用する仕組みである。現在までに、16か国とJCMを構築している。2016年においても、インドネシア(5月)、モンゴル(9月)及びパラオ(12月)の案件からそれぞれクレジットが発行されるなど、成果を着実に上げてきている。

(エ)日本によるその他の取組

10月には、アジア地域の6か国及び国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局関係者らを対象に「気候変動分野の透明性に係るキャパシティ・ビルディング・セミナー」を実施し、開発途上国による排出削減を促す上で重要な排出削減目標(NDC)に係る達成状況の報告に当たっての必要な能力支援について認識の共有を図った。2017年1月には、G7各国関係者や内外の専門家等を招き、気候変動と脆弱(ぜいじゃく)性専門家会合及びワーキング・グループを開催し、昨今注目を集めている気候変動が持つ安全保障への含意についての問題意識の深化を図った。

2016年2月に東京で開催された「第14回『気候変動に対する更なる行動』に関する非公式会合」は、気候変動対策に係る新たな国際枠組みである「パリ協定」採択後初めて主要国の交渉担当者が集う会合となり、同協定の実効的な実施に向けて活発な意見交換が行われた。

(オ)国際航空分野における気候変動対策に係る取組

国際航空分野の温室効果ガス排出削減については、近年、国際民間航空機関(ICAO)において、燃料効率を毎年2%改善し、2020年以降は総排出量を増加させないとのグローバル削減目標を定め、これを達成するために、新技術の導入や航空機運航方式の改善、代替燃料の活用に加え、市場メカニズムを活用した世界的な排出削減制度(GMBM)の構築について検討が進められてきた。こうした中、2016年10月に開催された第39回ICAO総会(於:モントリオール)において、GMBMの内容を定めた決議が全会一致で採択された。これにより、特に2021年から排出権購入による温室効果ガス排出削減が日本を含む自発的参加国を対象に開始されることとなり、また、2027年からは、一定以下の排出量を計上する国を除き全ての国が同制度に参加することとなった。日本としては、引き続きICAOにおけるGMBM制度の詳細に係る検討に積極的に貢献し、具体的な運用開始に向け必要な取組を進めていく。

特集
ポストCOP21の気候変動交渉 ~パリ協定発効、COP22~

2015年12月、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、先進国のみに削減義務を課していた京都議定書に代わる新たな枠組みとして、史上初めて先進国・途上国の区別なく、温室効果ガス排出削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成のために取組を実施すること等を規定した公平かつ実効的な枠組みとしてパリ協定が採択されました。2016年は、パリ協定がその採択から1年を待たずに発効し、さらにその着実な実施のための作業スケジュールがCOP22で決定されるなど、引き続き、気候変動交渉にとってダイナミックな1年となりました。

「パリ協定」の受諾書を国連の担当者に提出する南博国連日本政府代表部大使(11月8日、米国・ニューヨーク(国連本部))
「パリ協定」の受諾書を国連の担当者に提出する南博国連日本政府代表部大使(11月8日、米国・ニューヨーク(国連本部))
●協定発効

パリ協定の採択後も、同協定をいち早く実施に移すべく、国際社会はその歩みを進めていきました。2016年4月にニューヨークの国連本部において行われた同協定の署名式では、国連気候変動枠組条約の締約国の大部分に当たる175もの国・地域が、その開放と同時にパリ協定に署名し、国際社会による一致した意思を表明しました。9月3日には、米中両国が、締結文書の同時提出という形で協定を締結し、早期発効に向けた動きが加速しました。その後、インドやEU(一部加盟国による先行締結)が相次いで締結したことなどにより、世界全体の総排出量の55%を占める55か国による締結との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定は国際社会の当初の予想よりも早く発効する運びとなりました。

●COP22

COP22(11月7日~18日、マラケシュ(モロッコ))において開催された国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)では、今後のパリ協定の着実な実施のための鍵となる同協定の実施指針の交渉に関する作業工程への合意が焦点となりました。交渉の結果、実施指針の採択期限を2018年とすることが決定する等の成果を上げたCOPとなりました。また、開幕直後には、米国大統領選におけるトランプ氏当選の報を受け、翌年(2017年)発足する次期米国政権の気候変動政策に関係国の関心が集まりました。会議では、パリ協定の実施のための議論が着実に進められたほか、参加国の多くが今後も国際的な協力の下、気候変動問題の解決に向け前進していくべきことを表明する等、国際社会の結束を確認する機会ともなりました。

●今後の展望

気候変動交渉は、2016年パリ協定発効及びその後の作業工程の合意を受け、今後、2018年にかけて、各国による排出削減行動実施に係る細則を始めとする数多くの論点について交渉を進めていくこととなります。米国のトランプ政権のパリ協定への対応を含む気候変動問題に対する政策の全体像は、現時点では必ずしも明らかではありませんが、気候変動問題への対応は、国際社会全体で取り組むべきグローバルな課題です。日本は、米国の積極的な関与も重要であると考えており、トランプ政権の政策が気候変動問題に与える影響について引き続き注視しています。その上で、各国がより透明性の高い形で自国の排出削減行動を明らかにするような制度を構築すべく、関係国と緊密に連携しながら、今後の交渉に積極的に臨みます。

(4)北極・南極

ア 北極
(ア)北極における状況の変化と日本の考え方

地球温暖化による北極における環境変化(海氷、永久凍土、氷床・氷河の融解等)は、北極海航路の利活用、資源開発といった新たな可能性と同時に、地球温暖化の加速化、北極の脆弱(ぜいじゃく)な自然環境に与える影響、潜在的な安全保障環境の変化等の様々な課題をもたらしており、国際社会の関心が高まっている。

こうした北極をめぐる可能性と課題に対しては、広範な国際協力の下、北極における環境変化の実態と地球環境全体への影響を科学的に解明し、変化を正確に予測して、対応策を導き出すとともに、北極圏の適切な経済的利用の在り方について国際的な共通理解を打ち立てる必要がある。その前提として、北極における領有権問題や海洋境界画定問題での対応に見られる法の支配に基づく対応が確保されることが不可欠である。2015年10月、日本は北極政策について初めて包括的にまとめた「我が国の北極政策」を策定した。日本はこの北極政策に基づき、特に強みである科学技術を生かして、北極をめぐる課題への対応における主要なプレイヤーとして国際社会へ貢献していく。

(イ)北極に関する国際的取組への積極的な参画

日本は、北極をめぐる国際的な取組において、①北極に関する地球規模の課題への対応や国際的ルール作りへの積極的な参画、②北極評議会(AC:北極圏国を中心とした多国間の政治的協議枠組み)の活動に対する一層の貢献及び③北極圏国等との二国間・多国間での協力の拡大を進めることとしている。

この一環として、日本は2013年5月にACのオブザーバー資格を取得した。これを契機に、高級北極実務者(SAO)会合や各種作業部会、タスクフォースなどの関連会合に政府関係者や研究者を派遣して、議論に積極的に参加することを通じて、ACの活動に貢献してきている。また、ACへの更なる貢献を図るため、オブザーバーの役割拡大に関する議論に積極的に参加するとともに、AC議長国及びメンバー国等との政策的な対話に取り組んでいく。

こうした日本の北極への取組を積極的に発信する観点から、白石和子北極担当大使は、ロシア、米国、アイスランド等で開催された北極に関する国際会議に積極的に参加したほか、北極圏国を含む関係諸国との間で北極に関する意見交換を行っている。

4月には、北極に関する日中韓ハイレベル対話(大使級)が初めて開催され、3か国の政府及び関連研究機関関係者も出席し、北極に関する今後の3か国間の協力の可能性等について意見交換が行われた。

また、11月には、2017年から2年間ACの議長国に就任するフィンランドの北極担当大使を招へいし、日本の北極関連研究施設等の視察のほか、武井外務大臣政務官、「北極のフロンティアについて考える議員連盟」等との意見交換を含め、産官学の関係者と幅広く意見交換が行われた。本件招へいを通じて、日本の北極に係る取組や強みへの理解を促すとともに、次期AC議長国であるフィンランドに対して、日本がACのオブザーバーの立場から更なる貢献が可能であることを示した。

イ 南極
(ア)南極条約

1959年に採択された南極条約は、基本原則として、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力及び③領土主権・請求権の凍結を定めている。

(イ)南極条約協議国会議と南極の環境保護

5月から6月にかけてサンティアゴ(チリ)において開催された第39回南極条約協議国会議(ATCM39)では、南極における活動の多様化を踏まえ、南極の環境保護及び観測、鉱物資源活動の禁止、南極観光等に関する議論が行われた。また、「環境保護に関する南極条約議定書」の採択25周年を迎えたことを記念し、同会議に合わせてシンポジウムが開催された。

(ウ)日本の南極観測

日本の南極観測では、南極地域観測第9期6か年計画(2016年から2021年)に基づき、現在、過去及び未来の地球システムに南極域が果たす役割と影響の解明に取り組み、特に「地球温暖化」の実態やメカニズムの解明を目指し、長期にわたり継続的に実施する観測に加え、大型大気レーダーを始めとした各種研究観測を実施している。

4 ①2015年までに全ての国が参加する新たな法的枠組みに合意し、②同枠組みを2020年から発効させる等がその内容。COP17において決定された。

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