外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第2節 日本の国際協力(開発協力と地球規模の課題への取組)

総論
〈開発協力大綱とODAの戦略的活用〉

日本が1954年に政府開発援助(ODA)1を開始してから60年以上が経過した。ODAを含む日本の開発協力政策は、長きにわたり国際社会の平和と安定及び繁栄、ひいては日本自身の国益の確保に大きく貢献してきた。

一方、開発協力をめぐる国際情勢は大きな転換期にある。世界が直面する課題は多様化・複雑化し、グローバル化の進展ともあいまって、国境を越えて広範化している。さらに、昨今のODA以外の公的・民間資金や新興国による支援の役割の増大を踏まえ、先進国のみならず開発途上国を含む各国の知恵や行動、中央政府以外の多様な力(企業、地方自治体、NGOなど)を結集することが重要である。この新たな時代に、日本が平和国家としての歩みを堅持しつつ、開発協力を国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の一環と位置付け、ODAを戦略的に活用して開発課題や人権問題に対処していくことは、日本の国益の確保にとって不可欠となっている。こうした認識に基づき策定された開発協力大綱(2015年2月閣議決定)の下、国際開発目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を着実に実施していく必要がある。また、現地で国際協力に携わる日本人の安全を確保すべく、改めて万全の態勢を構築することが不可欠となっている。

日本にとって開発協力は外交政策の最も重要な手段の一つであり、中東やアフリカにおける難民等の課題への取組や災害など緊急時の人道支援から、開発途上国のインフラ整備・人材育成といった経済社会開発まで、国際社会の平和と安定及び繁栄のために積極的に貢献していく上で不可欠なものである。日本が議長国を務めた5月のG7伊勢志摩サミットにおいて、中東地域の安定化のための3年間で総額約60億米ドルの支援、国際保健の諸課題に対応するための総額約11億米ドルの支援や、女性の活躍推進に関する人材育成支援を行うことを発表し、また、8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)において、約1,000万人の人材育成、官民総額300億米ドル規模の質の高いインフラ整備、保健システム構築、平和と安定の基礎作り等のアフリカの未来への投資を発表するなど、日本は国際的な開発課題解決のための取組を力強く主導した。

また、開発途上国の発展を通じて日本経済の活性化を図り、共に成長していくことも重要な国益である。「日本再興戦略」(2016年6月改訂)や「インフラシステム輸出戦略」(2016年5月改訂)でも言及されているとおり、日本の企業等の海外展開を一層推進していくため、ODAを戦略的に活用していく必要がある。5月には、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」の下、オールジャパンで、世界全体のインフラ案件向けに今後5年間で約2,000億米ドルの資金等を供給することを発表した(コラム「質の高いインフラ投資」208ページ参照)。8月に安倍総理大臣が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋戦略」(特集「自由で開かれたインド太平洋戦略」15ページ参照)に基づき、ODAも積極的に活用しつつ、アジアと中東・アフリカの「連結性」強化のための質の高いインフラ投資を推進し、国際社会の平和と安定及び繁栄に引き続き貢献していくことが重要である。

日本のこうした取組は国際社会からも高い評価と信頼を得ており、日本が世界の責任ある主要国として国際社会を主導し、日本の国益にかなった国際環境や国際秩序を確保していくためにも、今後とも継続・発展させていくことが必要である。

〈地球規模の課題への取組〉

グローバル化により、経済・社会が地球規模で劇的に発展する一方、多様な脅威が国境を越えて人間の安全保障を脅かしている。紛争・テロ、災害、気候変動などの地球環境問題、感染症を含む国際保健課題、人身取引・難民問題・労働問題、経済危機といった課題は、一国のみで対処できる問題ではなく、人間の安全保障を念頭に、国際社会が協力しなければならない。2015年は、こうした地球規模の諸課題にとって新しい枠組みが策定された「節目の年」であったが、2016年は、その実施元年として、日本が議長国を務めたG7伊勢志摩サミットやTICAD VIを通じて指導力を発揮した。

TICAD VIでは、アフリカの栄養改善を目的とした「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」の発足が決定された(写真提供:JICA)。
TICAD VIでは、アフリカの栄養改善を目的とした「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」の発足が決定された(写真提供:JICA)。
障害のあるシリア難民への心理社会的支援(ヨルダン)。JICAは障害者同士が互いを支え合うピアサポートグループの設立などの支援を実施し、障害者の社会参加を促進している(写真提供:JICA)。
障害のあるシリア難民への心理社会的支援(ヨルダン)。JICAは障害者同士が互いを支え合うピアサポートグループの設立などの支援を実施し、障害者の社会参加を促進している(写真提供:JICA)。

2015年9月に2030年を期限とする国際開発目標として採択された持続可能な開発目標(SDGs)を実施するため、2016年5月に総理大臣を本部長、全国務大臣を構成員とするSDGs推進本部を内閣に設置し、12月にはSDGs達成に向けた日本の指針(SDGs実施指針)を決定した。また、持続可能な開発の実現にとって不可欠である防災分野では、2015年3月に仙台市で開催した第3回国連防災世界会議で「仙台防災枠組」が採択され、防災の主流化が着実に進んだ。2015年12月には国連総会で「世界津波の日(11月5日)」が制定されたことを受け、2016年は日本国内及び世界各地で「世界津波の日」の普及啓発イベントや津波防災避難訓練等を実施した。保健分野では、開発協力大綱の課題別政策で、2015年9月に策定された「平和と健康のための基本方針」の下、世界の保健課題の取組に貢献した。2016年5月のG7伊勢志摩サミットや8月のTICAD VIでは、同分野を大きく取り上げ、感染症等の公衆衛生危機への対応能力強化や危機対応に資するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)2の推進を始めとする保健システム強化に向けた議論を主導した。

気候変動分野については、先進国・途上国の区別なく、温室効果ガス排出削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成に向けた取組を実施すること等を規定した公平かつ実効的な枠組みである「パリ協定」が2015年12月に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)(於:フランス)において採択されていたが、同協定は2016年11月4日に発効した。日本は、同協定の締結手続を11月8日に完了するとともに、COP22(於:モロッコ)にて実施指針の策定に関する交渉へ積極的に参加した。採択された合意文書には日本の主張が反映され、引き続き全ての国が参加する形で実施指針の交渉を行うこと、2018年までに実施指針を採択すること等が決定された。

日本は、引き続きグローバル・パートナーシップの下で、各国、国際機関、市民社会などと協力しながら、防災、保健、女性、教育などの得意分野を始めとして、人間の安全保障を推進し、地球規模課題の解決に積極的に取り組んでいく。

地球温暖化による北極の環境変化は、北極海航路の利活用や資源開発といった可能性と同時に、脆弱(ぜいじゃく)な自然環境に与える影響などの課題をもたらしており、国際的な議論が高まりつつある。日本は、これらの課題への対処における主要なプレイヤーとして国際社会に貢献していくことを目指し、10月、「我が国の北極政策」を策定した。これを契機として、北極評議会(AC)の活動に対して一層の貢献を行うほか、AC以外の二国間や多国間の場においても日本の考え方や取組を発信し、北極に関する国際的なルール作りに積極的に関与していく。

北極海では、地球温暖化の影響に伴う北極海の海氷の面積減少により、北極海を経由する新たな航路の利活用や資源開発の可能性が現実味を帯びている。その一方で、北極における環境変化は、北極圏の生態系や先住民の生活のみならず、地球環境全体に対しても影響を与え得る。日本は、2015年に策定した「我が国の北極政策」に基づき、北極に関する国際的なルール作りに積極的に関与するとともに、北極評議会(AC)の活動に対する一層の貢献や二国間・多国間での協力の拡大により、北極に係るグローバルな国際協力を推進していく。

〈科学技術外交〉

科学技術は、経済・社会の発展を支え、安全保障面でも重要な役割を果たす、平和と繁栄の基盤的要素である。日本の優れた科学技術に対する国際社会の関心と期待は高い。日本は、科学技術協力を通じて、日本と世界の科学技術の発展、各国との関係増進、国際社会の平和と安定及び地球規模課題の解決に貢献しており、外務大臣科学技術顧問の活動を通じた「科学技術外交」の推進にも力を入れている。

1 日本の国際協力については、『開発協力白書 日本の国際協力』参照

2 全ての人が基礎的保健サービスを必要なときに負担可能な費用で享受できること

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