外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

2 日米安全保障(安保)体制

(1)日米安保総論

日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力を向上させていくことは、日本の平和と安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、2016年5月の日米首脳会談などを通じて確認された強固な日米関係の上に立ち、新ガイドライン及び平和安全法制の下で、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化している。こうした取組の中で日米両国は、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。さらに、普天間飛行場の移設や在沖縄海兵隊約9,000人のグアム等への国外移転を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。

(2)各分野における日米安保・防衛協力の状況

ア 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の下での取組

2015年4月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)において公表した新ガイドラインは、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米両国の防衛協力について、一般的な大枠及び政策的な方向性を見直し、更新したものである。そして、新ガイドラインの下で設置された同盟調整メカニズム(ACM)を通じて、日米両国は緊密な情報共有及び共通情勢認識の構築を行い、実効的な調整を確保してきている。このような平時から緊急事態まで「切れ目のない」対応を可能とする取組は、2016年4月に発生した熊本地震における迅速な自衛隊と米軍との共同運用実施を始めとする様々な機会において、日米安保体制の一層の円滑化に寄与している。また、2月及び7月にはハリス米国太平洋軍司令官、11月にはゴールドフィン米国空軍参謀総長、12月にはカーター米国国防長官が訪日するなど、ハイレベルでの人的交流も活発となっている。また、7月及び12月には日米拡大抑止協議を開催し、日米同盟の抑止力を確保する方途についての率直な意見交換を行った。このような多層的な取組を通じ、米国との間で安全保障・防衛協力を引き続き推進し、同盟の抑止力・対処力を一層強化していく。

イ 日・米物品役務相互提供協定(日米ACSA)

日米両国は、9月、自衛隊と米軍との間において、物品・役務を相互に提供する際の決済手続等の枠組みを定める日米ACSAに署名した。この協定は、平和安全法制により実施可能となった物品・役務の提供についても、現行の日米ACSAの下での決済手続等と同様の枠組みを適用することができるようにするため、現行の日米ACSAに代わる新協定として作成したものである。この協定は、自衛隊と米軍との間での物品・役務の円滑かつ迅速な提供を可能とし、自衛隊と米軍との間の緊密な協力を促進するとともに、国際の平和と安全に積極的に寄与するものである。

ウ 弾道ミサイル防衛(BMD)

日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックII A)の日米共同開発及び共同生産の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、BMDシステムの着実な整備に努めている。

エ サイバー

日米両国は、7月に第4回日米サイバー対話を米国(ワシントンDC)にて開催した。日米間における政府横断的な取組の必要性を踏まえ、2015年7月に開催された第3回対話のフォローアップを行うとともに、日米双方の関係者が、情勢認識、重要インフラ防護、能力構築を含む国際場裏における協力など、サイバーに関する幅広い日米協力について議論を行った。

オ 宇宙

日米両国は、3月の安全保障分野における日米宇宙協議や10月の安全保障分野における日米豪宇宙協議などにおいて、安全保障分野を含め、宇宙に関する幅広い協力の在り方について議論を行った。日米両国は、宇宙状況監視(SSA)情報などの相互提供、宇宙アセットの抗たん性(不測の事態においても宇宙システムが必要な機能を維持できること)の確保のための取組等、宇宙の安全保障分野での協力を引き続き進めている。

カ 3か国間協力

日米両国は、アジア太平洋地域における同盟国やパートナーとの安全保障・防衛協力を重視している。特に、日米両国は、オーストラリア、韓国又はインドとの3か国間協力を着実に推進してきている。5月及び12月の日米首脳会談等においても、これらの3か国間の協力は、日米が共有する安全保障上の利益を増進し、アジア太平洋地域の安全保障環境の改善に資するものであることが確認された。また、1月及び9月の北朝鮮による核実験、度重なる弾道ミサイル発射を受けた対応の中で、日米・日韓の首脳・外相間において、日米韓3か国協力の重要性が再確認された。

キ 情報保全

情報保全は、同盟関係における協力を進める上で決定的に重要な役割を果たすものである。日米両国は、政府横断的なセキュリティ・クリアランスの導入や、カウンター・インテリジェンス(諜報による情報の漏洩(ろうえい)防止)に関する措置の向上を含む情報保全制度の一層の改善に向け、引き続き協議を行っている。

ク 海洋安全保障

日米両国は、ASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジア首脳会議(EAS)などの場で、海洋をめぐる問題を国際法にのっとって解決することの重要性を訴えている。2015年4月に公表した新ガイドラインにおいても、日米両国は、航行の自由を含む国際法に基づく海洋秩序を維持するための措置に関し、相互に緊密に協力するとしている。

(3)在日米軍再編

2015年4月の「2+2」共同発表において、日米両国は、在日米軍の再編の過程を通じて訓練能力を含む運用能力を確保しつつ、在日米軍の再編に係る既存の取決めを可能な限り速やかに実施することに対する日米両政府の継続的なコミットメントを再確認した。また、日米両政府は、累次の機会にわたり、普天間飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが、米軍の抑止力を維持しながら、同時に、普天間飛行場の危険性を一刻も早く除去し、20年来の懸案である普天間飛行場の全面返還を実現するための唯一の解決策であることを確認してきている。2020年代前半にグアム等の国外に在沖縄海兵隊約9,000人の移転を開始するグアム移転事業や、2015年12月の「沖縄における在日米軍施設・区域の統合のための日米両国の計画の実施」において発表された案件を含む、2013年4月の「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」に基づく嘉手納以南の土地返還等についても、着実に計画を実施すべく、日米間で引き続き緊密に連携していく。

米軍再編の全体像
米軍再編の全体像

12月には、1996年の沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告から20年越しの課題であった北部訓練場の過半(約3,987ヘクタール)の返還が実現した。今回返還された土地は、沖縄県内の米軍専用施設・区域の約2割に相当する面積であり、沖縄の本土復帰後、最大規模の返還となる。また、この返還は、負担軽減にとどまらず、跡地利用を通じた地域振興にも大きく寄与するものである。政府として、地元の要望を踏まえ、最大限の支援を行っていくと同時に、米側と協力し、地元の生活環境に十分配慮していくよう取り組んでいく。

日本政府としては、引き続き沖縄の負担軽減に取り組むとともに、一日も早い普天間飛行場の返還を実現すべく全力で努力し、辺野古への移設を法令に基づいて進めていく。

(4)在日米軍駐留経費負担(HNS)

日本は、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している中、在日米軍の円滑かつ効果的な運用を支えることが重要であるとの観点から、日米地位協定で定められた範囲内で、在日米軍施設・区域の土地の借料、提供施設の整備(FIP)費などを負担している。このほか、特別協定を締結し、駐留軍等労働者の労務費、光熱水料等及び訓練移転費を負担している。

日本政府は、日米地位協定及び2016年4月1日に発効した特別協定に基づき、2016年度から2020年度まで、在日米軍駐留経費負担(HNS)を負担することとなっている。

(5)在日米軍の駐留に関する諸問題

日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動が周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍の施設・区域が集中する沖縄の負担軽減を進める重要性については、日米首脳会談、「2+2」、日米外相会談など累次の機会に日米双方が確認している。

日本政府は、在日米軍再編に引き続き取り組む一方で、米軍関係者による事件・事故の防止、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域における環境問題などの具体的な問題について、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。

また、4月に沖縄で発生した在日米軍の軍属による殺人被疑事件を受け、日米両政府は、実効的な再発防止策を策定すべく協議を行った。そして7月に、「軍属を含む日米地位協定上の地位を有する米国の人員に係る日米地位協定上の扱いの見直しに関する日米共同発表」を発出した。この共同発表において、日米両政府は、軍属の範囲の明確化等の分野において、個別の措置の詳細を発表することを目指し、努力することを決定した。

その後、日米両政府は共同発表に基づき、集中的に協議を続け、12月、日米地位協定の軍属に関する補足協定の実質合意に達し、同協定は翌2017年1月の署名により発効した。この補足協定は、日米地位協定が規定する軍属の内容を国際約束の形で補足し、明確化するものであり、このような日米地位協定の補足協定の作成は、2015年に締結された環境補足協定に続き、2件目となる。政府としては、この補足協定の着実な実施を通じて、日米間の協力が一層促進され、在日米軍の軍属に対する管理が一層強化されることによって、軍属による事件・事故の再発防止が図られることを期待している。

(6)朝鮮国連軍と在日米軍

1950年6月の朝鮮戦争の勃発に伴い、同月の国連安保理決議第83号及び同年7月の同決議第84号に基づき、同年7月に朝鮮国連軍が創設された。1953年7月の休戦協定成立を経た後、1957年7月に朝鮮国連軍司令部がソウルに移されたことに伴い、日本に朝鮮国連軍後方司令部が設立された。現在、同後方司令部は、横田飛行場に設置され、司令官ほか3人が常駐しているほか、8か国の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校として在京各国大使館に常駐している。

朝鮮国連軍は、日本との国連軍地位協定第5条に基づき、朝鮮国連軍に対して兵たん上の援助を与えるため必要な最小限度の在日米軍施設・区域を使用できる。現在、朝鮮国連軍には、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場及びホワイトビーチ地区の7か所の使用が認められている。

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