外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

各論

1 ロシア

(1)ロシア情勢

ア ロシア内政

2014年3月のクリミア「併合」後、プーチン大統領は、国民世論の圧倒的な支持を獲得し、ロシア経済が苦境にあった2015年も1年を通じて高い支持率を維持した。ただし、9月の統一地方選挙では、政権与党である「統一ロシア」の得票率が前回より低下し、一部の連邦構成主体では「統一ロシア」の候補が敗北する結果となった。

イ ロシア経済

石油・天然ガスなどの天然資源に経済的・財政的に依存するロシアでは、2015年、国際的な原油価格の低迷を受けて、ウクライナ情勢をめぐる欧米等の対露制裁も相まって、経済・財政状況が悪化した。2014年後半に下落したルーブルの対米ドルレートは、2015年前半に若干回復したものの、同年後半は原油価格の低迷を受け下落し、2014年6月比で約50%下落した。インフレ率も、食料品を中心に依然として高い水準にあり、2015年は12.9%に達した。

こうした状況を受け、国内投資と国内消費も低迷し、2015年の成長率はマイナス3.7%となった。また、2015年の財政赤字は1.95兆ルーブル(GDP比2.6%)となり、財政赤字を補塡する準備基金もドルベースで年初来約40%減少した。

ウ ロシア外交

ウクライナ情勢をめぐる制裁・対抗措置の応酬や、ミサイル防衛分野等での対立もあり、ロシア・欧米関係は冷戦後最低の水準といわれる。イラン核問題やシリア情勢など、国際安全保障分野において限定的な協力はあるものの、本質的な関係改善の兆候は見られない。

一方、中国とは首脳の頻繁な相互訪問(両国の戦勝記念式典への参加を含む。)により緊密な関係をアピールし、軍事分野では、2015年には初めて年2回の共同軍事演習を実施し、最新兵器の対中武器輸出契約が成立するなど、協力の深化が見られる。国際場裏では、国連での協調、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカ)や上海協力機構等の多国間枠組みでの連携が見られる。

ロシアは、1月にユーラシア経済同盟を創設するなど、外交上最優先地域である独立国家共同体(CIS)諸国の経済統合を推進し、中央アジアで中国が進めるシルクロード経済ベルト構想と同同盟の接合に向けて調整を行っている。

中東では、9月にアサド政権の要請を受け、シリア空爆を開始した。ロシア軍機撃墜でトルコとの対立を深めたが、米国や国連と共に国際シリア支援グループを主導している。

(2)日露関係

ア アジア太平洋地域における日露関係

近年、ロシアは、極東・東シベリア地域の開発を重視し、世界経済の成長センターであるアジア太平洋地域諸国との関係強化を積極的に推進している。日露両国がアジア太平洋地域のパートナーとしての関係を発展させていくことは日本の国益のみならず、地域の平和と繁栄にも資するものである。日本とロシアは、政治、安全保障、経済、文化・人的交流等様々な分野における協力関係の進展に努めている。その一方で、日露関係の飛躍的発展への制約となっているのが、北方領土問題である。政府としては、首脳及び外相間の緊密な信頼関係構築を重視しつつ、この問題を解決して平和条約を締結すべく精力的に交渉に取り組んでいる。

日露首脳会談(11月15日、トルコ・アンタルヤ 写真提供:内閣広報室)
日露首脳会談(11月15日、トルコ・アンタルヤ 写真提供:内閣広報室)
イ 北方領土と平和条約交渉

北方領土問題は日露間の最大の懸案であり、北方四島は日本に帰属するというのが日本の立場である。政府は、1956年の日ソ共同宣言、1993年の東京宣言、2001年のイルクーツク声明などこれまでの諸合意及び諸文書並びに法と正義の原則に基づき、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの一貫した方針の下、ロシア政府との間で精力的な交渉を行っている1

ロシアをめぐる国際情勢が複雑化する中、平和条約締結交渉も容易ではない状況にある。また、2015年夏には、メドヴェージェフ首相の択捉島訪問を始め、北方領土問題に関するロシア側の一方的な行動や発言が繰り返されたことから、それぞれに対し、政府として様々なレベルで強く抗議を行った。同地域では軍事施設の整備や装備の更新といった動きも引き続き見られる。そのような中、9月にモスクワを訪問した岸田外務大臣は、日露外相会談において、北方領土問題に関する日本の立場を明確に説明し、改めて抗議を行うとともに、外相間で突っ込んだ議論を行い、事実上一時中断していた平和条約締結交渉を再開した。同月の国連総会の際の日露首脳会談では、交渉の前進を図ることで一致した。これらを受けて、10月にはモスクワで約1年9か月ぶりに次官級の平和条約締結交渉を実施し、歴史的・法的な側面を含め、様々な論点につき率直かつ詳細な意見交換を行った。11月のG20首脳会合(於:トルコ)の際の日露首脳会談では、2013年4月の安倍総理大臣ロシア訪問の際の合意に基づき、双方に受入れ可能な解決策の作成に向けた率直な意見交換を行うとともに、今後の政治対話について、最も適切な時期のプーチン大統領の訪日を目指して準備を進めること、引き続き首脳レベルの対話を続けていくことを確認した。

日本は、北方領土問題解決のための環境整備に資する事業にも積極的に取り組んでおり、四島交流、自由訪問及び墓参を実施している。また、北方四島を含む日露両国の隣接地域において、防災や生態系保全などの分野での協力を進めている。

また、日本による事前の働き掛けにもかかわらず、ロシアにおいて同国水域内における流し網漁を禁止する法律が2016年1月1日に施行されたことを受け、政府として、日本の漁業者が代替漁法によってさけ・ます類の漁獲を継続できるよう、ロシア側に対し働き掛けている。

ウ 日露経済関係

2015年の日露貿易額は約209億米ドルと、過去最高の2013年(約348億米ドル)から2年連続で減少した(前年比-38.8%(日本側統計))。ロシア経済の停滞や輸出の大部分を占める石油・天然ガス価格の低下等を受け、ロシアの貿易高全体が2015年を通じ大きく減少したことが主たる要因であった(同-33.0%(ロシア側統計))。日本の対露直接投資額も過去最高の2013年の2,633億円から2,026億円(2014年)へと減少したが、日本政府としては、日本企業にメリットのある形で、日露経済関係の発展を促進していく考えである。

同年開催された「貿易経済に関する日露政府間委員会」第11回会合(9月、於:モスクワ)、「ロシア経済近代化に関する日露経済諮問会議」第5回会合(10月、於:東京)等では、日本企業も出席し、対露ビジネスで直面する問題の解決等をロシア政府に働き掛けた。また、第19回サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(6月、於:サンクトペテルブルク(ロシア))及び第1回東方経済フォーラム(9月、於:ウラジオストク(ロシア))では、両国企業関係者による日露円卓会議で日露経済関係の発展に向けた活発な意見交換が行われた。

個別分野でも日本企業が関与する各種プロジェクトが進捗している。エネルギー分野では、日本企業が参加するサハリン・プロジェクトで日本向けの石油・天然ガスが生産されているほか、極東及びヤマル半島で進行中のLNGプロジェクトにも日本企業が関与している。カムチャッカ地方やサハ共和国では小型風力発電実証実験が進んでいる。医療分野では、モスクワで日本の先端医療機器を納入した研修センターが開設されるなど、日本の医療技術の輸出促進に向けた動きがある。農業分野では、日本の農業技術を活用したプロジェクト(野菜栽培工場建設等)が進捗している。都市環境分野では、政府レベルの作業部会を通じて意見交換を行いながら、日露の企業が共同で取り組んでいる都市開発、木造建築、廃棄物処理等のプロジェクトの実現を推進するための協力を進めている。

このほか、ロシア国内6都市にある日本センターが両国企業間のビジネス・マッチングや地域間経済交流を支援しており、日露経済交流分野で活躍する人材の発掘・育成のため、経営関連講座や日本語講座、訪日研修なども実施している。これまでに約7万3,000人のロシア人が受講し、そのうち約4,700人が訪日研修に参加した。

エ 様々な分野における日露間の協力

日露間では、様々な分野で当局間の意思疎通を図っており、2015年は、サイバーテロ領事中東軍縮・不拡散及び国連といった分野で外交当局間の協議を行った。また、日露専門家によるアフガニスタン麻薬取締官研修も実施した。安全保障分野では、7月及び9月に谷内国家安全保障局長とパトルシェフ安全保障会議書記が会談した。また、海上自衛隊とロシア海軍による日露捜索・救難共同訓練や海上保安庁巡視船によるロシア海難救助機関との合同訓練の実施などの協力も継続している。人的交流の分野では、日露青年交流事業の枠組みで「日露学生フォーラム」を始めとする学生交流や、スポーツ・文化などをテーマとした交流が活発に実施され、9月には実施事業数300件、累計参加者数延べ5,000人をそれぞれ超えた。文化面では、裏千家の千宗室家元によるデモンストレーションを始め、日本の伝統・現代文化紹介行事がロシア各地で数多く開催された。

日露学生フォーラム2015(12月4日、筑波大学 写真提供:日露青年交流センター)
日露学生フォーラム2015(12月4日、筑波大学 写真提供:日露青年交流センター)

1 かつて、ソビエト連邦(ソ連)が領土問題の存在自体を否定し続けるという状況の下で、1972年10月に大平正芳外務大臣から国際司法裁判所への北方領土問題の付託を提案したが、ソ連のグロムイコ外相がこれを拒絶した。現在は、ロシア側は日本との間で二国間の交渉を通じて平和条約を締結する必要性を認めており、日本として交渉を通じた問題解決に取り組んでいる。

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