2 外交実施体制の強化

外務省は、国内外の情勢変化に対応した機動的な外交を進めるべく、限られた資源を優先度の高い業務に投入しつつ、外交実施体制の強化に引き続き取り組んでいる。

こうした取組の一環として、外務本省については、8月に機構改編を実施した。第一に、外交の一環としての国内外の市民への情報発信をより体系的・戦略的に行うため、外務省の所掌する報道対策、広報(国内広報及び海外広報)及び文化の分野における国際交流(文化交流)を1つの政策体系、いわゆる「パブリック・ディプロマシー(広報文化外交)」として捉え、総合的・大局的見地からこれを推進する体制を構築した。具体的には、大臣官房広報文化交流部と外務報道官組織を統合し、報道対策・広報・文化交流を三位一体のものとして推進するべく、「広報文化外交戦略課」を新設するなどの改編を実施し、外務報道官を補佐する「国際文化交流審議官」を新たに設置した。第二に、近年の中国経済の発展及び日中経済関係の拡大・深化を受けて、新たに中国及びモンゴルとの経済関係を所掌する「中国・モンゴル第二課」を新設した。第三に、対アフリカ外交をより効果的・効率的に実施していくため、新たに「アフリカ部」を中東アフリカ局に設置した。

在外公館については、海外において国を代表するとともに、外交の最前線で情報収集、邦人保護、外交関係促進などの分野で重要な役割を果たしつつ日本企業支援や投資・観光の促進など、国民の利益増進に直結する活動を支援している。2012年度末の日本の在外公館(実館1)数は203公館(大使館134、総領事館61、政府代表部8)であり、この数は、米国の270公館、中国の248公館と比べると依然として少ない水準にある。2012年度においては、在外公館の実館の新設は行わなかったが、新たに外交関係を樹立したクック(大洋州)と南スーダンについて、在ニュージーランド日本国大使館と在スーダン日本国大使館による兼轄を開始した。また、2013年1月に太平洋島嶼(しょ)国地域で主要な役割を果たしているサモアに兼勤駐在官事務所が設置された。今後も、日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化は不可欠であり、引き続き在外公館体制の整備を戦略的に進めていく考えである。

定員について、2012年度においては、政府全体での厳しい財政事情の中で1名の増員を行い、定員数は5,764人(ただし、復興庁へ1人供出したことに伴い、5,763人)となった。この人員数は、他の主要国と比較しても十分とはいえないため、より効果的かつ効率的な体制の構築を目指し、新興国、資源産出国、新設公館所在国などへの人員再配置を進めつつ、人員体制の整備を行っている。

以上のような外交実施体制を支えるため、外務省は、2012年度予算において、①「開かれた復興」と「新たな成長」のための取組、②多層的なネットワークの形成と国際社会における一層の貢献、③海外における外交実施体制の強化を重要外交課題と位置付け、6,173億円(対前年度比1.4%減)を計上した。また、2013年2月には2012年度補正予算が成立した。外務省所管の補正予算の総額は1,884億円であり、追加財政需要として国連分担金等、紛争・災害対策支援等及びその他案件の10件、総額1,380億円を計上した。また、経済対策としては、「アジア経済圏等新興国・開発途上国の活力の取り込み、中小企業の国際展開支援」などのためにODAを活用する経費など、総額504億円が計上された。

2013年度以降も、更なる合理化努力を行いつつ、ほかの主要国に劣らぬ外交実施体制の水準を確保できるよう努めていく。

主要国との在外公館数・職員数比較
主要国との在外公館数・職員数比較
2012年度重要外交課題関連予算
(億円)
1.「開かれた復興」と「新たな成長」のための取組 1,489
①開かれた復興への取組 128
②新たな成長への取組 1,288
③原子力事故を踏まえた取組 73
2.多層的なネットワークの形成と国際社会における一層の貢献 2,093
①多層的なネットワークの形成 368
②国際社会における一層の貢献 1,725
3.海外における外交実施体制の強化 924
「日本ブランド」の復活・強化のための在外公館による各種取組 4
在外公館の体制及び機能の強化 920
2012年度予算
2012年度予算
COLUMN
日本外交を支える職人たち:公邸料理人

外交は、国際会議や二国間会談などの交渉や協議の場のみで進めるものではありません。世界各地で、調理技術という専門性をいかし、あるときは現地の各界要人を日本の大使や総領事の公邸に引きつけ、あるときは重要な情報入手の場を創り出し、また、あるときは自ら日本文化を発信し、現地の日本ファンを増やす活躍をしている人たちがいます。それが、「公邸料理人」と呼ばれる人たちです。

海外の日本大使や総領事の公邸では、外交活動の一環として、相手国の政府関係者や現地の各界要人を招待した会食やレセプションを実施しています。これらの機会は人脈構築、情報収集、外交上の働きかけなどを行う貴重な場となっています。公邸料理人の主な任務は、こういった会食やレセプションにおける料理の準備と提供ですが、料理人の腕前は、こうした行事の外交目的の達成効果に直結するといっても過言ではありません。

例えば、イタリアでは、平野文史郎公邸料理人が提供する日本料理が評判を呼び、ローマの日本大使公邸に招待されることが現地の各界代表者の間で一つのステータスにすらなりつつあります。平野料理人自身がこれまでイタリアで数々のテレビや雑誌の特集、インタビューにも出演し、また、「食」にはうるさいイタリア料理の専門家やワイン通たちを彼の職人技でうならせるなど、日本食文化の理解と普及促進に活躍する姿はまさに外交官顔負けです。平野料理人は、「外交においてどれほど『料理』が大切かということを間近で体験し、自分も『外交』に携わっているのだと実感する毎日です。」と語っています。

一方、公邸料理人たちが、それぞれの現地において、少なからず食材(特に日本食の食材)の調達に苦労しているのもまた事実です。アフリカのジンバブエで日本大使館の公邸料理人を務めている篠﨑泰之さんは、「仕入れは常にアンテナを張り、複数のマーケットを探し回って調達しています。公邸の庭の一角で大葉、枝豆などの野菜を育て料理に使い、こちらでポピュラーなティラピア(淡水魚)を天ぷらや煮おろしに使っています。」と語っています。こういった公邸料理人たちの苦労と創意工夫が、日々の日本外交の活動を支えているのです。

公邸料理人の活躍の舞台は主に海外の日本大使館や総領事館なので、日本にお住まいの方が公邸料理人の料理を口にする機会はなかなかないかもしれません。でも大丈夫―多くの公邸料理人OB・OGは、外国での任務を終えて日本に帰国してから自らお店を開いたり、ホテルやレストランで活躍しているので、元公邸料理人の料理を日本国内で楽しめるチャンスがあります。皆さんも、そんなお店を探してみては?

大臣官房在外公館課課長補佐 清水 和彦

イタリア料理・ワイン専門家たちを前に前菜を実演調理する平野料理人(イタリア)
イタリア料理・ワイン専門家たちを前に前菜を実演調理する平野料理人(イタリア)
天皇誕生日祝賀レセプションで天ぷらを調理する篠﨑料理人(ジンバブエ)
天皇誕生日祝賀レセプションで天ぷらを調理する篠﨑料理人(ジンバブエ)

1 庁舎が存在し、そこに専任の職員が配属されている公館。

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