日本は、自国の安全を確保・維持し、また、日本国憲法がうたっている平和主義の理念を基礎として、平和で安全な世界を目指すため、国際社会の責任ある一員として軍縮・不拡散に取り組んでいる。その対象は、大量破壊兵器(一般に核兵器・生物兵器・化学兵器を指す。)、ミサイル、それ以外の通常兵器とそれらの関連物資・技術である。
核兵器の存在は人類全体にとって深刻な脅威であり、日本は唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」を実現させるべく、様々な外交努力を行っている(1)。核兵器不拡散条約(NPT)は、核軍縮・不拡散と原子力の平和的利用を定めた核兵器に関する最も基本的な条約であり、NPTに基づく国際的な核軍縮・不拡散と原子力の平和的利用の枠組みをNPT体制と呼んでいる。日本は、NPTの2010年運用検討会議において、オーストラリアと共同で最終文書の合意の基礎となる具体的な提案を行うなど、会議の成功に重要な貢献を行った。また、オーストラリアとの協力により、核兵器のない世界を実現する一里塚として、「核リスクの低い世界」を目指すという目的を共有する非核兵器国10か国による地域横断的なグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ」(NPDI)を同年9月に立ち上げた。NPDIは、NPT運用検討準備委員会への作業文書の提出や共同ステートメントの発表、核兵器国の軍縮の透明性確保のための提案などで具体的な成果を上げつつある。
また、核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器については、それらの生産・保有などを禁止する生物兵器禁止条約(BWC)や化学兵器禁止条約(CWC)が発効しており、日本はその強化と普遍化に向けた努力を行っている。通常兵器についても、クラスター弾や対人地雷といった非人道的な兵器の使用を禁止する条約の作成と強化、不発弾除去や小型武器回収等のプロジェクトの実施、各国の軍縮の透明性を高める諸努力に取り組んでいる。
その他の多国間の枠組みとしては、軍縮分野で唯一の多国間交渉機関であるジュネーブ軍縮会議(CD)において、日本は、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)などの新たな条約交渉の開始に向けて努力している。
IAEA(2)の保障措置(3)は、核不拡散体制の中核的措置であり、日本はその強化・効率化に取り組んでいる。また、不拡散を支持する国による各種の国際輸出管理レジームや大量破壊兵器等の拡散を阻止するための取組である「拡散に対する安全保障構想」(PSI)(4)などの取組に積極的に参画している。さらに、2001年の米国同時多発テロ以降、テロリストなどの非国家主体への核兵器、核物質及び関連資材の移転の防止など核セキュリティ(5)への取組が重要性を増しており、2010年5月には、オバマ米国大統領の主催の下、核テロ対策をテーマとした初めての首脳会議(核セキュリティ・サミット)が開催された。2012年3月にはソウルで2回目の核セキュリティ・サミットが開催され、日本からは東京電力福島第一原子力発電所事故から得た核セキュリティ強化に関する知見と教訓を発信した。
日本は、これらの多国間の枠組みを通じた取組に加え、二国間の対話を通じた軍縮・不拡散外交も積極的に行っており、二国間原子力協力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進やロシア退役原子力潜水艦の解体支援など(6)、その活動は多岐にわたっている。
2012年6月にウィーン(オーストリア)の国連会議場で開催された第55回COPUOSにおいて、私は満場一致で選出されて議長に就任しました。COPUOSが最初の会議を開催し、人類が初めて有人宇宙飛行に成功してから51年目の次の半世紀に向けての門出の年に、日本人として初めての議長職に選出されたことを実に光栄に思います。
私は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)において、長年人工衛星の開発や有人宇宙活動に携わってきました。その間、国際会議の議長なども幾度となく務めてきましたが、国連は一種独特の雰囲気があります。COPUOSの歴史は、旧ソ連が世界初の人工衛星を打ち上げた1958年に遡ります。その使命は宇宙空間の平和利用の国際協力に関する情報交換の場の提供、宇宙活動に関する法的問題の検討などとされていますが、とりわけ、1970年代までのCOPUOSにおける条約作成の機能には目覚ましいものがありました。宇宙の憲法とも言われる宇宙条約を始め、この時代に作成された条約が現在でも宇宙活動を律する国際法の基礎を成しています。COPUOSは、このほかにも「国連スペースデブリ低減ガイドライン」のような多くの宇宙活動に関する原則、宣言等によって条約を補完するルールの作成を続けています。
COPUOSは、国連加盟国のうち74か国(2013年2月現在)によって構成されています。議長の役割は、これらの国々が議論をスムーズに行うことができるよう、各国の公式発言や質問、進行に関する要望などを的確に処理していくことです。各国代表団には大使、大学教授、宇宙機関の技術者などがおり、その意見や立場は実に様々です。中には政治的・政策的なことや、筋論のみを発言する代表もおり、一筋縄ではいきません。しかし、私は議長として公平さとバランスおよび誠意を持って対応することを心がけるようにしています。
また、私は、議長就任に当たり、来るべき半世紀を見据えてCOPUOSが進むべき方向性に筋道をつけること、日本がその中で大きな貢献ができる地位を占めることの2つの目標を掲げました。世界でも数少ない、自らの手で宇宙活動が行える国である日本は、COPUOSのような場を活用することこそ、有意義な国際貢献ができるところと思っています。
国連宇宙空間平和利用委員会議長
外務省参与
独立行政法人宇宙航空研究開発機構技術参与 堀川康
2010年5月にニューヨークで行われたNPT運用検討会議は、前回会議(2005年)の決裂もあり、NPTの命運をかけた分岐点であったが、結果的に、NPTの3本柱(①核軍縮、②核不拡散、③原子力の平和的利用)につき、将来に向けた具体的な行動計画を含む最終文書をコンセンサスで採択することができた。今後は、2015年運用検討会議に向けて、各国がこの行動計画を着実に実施していくことが重要である。2012年4月から5月までウィーン(オーストリア)で開催された同運用検討会議第1回準備委員会は、第3回までの準備委員会の議題の採択や実質的議論の実施など、準備委員会としての任務を果たし、新しい運用検討プロセスを円滑にスタートさせることができた。
NPDIは、2010年9月に、日本がオーストラリアと主導して同年5月のNPT運用検討会議での合意事項の着実な実施に貢献すべく立ち上げたグループであり、核軍縮・不拡散分野において志を同じくする地域横断的な10か国(7)で構成される。メンバー国の外相自身による関与の下、現実的かつ実践的な提案を通じ、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たし、軍縮・不拡散分野における国際社会の取組を主導している。また、過去5回の外相会合における参加国外相の活発な議論を経て、その動向が国際社会から注目されるまでに成長するなど、グループとしての存在感と影響力を発揮している。2012年6月、トルコにおいて行われた第4回外相会合においては、中東非大量破壊兵器地帯構想を中心に議論が行われるとともに、同年9月の第5回外相会合では、NPT運用検討会議、第2回準備委員会における作業文書の提出など具体的な取組の方向性につき、実質的な議論を行った。また、2014年春には広島においてNPDI外相会合が開催される予定となっている。
日本は、CTBTをNPTを基礎とする核軍縮・不拡散体制を支える重要な柱と捉え、その早期発効を重視し、未批准国への働きかけなどの外交努力を継続している。2012年9月28日、日本は国連本部において第6回CTBTフレンズ外相会合を開催した。これは、条約の規定に基づく隔年の発効促進会議が開催されない年に、2002年以来、日本がオーストラリア及びオランダと共に主導している有志国による会合である。同会合において共同議長を務めた玄葉外務大臣は、CTBT発効に積極的に取り組んでいく決意を表明しつつ、すぐにとるべき3つの具体的な共同行動(9)を提案することで、国際社会の先頭に立って取り組んでいく決意を改めて表明した。
2009年5月、CDにおいて、FMCT交渉開始を含む作業計画が採択されたにもかかわらず、作業計画の実施に必要な決定案がパキスタンの反対により合意に至らず、結局交渉は行われなかった。その後も、2012年に至るまで交渉を開始できなかったことを受けて、同年10月の国連総会第一委員会において、カナダが提出したFMCTに関する政府専門家会合(GGE)の設置を決定する決議案が採択された(同年12月に国連総会本会議で採択)。同決議は、国連事務総長に対し加盟国の意向をまとめた報告書を2013年9月からの第68回国連総会に提出し、2014年及び2015年にGGEを開催することを要請している。
近年、軍縮・不拡散問題への取組を推進する上で市民に対する軍縮・不拡散についての教育の重要性が国際社会に広く認識されてきている。日本は、唯一の戦争被爆国として、また、国際的な軍縮・不拡散体制の維持・強化を主要な外交課題と捉える立場から、軍縮・不拡散教育を積極的に推進してきている。日本の取組として、「非核特使」や被爆証言の多言語化や各国若手外交官の被爆地研修などを通じた被爆の実相の伝達、NPT運用検討会議のプロセスにおける作業文書の提出や演説の実施、日本における国連軍縮会議開催に際した協力を行っている。2012年5月に開催された2015年NPT運用検討会議第1回準備委員会(於:ウィーン)において、米国モントレー不拡散研究所、オーストリア政府及び日本外務省が共催して、軍縮・不拡散教育に関するサイドイベントを開催し、長崎市出身の非核特使が自らの実体験に基づいた被爆証言を行った。また、2012年8月に、日本外務省と国連大学による共催で、「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」を長崎市において開催し、19か国・4国際機関から政府関係者、NGO、メディア関係者など約250人の参加を得て、「核兵器のない世界」の実現に向けた軍縮・不拡散教育の役割と在り方、教育を実践していく上での課題等について議論を行った。
2012年5月に行われたG8キャンプデービッド・サミット(於:米国)において合意された「不拡散及び軍縮に関する宣言」では、軍縮・不拡散の追求、原子力の平和的利用の不可欠な基礎であるNPTに対する支持などが表明された。さらに、同年12月に開催された第67回国連総会においては、日本が1999年以降毎年提出している核軍縮決議が2011年同様過去最多の99か国となる共同提案国を集め、賛成174、反対1(北朝鮮)、棄権13と圧倒的多数の支持を得て採択された。
核軍縮・不拡散及び環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じ、ロシアにおける退役原子力潜水艦解体関連事業を実施している(11)。また、ウクライナ、カザフスタン及びベラルーシとの間でそれぞれ設立した非核化協力委員会を通じ、核セキュリティ強化事業に対する協力を進めている(12)。
日本は、不拡散体制の強化のために様々な外交努力を行っている。IAEAは、原子力の平和的利用の促進と原子力の軍事的利用への転用防止を目的とする国際機関であり、日本はIAEA指定理事国(13)としてその活動に人的・財政的貢献を行っている。IAEAの保障措置は、核物質などが軍事的目的に資するような方法で利用されないことを確保するための検認制度であり、また、国際的な核不拡散体制の中核的な措置である。日本はより多くの国が追加議定書(14)を締結するよう様々な協議の場で各国に働きかけるとともに、IAEAと協力し、追加議定書締結支援のためにIAEAが主催する地域セミナーへの人的・財政的支援を含め、IAEAの取組を支援してきている。
輸出管理レジームは、兵器やその関連汎用品・技術の供給能力を持ち、かつ、不拡散を支持する国々による輸出管理の協調のための枠組みである。核兵器、生物・化学兵器、ミサイル(15)、通常兵器のそれぞれに関する多国間の輸出管理レジームが存在し、日本はこれら全てに参加し、貢献している。特に、原子力供給国グループ(NSG)に対しては、ウィーン日本政府代表部が事務局の役割を果たしている。2011年6月には、原子力供給国グループ総会において、濃縮及び再処理(16)の資機材や技術の移転規制が強化された。
また、日本は、「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の取組を重視しているほか、不拡散体制への理解促進と取組の強化を目指し、アジア諸国を中心に働きかけを行っており、2003年度からアジア不拡散協議(ASTOP)(17)を、また、1993年度からアジア輸出管理セミナー(18)をそれぞれ日本において開催するなど、拡散問題に対する地域的取組の強化を率先して進めている。また、日本は、ロシアなど旧ソ連諸国で大量破壊兵器やその運搬手段の研究開発に関与していた科学者などを国際科学技術センター(ISTC)を通じて平和目的の研究に従事させることにより、大量破壊兵器に関する知識・技能の拡散防止と国際的な科学協力に貢献している。
北朝鮮の核・ミサイル問題は、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、特に核開発は国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦である。2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮計画の保有を認め、これを契機に核問題が再び深刻化し(19)、2006年7月にテポドン2を含む7発の弾道ミサイルが発射され、10月には核実験実施発表に至った。2007年から2008年にかけて、寧(ヨン)辺(ビョン)の3つの核施設(5メガワット実験炉、再処理工場及び核燃料棒製造施設)の無能力化作業への着手及び核計画に関する申告がなされたが、北朝鮮は、2009年には4月にミサイルを発射、5月に核実験実施を発表し、6月に新たに抽出されるプルトニウム全量の兵器化及びウラン濃縮作業着手を発表し、7月には複数発の弾道ミサイルを発射、9月に試験的ウラン濃縮が最終段階に達したことを宣明する書簡を国連安保理議長宛てに送付し、11月には使用済み核燃料棒の再処理を成功裏に終了したことを発表するなど、強硬姿勢を強めた。また、2010年11月には、米国のプリチャード元朝鮮半島和平担当特使とヘッカー・スタンフォード大学教授(元ロスアラモス研究所長)が寧辺を訪問した際、北朝鮮が実験用軽水炉建設現場とウラン濃縮施設を視察させたことが報告されている。さらに、2012年には4月と12月の2度にわたり、累次の国連安保理決議に違反してミサイルの発射を行った。日本は、引き続き北朝鮮に対し、2005年9月の六者会合共同声明及び関連する国連安保理決議に違反するウラン濃縮活動の即時停止を含め、全ての核兵器及び既存の核計画の放棄に向けた措置を着実に実施するよう強く求めつつ、北朝鮮の非核化に向けて引き続き米韓を含む関係国と緊密に連携していく考えである(第2章第1節1(1)北朝鮮(拉致問題を含む。)参照)。
また、IAEAに未申告のウラン濃縮関連活動が2002年に発覚したイランの核問題は、国際的な核不拡散体制への重大な挑戦であり、2003年以降、その活動の停止などを求めるIAEA理事会決議(20)及び国連安保理決議(21)がそれぞれ採択されてきた。イランは未解決の問題に関し、IAEAへの更なる情報提供やIAEAの懸念を払拭するために必要な人や場所へのアクセス提供を実施していない。さらに、2009年9月には、新たなウラン濃縮施設が建設中であることが明らかになり、2010年2月には、自国でのテヘラン研究用原子炉(TRR)用燃料生産を目的として約20%のウラン濃縮を開始するなど、イランは依然として国連安保理決議に反してウラン濃縮関連活動を継続し、拡大している。このような動きに対し、2010年6月には国連安保理決議第1929号が採択され、イランに対する措置が強化された。さらには、2011年11月には、イランの核計画に関する軍事的側面の可能性について詳細に説明したIAEA事務局長報告の発出やIAEA理事会決議の採択などがなされ、これらを踏まえ、米・EUなどによるイランに対する追加的な措置が行われた。IAEAはその後、2012年9月理事会において再び決議を採択した。こうした動きにもかかわらず、未解決の問題の説明について、具体的な成果は得られていない。日本は、関係国と緊密に連携しつつ、イランとの伝統的に良好な関係に基づく働きかけを継続し、核問題の平和的・外交的解決に向け努力していく考えである(詳細については第2章第6節2(8)イラン参照)。
シリアによるIAEA保障措置の履行に関する問題も、2008年11月以降、IAEA理事会において取り上げられている。2011年6月のIAEA理事会は、デイル・エッゾールにおける未申告での原子炉建設がIAEA保障措置協定下の違反を構成することを認定し、IAEA全加盟国、国連安保理及び国連総会にシリアの保障措置協定違反を報告することを決定する決議が採択されたが、これまでのところ進展は見られない。シリアがIAEAに対して完全に協力し、事実関係が解明されるためにも同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが極めて重要である。
近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性などから、原子力発電の拡充や新規導入を計画する国が増加しており、東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会における重要なエネルギー源となっている(22)。
一方、原子力発電に利用される技術や機材、核物質が軍事転用が可能であることや一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得ることから、原子力の平和的利用に当たっては、①核不拡散、②原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保など)、③核セキュリティ(核テロリズムの危険への対応など)の「3S」(23)の確保が重要である。日本はこれまで、二国間、多国間の枠組みを通じて、「3S」確保の重要性に関する国際社会の共通認識を形成するための外交を展開している。
特に、2011年の原発事故を踏まえ、事故の知見と教訓を国際社会と共有し、これにより、国際的な原子力安全の強化に貢献していくことは、日本が果たすべき責務である。この観点から2012年12月には原子力安全に関する福島閣僚会議を開催し、事故から得られた知見と教訓を国際社会と共有するとともに、原子力安全の強化に関する国際社会の様々な取組の進捗状況を議論した。
二国間原子力協定は、特に原子力の平和的利用の推進と核不拡散の確保の観点から、核物質、原子炉などの主要な原子力関連資機材及び技術を移転するに当たり、移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。
また、日本は、「3S」を重視する観点から、最近の原子力協定においては、原子力安全面に関する規定も設けており、協定の締結により、原子力安全の強化などに関し、協定に基づく協力の促進も可能となる。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、日本の原子力技術に対する期待が、引き続き複数の国から表明されている。二国間の原子力協力については、同事故に関する知見と教訓を世界と共有することにより、世界の原子力安全の向上に貢献していくことが日本の責務であるとの認識の下、相手国の事情や意向を踏まえつつ、世界最高水準の安全性を有するものを提供していく考えである。このため、原子力協定の枠組みを整備するかどうかについて、核不拡散の観点や、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係などを総合的に踏まえて、個別具体的に検討していくこととなる。
なお、日本は、2012年末までに米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、中国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシアとの間でそれぞれ原子力協定を締結している。
核セキュリティについては、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降国際的な関心が高まっており、様々な取組が行われている。2010年4月には、オバマ米国大統領の提唱により、核セキュリティをテーマにした初めての首脳会議(核セキュリティ・サミット)が米国で開催された。このサミットには、日本を含む47か国・3国際機関など(国連、IAEA及びEU)の首脳などが参加し、4年以内に全ての脆弱な核物質の管理を徹底するとの目標を共有するとともに、核セキュリティ強化のために具体的な措置をとっていくことで一致した。2012年3月には、第2回目となるサミットがソウルで開催され、53か国と4国際機関など(上記3機関とICPO-interpol)から首脳級36名を含む代表が参加した。東京電力福島第一原発事故から約1年という節目のタイミングとなった今回サミットでは、原発事故から得られた教訓を踏まえ、核セキュリティ強化のための日本の国内取組を各国首脳と共有し、この分野での国際協力を促すことができた。
生物兵器禁止条約(BWC)(24)は、生物兵器の開発・生産・保有などを包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みであるが、条約遵守の検証手段に関する規定がない。検証手段の導入については、生物剤や毒素への実効的な検証が極めて困難であるなどの問題があり、条約をいかに強化するかが課題となっている。
2011年の第7回運用検討会議において、条約強化のために、次回運用検討会議(2016年)までの年次会合プロセスが決定され、これに基づいて、2012年は、7月の専門家会合及び12月の締約国会合で、①国際協力・支援、②科学技術の進展の見直し、③国内実施強化の三つの常設課題と信頼醸成措置(CBM)提出促進の課題について議論された。日本は、専門家会合及び締約国会合のサイドイベントにおいて、バイオ技術・生物剤が本来の目的から外れ悪用・誤用され得るという二重用途性(デュアル・ユース)問題に関する専門家による発表を行うなど条約強化のための議論に貢献した。
化学兵器禁止条約(CWC)(25)は、化学兵器の開発・生産・保有・使用などを包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めるとともに、条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、ハーグ(オランダ)に化学兵器禁止機関(OPCW)が設置されている。
CWCの目的である化学兵器のない世界を実現する上で、加盟国を増やすための協力、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化及びそのための国際協力が不可欠であり、日本はこれらの課題につき積極的に取り組んでいる。5月には、OPCWが開催した「CWC及び化学物質の安全マネジメントに関するセミナー」(於:マレーシア)に、日本の化学産業界関係者を派遣し、セミナーの開催を支援した。また、9月、例年同様OPCWの「アソシエート・プログラム」の下で、日本の化学工場にスリランカ、マレーシアからの研修生2人を受け入れ、工場における安全管理などに関する研修を実施した。
また、日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化した化学兵器と同様に廃棄義務を負っており、中国と協力しつつ、1日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。
日本は、クラスター弾の人道上の問題を深刻に受け止め、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施するとともに、クラスター弾に関する条約(CCM)(27)の締約国を拡大する取組を同条約の普遍化の調整役として推進してきた。大量生産国・保有国も締結している特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで行われてきたクラスター弾の規制についての議定書交渉は、2011年の第4回CCW運用検討会議において合意に至らなかったが、日本は、今後とも、CCMの締約国を増やすための努力を継続していく。また、ラオスやレバノンなどのクラスター弾の被害国に対し、不発弾処理や被害者支援事業の協力を行っている。
事実上の大量破壊兵器とも称される小型武器は、その操作の手軽さゆえに、非合法拡散が続き、少なくとも年間50万人が小型武器の使用の結果死亡しているとされ、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの問題の一因となっている。このような小型武器の非合法取引の防止・撲滅などを目的とする国連小型武器行動計画(PoA、2001年採択)のプロセスの中で、2011年には非合法な小型武器の流通・使用を防止するための刻印・記録保持・追跡を議題として政府専門家会合が開催された。2012年には、2006年以来6年ぶりに、国連小型武器行動計画の履行検討会議が開催され、成果文書が採択された。日本は、毎年の国連小型武器決議の国連総会への提出を始め、国連における取組に貢献すると同時に、世界各地において武器回収、廃棄、研修などの小型武器対策プロジェクトを支援している。
日本は、実効的な対人地雷禁止と被害国への地雷対策支援(地雷除去、被害者支援等)の双方を強化する包括的な取組を推進しており、アジア太平洋地域各国への対人地雷禁止条約(オタワ条約)(28)締結の働きかけに加え、1998年以降、42か国・地域に対して約490億円の地雷対策支援を実施してきている。
通常兵器の輸出入などに関する国際的な共通基準を確立するための武器貿易条約(ATT)の交渉のための国連会議は、2012年7月に1か月にわたり開催されたが、条約採択には至らなかった。2013年3月に条約採択に向けて最後の国連会議が開催される予定である。
1 より詳細な日本の核軍縮・不拡散分野の政策については2013年発行の「日本の軍縮・不拡散外交(第六版)」(外務省編http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/2013/index.html)を参照。
2 IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立され、事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会であり、総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2012年2月現在、153か国が加盟。天野之弥氏が2009年12月以降事務局長を務めている。
3 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。
4 PSIとは、大量破壊兵器などの拡散阻止のため各国が国際法・各国国内法の範囲内で共同してとり得る措置を実施・検討するための取組で、2003年5月に発足。2012年12月現在約100か国が、PSIの活動に参加・協力している。日本は、PSI海上阻止訓練を2004年及び2007年の二度主催し、2010年11月に東京においてオペレーション専門家会合(OEG)を主催したほか、2012年7月には日本で行うものとしては初のPSI航空阻止訓練を主催した。また、他国が主催する訓練及び関連会合にも積極的に参加している。
5 核物質等がテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための措置。
6 原子力潜水艦解体作業で取り出された原子炉区画を長期陸上保存するために必要な機材を供与(2012年)。
7 日本、オーストラリアのほか、カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ及びアラブ首長国連邦。
8 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2013年3月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国が未批准、インド、北朝鮮、パキスタンが未署名のために未発効となっている。
9 ①核実験禁止の事実上の国際的な規範化の動きを強化する必要があること、②CTBT未署名の未批准国に対して可能な限り早期に署名・批准するよう説得するための更なる域内のイニシアティブを促すこと、③各国が条約の発効に向け、国際監視制度(IMS)の整備を加速すること。
10 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想。
11 退役原子力潜水艦解体事業「希望の星」は、2002年6月のG8カナナスキス・サミット(於:カナダ)において合意され、大量破壊兵器及びその関連物質の拡散防止を主な目的とする「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施されたもので、2009年12月までに計6隻を解体して完了した。2010年8月からは、解体した原子力潜水艦の原子炉区画を安全に保管するため原子炉区画陸上保管施設の建設に対する協力を実施している。
12 2010年7月、日・ベラルーシ核不拡散協力委員会を通じ、ベラルーシ国境における核・放射性物質不法移転防止システムの強化に対する協力を開始し、2011年8月に完了した。また、2011年1月、日・ウクライナ核兵器廃棄協力委員会を通じ、ハリコフ物理化学研究所核セキュリティ強化、さらに、同年11月、日・カザフスタン核兵器廃棄協力委員会を通じ、カザフスタン核セキュリティ防護資機材整備に対する協力をそれぞれ開始した。
13 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始めG8などの原子力先進国が指定されている。
14 包括的保障措置協定に追加して各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど、検認活動が強化される。2012年12月現在、119か国が締結。
15 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)があり、日本はこれにも参加している。
16 濃縮とは、天然ウラン中にわずか(0.7%)しか存在しないウラン235の割合を高めること。再処理とは、使用済核燃料に含まれるプルトニウム239を抽出すること。高濃度のウラン235やプルトニウム239は、核兵器の原料になり得る。
17 ASTOPとは、日本のほか、ASEAN10か国、中国、韓国、米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが参加し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う日本主催の多国間協議。最近では2011年12月に開催された。
18 アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などの参加により、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催しており、最近では2012年2月に開催し、33か国・地域が参加した。
19 2003年1月、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、その後、1994年10月に米朝間で署名された「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワットの実験炉を再稼働させ、使用済み核燃料棒の再処理を再開した。
20 2003年9月のIAEA理事会決議や10月のEU3(英国、フランス、ドイツ)とのテヘラン合意を受け、イランは濃縮関連活動の停止の約束のほか、保障措置に関する是正措置やIAEA追加議定書の署名など一時的には前向きな対応を見せたものの、活動を継続した。また、2004年11月のEU3とのパリ合意により同活動を停止したものの、2005年8月には再開している。これを受け、2005年9月、IAEA理事会は、イランによる保障措置協定の違反を認定し、2006年2月のIAEA特別理事会において、イランの核問題を国連安保理に報告する決議を採択し、これ以降、イランの核問題は国連安保理でも協議されるようになった。
21 国連安保理決議第1696号(2006年7月31日採択)、決議第1737号(2006年12月23日採択)、決議第1747号(2007年3月24日採択)、決議第1803号(2008年3月3日採択)、決議第1835号(2008年9月27日採択)及び決議第1929号(2010年6月9日採択)を指す。決議第1696、1737、1747、1803号は、国連憲章第7章下で、イランに対し、全ての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止、未解決の問題の解決などのため、IAEAに対するアクセス及び協力を提供することを義務付け、また、追加議定書の迅速な締結を要請しており、決議第1835号は、イランに対しこれら4本の決議の義務を遅滞なく遵守するよう求めている。また、決議第1737、1747、1803号は、核関連物資の対イラン禁輸やイランの核・ミサイル関連個人・団体の資産凍結などの憲章第7章第41条下のイランに対する措置を含んでおり、決議第1929号は、イランに対する追加的な措置として、武器禁輸の拡大、弾道ミサイル開発の規制、資産凍結・渡航制限対象の拡大、金融・商業分野、銀行に対する規制の強化、貨物検査などの包括的な措置を含んでいる。
22 IAEAによれば、2012年12月現在、原子炉は世界中で437基が稼働中であり、64基が建設中(http://www.iaea.org/programmes/a2/)。また、60か国以上が原子力発電の新規導入に関心を示している。
23 核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字を取って「3S」と称されている。
24 1975年3月発効。締約国数は166か国(2012年12月現在)。
25 1997年4月発効。締約国数は188か国(2012年12月現在)。
26 一般的に、航空機などから投下、発射される容器の中に複数の子弾を内蔵した弾薬のこと。不発弾が多いことが問題とされ、不発弾による民間人の被害が問題となっている。
27 クラスター弾の使用、所持、製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2012年2月現在の締約国数は、日本を含め68か国。
28 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2012年12月現在の締約国数は、日本を含め160か国。