日本周辺地域における安全保障環境はかつてなく厳しさを増している。北朝鮮は、六者会合共同声明や累次の国連安全保障理事会(国連安保理)決議に違反して、ウラン濃縮活動を含む核・ミサイル開発を継続してきた。国際社会が自制を強く求めたにもかかわらず、2012年4月及び12月に北朝鮮が「人工衛星」と称してミサイルの発射、2013年2月に核実験を強行したことは、日本を含む地域と国際社会の平和と安定を損なう安全保障上の重大な挑発行為である。また、中国の透明性を欠いた国防力の強化や海洋活動の活発化は、地域と国際社会の懸念事項である。このほか、ロシアも、徐々にではあるが軍改革を進めており、自国の経済の回復などを背景とした軍事力の近代化を図り、極東においても活動を活発化させている。さらには、日本の領土や主権をめぐる様々な出来事も起きている。一方で、大量破壊兵器やミサイルの拡散、国際テロ、海賊問題、大規模災害、サイバー攻撃など、一国では対応することが極めて困難な地球規模の課題への対応も求められている。
このような安全保障上の諸課題に対処しつつ、日本がその領土を保全し、国民の生命・財産を保護するとともに国際社会の安定と持続的な繁栄や発展を確保するためには、伝統的脅威のみならず、非伝統的脅威への対応も含めた多面的な安全保障政策の立案・遂行が求められている。
第一に、日本自身の主体的な努力が重要である。この点で、日本の防衛力について、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化と地球規模の安全保障環境の改善に効果的に貢献できる機動的なものとしていくことが必要である。
第二に、日米安全保障条約に基づく米軍の前方展開を確保し、日米安保体制の抑止力を向上させていくことが日本の安全のみならずアジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、拡大抑止、弾道ミサイル防衛、海洋、宇宙、サイバーなどの幅広い分野における協力を進めており、また、自衛隊や米軍の運用面については、共同訓練、共同の警戒監視・偵察活動、施設の共同使用を含む日米間の安全保障・防衛協力を促進していくことで一致している。在日米軍再編は、安定的な米軍施設・区域の提供を確保する上で、着実に実施していく必要がある。在日米軍再編を可能なところから進めていくべく、2012年4月の日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)共同発表においては、再編計画を調整し、在沖縄海兵隊のグアム移転及び嘉手納(かでな)以南の土地の返還の双方を、普天間飛行場の代替施設に係る進展から切り離した。日米両国としては、同発表を含むこれまでの日米合意を着実に実施していくことにより、抑止力を維持しつつ沖縄を始めとする地元の負担軽減を実現していく方針である。
第三に、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。米国の同盟国であり、基本的価値や利益を共有する韓国やオーストラリアとの二国間協力を促進するとともに、日米韓や日米豪といった3か国協力の枠組みにおける連携を進めていくことが重要である。また、英国やフランスなどとの間では、防衛装備品などの分野での協力を図っている。さらには、航行の自由を含む海上安全保障などの利害を共有する関係国との関係強化に努め、同時に、地域の大国である中国やロシアとの協力関係を強化することが重要である。これらに加えて、東アジア首脳会議(EAS)、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)などの多国間地域協力の枠組みを活用し、それぞれの枠組み間の多層的な協力関係を強化していく考えである。
日本の安全と繁栄は、日本周辺の安全保障環境の改善のみにより達成されるものではなく、国際社会の平和と安定という基盤の上に成り立っている。地域紛争、大量破壊兵器やミサイルの拡散、貧困、飢餓(きが)、感染症、地球規模問題など国際社会における諸課題が多様化している中で、これらの解決に積極的に取り組むことを通じて日本の安全と繁栄を達成するとの考え方に立ち、日本は、世界の様々な問題の解決に向け積極的に対処してきている。
紛争後の地域において紛争の再発防止や持続的な平和に向けた基礎作りに取り組む平和維持及び緊急人道支援から、和平プロセスの促進、紛争後の治安の確保、復興・開発に至る継ぎ目のない取組である平和構築は、国際社会の平和と安定のために重要であり、日本は主要な外交課題の一つとしてこれに取り組んでいる。平和維持や平和構築に関する具体的な取組としては、国連平和維持活動(国連PKO)などへの積極的な協力、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組、国連における取組及び人材育成のための研修実施などが挙げられる。
国際社会におけるテロや人身取引、薬物犯罪、サイバー犯罪、マネーロンダリング(資金洗浄)などの国際組織犯罪は、グローバル化や情報通信の高度化、人の移動の拡大などに伴い、国際社会に大きな治安上の脅威をもたらしている。また、テロや国際組織犯罪は、国家や国民の安全の確保の問題であるのみならず、投資、観光、貿易などの日本の経済活動に重大な影響を与える問題でもある。日本は、これらの犯罪を自らの問題と捉え、法律や規制などの制度が脆弱(ぜいじゃく)な国々に対する能力向上のための支援を行うとともに、国際的な法的枠組みの強化を始めとする様々な分野で国際社会と協力して積極的にテロ対策や国際組織犯罪対策を強化している。
さらに、外交・安全保障上の宇宙の重要性が高まる中、民生・安全保障の両分野における宇宙をめぐる課題に積極的に取り組んでいる。
日本は、「核兵器のない世界」の実現に向け、積極的な取組を進めている。これは、唯一の戦争被爆国として世界に核兵器使用の惨禍を訴える日本の責務を体現する政策である。同時に、日本を取り巻く安全保障環境の改善を図るという明確な目的達成のための政策でもある。2010年9月に日本・オーストラリア両国が中心となって立ち上げた地域横断的なグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ」(NPDI)の枠組みでは、2012年6月、9月にそれぞれ第4回・第5回外相会合が開かれた。その際、核兵器に関する透明性向上や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)などの軍縮・不拡散分野の主要課題について、実質的な議論が行われた。また、日本が毎年国連総会に提出している核軍縮決議について、2012年も「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」と題して提出した。この決議は、2011年同様、過去最多の99か国の共同提案国を集め、圧倒的多数の賛成を得て採択された。また、8月には、国連大学と共催で軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラムを長崎市で開催した。同フォーラムでは、国際機関、専門家、市民社会、メディアなどの国内外からの幅広い参加を得て、軍縮・不拡散に関する教育の重要性について認識を共有し、様々な主体間の連携の促進や更なる取組の発展に向けた議論を行った。
同時に、複雑な諸課題に国際社会が一致して対処するためには、「グローバル・ガバナンス」の強化が必要であり、新興国の台頭や国連加盟国の増加など現代の国際社会の実態を反映した形で国連の機能を強化することが不可欠である。このような考えの下、日本は国連安保理改革を始めとする国連改革の早期実現を目指すとともに、国連を始めとする国際機関において指導力を発揮し、人的・財政的貢献を行っている。
国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定させ、紛争の平和的解決を図り、各国内の「良い統治」を促進する上で重要である。日本は、国際社会における「法の支配」の確立を外交政策の柱の1つとして位置付け、様々な取組を積極的に行っている。「法の支配」の確立は、日本の領土の保全、海洋権益や経済的利益の確保、国民の保護などの観点からも重要な意味を持つ。
人権及び基本的自由は普遍的価値であり、その保護・促進は全ての国家の基本的な責務であると同時に、国際社会全体の正当な関心事項である。また、平和で繁栄した社会の確立や国際社会の平和と安定のためには、それらが各国において十分に保障される必要がある。日本は、世界の人権状況を改善するため、それぞれの国・地域の特殊性や様々な歴史的・文化的背景を踏まえた取組として二国間での対話と協力を重視している。また、各国の人権状況の改善という観点から、人権理事会を含む国連などの多国間の場における取組も重要である。日本として積極的に国際社会との協力を進めている。