外務省は、限られた資源を優先度の高い業務に投入し、国内外の情勢変化に応じた機動的な外交を進めるため、外交実施体制の強化に取り組んでいる。
2011年は、3月の東日本大震災の発生以降、外務本省と在外公館(海外にある日本の大使館、総領事館など)は国際社会からの支援の受入れ、国際社会への情報発信、また、風評被害払拭のための国内関係者・日本企業支援に積極的に取り組み、「日本ブランド」の回復・再構築を進めてきた。
在外公館は、海外において国を代表するとともに、情報収集、邦人保護、外交関係促進などの分野で重要な役割を果たす外交の最前線であり、また、日本企業支援や投資・観光の促進など、国民の利益増進に直結する活動を支援している。特に、震災後には、在外公館を通じて、風評被害対策のために様々な関連情報の発信や相手国政府、企業、マスコミなどへの働きかけを行ったほか、「地方の魅力発信プロジェクト」として、投資・観光促進のために、日本産品・製品のPR活動、観光展への出展など、幅広い活動を通じて震災からの復旧・復興への取組を支援した(詳細は、第4章第1節3「地方自治体等との連携」参照)。
また、2011年度は、2010年度に外務省で実施した、在外公館の在り方に関する検討を行う「在外公館タスクフォース」での議論を受けて発表した「今後の在外公館体制についての検討結果」に基づき、在外公館体制の整備を進めた。2011年5月には、日本にとって、中国に次ぐ貿易相手先であり、東アジアにおける最大の投資先である東南アジア諸国連合(ASEAN)に日本政府代表部を開設した。また、2012年1月には、ソマリア沖海賊対処のため自衛隊が2009年から活動しているジブチに日本国大使館を開設した。これにより日本の在外公館(実館(1))数は205公館(大使館134、総領事館63、政府代表部8)となったが、この数は、米国の270公館、中国の247公館と比べると依然として少ない。2012年度については、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、太平洋島嶼(しょ)国地域で主要な役割を果たしているサモアに兼勤駐在官事務所を設置するとともに、在留邦人及び日本企業の進出が進む武漢(中国)に出張駐在官事務所を設置する予定である。同時に、より効果的かつ効率的な体制の構築を目指し、新興国、資源産出国、新設公館所在国等への人員再配置にも引き続き取り組んでいる。外務省としては、2011年11月に実施された「提言型政策仕分け」において、計画的な在外公館の配置や各種指標に基づく設置数・実施体制を見直すべき等の提言がなされたことも踏まえ、戦略的に在外公館体制の整備を進めていく考えである。
定員については、2011年度においては、重点外交政策等に沿った事項に基づき本省及び在外公館で計23人の増員を行い、定員数は合計5,763人(外務本省2,199人、在外公館3,564人)となった。この人員数は、例えば、英国、ドイツの約7,000人の体制と比較していまだ十分とはいえないため、政府全体での厳しい予算・定員事情の中で、今後も事務合理化による定員の再配置も進めつつ、人員体制の整備を行っていく。なお、2012年度についても、この定員規模で推移する見通しである。
以上のような外交実施体制を支えるため、外務省は、2011年度予算において、①新成長戦略実現のための取組、②平和安全保障上の取組、③グローバル化の負の側面への対応、④海外における外交実施体制の強化・最適化を重要外交課題と位置付け、6,262億円(対前年度比4.7%減)を計上した。
また、2011年度には4次にわたる補正予算が編成され、そのうち第1次から第3次までは東日本大震災からの復旧・復興を目的としたものである。第1次補正予算編成に当たっては、復旧のための財源を確保するため、外務省関連では国際機関への拠出等を中心に276億円が減額された。一方で、第2次補正予算では、①在外公館等を活用した「地方の魅力発信プロジェクト」及び②対日理解促進のための招へい事業について総額15億円を計上した。また、第3次補正予算では、①防災分野における国際協力促進、②開発途上国の要望等を踏まえた工業用品・食糧等の供与を中心とする被災地支援、③国際的に原子力安全を向上させるための取組、④アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流を通じた日本再生に関する理解増進、⑤復興に関する対外発信、⑥外国人受入環境の整備について総額187億円を計上した。さらに、追加財政需要に対応するための第4次補正予算においては、国連平和維持活動やアフガニスタン支援、タイ洪水対策等に対応するための経費を計上した。
外務省としては、2012年度以降も、さらなる合理化努力を行いつつ、他の主要国に劣らぬ外交実施体制の水準を確保できるよう努めていきたいと考えている。
2010年に開催した「在外公館タスクフォース」での検討を踏まえて発表した「今後の在外公館体制についての検討結果」に関するフォローアップ状況(2012年1月現在) | |
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1 | 2011年度の予算及び機構要求において、在ジブチ大使館及びASEAN代表部の新設が認められた。ASEAN代表部は2011年5月26日に、在ジブチ大使館は2012年1月1日に開設された。引き続き外交実施体制の強化を図るべく、2015年までに他の主要国並の150大使館体制の実現を目指していく。 |
2 | 2011度の予算要求において、中国の西安に出張駐在官事務所を設置することが認められ、開設に向けて準備中。新興国において日本人や日系企業に対する支援のニーズが引き続き増大している現状を踏まえ、新興国・資源産出国に優先的に総領事館若しくは出張駐在官事務所の新設を目指す。 |
3 | 今後3年から5年にかけて、いわゆる先進国から新興国を中心に約100名の人員を再配置することとしており、より効果的かつ効率的な人員配置を目指し、人的資源を再配置していく。 |
4 | 2011年度から2013度の3年間で在外公館事務所及び総領事公邸を対象に借料見直しを実施する計画を策定。借料減額、移転等を通じて借料の抑制に取り組んでいる。 |
5 | 外務省、経済産業省及び国土交通省において、独立行政法人の海外事務所の近接化、在外公館と同海外事務所の近接化に関する情報共有の方針を定め、情報共有を実施。また、「新成長戦略」に掲げられた「パッケージ型インフラ海外展開」に関しては、日本企業による受注獲得のため、現地におけるネットワーク強化、情報収集・集約を目的に、重点在外公館に「インフラプロジェクト専門官」を指名し、各国のインフラ関連情報の収集及び現地日系企業や商工会等との連絡・調整を強化している。 |
(億円) | |
1.新成長戦略実現のための取組 | 1,148.5 |
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①新成長戦略への取組(インフラ海外展開の基盤整備支援、日本の環境・エネルギー技術の海外展開支援) | 1,092.9 |
②EPA・FTA/広域経済連携、WTO関連 | 14.3 |
③原子力協力の推進 | 0.3 |
④ソフト・パワーを通じた成長機会の拡大 | 41.0 |
2.平和安全保障上の取組 | 887.0 |
①日米関係 | 4.3 |
②東アジア外交 | 39.2 |
③アフガニスタン支援 | 349.8 |
④核軍縮・不拡散 | 81.2 |
⑤平和構築/海賊・テロ対策 | 412.5 |
3.グローバル化の負の側面への対応 | 965.2 |
ミレニアム開発目標(MDGs)の達成/人間の安全保障の推進(アフリカ支援、保健/教育分野の支援等) | 965.2 |
1 庁舎が存在し、そこに専任の職員が配属されている公館。