2 欧州地域機関との協力

(1)北大西洋条約機構(NATO)との協力

NATOは第二次世界大戦後の東西対立激化を背景に発足し、加盟国の集団的防衛を主たる目的としている。NATOは冷戦後の安全保障環境が変容する中で、国際的な平和と安定のための取組として、アフガニスタン当局による治安維持の支援を任務とする国際治安支援部隊(ISAF)への参加や、ソマリア沖での海賊対策等をNATOの域外において行っている。こうした中、NATOは域外の協力国との関係強化を図っており、4月にベルリン(ドイツ)で開催された外相会合では、安全保障上の課題に関する政治的協議の強化等を主な内容とする新たな協力関係に関する政策を策定した。

日本とNATOは、基本的価値及び世界規模の安全保障上の課題の解決に向けた責任を共有する協力相手であり、政治的協議及び具体的な協力を着実に進展させている。

アフガニスタンでは、日本が草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じてNGO等を支援する枠組みにより、16の地方復興チーム(PRT)と連携し122の事業(2011年12月末現在)が実施されている。また、NATOのアフガニスタン国軍(ANA)支援信託基金を通じ、アフガニスタンの治安維持を担うアフガニスタン国軍の医療に関する活動も支援している。

そのほか、NATO平和のためのパートナーシップ(PfP)信託基金への拠出を通じ、グルジアにおける爆発物処理チームの教育・訓練プロジェクトを支援する等、NATOとの連携も深めている。日本は、グローバルな安全保障上の課題等において、NATOとの協力を一層強化していく考えである。

(2)欧州安全保障協力機構(OSCE)との協力

OSCEは、北米、欧州、中央アジアの56か国が加盟する世界最大の地域安全保障機構であり、日本は1992年から「協力のためのパートナー」として関与している。2011年には、マケドニア及びキルギスでの選挙監視ミッションに日本から要員を派遣し、引き続きOSCEの活動に対する人的貢献を行った。

(3)欧州評議会(CoE)との協力

CoEは、民主主義、人権、法の支配の分野で、国際社会の基準策定に重要な役割を果たす、47か国が加盟する欧州の地域国際機構である。日本は、アジアで唯一のオブザーバー国として、様々な会合に積極的に参加した。また、11月にストラスブール(フランス)で開催された「サイバー犯罪対策のための協力に関するオクトパス会議」に対する支援も行った。

欧州の主要な枠組み
欧州の主要な枠組み

 

COLUMN
東日本大震災 ~EU緊急援助チームの連絡要員として被災地へ~

震災の際、ほとんど全ての欧州各国が日本への支援を申し出、結果として、欧州5か国から救助チームを、19か国から物資支援を、その他多くの国々から資金支援を受け入れました。各国の救助・援助チームが被災地に向かう際、多くの場合、日本外務省から連絡要員が同行しました。日本側と各国チームとの間で情報共有や意思疎通を助け、現場で生じる種々のトラブルを臨機応変に解決していくため、各チームの出身地の事情に通じた日本政府職員が必要とされたのです。

私はEUの緊急援助チームに同行しました。欧州の19か国が物資支援を行いましたが、EUの緊急援助チームは、EU加盟9か国からの支援物資をとりまとめ、3月から4月にかけて、茨城、栃木、宮城各県に食料・寝具・放射線測定器を届け、測定器の使用方法の指導を行いました。支援提供側の「被災地の需要が分かれば、直ちに加盟各国に照会の上、提供可能な物資の量を回答する」との立場と、支援の受け手側の「各国が何を支援できるか分かれば、直ちに被災地に照会して希望する量を連絡する」との立場の間での調整に苦労しましたが、調整ができた順に支援物資がEU各国から発送されました。EU側からの全ての物資がそろうまで輸送を待つことはできなかったため、成田で物資を受け取っては現場に届けるという作業の連続になり、日帰りで仙台郊外まで往復した翌日は茨城県へ放射線測定器を届けて使用方法指導を行うなど、連日の移動となりました。

EUチーム隊員の多くは、通常は各国の消防署員やレスキュー隊員等です。栃木県で消防学校体育館に物資を届けた機会に、敷地内の防災館で地震・大雨・強風・煙の模擬体験設備や防災グッズの展示を視察した際には、皆本業の顔に戻っていました。ある隊員は私に対し、「日本の市民向け防災教育の水準の高さに驚いた。是非本国でも報告したい」と言いつつ、「これほど災害への備えのある日本でも今回の津波には堪えられなかったのか」と、改めて震災の深刻さを実感していました。

今後、日本とEUが防災及び災害対応の分野でも協力を強化していけることを望んでいます。

欧州連合日本政府代表部参事官 中條 一夫

(EU緊急援助チームの活動に、外務省連絡要員として同行)

《コラム》訪日中の欧州委員及びEU緊急援助チームに同行中の筆者(茨城県北茨城市)
訪日中の欧州委員及びEU緊急援助チームに同行中の筆者(茨城県北茨城市)
《コラム》現場の自衛隊員と共に物資搬入を行うEU緊急援助チーム(宮城県山元町)
現場の自衛隊員と共に物資搬入を行うEU緊急援助チーム(宮城県山元町)

注 ここでいう「欧州各国」とは、第2章第4節で対象としている国を指す。

 

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