日本は、中南米諸国との経済関係の強化、安定的な発展のための支援及び国際社会における協力を重視した外交を行っている。2011年3月に起きた東日本大震災に際しては、同月にはメキシコから救援チームが派遣されたほか、中南米諸国から多くの支援と日本に対する強い連帯の表明があった。
中南米地域は、世界経済における生産・輸出の拠点であるブラジルやメキシコなどの新興国を擁し、また、豊富な資源と食料の供給地であり、6億人弱の巨大な市場である。日本は中南米地域を有望な経済的パートナーとして重視し、官民一体となって様々な取組を行っている。日本政府としては日系企業のビジネス環境を整備するため、EPA、FTA、投資協定や租税協定等の法的枠組みの構築を促進している。2011年は日・ペルーEPA署名(5月)、日・バハマ租税協定締結(8月)、日・コロンビア投資協定署名(9月)、日・メキシコEPA改正議定書署名(9月)、日・コロンビアEPA共同研究開始(11月)と数多くの具体的進展があった。これらの協議に際し多数の要人往来もあり、貿易・投資の促進による経済関係の強化は、ビジネスチャンスを広げるとともに、経済関係だけでなく二国間関係全般の緊密化につながっている。
法的整備だけでなく、2月には松下忠洋経済産業副大臣を団長としてベネズエラに、また田嶋要経済産業大臣政務官を団長としてボリビアに、それぞれ官民経済使節団を派遣した。また、11月には、2010年に開催した第2回日・カリコム外相会議で採択された成果文書の履行状況を確認する事業の一環として、カリコム諸国における投資機会に関する情報を収集することなどを目的に、日本の民間企業と関係政府機関がジャマイカ及びトリニダード・トバゴを訪問した。各国政府も投資誘致イベントを日本で開くなど、日本の経済界に対し積極的に誘致活動を行っている。
日本は、中南米各国の政権が民主主義を堅持しながら、貧困や社会格差是正に向けた適切な努力を行い、安定的に経済成長を遂げることを重視しており、こうした取組を支援していく方針である。
このような観点から、特に教育、保健・医療等生活水準の向上、産業インフラ整備、各種研修や専門家派遣等の人材育成の分野などにおいてODAを通じた積極的な支援を行っている。また、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン及びチリそれぞれとの間で協力し、開発途上国を支援する、いわゆる三角協力を進めている。
中南米地域はハリケーン、地震、火山噴火等の自然災害に脆弱な地域であり、災害時には日本は、緊急援助物資の供与や緊急無償資金協力により、迅速に支援を実施することに努めている。2011年10月に中米地域において熱帯性低気圧による大雨被害が発生した際には、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアに対し緊急援助物資の支援を実施した。
また、国際社会の支援の下、大地震からの復興、治安の確保及び民主主義の定着に取り組んでいるハイチに対して、日本は2010年3月に表明した1億米ドルを超える支援を着実に実施してきており、引き続き保健・衛生、教育・人材育成、食料・農業分野を中心とした支援を行っている。また、自衛隊施設部隊を、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)に派遣中であり、国連及び現地政府から高く評価されている。
日本にとって、民主主義と市場経済の定着が進みつつある中南米諸国は、基本的な価値の共有を基盤として、国際社会の諸課題に具体的に協力して取り組んでいくことができるパートナーである。日本は二国間関係の強化だけでなく、アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)や中米統合機構(SICA)、カリブ共同体(CARICOM)、南米諸国連合(UNASUR)、南米南部共同市場(MERCOSUR:メルコスール)といった多国間交渉の場における連携強化を呼びかけている(二国間関係については、97ページの図を参照)。
2011年6月には、パラグアイで開催された第41回メルコスール首脳会合に松本外務大臣が日本の外務大臣として初めて出席し、演説の中で、日本とメルコスールとの間の経済関係緊密化の重要性を訴え、日・メルコスール経済対話の立ち上げを提案した。また、7月には日・中米「対話と協力」フォーラムを東京で実施した。8月には第5回FEALAC外相会合がアルゼンチンで行われ、日本から山花郁夫外務大臣政務官が出席し、アジアと中南米という世界経済の2大成長地域が協力する重要性を訴えるとともに、環境や防災面で日本が中南米諸国に対し協力を継続していくことを表明した。