5 大洋州

(1)オーストラリア

日本とオーストラリアは、共に米国の同盟国であり、基本的価値と戦略的利益を共有するアジア太平洋地域における戦略的パートナーである。近年、日豪間では貿易・投資関係のみならず、安全保障協力も急速に進展している。

2011年は、4月のギラード首相の来日や、国際会議の機会を捉えたハイレベルでの会談を通じ、両国の首脳及び閣僚レベルで活発に交流が行われ、両国の関係が更に強化された。

ア 東日本大震災における支援

東日本大震災においては、オーストラリアから緊急支援及び資金援助を含む温かい支援が寄せられた。オーストラリアは、緊急捜索・援助隊72名及び救助犬2匹を3月16日から19日まで宮城県南三陸町に派遣するとともに、同国空軍が保有する輸送機C-17全4機のうち出動可能な3機全てを日本に派遣し、自衛隊員及び水・食料等物資の輸送支援(41両の車両、135名の人員を含めて450トン以上の物資を輸送)や、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉冷却作業を支援するための特殊ポンプの日本への空輸を行った。また、オーストラリア政府から日本赤十字を通じて1,000万豪ドル(約8億円)の義援金が寄附されたほか、オーストラリアの各州政府からも多額の義援金が送られた。2011年4月には、公式実務賓客として来日したギラード首相が外国首脳として初めて被災地を訪問し、オーストラリアの緊急捜索・援助隊が派遣された南三陸町の避難所で被災者を激励した(詳細についてはコラム(29ページ)参照)。

南三陸町を訪問するギラード・オーストラリア首相(4月23日、宮城県)
南三陸町を訪問するギラード・オーストラリア首相(4月23日、宮城県)

イ 安全保障協力

日本とオーストラリアの間の安全保障協力は、安全保障協力に関する日豪共同宣言が発出された2007年から特に急速に発展してきている。PKOや国際緊急援助活動における自衛隊とオーストラリア軍の協力を促進する日豪物品・役務相互提供協定(ACSA)が2011年4月に国会で承認されるとともに、日豪政府間の秘密情報の保護に関する日豪情報保護協定についての交渉が進展している。さらに、自衛隊とオーストラリア軍は、2009年以来共同訓練(海上3回、空中1回)を実施するとともに、これまで日米豪及び数多くの多国間の共同訓練に共に参加している。また、2011年4月の日豪首脳会談で、両国首脳は、災害救援を含めた安全保障協力を深めるべく、次回の日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)で議論させることで一致した。

ウ 経済関係

日本とオーストラリアの経済関係は、主として日本が工業品を輸出し、オーストラリアから資源や農産物などを輸入するという相互補完的なものである。ギラード首相来日に際して発出された首脳共同ステートメント(声明)においては、オーストラリアから日本へのエネルギー・鉱物資源の安定供給の継続が保証された。また、日本からオーストラリアへの投資も、着実に増加している。こうした緊密な経済関係を一層強化するために、日本は2007年からオーストラリアとEPA交渉を開始した。2011年2月の東京での第12回交渉会合の後、東日本大震災の影響等でしばらく会合は開催されなかったが、11月の日豪首脳会談で会合を年内に行うことで一致し、12月に第13回交渉会合がオーストラリアにおいて行われた。また、両国は、世界貿易機関(WTO)などの多国間の枠組みを通じて緊密に協力しているほか、環太平洋戦略的経済連携(TPP)協定交渉についても意見交換を行っている。

エ 捕鯨関連

捕鯨問題は、良好な二国間関係において、両国の立場が大きく異なる唯一の問題である。捕鯨問題をめぐっては、2010年5月にオーストラリア政府が日本を国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、ICJにおいて裁判が続いている。

また、日本の調査捕鯨に対するシー・シェパードの妨害行為に関し、日本政府は、シー・シェパード船舶の旗国であるオーストラリア等関係国に対し再発防止に向け実効的な措置を講じるよう、日豪外相会談などの機会に要請している。

(2)ニュージーランド

日本とニュージーランドは、アジア太平洋地域の先進民主主義国の一員として基本的価値を共有しており、良好な二国間関係を維持している。

2011年、閣僚等の相互訪問の機会に、両国は、二国間関係に加え、気候変動、アフガニスタンや太平洋島嶼国における協力、TPP協定交渉など多岐にわたる問題について、意見交換を行った。

ア ニュージーランド南島地震

2011年2月、クライストチャーチ市近郊で発生した地震では、日本人28名を含む185名が犠牲になった。地震発生後、日本は迅速に国際緊急援助隊を派遣するとともに、ニュージーランド赤十字社に対して50万NZドル(約3,000万円)の緊急無償資金協力を行い、被災者の救助活動やニュージーランドへの協力を実施した。9月、太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話出席のためニュージーランドを訪問した山口壯外務副大臣は、クライストチャーチ市を訪問し、日本人が犠牲となったカンタベリーテレビ(CTV)ビルで献花を行った。また、マカリー外相との会談において、CTVビルの倒壊原因の徹底究明を求めた。

カンタベリーテレビビルで捜索活動を行う国際緊急援助隊(ニュージーランド・クライスト・チャーチ 写真提供:JICA)
カンタベリーテレビビルで捜索活動を行う国際緊急援助隊(ニュージーランド・クライスト・チャーチ 写真提供:JICA)

イ 東日本大震災における支援

東日本大震災においては、ニュージーランドは52名からなる救助隊を宮城県南三陸町に派遣した。中には、ニュージーランド南島地震を受けて救助活動を行っていたクライストチャーチから直接日本に向かった隊員もいた。また、ニュージーランド政府からは、日本赤十字社を通じて100万NZドル(約6,000万円)の義援金が送られた。

(3)太平洋島嶼国

太平洋島嶼国は、親日的な国が多く、国際社会での協力や水産資源の供給の面で、日本にとって重要なパートナーである。2011年には、2012年5月に開催予定の第6回太平洋・島サミットに向けて準備が進められたほか、前年に引き続いての様々な要人往来を通じ、日本と太平洋島嶼国の関係が一層強化された。

ア 第6回太平洋・島サミットに向けた準備

太平洋・島サミットは、日本と太平洋島嶼国との関係を強化し、同地域の発展に日本が共に取り組むために、1997年以降3年ごとに開催され、前回の第5回太平洋・島サミットは、2009年5月、北海道占冠(しむかっぷ)村トマムにて開催された。2010年10月には、初めての試みとして東京で中間閣僚会合を開催し、第5回太平洋・島サミットの成果の実施状況を確認するとともに、第6回太平洋・島サミットに向けた準備プロセスを開始した。

2011年には、5回にわたり有識者会合が開催され、海洋外交の展開、サミットへの米国の参加などを盛り込んだ提言報告書が玄葉外務大臣に提出された。

また、サミットに向けて、開催地である沖縄県マスコットである「イーサー君」を取り入れたサミットのロゴを作成するとともに、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズ・ダンスチーム「フラガール」を親善大使に任命した。

第6回太平洋・島サミットロゴマーク
第6回太平洋・島サミットロゴマーク
第6回太平洋島サミット親善大使「フラガール」へ委嘱状の交付を行う玄葉外務大臣(右から3番目)(10月19日、東京)
第6回太平洋島サミット親善大使「フラガール」へ委嘱状の交付を行う玄葉外務大臣(右から3番目)(10月19日、東京)

イ 東日本大震災における支援

東日本大震災に際し、経済規模の大きくない太平洋島嶼国からも支援が寄せられた。パプアニューギニアから1,000万キナ(約3億2,000万円)、トンガから20万パアンガ(約900万円)、サモアから10万米ドル(約800万円)、ミクロネシア連邦から10万米ドル(約800万円)、キリバスから5万オーストラリア・ドル(約425万円)、そしてツバルから1万8,000オーストラリア・ドル(約150万円)の義援金が贈られた。

また、フィジーから、フィジー国立大学に10名、現地高校に10名の被災学生の受入れが表明されたほか、14の太平洋島嶼国・地域全てに加え、地域機関であるPIF事務局からお見舞いの書簡が送られた。

ウ 二国間関係

(ア)クック諸島の国家承認

2011年3月25日、日本はクック諸島を193か国目の国家として承認した。6月には、プナ・クック諸島首相が外務省賓客として来日し、菅総理大臣と会談を行ったほか、松本外務大臣と書簡を交換し、日・クック外交関係が開設された。

(イ)要人往来

2月、菊田外務大臣政務官がパプアニューギニア及びソロモン諸島を訪問した。パプアニューギニアでは、ポリエ外相及びデュマ石油エネルギー相と会談し、LNGプロジェクトなどのエネルギー問題等について意見交換を行った。その後、ポリエ外相は4月に来日し、松本外務大臣との外相会談を行い、日・パプアニューギニア投資協定に署名した。また、ソロモン諸島では、マエランガ副首相及びシャネル外相との間でニッケル探鉱プロジェクトの実施に向けたソロモン諸島政府の支援を要請するとともに、ソロモン平和慰霊公苑(えん)での献花、ガダルカナル・アメリカン・メモリアルでの記帳を行った。

エ 日・PIF関係

2011年9月、ニュージーランド・オークランドにおいて、太平洋諸島フォーラム(PIF)総会の直後に開催された第22回PIF域外国対話1には、日本から山口外務副大臣が参加し、太平洋島嶼国・地域が抱える諸問題について協議が行われた。山口外務副大臣は、プナ・クック諸島首相、モリ・ミクロネシア大統領及びフィリップ・ソロモン首相といった島嶼国の代表と会談するとともに、域外国対話に参加したナイズ米国国務副長官、キャンベル米国国務次官補、崔天凱(さいてんがい)中国外交部副部長などとの間で二国間会談を行い、太平洋島嶼地域情勢等に関する意見交換を行った。

オ フィジー情勢

日本は、非民主的な政権が続き、PIFや英連邦から参加資格を停止されているフィジーと対話を継続し、民主制復帰を促すことを重視している。2011年にも、来日したナイラティカウ・フィジー大統領を菊田外務大臣政務官が表敬するなど、粘り強い対話を通じ民主化復帰を働きかけた。これに対し、フィジー側は、2014年までに総選挙を実施すると表明した。また、2012年1月、バイニマラマ・フィジー首相は、緊急事態令解除を発表した。日本は、外務報道官談話でこの措置を歓迎した。

1 PIF域外国対話:PIFの前身の南太平洋フォーラム(SPF)(2000年10月から太平洋諸島フォーラム(PIF)に名称を変更)が、1989年以来援助国を中心とする域外国との間で毎年実施しているものであり、日本は第1回対話から継続してハイレベル代表団を派遣している。

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