世界経済は緩やかな回復基調にあるものの、依然として下方リスクが存在している。2010年前半に顕在化したソブリン・リスクを受けて、6月のG20トロント・サミットでは、財政健全化と成長の両立の重要性を確認し、先進国は財政健全化計画に合意した。また、各国の成長が一様でなく、世界経済の不均衡の問題が残る中、11月のG20ソウル・サミットでは、持続的成長に向けた政策協調の深化に合意した。こうした中で、経済・金融危機の克服のため、日本は、先進国と新興国の協力の深化に貢献した。
また、2010年、日本はアジア太平洋経済協力(APEC)の議長を務めた。11月には第18回APEC首脳会議を横浜で開催し、首脳宣言として「横浜ビジョン~ボゴール、そしてボゴールを超えて」を採択した。また、2011年にAPEC議長を務める米国と連携し、具体的な協力を行った(2010年日本APECの成果の詳細は本章各論1「2010日本APEC開催」に記載)。
国際情勢の流動化や、人口減少、少子・高齢化、財政赤字など、日本の内外の経済環境が厳しさを増す中で、日本の経済を強くするための経済外交を積極的に推進していく必要がある。具体的には、経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)、資源・エネルギー・食料、インフラ海外展開、観光及びジャパン・ブランドの発信における取組を積極的に推進していく。こうした経済外交の各分野の進捗状況を総括し、一層の進展に向けた具体的な議論を行うために、12月、前原外務大臣を本部長とする経済外交推進本部を設置した。
2010年11月、日本は、「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定した。その中で、「国を開き」、「未来を拓(ひら)く」ための固い決意を固め、これまでの姿勢から大きく踏み込み、世界の主要貿易国との間で、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルの経済連携を進め、同時に、高いレベルの経済連携に必要となる競争力強化などの抜本的な国内改革を先行的に推進することを定めた。
各国とのEPAについては、2010年10月にインドと、11月にペルーとのEPAの交渉完了が首脳間で宣言され、オーストラリアなどと交渉中のEPAも着実な前進に努めた。交渉再開を目指している韓国とは、5月の首脳会談を踏まえ再開に向けたハイレベルの事前協議を行い、また、欧州連合(EU)との間では、2010年4月の日・EU定期首脳協議によって立ち上げられた「合同ハイレベル・グループ(JHLG)」の中で「共同検討作業」を行い、早期の交渉開始に向けて取り組んだ。また、2010年、新たに日・モンゴルEPA官民共同研究、日中韓FTA産官学共同研究を開始した。
広域経済連携については、東アジア自由貿易圏(EAFTA)構想、東アジア包括的経済連携(CEPEA)構想の議論に、日本が引き続き積極的に貢献した。また、2010年11月のAPEC首脳宣言では、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けて具体的措置をとることで一致した。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、「包括的経済連携に関する基本方針」において情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始することとされたことを受け、出張者や在外公館を通じた情報収集や協議を開始した。
日本は、国民生活の基盤となるエネルギー、鉱物、食料などの資源の多くを輸入に依存しており、これらの資源の安定供給の確保は経済外交の柱の一つである。新興国の台頭や気候変動対策への取組などの新たな動きの中で、世界全体の責任ある資源開発や利用に向けた国際協調を進め、同時に日本への長期的な資源の安定供給を確保していくことが必要である。こうした観点から、日本は国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国連食糧農業機関(FAO)などの国際機関の運営に積極的に参画している他、独自のイニシアティブとして、「責任ある農業投資」(RAI)を実現するための行動原則の策定に主導的な役割を果たしている。また、鉱物資源については、資源・エネルギーの日本への安定供給確保のための官民連携による取組強化に加え、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)に積極的に貢献している。
さらに、日本は、国民にとって貴重な食料である水産資源についても、その持続可能な利用という立場から、国際的な漁業資源の保存及び管理のための体制構築及び違法漁船の廃絶など、有効な保存管理措置の徹底に向け、精力的に貢献している。また、近年関心が高まっている環境保護の観点からも、日本は、責任ある漁業国として、国際機関の枠組みや他国との協力関係に基づき、これまでの漁業分野における経験と技術を生かし、各地域漁業管理機関などにおいて水産資源の持続可能な利用の確保のために積極的な役割を果たしている。
アジアを始めとする世界各国でインフラ需要が増大する中、日本企業が持つ優れた環境・省エネルギー技術などを海外に展開することで日本の経済成長につなげていくため、政府として民間企業の取組を強力に後押しし、官民連携による協力体制で臨む必要がある。このような観点から、2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」に基づき、政府一体となった取組が進んでいる。この流れの中で、外務省は、重点国の大使館、総領事館においてインフラプロジェクト専門官を指名するなど、在外公館の拠点としての機能を強化し、民間企業の取組を支援する体制整備を進めている。
観光分野についても、日本経済を強くする観点から、訪日外国人の増加に向け、在外公館における広報文化活動を含め、積極的な取組を推進していく考えである。
ジャパン・ブランドの発信については、世界に誇れる「人づくり」、「技術力」、「文化」に象徴される「ジャパン・ブランド(日本の魅力)」を海外へ発信し、日本と世界の成長につなげていくことを目指すこととする。
貿易・投資の自由化推進は、日本経済はもとより世界経済の持続的成長のためにも不可欠である。貿易分野では、保護主義の抑止とともに、国際貿易に法的安定性と予見可能性をもたらす世界貿易機関(WTO)体制の整備・強化が引き続き重要な課題となっている。特に、世界貿易の持続的拡大にはWTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結が重要であり、日本としても積極的に取り組んでいる。2010年11月のAPEC閣僚・首脳会議においては、世界各国の首脳・閣僚が、2011年を交渉妥結にとって重要な「機会の窓」としつつ、交渉の加速化について認識を共有した。また、保護主義の抑止については、G20サミット(於:トロント、ソウル)やAPEC閣僚・首脳会議などの一連の会議において、新たな輸出制限を課さないことなどについての首脳による現状維持を、2013年末まで再延長することで一致した。
日本は、模倣品・海賊版が世界中に拡散し、世界経済の持続可能な成長に対する脅威となっていることを踏まえ、二国間・多国間で知的財産権保護の強化のための様々な取組を行っている。日本は、多国間における取組である模倣した物品の取引の防止に関する協定ACTA(仮称)交渉を積極的に推進し、2010年10月に開催された東京会合において大筋合意し、その後交渉妥結に至った。
その他、経済外交を支える国際経済分野の法的枠組みとして投資協定などがある。また、社会保障協定は、二国間の社会保険料の二重負担や掛け捨ての問題などを解消することを目的としている。こうした経済条約や協定の締結を推進し、法的・制度的基盤を整備することは、海外に進出する日本企業の活動を支援する観点から重要である(詳細は第4章第2節2「海外における日本企業への支援」を参照)。