2 中国・モンゴルなど

(1)中国

ア 日中関係

(ア)首脳間の対話

〈核セキュリティ・サミットにおける日中首脳会談〉
(4月12日、於:ワシントン(米国))

鳩山由紀夫総理大臣は、核セキュリティ・サミットに出席するために訪問中のワシントンにおいて、胡錦濤(こきんとう)中国国家主席と会談を行った。両首脳は、首脳間の往来が緊密に行われていることを評価するとともに、首脳往来を通じて日中の「戦略的互恵関係」を更に充実させていくことで一致した。また、鳩山総理大臣から、東アジアでの共同体構築や協力について、日中が中核となって努力していきたい旨述べるとともに、東シナ海資源開発問題について国際約束締結交渉を早期に開始するよう求めた。また、食の安全、北朝鮮問題、気候変動問題などについても意見交換を行った。

〈温家宝(おんかほう)中国国務院総理来日〉
(5月30日~6月1日、於:東京)

鳩山総理大臣は、日本を公式訪問中の温家宝中国国務院総理と会談を行った。両首脳は「戦略的互恵関係」を進展させること、今後、ホットラインを活用して緊密に意思疎通を行っていくことで一致した。また、双方は、東シナ海資源開発に関する国際約束締結交渉の早期開始、日中捜索・救難協定の早期締結や防衛当局間の海上連絡メカニズムの早期創設について一致した。その他、両国間の人的・文化的交流の促進、経済・貿易関係の協力の拡大、韓国哨戒艦沈没事件などについて意見交換を行った。

〈G20サミットにおける日中首脳会談〉
(6月27日、於:トロント(カナダ))

菅総理大臣は、G20サミットに出席するために訪問中のトロント(カナダ)において、胡錦濤中国国家主席との間で総理大臣就任後初となる会談を行った。会談では、菅総理大臣が「戦略的互恵関係」の内容を深めていきたい旨述べたのに対し、胡錦濤国家主席からはハイレベルでの意思疎通と連携の強化や経済貿易協力の強化、国際及び地域の問題での協力の強化などの提案があった。また、食の安全や東シナ海資源開発、中国での労働争議などの日中間の諸課題に加え、国際経済、軍縮・不拡散、気候変動といった分野での協力、韓国哨戒艦沈没事件を含む北朝鮮問題についても意見交換を行った。

菅総理大臣(左)と胡錦濤(こきんとう)中国国家主席との日中首脳会談(6月27日、カナダ・トロント 写真提供:内閣広報室)
菅総理大臣(左)と胡錦濤(こきんとう)中国国家主席との日中首脳会談(6月27日、カナダ・トロント 写真提供:内閣広報室)
〈ASEM首脳会合における日中首脳間の懇談〉
(10月4日、於:ブリュッセル(ベルギー))

菅総理大臣は、ASEM首脳会合に出席するため訪問中のブリュッセル(ベルギー)において、温家宝中国国務院総理と懇談を行った。懇談において菅総理大臣は、9月に尖閣(せんかく)諸島周辺領海内で発生した中国漁船による日本巡視船への衝突事件を踏まえ、尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権を巡る問題は存在しないとの原則的立場を述べた。両首脳は、日中関係の現状は望ましいものではなく、「戦略的互恵関係」を推進していくこと、また、ハイレベルや民間レベルの交流を推進していくことで一致した。

〈ASEAN関連首脳会議における日中首脳間の懇談〉
(10月30日、於:ハノイ(ベトナム))

菅総理大臣は、ASEAN関連首脳会議に出席するために訪問中のハノイ(ベトナム)において、温家宝中国国務院総理と懇談を行った。両首脳は、二国間の首脳会談が行われなかったのはとても残念であるとの認識を共有し、ブリュッセルでの首脳間での懇談で一致したとおり、民間交流を復活させていくことを改めて確認した。また、今後とも「戦略的互恵関係」を推進していくことで一致し、今後、ゆっくり話す機会を作ることを申し合わせた。

〈APEC首脳会議における日中首脳会談〉
(11月13日、於:横浜)

菅総理大臣は、APEC首脳会議が開催された横浜において、胡錦濤中国国家主席と会談を行った。菅総理大臣は尖閣諸島に関する日本の立場を述べ、胡錦濤国家主席も中国側の立場について説明した。両首脳は、長期的に安定した「戦略的互恵関係」の発展は、両国国民の利益に合致するとともに、地域・世界の平和と発展にとっても重要であり、政府間・民間分野の交流・協力を促進し、経済分野を含む地球規模の課題での協力を強化していくことで一致した。

(イ)尖閣諸島周辺領海内での中国漁船による日本巡視船に対する衝突事件

2010年9月7日、尖閣諸島周辺の日本領海内において、中国トロール漁船「閩晋漁(みんしんりょう)5179」が海上保安庁の巡視船「よなくに」及び「みずき」に衝突する事件が発生した。石垣海上保安部は当該漁船の船長を公務執行妨害の容疑で逮捕し、同月9日に那覇地方検察庁に送致、同月10日、石垣簡易裁判所が同船長の勾留を決定した。その後、同月13日、同船長を除く14名の乗組員は帰国し、同月24 日、那覇地方検察庁は同船長を釈放することを発表、翌25日、同船長は帰国した。

この過程において、日本側から、①中国漁船による違法操業事案及び衝突事件の発生に対する抗議及び遺憾の意、②船員及び船体については厳正に国内法に基づき粛々と対処する旨の説明、③中国公船の尖閣諸島周辺海域への派遣に対する抗議、④東シナ海資源開発に関する国際約束締結交渉の「延期」の一方的な発表への抗議、⑤中国側の冷静かつ慎重な対応の要請、の5点を中国側に強く申し入れた。

その後、11月の横浜APECにおける日中首脳会談(「ア 首脳間の対話」の項参照)を経て、日中関係は改善の軌道に戻りつつある。2011年1月に伴野外務副大臣が訪中した他、日中戦略対話(2月)の実施など、各種政府間対話を順次実施している。その一方で、同事件を契機とした両国の国民感情の悪化を踏まえ、その改善に向けた取組が急務となっている。

2010年の主な日中政府間対話
1月

アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)第4回外相会合の際の日中外相会談(於:東京)

2月

日中犯罪人引渡条約締結交渉第1回会合(於:東京)

第13回日中科学技術協力委員会(於:北京)

3月

王毅(おうき)国務院台湾事務弁公室主任来日(於:東京)

4月

菅副総理大臣兼財務大臣訪中(於:北京)

核セキュリティ・サミットの際の日中首脳会談(於:ワシントン(米国))

第9回日中環境保護合同委員会(於:東京)

仙谷由人総理大臣特使(国家戦略担当大臣)及び福山外務副大臣訪中(於:上海)

5月

第1回日中海上捜索・救助(SAR)協定作成交渉(於:北京)

日中韓外相会議の際の日中外相会談(於:慶州(キョンジュ)(韓国))

温家宝中国国務院総理来日(於:東京)

6月

鳩山総理大臣特使訪中(於:上海)

日中首脳電話会談

日中受刑者移送条約締結交渉第1回会合(於:東京)

G20サミットの際の日中首脳会談(於:トロント(カナダ))

7月

日中民間緑化協力委員会第11回会合(於:北京)

第8回日中経済パートナーシップ協議(於:北京)

第2回日中海上捜索・救助(SAR)協定作成交渉(於:東京)

第6回日中人権対話(於:北京、雲南)

ASEAN関連外相会議の際の日中外相会談(於:ハノイ(ベトナム))

第2回防衛当局間の海上連絡メカニズムに関する共同作業グループ協議(於:東京)

第1回東シナ海資源開発に関する国際約束締結交渉(於:東京)

8月

前原国土交通大臣訪中(於:北京、杭州、湖州)

第3回日中ハイレベル経済対話(於:北京)

第3回日中ハイレベル経済対話の際の日中外相会談(於:北京)

10月

ASEM首脳会合の際の日中首脳間の懇談(於:ブリュッセル(ベルギー))

ASEAN関連外相会議の際の日中外相会談(於:ハノイ(ベトナム))

ASEAN関連首脳会議の際の日中首脳間の懇談(於:ハノイ(ベトナム))

11月

APEC首脳会議の際の日中首脳会談(於:横浜)

APEC首脳会議の際の日中外相会談(於:横浜)

日中外相電話会談

12月

日中国連協議(於:北京)

(ウ)活発な人的交流と相互理解の深化

a 日中間の人的交流の現状

日本と中国の人的交流は、2010年は延べ約514万人(訪日者数延べ約141万人、訪中者数延べ約373万人)で、訪日者は約40万人増加し、訪中者は約41万人増加した。2010年7月からは、観光分野における日中間の人的交流促進のため、中国人への個人観光査証(ビザ)の発給が中国全土で開始された。

b 日中青少年交流

2010年は、2009年を上回る5,000人規模の日中青少年の相互訪問を実施することとなった。とりわけ2,000人以上の中国高校生を招へいして、日本の一般家庭でのホームステイなどの交流を行った他、日本高校生の中国訪問も実施した。また、大学生、教員、行政、経済、農業、学術、文化芸術、メディア、科学技術、少数民族、医療・衛生、環境・省エネルギーの各界・分野で活躍する日中の青年代表団の招へい・派遣事業は、各種交流、視察を通じて、相手国に対する理解を深めるとともに、今後の日中間の協力などについて議論する機会を提供した。

5月の温家宝中国国務院総理と鳩山総理大臣との首脳会談における成果を踏まえ、10月末には、菊田真紀子外務大臣政務官を団長とする日本青年上海万博訪問団が訪中した。日本各地から参加した大学生を中心とする青年約700人が、上海国際博覧会(上海万博)を視察するとともに、中国の大学生らと交流し、力強く発展する上海の現状を視察する機会となった。

また、2010年からは、中国の次世代幹部、若手メディア、若手研究者など計700人規模の招へい事業が新たに開始された。中国の次世代を担う青年が、「環境・省エネ」、「高齢化社会と福祉」、「気候変動問題」などそれぞれ明確なテーマの下で、日本の企業、大学、シンクタンクなどを訪問し、講演や意見交換を通じて、各分野における日本の最新の現状や取組などについて学んだ。また、今後の日中の協力の可能性などについて率直な議論が行われた。このような交流事業の継続的な実施により、日中の青少年間の相互理解が深まり、更に安定した日中関係の土台が強化されることが期待される。

日中高校生交流の様子(5月21日、和歌山 写真提供:日中友好会館)
日中高校生交流の様子(5月21日、和歌山 写真提供:日中友好会館)
c 各分野における交流
(a)安全保障分野での交流

日中両国は、「戦略的互恵関係」を推進していくためにも、今後とも持続的かつ安定した防衛交流を通じ、相互理解と相互信頼の一層の強化に努力していくことで一致している。2010年2月には陸上幕僚長が訪中し、7月には防衛当局間の海上連絡メカニズムに関する第2回共同作業グループ協議が東京において開催された。2011年1月には、第12回日中安保対話が北京において開催された。

(b)人権対話

2009年に引き続き、2010年7月に第6回日中人権対話を開催した。同対話では、表現の自由、司法改革や少数民族に関する施策など、人権分野における双方の最近の取組や、国連人権理事会などにおける課題や協力などにつき意見交換を行った。

(c)日中歴史共同研究

戦後60年を含めた2,000年余りの日中交流史について、両国の有識者間で忌憚(たん)のない議論を重ね、歴史に対する客観的認識を深め、相互理解を増進することを目的に、2006年12月の第1回全体会合以降議論を進め、2009年12月の第4回全体会合において、それまでの共同研究の総括を行い、第1期の歴史共同研究は終了した。その後、2010年1月に、両国委員による自国語で書かれた論文を、また、9月に翻訳版論文を各々発表した。なお、2008年5月の胡錦濤中国国家主席来日時に、両国首脳は歴史共同研究の果たす役割を高く評価し、今後も継続していくことで一致している。

(d)新日中友好21世紀委員会

日中友好21世紀委員会は、21世紀における日中関係を一層発展させていくため、日中双方の有識者が、政治、文化、科学技術などの幅広い分野に関して議論し、両国政府首脳に提言・報告を行う委員会であり、1984年以来、約5年ごとに委員を入れ替えて実施されてきた(2003年から名称を新日中友好21世紀委員会に変更)。2009年11月に発足した新しいメンバーによる委員会(日本側座長は西室泰三東芝相談役、中国側座長は唐家璇(とうかせん)前国務委員)は、2010年2月に中国(北京及び揚州)で第1回会合を、10月末から11月初めにかけて日本(東京及び新潟)で第2回会合をそれぞれ開催し、幅広い観点から日中関係の現状を検討し、両国関係の一層の改善のために様々な角度から議論が行われた。

第2回会合に臨む新日中友好21世紀委員会メンバー(11月1日、新潟)
第2回会合に臨む新日中友好21世紀委員会メンバー(11月1日、新潟)

イ 日中経済関係の進展

日中間の貿易・投資などの経済関係は、大きく発展している。2010年の香港を除く日中貿易額は、約26兆5,000億円となり、4年連続で日米貿易額を上回った。また、中国側統計によると、2010年の日本からの対中直接投資は42億米ドルとなっている。

8月には、北京において、第3回日中ハイレベル経済対話が開催され、日本側からは、岡田外務大臣、中国側からは、王岐山(おうきざん)国務院副総理を議長として双方の関係閣僚が参加し、世界経済の回復への対応・日中二国間の互恵協力及び国際社会及び地域における協力とその課題について意見交換を行った。

ウ 個別の分野における事案

(ア)東シナ海資源開発問題

日中両政府は、2008年6月18日、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするとの首脳間における共通認識を具体化する第一歩として、双方の法的立場を損なわないことを前提に、①東シナ海の北部における共同開発、②白樺(しらかば)(中国名:「春暁(しゅんぎょう)」)の現有の油ガス田における開発への日本法人の参加を主な内容とする日中両国間の合意を発表した。2010年7月には同合意実施のための第1回国際約束締結交渉が東京において開催され、双方は本交渉の早期の妥結を目指すことで一致したが、その後、9月に中国外交部は第2回交渉の「延期」を一方的に発表した。今後、交渉の早期再開に向け、引き続き中国側と意思疎通を図っていく必要がある。

(イ)食の安全

中国製食品の安全性は日本国民の生命と健康に関わる重大な問題であることから、5月末、温家宝中国国務院総理が来日した際、両国首脳の立会いの下、厚生労働省と中国の質量監督検験検疫総局との間で、閣僚級会議を1年に1度開催すること、食品などの安全に関する情報交換の実施及び食品の安全に関する行動計画の策定などを含む「日中食品安全イニシアチブ」の覚書に署名した。2007年に発生した中国製冷凍ギョウザ事件については、2010年3月、中国当局は、被疑者の身柄を拘束し、その後4月に同被疑者を危険物質投入罪の疑いで逮捕し、8月に同被疑者を起訴した。

(ウ)レアアースの輸出制限問題

中国政府が7月に発表したレアアースの輸出割当て削減や、9月以降に対日輸出が停滞した問題については、政府として、あらゆる機会を捉え、中国側に対して改善を求めた。

(エ)遺棄化学兵器問題30

日本は、化学兵器禁止条約(CWC)の義務を履行するため、政府全体として遺棄化学兵器の廃棄事業に取り組んでいる。10月、江蘇(こうそ)省南京市において、移動式処理設備による最初の廃棄事業が開始された。吉林(きつりん)省ハルバ嶺地区31を含む中国各地の遺棄化学兵器についても、早期に廃棄を開始するため、準備が進められている。

エ 中国情勢

(ア)内政

3月の第11期全国人民代表大会第3回会議における政府活動報告は、2010年を「引き続き経済・金融危機に対処し、安定した比較的速い経済成長を保ち、経済発展パターンの転換を速める上で肝心な年」と位置付け、「直面する情勢は極めて複雑である」との認識を示した上で、①経済のマクロコントロール、②経済発展パターンの転換、③都市と農村のバランスのとれた発展、④科学教育による国家振興、⑤文化建設、⑥民生の保障と改善、⑦改革の推進と対外開放の拡大、⑧サービス型政府の構築の8分野に重点的に取り組むとの姿勢を示した。

5月から10月にかけて開催された上海万博は、「より良い都市、より良い生活」をテーマに、史上最多となる246の国及び国際組織による出展となり、7,308万人の来場者を集めた。

10月の第17期中央委員会第5会議(五中全会)では、2011年から実施される第12次五カ年計画に関する党中央の提案が議論された。また、習近平(しゅうきんぺい)中国国家副主席が党中央軍事委員会副主席に就任し、2012年秋の第18回党大会で交代が予定される次期最高指導者の最有力候補としての地位を固めた。

12月には中国の人権・民主活動家の劉暁波(りゅうぎょうは)氏がノーベル平和賞を受賞した。中国政府は受賞に強い反発を示し、国家政権転覆扇動罪で服役中の劉氏は授賞式に出席できなかった。

(イ)外交

中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの基本認識の下、引き続き全方位外交を展開している。

一方で、2010年の中国外交は、世界第2位の経済規模を擁するに至った中国が担うべき国際的な責任をめぐり、米国を中心とする先進諸国と中国との主張の隔たりや、中国の主張する「核心的利益」などをめぐり、米国、欧州諸国、韓国、ASEAN諸国などとの間に種々の摩擦を生んだ。

そのうち、米中関係は、1月の米国による対台湾武器売却発表、2月のオバマ米国大統領とダライ・ラマ14世との会談などを契機に冷却化した。その後、4月のワシントンにおける核セキュリティ・サミットへの胡錦濤中国国家主席の出席や、5月の北京における第2回米中戦略・経済対話の開催、米国財務省による中国の為替操作国認定の先送りなど、米中両国に関係改善を模索する動きが見られた。しかし、7月にハノイ(ベトナム)で開催されたARF関係会合の席上では南シナ海問題をめぐり、再び主張の食い違いが表面化した。

(ウ)軍事・安全保障

中国は、海空戦力・戦略ミサイルを中心に軍事力の近代化を進めている。また、2010年の国防予算は、前年執行額比7.5%の伸び(2010年公表値)にとどまったものの、国防費は2009年まで21年連続で10%以上の伸びを示しており、その細部の内訳や軍事力の近代化について不透明な部分があることが指摘されている。2年に一度の国防白書の発表などは一定の評価はできるが、日本を含む地域・国際社会の懸念を払拭するに足るものではない。日本はハイレベルの往来及び対話の場を含む様々な機会を捉え、より一層の透明性向上を中国に対して求めている。

(エ)経済

2010年の中国のGDP(名目額)は、39兆7,983億元、実質GDP成長率は前年比10.3%増となった(中国国家統計局発表)。経済・金融危機後、中国政府が継続して積極的な財政支出と金融緩和を行い、固定資産投資を中心に内需が堅調に拡大したことから、中国政府の年間目標(前年比8%前後の成長)が達成された。また、景気拡大に伴う輸入の増加により、貿易黒字は前年比6.4%減の1,831億米ドルとなったものの、外貨準備は2兆8,473億米ドルと過去最高を更新している。

 

日中貿易額
日中貿易額
中国の経済発展
中国の経済発展
日本の対中直接投資額
日本の対中直接投資額

(2)台湾

2010年も、両岸間では頻繁な接触が行われ、経済分野を中心に様々な進展が見られた。特に、「両岸経済協力枠組取決め(ECFA)」を巡っては、当初台湾内部では野党を中心に一部の間で慎重論が根強く、デモの発生や議会の混乱なども見られた。しかし、6月に両岸実務協議窓口機関の間(中国:海峡両岸関係協会、台湾:海峡交流基金会)で開催された第5回トップ会談(於:重慶)において署名がなされ、一部の物品とサービスにつき、早期実施(アーリーハーベスト)として自由化約束などが規定された他、物品、サービス、投資及び紛争処理の各分野につき、発効後6か月以内に交渉を開始することが確認された。

台湾内部では、11月に台北、高雄及び新たに直轄市に昇格した新北、台中、台南の合計5つの直轄市において市長選が行われ、与野党ともに当初の市長職数を維持した。経済面では、経済・金融危機以降台湾経済は低迷が続いたものの、2010年に入り輸出、民間投資が大幅に回復したことなどから、当局発表(速報値)では、2010年の成長率は1987年以来最高の10.82%となった。

日本との関係については、1972年の日中共同声明に従い、非政府間の実務関係として維持されている。日本にとって台湾は緊密な経済関係を有する重要な地域であり、第4位の貿易相手である。4月には財団法人交流協会と亜東関係協会との間で「2010年における日台双方の交流と協力の強化に関する覚書」が署名され、10月には羽田-松山(台湾)間の航空路線が開設された。また、2010年の日本から台湾への訪問者数は約108万人、台湾から日本への訪問者数は約127万人となった。

 

(3)モンゴル

2009年10月に就任したバトボルド首相は、鉱物資源開発の推進を重点施策とし、世界最大規模で、良質な原料炭を含むタバン・トルゴイ炭田開発や、新規鉄道敷設などの資源開発関連インフラ整備に関する基本方針を策定した。その一方で、モンゴルの豊富な鉱物資源の共同開発を巡る各国の思惑が交錯する中、モンゴルとの結びつきを強化しつつある中国・ロシアとの等距離外交維持に腐心しつつ、日本や欧米諸国など「第三の隣国」と規定する諸国との連携を強化するべく、積極的な経済外交を展開した。

世界同時不況のあおりを受け、2009年にマイナス成長となったモンゴル経済は、日本を含む支援国・国際機関の財政支援などの協力が効果的に実施されたことに加え、国内の鉱物資源開発の活性化や、鉱物資源相場の上昇などの要因により回復基調にあり、2010年の経済成長率は6.1%のプラス成長となった(速報値)。タバン・トルゴイ炭田開発については、日本を含む各国の企業が多大な関心を示す中、モンゴル政府が開発業者の選定などの具体的なプロセスを進めており、2011年前半にかけての動向が注目されている。

二国間関係では、11月に、エルベグドルジ大統領が公式実務訪問賓客として来日し、これまで「総合的パートナーシップ」の下で発展してきた両国関係を、今後、①ハイレベル対話促進、②経済関係の促進、③人的交流・文化交流の活性化、④地域・地球規模の課題への取組での連携強化の4つを柱とする「戦略的パートナーシップ」の構築に向けて発展させていくことで一致した。日本は、対モンゴル最大援助国として、モンゴルの民主化・市場経済化及び持続的発展を一貫して支持してきており、モンゴル民主化20周年の節目となる2010年に、二国間関係を互恵的かつ相互補完的な経済関係の推進を含む「戦略的パートナーシップ」の構築に向けた関係へと発展させていくことで一致したことは、両国関係の新時代の幕を開ける大きな成果となった。

2010年は、同大統領来日の他、8月には日本の外務大臣として6年ぶりとなる岡田外務大臣のモンゴル訪問、10月のバトボルド首相の非公式来日、国際会議などの機会を利用して、首脳会談及び外相会談をそれぞれ3回実施するなど、これまでになく頻繁にハイレベル対話を重ね、積極的な意思疎通を図った。また、差し迫った課題である両国経済関係の促進に資するべく、EPAの交渉開始に向けた官民共同研究を開始し、日本・モンゴル双方の産・官・学関係者の出席の下2回の会合が行われ、上記のプロセスの着実な進展が見られた。

「戦略的パートナーシップ」構築に向けた日本・モンゴル共同声明に署名する菅総理大臣(右)とエルベグドルジ・モンゴル大統領(11月19日、東京 写真提供:内閣広報室)
「戦略的パートナーシップ」構築に向けた日本・モンゴル共同声明に署名する菅総理大臣(右)とエルベグドルジ・モンゴル大統領(11月19日、東京 写真提供:内閣広報室)
日本の民間企業との懇談会に臨む菅総理大臣(右)とバトボルド・モンゴル首相(10月2日、東京 写真提供:内閣広報室)
日本の民間企業との懇談会に臨む菅総理大臣(右)とバトボルド・モンゴル首相(10月2日、東京 写真提供:内閣広報室)
外相会談に臨む前原外務大臣(左)とザンダンシャタル・モンゴル外交・貿易相(11月16日、東京)
外相会談に臨む前原外務大臣(左)とザンダンシャタル・モンゴル外交・貿易相(11月16日、東京)

30 中国国内で遺棄された旧日本軍の化学兵器の処理問題。1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づき、日本は遺棄化学兵器廃棄のために、全ての必要な資金、技術、専門家、施設その他の資源を提供し、中国はこれに対し適切な協力を行うことになった。日中両国は、1999年に署名された「中国における日本の遺棄化学兵器の廃棄に関する覚書」を踏まえ、同遺棄化学兵器廃棄のため、現地調査や発掘・回収作業を共同で実施するとともに、専門的・技術的な諸事項について、両国の政府関係者や専門家が協議を重ねてきている。

31 遺棄化学兵器は、北は黒龍江省から南は広東省まで広い範囲で存在が確認されているが、吉林省敦化(とんか)市ハルバ嶺地区には30万~40万発が埋められていると推定されている。なお、中国国内の各地でこれまでに約4万7,000発の遺棄化学兵器が発掘・回収されている。

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