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第2章 地域別に見た外交

第1節 アジア・大洋州

総論

アジア・大洋州地域は、日本にとって、経済・政治の両面で重要性を増している。経済面では、中国・インドといったアジアの新興国は、経済・金融危機後の2009年に6.9%、2010年に9.4%(国際通貨基金(IMF)予測値)1という高い成長率を実現し、「世界の成長センター」として世界経済を牽(けん)引している。また、世界の国内総生産(GDP)シェアにおけるG8の割合が2009年までの10年間で68%から53%へと減少する一方、アジアを中心とする新興国(G8及びEU以外のG20メンバー国)の割合が15%から28%へと拡大するといった経済的な比重の高まりを背景に、アジアを始め新興国は政治的影響力を増し、世界のパワーバランスは、米国を始めとする先進国を中心とする構造から、新興国を含む多極化構造へと変化している。

しかし、アジア・大洋州地域は、このように急速に発展する一方で、不安定かつ不確実な要素もはらんでいる。北朝鮮による核・ミサイル開発問題などが大きな懸念材料になっている他、資源の争奪などを背景とした緊張関係や各国が自国の利益のみを追求する傾向も見られる。特に2010年は、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることが明確となった1年であった。

豊かで安定し、開かれたアジア・大洋州地域の実現は、日本の平和、安定及び繁栄にとって不可欠である。この目的に向け、日本は、戦後一貫してアジア・大洋州地域の安定と繁栄に不可欠な共有財産として役割を果たしてきた、日米同盟を一層深化・発展させていく。また、近隣国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリア、インドなどのパートナー国との二国間関係を発展させていくとともに、地域諸国間の協力の枠組み強化に積極的に貢献する。同時に、この地域が安定と成長を維持していくために、貿易、海洋を始めとする国際社会の共通ルールを各国が相互に遵守し、行動の透明性・予見可能性を高めることが重要との考えの下、米国や関係国と連携し、地域諸国が協力するために必要なルールを共有・発展させていく。また、引き続き、新成長戦略の下、積極的な経済外交を展開し、アジアとともに成長することを目指す方針である。

韓国は、民主主義などの基本的価値を共有する、日本にとって最も重要な隣国である。2010年は、日韓併合条約締結から100年という節目の年であり、8月には、日本は、内閣総理大臣談話を発表した。日本は、未来志向の日韓関係を更に強化すべく、今後とも努力していく。

朝鮮半島においては、3月の韓国哨(しょう)戒艦沈没事件、11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件といった北朝鮮による挑発行為に加え、ウラン濃縮計画も明らかとなった北朝鮮による核開発に対し、重大な懸念が生じている。これに対し、日本は、米国、韓国を始めとする関係国と連携し、北朝鮮が六者会合共同声明や国連安全保障理事会(安保理)決議に従って、非核化などに向けた具体的な行動をとるよう強く求めており、今後もこれを継続していく方針である。また、拉致問題については、日本は北朝鮮に対し、2008年8月の日朝実務者協議において合意された拉致問題に関する全面的な調査を開始するよう繰り返し要求している。今後とも、拉致問題を含む諸懸案の包括的解決に向け、関係国と緊密に連携していく方針である。

中国との間では、9月に発生した尖閣(せんかく)諸島周辺領海内での中国漁船衝突事件をきっかけに緊張が高まったが、11月の横浜アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議における首脳・外相会談を経て、両国関係は再び改善しつつある。中国とは、世界第二、第三の経済大国として、「戦略的互恵関係」を深めていくとともに、両国間に存在する様々な課題の解決に向け、大局的観点から努力していく必要がある。一方、中国の透明性を欠いた国防力の強化や、海洋活動の活発化は懸念事項であり、中国が国際社会の責任ある一員として、より一層の透明性をもって適切な役割を果たすよう求めていく。

モンゴルとの間では、新たな共通外交目標である「戦略的パートナーシップ」の構築を目指し、経済関係の促進などを通じた関係強化に努めていく。

アジア・大洋州地域における安全保障環境が不安定化しつつある中で、この地域における米国のプレゼンスは依然として重要である。米国は、2011年から東アジア首脳会議(EAS)に正式参加するなど、オバマ政権の下でアジア・大洋州地域への関与を強めており、日本は、日米同盟を堅持し、更なる深化・発展に努めることによって、アジア・大洋州地域の平和と繁栄の確保に努めている。

また、アジア・大洋州地域において、民主主義などの基本的価値を共有する韓国、オーストラリア、インドなどの国々や、ASEANとの連携を強化することが重要である。さらに、日米韓、日米豪などの枠組みを活用し、地域情勢や国際情勢に関し緊密に連携していく方針である。

日本は、ASEANの対話国として、ASEAN諸国との間で長い友好関係の歴史を有している。日本としては、統合の進むASEANが地域協力の中心となることは、日本とASEAN、更には、東アジア全体の安定と繁栄にとって重要であるとの考えの下、地域協力における日・ASEAN関係を重要視し、協力を推進していくとともに、ASEAN各国との二国間関係の強化に努めている。

オーストラリアとニュージーランドは、アジア・大洋州地域において民主主義や人権といった基本的価値を共有する重要な国々である。とりわけ、オーストラリアと日本は、経済を中心とした二国間関係によって地域の繁栄に貢献している。さらに、両国は米国の同盟国として実質的な協力関係を構築し、国際社会の平和と安定のために取り組む戦略的パートナーシップを強化している。日豪両国は、5月の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で採択された行動計画を着実に実施するため、9月に核軍縮・不拡散に関する外相会合を共催し、地域横断的なグループを新たに立ち上げるなど、これら分野で主導的な役割を果たしている。他にも、日本はオーストラリア及びニュージーランドと、気候変動問題に関して、国際交渉の場で緊密に協力して取り組んでいる。

日本にとって重要なパートナーである太平洋島嶼(しょ)国については、「イコール・パートナーシップ」に基づく継続的な支援を実施している。また、気候変動問題への取組について、国際的な枠組みの構築という目的に向かい、日本は太平洋島嶼国との協力を一層推進していく必要がある。

南アジア地域は、高い経済発展を遂げるインドを始め、近年存在感を高めており、日本は重要度を増す同地域との政治・経済面での関係強化を進めている。特にインドとは、安全保障や経済など幅広い分野での「戦略的グローバル・パートナーシップ」を強化・発展させることを目指している。また、南アジア地域、ひいては国際社会全体の平和と安定のために、テロ対策の重要国であるパキスタンへの支援を引き続き行っていく方針である。

地域諸国が共有するルールを作り、地域共通の課題に対処するに際しては、二国間関係だけでなく、EAS、ASEAN+3、日中韓協力など、東アジアにおける地域協力の枠組みや、APEC、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア欧州会合(ASEM)といった域外国が広く参加する枠組みを積極的に活用していく。

また、地域協力の枠組みは、地域に存在するインフラ不足、環境問題、災害、格差是正などの共通の課題を解決する際にも重要な役割を果たす。2010年は、様々な地域枠組みにおいて進展があり、日本も積極的に貢献した。

10月に開催された第17回ASEAN首脳会議では、域内の格差是正及び域内統合の促進を目的として「ASEAN連結性マスタープラン」を採択した。日本としても、第13回日・ASEAN首脳会議において、連結性へのオールジャパンでの支援の姿勢を表明するとともに、日・ASEAN関係を規定する新たな「宣言」と行動計画の策定作業の開始につき一致した。

10月に開催された第2回日本・メコン地域諸国首脳会議では、メコン地域における連結性向上に向けたハード及びソフト両面の整備の重要性、さらには、環境・気候変動分野における協力の重要性が確認された。

ASEANの連結性強化の観点からは、メコン開発と同様、ビンプ・東ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)やインドネシア・マレーシア・タイ三角成長地帯(IMT-GT)といった東南アジア諸国による地域間格差是正の取組に着目することも重要である。日本は、具体的な協力分野に関する対話を継続することで、きめ細かな支援の実現に努めている。

10月に行われた第5回EASでは、2011年からの米国及びロシアのEASへの正式参加が決定された。本会議において菅総理大臣が指摘したように、EASが従来の経済分野の取組を発展させつつ、政治・安全保障分野での取組も一層強化されることが期待される。

日中韓協力に関しては、5月の第3回日中韓サミットにおいて、今後10年間の協力の方向性を示す「日中韓協力ビジョン2020」を採択した。また、12月には、日中韓協力事務局設立協定に署名した。2011年の第4回日中韓サミットでは日本が議長国を務める予定であり、貿易・投資、環境、大学間交流などの分野での協力を主導的に推進していく。

加えて、2010年、日本はAPECの議長を務めた。11月に横浜で開催した第18回APEC首脳会議では、アジア太平洋地域の更なる成長と繁栄に向けた将来像について議論を行い、首脳宣言として「横浜ビジョン~ボゴール、そしてボゴールを超えて」を採択した。

アジア・大洋州地域の安定・繁栄を実現するための基盤として、民主主義は重要な要素である。2008年以降、インドネシアが開催国となりバリ民主主義フォーラムが行われている。地域における民主主義の普及に向けた画期的な取組として、日本はこれを支持・支援してきており、今後もこれを継続する方針である。12月に開催された第3回閣僚会合には前原外務大臣が出席し、「多様性の中の民主主義~アジアの特徴を力にして~」と題し、アジアにおける民主主義と日本の取組についての政策演説を行った。

以上のように、東アジアにはASEANを中心に、地域協力の枠組みが複数存在し、地域協力が進展している。日本は、「東アジア共同体構想」を長期的ビジョンとして掲げ、関係国と協力して、既存の枠組みを活用しながら、開放的で透明性の高い地域協力を一歩一歩推進する考えである。

アジア・大洋州諸国においては、高い経済成長が達成される一方、インフラ不足、環境問題、災害、格差是正などの地域共通の課題が存在する。

今後、人口減少、少子・高齢化、財政赤字などの国内問題が山積している中で、日本が発展し、成長を遂げていくには、成長著しいアジアと共に平和・安定・繁栄を目指していくことが必要である。日本は、その実現のために「経済外交」を展開していく(詳細は第3章第3節を参照)。今後も、日本が有する資金・技術・知恵・経験を活用し、インフラの未整備などの地域課題の解決を行い、官民一体となってアジアの発展のために積極的に貢献するとともに、アジアの活力・需要を日本の成長につなげていく方針である。

1 出典:IMF “World Economic Outlook”

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