
原子力安全に関するIAEA閣僚会議
(概要)
平成23年6月24日
外務省
経済産業省
6月20~24日、オーストリア(ウィーン)の国際原子力機関(IAEA)において、「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」が開催され、我が国から海江田経済産業大臣、山花外務大臣政務官、中根ウィーン代大使、大澤同大使、広瀬内閣府参与、宮川軍科部長、中村原子力安全・保安院審議官他が出席したところ、概要とりまとめ以下のとおり。
【ポイント】
- 東京電力福島第一原子力発電所事故の状況と我が国の対処につき、我が方代表団から国際社会に対して包括的に説明することができ、IAEAを中心として行われる今後の原子力安全に対する国際的な取組の基礎を提供することができた。
- 我が方から海江田経済産業大臣及び山花外務大臣政務官が出席して発言し、今回の事故の当事国として求められている役割を果たすことができた。
- 参加国は、原子力安全の強化の必要性、IAEAの中心的役割について一致。他方、原子力安全関連条約の改正の是非、IAEA安全基準の義務化の是非、すべての既設発電炉の過酷条件下の点検(いわゆるストレステスト)とIAEA安全評価ミッションによるチェックの義務化の是非といった論点については意見が分かれた。
- 今次閣僚会議の成果物(閣僚宣言、作業セッションの議長サマリー)を踏まえ、IAEA事務局長が報告及び行動計画を作成し、9月のIAEA理事会及び同総会に提示される。右行動計画が同総会でエンドースされることで、IAEAによる具体的な活動が開始される見通し。
【本文】
1 趣旨・日程概要
本件会議は、3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所における事故を受け、天野IAEA事務局長の提案により、(1)原発事故の予備的な評価を行うこと、(2)原発事故を踏まえ、緊急事態に係る準備及び対応につき評価を行うこと、(3)国際的な原子力安全の枠組みに関し見直しを行うべき分野を特定すること、(4)教訓及びあり得べき今後の行動について特定することを目的として行われたもの。本件会議にはすべてのIAEA加盟国が招待され、30カ国以上の閣僚、1,000名以上の代表団が参加した。日程概要は以下のとおり。
- 20~21日
- 全体会合(午前に海江田経済産業大臣ステートメントを実施)
- 20~21日
-
作業セッション1(非公開)
「東京電力福島原子力発電所事故に関する暫定的な専門家の評価」
(冒頭に山花外務大臣政務官挨拶を実施)
- 21~22日
- 作業セッション2(同上)「緊急事態に係る準備及び対応」
- 22~23日
-
作業セッション3(同上)
「世界の原子力安全枠組みの強化に向けたあり得べき道筋」
- 24日
- 総括セッション(議長サマリーの提示)
2 全体会合(議長:ゲレイロ伯在ウィーン国際機関代表部大使)
各国の代表が演説を実施。ほぼすべての国及び国際機関が我が国に対する弔意、連帯及び共感を表明した上で、原子力安全の強化の必要性、IAEAの中心的役割、IAEA安全基準の強化・適用の重要性に言及した。
-
(1)我が国からは、20日午前、海江田経済産業大臣が第一番の発言者として、概要以下の内容のステートメント(和文・英文)を行った。
- ア.各国に対して支援に対する感謝を表明するとともに、IAEAに提出した報告書に基づき、事故の経緯と対応、プラントの現状、事故から得られた教訓について説明。
- イ.我が国の対応について、原子炉の冷却、放射性物質の拡散抑止、厳格なモニタリング、既に全ての原子力発電所において緊急安全対策を講じ、運転の継続や再起動に安全上の支障がないと判断している旨を説明。
- ウ.下記の5つの提案を行っていることを改めて紹介。
- (ア)IAEA安全基準の強化及び活用の促進
- (イ)IAEA安全評価ミッションの拡充
- (ウ)原子力事故時の支援に関するIAEA登録制度の拡充
- (エ)原子力安全当局間の連携強化の促進
- (オ)原子力安全関連条約の強化
(なお、その後行われた内外記者会見において海江田大臣から、貿易に関して、日本は開かれており、これまでどおりに日本との貿易や渡航を行うよう呼びかけた。)
-
(2)また天野IAEA事務局長は、演説の中で、以下の5点の具体的提案を行った上で、来年後半にIAEAと共に国際会議を開催するとの日本の提案を歓迎すること、来年末までに今後執るべき措置を具体的に決めていきたいことなどを発言した。
- ア.IAEA安全基準の強化と普遍的適用の促進
- イ.追加的なIAEA安全評価ミッションの派遣
- ウ.規制当局の独立と適切な人材及び財政的手当の確保
- エ.世界全体での事故時の緊急時対応の強化
- オ.IAEAによる分析を含む情報共有の強化、INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)の改善。
-
(3)20日夕刻、以下を内容とする閣僚宣言(英語原文(PDF)

・和文仮訳)が採択された。
- 日本に対する同情及び連帯を表明。国際社会による日本支援継続の決意を強調。
- 原子力を実行可能な選択肢と見なす国があり、また、原子力を利用せず、又は段階的に廃止する国もある。
- 原子力事故の発生時における科学的知見に基づく適切な対応及び完全な透明性の重要性を強調。
- 原子力安全を確保する上では原子力発電計画を有する国家が中心的な役割を担う。
- IAEAの安全基準は、継続的に見直され、強化され及び可能な限り広範かつ効果的に実施されるべき。
- 原子力安全に関し、政府間機関と非政府組織との間の緊密な協力を奨励。
- 原子力事故等に関し、IAEAは適時かつ正確な情報をより一層提供できるべき。
- 日本及びIAEA調査団による原発事故の初期的評価を含む報告書を歓迎。
- 福島第一原発事故に関する包括的かつ完全な透明性を有する評価を日本及びIAEAから受領し、国際社会が教訓を引き出しかつIAEA安全基準の見直しを含む行動をとることの必要性を強調。
- IAEAの安全評価ミッション等の利点を強調。
- 既存の原発の安全性に係る包括的評価を、透明性をもって実施するよう奨励。
- 国内規制当局の効果的な独立性の確保等にコミット。
- 関連国際条約の普遍的遵守の重要性を再確認。強化の可能性を検討する。
- 国内外の関係諸機関間の協力の必要性を強調。キャパビルや当局間協力を通じた緊急時対応の強化の必要性を強調し、IAEAの役割の強化を要請。
- 原発新規導入国のキャパシティ・ビルディング促進の必要性を強調。
- 一つの国際的な原子力損害賠償制度の必要性を認識。
- IAEA事務局長に対し、報告書と行動計画案を作成し、理事会・総会に提出するよう要請。
- (4)我が国がG8ドーヴィル・サミットにおいて提案した、来年後半の我が国における原子力安全に関する国際会議については、カナダ、インドネシア、ラテンアメリカカリブ海諸国グループ(GRULAC)、スリランカ、カメルーンから支持又は歓迎の意が表明された。
【注】本件会議に先立って行われたIAEA6月理事会でも既にEU、ペルー、シンガポール、韓国、モンゴル、米国、カナダ、豪州、チリ、ケニア、ウクライナ、インドネシア、マレーシアが歓迎の意を表明している。
3 作業セッション
(1)第1作業セッション「東京電力福島原子力発電所事故に関する暫定的な専門家の評価」(議長:ウェイトマン英主席原子力施設検査官(IAEA調査団長))
- ア.冒頭、山花外務大臣政務官から、(ア)各国からの支援と連帯に対する謝意を表する、(イ)我が国は、事故を徹底的に検証し、得られる情報と教訓を最大限の透明性をもって国際社会と共有していく責務を有する、(ウ)IAEA調査団長も務めたウェイトマン議長(英主席原子力施設検査官)の献身とリーダーシップに敬意と謝意を表する旨の挨拶を行った。
- イ.続いて広瀬内閣府参与から、本件閣僚会議に対する我が国政府報告書の内容を、またウェイトマン議長(IAEA調査団長)から、本件閣僚会議に対する同調査団報告書の内容をそれぞれ説明。その後質疑応答が行われ、津波の想定が過小評価されていた理由、各号機の現状と対処、炉心溶融に至った経緯、水素爆発、事象のシークエンス、避難の状況、海水の注入、事業者の責任、規制当局の独立性、国民とのコミュニケーションのあり方といった論点についてやりとりが交わされ、広瀬参与から、のべ27カ国から寄せられた質問に丁寧に答えた。
(2)第2作業セッション「緊急事態に係る準備と対応」(議長:デラ・ロサ比原子力研究所長)
広瀬内閣府参与がパネリストとしてパネル2に参加し、緊急時対応についてのプレゼンテーションを行った。IAEAの国際緊急センターの活動が評価されるとともに、IAEAの役割の拡大への期待が各国から表明された。放射線による影響や気象データのタイムリーな提供、公衆とのコミュニケーションにおける国際機関の役割等につき意見交換が行われた。
(3)第3作業セッション「世界の原子力安全枠組みの強化に向けたあり得べき道筋」(議長:メザーブ国際原子力安全諮問グループ(INSAG。IAEA事務局長の諮問機関)議長))
事故を受けて今後とるべき措置についてのブレインストーミングが行われ、原子力安全の向上に向けて努力するとの方向性が共有されていることが明らかとなった。原子力安全を確保する主体と役割(事業者、規制当局、IAEAその他国際機関、国際組織、NGO等)、規制当局の独立性、原子力安全関連条約の見直しの可能性、IAEA安全基準の改善と厳格な適用、IAEA安全評価ミッションの拡充と結果の透明性確保・フォローアップの必要性といった論点について意見交換が行われた。宮川軍縮不拡散・科学部長から、原子力安全を国際的に強化するための我が国の5提案の内容を説明するとともに、我が国が実施している緊急安全対策について紹介するステートメントを行った。
4 総括セッション(議長:ゲレイロ伯在ウィーン国際機関代表部大使)
上記2及び3において表明された考えや立場を踏まえ、ポイント以下のとおりの議長サマリー(英語原文 PDF)
が提示され、今後、閣僚宣言(上記2(3))及び右サマリーを参考に、天野事務局長が報告書及び行動計画案を作成し、来る本年9月のIAEA理事会及び同総会に提示することが確認され、会議は閉幕した。
- IAEAは、全ての関連分野の安全基準をレビューし強化することを奨励された。
- 全ての加盟国はIAEA安全基準を適用するとの強固なコミットメントを行うよう奨励された。
- 加盟国は、2012年の原子力安全条約の特別会合で安全性レビューの結果及び教訓への対応につき報告することを強く奨励された。
- 全ての加盟国が、全ての原発の安全性を体系的にレビューすることが重要。
- IAEAのいくつかの安全評価ミッションを原発保有国及び導入国に義務づけることを検討することが示唆された。
- 信頼性が高く、有能かつ独立した規制当局は、原子力安全の不可欠な要素。
- 国際原子力事故評価尺度(INES)のレビューと改善が必要。
- IAEAは、原子力事故の際の「事実調査ミッション」を制度化することが奨励された。
- 日本は、事故の評価と教訓を引き続きオープンに共有することを奨励された。
- 当局、事業者、技術支援機関の間の協力が強化されるべき旨が留意された。
- 国際的緊急事態への準備・対応の枠組みのための法的文書の強化の方法を検討すべきである。
- 放射能の影響や対応のIAEAによる分析能力を強化し、右を加盟国と共有する役割を拡大すべきである。
- 緊急時対応ネットワーク(RANET)を強化し、右ガイドラインを改善すべきである。
- 原子力計画を有する加盟国が10年ごとに規制の効果に関するピア・レビューを受けることが提案された。IAEAが3年間で10基に1基の割合で国際的な安全レビューを行うことが示唆された。
5 二国間会談(20~21日)
- (1)海江田経済産業大臣は、20日、天野IAEA事務局長及びポネマン米エネルギー省副長官とそれぞれ個別に会談した(いずれも山花外務大臣政務官同席)。また海江田大臣はモリゼ・フランス環境・持続可能な開発・運輸・住宅大臣とも会談。
- ア.天野事務局長は、震災後の日本の対応はとり得る最善の措置であり、日本の緊急安全対策は日本の原子力安全向上に貢献する、来年後半のIAEAと協力した国際会議の開催を支持する旨述べた。
- イ.ポネマン副長官は、日米同盟の上からも今後も支援を継続する、引き続き緊密に協力してほしい、原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)発効に向けて日本の協力をお願いしたい旨発言。
- ウ.モリゼ大臣は、原子力発電は引き続き有力な選択肢であり、原子力安全に関する高度な国際基準作りを進めたい、日本のエネルギー政策がどのような方向に向かうかに大きな関心を有している旨発言。
- (2)山花政務官は、20~21日、以下の二国間会談を行った。
- ア.ヒューン英気候変動エネルギー大臣との間では、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を踏まえた、気候変動における取組について意見交換した。
- イ.トゥーカーン・ヨルダン・エネルギー鉱物大臣は、日本の原子力発電所の安全性に対する信頼はむしろ高まったとして、日ヨルダン原子力協力への期待が表明された。
- ウ.ピライ・マレーシア外務副大臣との間では、今回の事故を受けた日本の対マレーシアの日本産品輸入関連措置の問題等について意見交換した。
- エ.ティエン・ベトナム科学技術副大臣からは、日ベトナム原子力協力への期待が表明された。
- (3)なお宮川軍科部長は、本件会議を円滑に進めるため、インドネシア、米国、韓国、フランス、英国の政府関係者と個別に協議を行った。
6 評価
- (1)東京電力福島第一原子力発電所事故の状況と我が国の対処につき、我が方代表団から国際社会に対して包括的に説明することができ、IAEAを中心として行われる今後の原子力安全に対する国際的な取組の基礎を提供することができた。
- (2)我が方から海江田経済産業大臣及び山花外務大臣政務官が出席して発言し、今回の事故の当事国として求められている役割を果たすことができた。
- (3)参加国は、原子力安全の強化の必要性、IAEAの中心的役割については一致。原子力安全関連条約の改正の是非、IAEA安全基準の義務化の是非、すべての既設発電炉の過酷条件下での点検(いわゆるストレステスト)やIAEA安全評価ミッションによるチェックの義務化の是非といった論点については意見が分かれた。
Adobe Systemsのウェブサイトより、Acrobatで作成されたPDFファイルを読むためのAcrobat Readerを無料でダウンロードすることができます。左記ボタンをクリックして、Adobe Systemsのウェブサイトからご使用のコンピュータに対応したソフトウェアを入手してください。