軍縮・不拡散

原子力安全に関する国際原子力機関(IAEA)閣僚会議
海江田万里経済産業大臣ステートメント

2011年6月20日
ウィーン

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 議長、事務局長、ご列席の皆様、本日は本会議に出席し、日本を襲った大災害の詳細や日本政府による現在の対応、過去数ヶ月に我々が得た教訓についてご説明する機会を与えられたことに、先ず御礼申し上げます。3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波及びそれに伴う原子力発電所の事故は、日本に多大な被害をもたらしました。このような苦難に対し、世界中から様々なレベルでご支援や連帯の表明をいただきました。日本を代表し、心から感謝申し上げます。

 IAEAには、震災後直ちに専門家を派遣いただき、5月下旬には事故調査団も訪日され、つぶさに原子力発電所の事故を調査されたことに、感謝いたします。我が国は今後も今回の事故の経験や教訓をIAEAをはじめ国際社会と積極的に共有していく決意であることを申し上げます。

 今回の地震は、マグニチュード9.0という我が国観測史上最大の地震で、それに伴い各地で10メートルを超える津波が観測されており、東日本に大きな被害をもたらしました。犠牲者は、死亡者、行方不明者を合わせて約2万5千人となっておりますが、その大半が津波によるものと推定されております。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、自然災害と原子力事故が相次いで発生したこと、複数の原子炉事故が同時進行したこと、そして事故が長期にわたり継続していること、の3つの点で未だかつてどの国も経験したことのないものです。

 この事故の状況を国際社会に正確かつ迅速に伝達すること、そしてそこから得られる教訓を、国際社会と共有していくことは我が国の責務です。このため、我が国は事故の状況の暫定的な評価等をとりまとめ、事故から得られた教訓を記した報告書を今回のIAEA閣僚会議に提出いたしました。本日はこれをベースにお話しいたします。

 地震発生当時、東京電力福島第一原子力発電所では、地震の発生により6つの原子炉のうち運転中の3つの原子炉が自動的に停止しました。また外部からの電源供給が止まりましたが、非常用ディーゼル発電機が稼働しました。

 しかし、地震発生の約40分後には最初の大きな津波が東京電力福島第一原子力発電所を襲いました。津波の浸水高は14メートルから15メートルに達し、6号機の一基を除き非常用ディーゼル発電機が水没して使えなくなるとともに、冷却用の海水ポンプの全てが機能を停止しました。

 津波の後も、蒸気駆動の冷却系統はしばらくの間機能し、原子炉水位を維持したものの、電源が復旧しない中で、やがて停止しました。この過程で、1号機から3号機について、原子炉圧力容器への注水ができない事態が一定時間継続したため、核燃料は水位の低下により露出し、炉心の溶融に至りました。1号機から4号機まで、水素が原因と思われる爆発が発生し、また、建屋上部のオペレーションフロアにあった使用済燃料プールへの給水と冷却も困難となりました。これら全てが地震発生後1週間足らずに発生しました。

 我々は、事故の収束に向けて、次の4つの主要課題に引き続き取り組みます。第一に原子炉を冷却すること、第二に放射性物質の大気中、海中への拡散を抑止すること、第三に厳格かつ集中的な監視を行うこと、第四に食品、工業製品、そして現場の労働者の安全を確保することです。

 4月17日には事故の収束に向けた道筋を事業者が公表し、その中で原子炉の冷温停止に至るまでの作業プロセスや放射性物質の放出抑制の方針が示され、作業が進められています。政府はこの方針を支持し、厳格な安全上の確認を行います。

 今後の進捗については、まだ不確実性も残りますが、我々は国際社会に対し、可能な限り速やかに、あらゆる情報を提供してまいります。

 将来的には、損傷した炉心の取り出しやその処理・処分、放射性物質で汚染された地域の浄化、また、長期的な放射線影響に関する疫学調査などの中長期課題について、我が国は、世界各国・国際機関の専門家の協力を得て、取り組んでまいります。

 住民避難に関しては、東京電力福島第一発電所から20km圏内の合計約8万人の避難を完了しております。政府は避難者の一日も早い帰宅を実現すべくモニタリングの実施や環境の浄化などに全力を挙げてまいります。

 今回の事故から徹底的に教訓を汲み取り、原子力に関係する人々が共有することが重要です。

 教訓の第一は、シビアアクシデントの防止策に関するものです。津波については、十分な高さと発生頻度を考慮し、重要な安全機能を維持できるようにすることが必要です。また、電源について共通の原因による故障を回避する観点から、複数の異なった冷却方式を導入した上で、非常用電源や電源車を複数配備することを通じて電源の多様化を図ることなどが、極めて重要です。

 第二は、シビアアクシデントへの対応に関する教訓です。高温下での水と金属の反応による水素の発生は脅威であり、水素爆発の防止対策が必要です。中央制御室の放射線遮へい、通信手段、照明などの確保の重要性も、我が国は今回の事故で学びました。

 第三は、原子力災害への対応に関する教訓です。大規模な自然災害と原子力事故が同時に発生した場合を想定した体制を整備することが必要です。住民や自治体とのコミュニケーションを強化しなければなりません。原子力事故の長期化を想定した準備も必要です。また、国際協力が有効であり、国際的な情報共有の体制を強化することが必要です。

 第四は、原子力安全確保の基盤強化に関する教訓です。原子力安全の責任の所在を明確にし、大規模事故に迅速に対応する観点から、原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全規制や環境モニタリングの実施体制の見直しの検討に着手することとしました。日本はIAEAの安全基準の強化にも最大限貢献してまいります。人材の育成・確保等が重要であることは言うまでもありません。

 第五は、安全文化に関する教訓です。IAEAで示された原則を想起し、原子力安全の確保には深層防護の追求が不可欠との原点に立ち戻り、安全文化を醸成しなければなりません。

 我が国は今回の事故を受け、3月30日に、津波を原因とするシビアアクシデントを避けるための緊急安全対策をとるよう、全ての原子力発電所に指示しました。5月には、東京電力福島第一、第二原子力発電所を除く全ての発電所について、この対策が適切に実施されていることを確認しました。

 6月7日には水素爆発対策など直ちに取り組むべき措置の実施を指示しました。

 高い確率で発生することが予想される想定東海地震とそれに伴う大規模な津波の影響を受ける中部電力浜岡原子力発電所以外の原子力発電所については、これらの措置を講じたことにより、運転中のものは運転継続を、検査のため停止中のものは起動して安全上支障ないことを政府として判断しております。

 我が国は、原子力について、事故の徹底的な検証を踏まえ、最高水準の安全性を確保するため抜本的対策を講じ、安全確保を大前提として、今後の原子力政策の進め方について検討してまいります。

 また、我が国は、シビアアクシデントへの対策などの安全技術に関する研究開発を国際的な共同研究プロジェクトとして提案してまいります。

 さらに、世界の原子力発電の安全を最高水準に高めるためのIAEAを中心とした作業を円滑化する観点から、我が国は、IAEA安全基準の強化・活用の促進、IAEAの安全評価ミッションの拡充、原子力事故時の支援に関するIAEAの登録制度の拡充、原子力安全規制当局間の連携強化の促進、原子力安全関連条約の強化を提案します。

 我が国は、先日「事故調査・検証委員会」を立ち上げました。外国人専門家の意見をいただき、その結論は全て公開されます。また、来年後半には、我が国において、原子力安全に関する国際会議をIAEAと協力して開催いたします。この会議によって、我が国は、今回の閣僚会議の議論や、事故の検証作業から得られる知見に基づき、今後IAEAを中心として行われる原子力安全に係る取組に最大限貢献したいと考えています。

 今回の事故の収束に向けて、引き続き、様々な面で世界各国から支援していただいていることを大変感謝し、心強く思っております。事故の収束には多大な困難が伴いますが、世界の英知を結集して、必ずこの事故を乗り越えることができると確信しています。

 ご静聴ありがとうございます。

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