世界貿易機関(WTO)

令和2年10月22日

 「新しい生活様式」もすっかり定着し、読者の皆様の企業や組織でも、日々の会議が、オンライン化したのではないだろうか。
 今回は、改革を進めるWTOにおける日々の会合の様子を垣間見たい。
 多くの国際機関では、その加盟国本国から常駐で派遣された大使が集い、物事が決められている。分かり易い例で言えば、ニュースでもよく聞く国連総会や安保理などがあるだろう。WTOの場合は、原則2年に一度の最高意思決定会議である、「閣僚会議」が一番重くて偉い。閣僚会議は新型コロナにより、今年6月の日程から延期を余儀なくされたが、WTOには35もの常設の会合と、約30の暫定的に設置される会合があり(2020年10月時点)、コロナ期間中も改革の議論に余念がない。これらの会合も会議場への物理的な出席とオンライン参加の混合方式がすっかり定着してきた。

(写真)山﨑在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使の発言時の様子 (写真は10月13、14日の一般理事会にオンライン参加した山﨑在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使の発言時の様子。画面左上には会議場に陣取る一般理議長のウォーカー・ニュージーランド大使。)

 今回は、35ある常設会合の中から、「一般理事会」、「紛争解決機関(DSB)」、「貿易政策検討機関(TPRB)」、「貿易交渉委員会(TNC)」の4つを紹介したい。
 まず、一般理事会。閣僚会議は原則として2年に一度しか開催されないため、閣僚会議の間の期間は、一般理事会がWTOの最高意思決定会合となる。およそ2か月に一度、だいたい2日間びっしり終日、通常ならば、WTOの最も大きな会議場に各国の常駐代表や出張者が集う。今は写真のように混合形式だ。(1)WTO協定の解釈、(2)WTO協定上の義務の免除、(3)WTO協定の改正、(4)加盟の承認、(5)事務局長の任命、(6)事務局職員の雇用条件の決定、を行う権限が付与されている。
 一般理事会は、実はこのほかに2つの別の顔を持っている。それが、「紛争解決機関(DSB)」と「貿易政策検討機関(TPRB)」である。WTO設立協定第4条では、一般理事会はDSBとTPRBとしての任務を果たすため、「適当な場合に」会合を行うことが認められている。議長も一般理事会議長(ニュージーランドのウォーカー大使)とは別の顔で、それぞれ、DSBはホンジュラスのカスティーヨ大使、TBRBはアイスランドのアスペランド大使が議長を務める。
 DSBは、WTOの他の機関と異なり、ネガティブコンセンサス方式、すなわち全加盟国が反対しない限り、紛争を処理するパネル(小委員会)の設置や、パネル等の判断に関する報告書を採択することができる。TPRBは加盟国間で互いの貿易政策の透明性を確保し、理解を深めるための貿易政策検討会合(連載第16回:「3年に一度の大行事?対日貿易政策検討(TPR)会合」を参照ください。)をとり行う。いずれもWTOにとって欠かせない会合だ。
 最後は、「貿易交渉委員会(TNC)」。TNCは、ドーハ・ラウンド交渉を担うべく、2001年のドーハ閣僚会議で設立された。TNC議長はWTO事務局長が務めることとなっており、(1)農業、(2)サービス、(3)非農産品市場アクセス、(4)知的所有権(TRIPS)、(5)ルール、(6)紛争解決了解、(7)貿易と環境の7つの交渉分野につき交渉を総括し、一般理に進捗を報告することとなっている。ドーハ・ラウンドの停滞が叫ばれて久しいが、例えば、TNCの下部組織であるルール交渉グループでは、SDGsが今年中に期限を定める「過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金(いわゆる「漁業補助金」)の禁止」の実現に向けた交渉が今まさに正念場にある。
 このように、最近は、対面方式は難しい中でも、WTOでは、「新しい会議様式」で今回紹介した会合など、様々な場で日々議論・交渉を絶やさずWTO改革に取り組んでいる。


世界貿易機関(WTO)へ戻る