経済外交
第9回WTO閣僚会議(概要と評価)
平成25年12月11日


12月3日~7日,インドネシア・バリにおいて,第9回WTO閣僚会議(MC9)が開催されたところ,概要と評価は以下のとおり。今次閣僚会議においては,ドーハ・ラウンド交渉(DDA)の部分合意である「バリ合意」が妥結した。
1.概要
- WTO閣僚会議は原則2年に1度開催されるWTOの最高意思決定機関で,今次会議には159のWTO加盟国・地域の代表らが参加した。我が国からは三ツ矢外務副大臣,松島経済産業副大臣,小里農林水産大臣政務官が出席。
- 三ツ矢副大臣は全体会合において我が国を代表してスピーチ(英文)(PDF)
を行った他,セーシェル加盟二国間合意文書署名式,非公式首席代表者会合(HoD)(スピーチ(英文)(PDF)
),イエメン加盟署名式(スピーチ(英文)(PDF)
)に出席し,台湾とバイ会談を行った。また近く改正議定書の発効が見込まれるWTO政府調達協定(GPA)の加盟国により閣僚会議が行われ,我が国からは小田部在ジュネーブ代表部大使が出席,我が国の第185会臨時国会において同議定書の締結につき承認をいただいた旨報告した。
- 今次閣僚会議においては,以下の概要のバリ閣僚宣言が採択された。その過程において,「バリ合意」の妥結に向けた調整は難航したが,6日深夜から7日早朝にかけての非公式会合を経て最終的に妥結に至った。
(1)「バリ合意(PDF)
」
- 貿易円滑化協定
- 貿易の促進を目的として通関手続の簡素化・透明性向上等を規定するもの。今回の決定に基づき2014年7月までに協定を採択し,2015年7月まで受諾手続に開放することを定める。この協定が締結されればWTO設立(1995年)以来初の全加盟国による多数国間の協定となる。
- 農業
-
- 食糧安全保障目的の公的備蓄に関する閣僚決定 : 途上国政府が食糧を貧困層に提供する際の食糧調達に伴う補助金規制の緩和を規定。
- 関税割当の運用に関する了解(閣僚決定) : 関税割当(輸入枠)の運用にかかる透明性向上と未消化分の運用改善のルールを規定。
- 輸出競争に関する閣僚宣言 : 農業の輸出補助金の抑制に関する政治宣言
- 開発
- 後発開発途上国(LDC)向け原産地規則ガイドライン,LDC向けサービス特恵,LDC向け無税無枠,綿花,途上国の優遇規定の履行モニタリング制度
(2)「バリ後(ポスト・バリ)の作業」
- DDAに対するコミットメントを再確認。
- 貿易交渉委員会(TNC)に対し,DDAの残された課題(農業,開発,LDCを含む)につき12ヶ月以内に明確な作業計画を用意するよう指示。その際,バリ合意で法的拘束力が得られなかった事項を優先。
(3)その他
- 通常委員会の活動に係る以下の分野の決定を採択
知的財産権の非違反・状態申し立て,電子商取引,小規模経済作業計画,貿易のための援助,貿易と技術移転 - イエメンのWTO新規加盟を決定(イエメンは160番目の加盟メンバーとなる)
【参考】ドーハ・ラウンド交渉(DDA)を巡る経緯
2001年に開始されたDDAは,新興国と先進国との対立などにより膠着状態が継続。2011年の前回閣僚会議において,部分合意等の「新たなアプローチ」を探求することが合意された。今次MC9に向けては,(1)貿易円滑化,(2)農業分野の一部及び(3)開発の3分野を「バリ合意」として部分合意すべく議論が継続されてきた。特に,本年9月のアゼベド事務局長就任後に交渉が活発化し,ジュネーブにおいて大使レベルを中心に週末も含め昼夜を問わず集中的に交渉が行われてきた。
2.評価
- 今回の部分合意はドーハ・ラウンド交渉の一部に関するものではあるが,WTOの歴史始まって以来初のマルチ協定(すべての加盟国に適用される協定)となる貿易円滑化協定を含むものであり,159のメンバーが総意で一定の成果を上げたという点で,画期的な成果といえる。マルチの貿易交渉は機能しないとの見方が強まる中で,多角的貿易交渉にも可能性があることを示した。
- 今次合意が可能となった背景には,(1)対象分野が比較的対立の少ない合意が得られやすいものに限られていた点,(2)先進国と途上国,或いは輸出国と輸入国の双方が利益を享受するような各分野間にバランスが成立していた点,(3)世界的にメガFTA交渉が推進される中で特に途上国側に多角的貿易体制を重視し,マルチでの成果を望む声が高まった点,(4)途上国の広い支持を得た新興国(ブラジル)出身のアゼベド新事務局長が,今年9月の就任以降,途上国のみならず先進国の立場にも配慮して,信頼醸成に努め,バランスの取れた調整を行ったこと等があげられる。
- 今年9月以降,ジュネーブにおいて,大使レベルを中心として,週末も含めて昼夜を問わず集中的な交渉を行い,論点を絞り込んだ上で,残された数少ない論点についてアゼベド事務局長が中心となってバリにおいて関係国に政治的な決断を迫る形での調整が行われた。なお,この過程においては,一般的に見て,新興国・途上国が多角的貿易体制の維持・強化に比較的前向きな姿勢を示していた点が注目される。
- 今次閣僚会合では,三ツ矢副大臣から,全体会合におけるスピーチ及び非公式閣僚会合において我が国の代表として「アゼベド事務局長による調整努力を全面的に支持する」との強いメッセージを発出して頂く等,我が国としても今次合意の成立に貢献することができたと考える。また,松島経産副大臣からも,アゼベド事務局長とのバイ会談において同様のメッセージを述べ,我が国の協力姿勢を示した。
- WTOにおける貿易交渉の今後の見通しについては,バリ閣僚宣言には,バリ合意の実施に関する作業に加えて,今後12か月にDDAの残された課題に関する作業計画を作成するとしており,DDA交渉の再活性化に向けた機運は高まるものと見込まれる。
【関連リンク】
WTO公式サイト(第9回WTO閣僚会議特設ページ)(英語)