食料安全保障
グスタフソン国連食糧農業機関(FAO)事務局次長(プログラム担当)の訪日
平成30年2月5日
1月28日から2月3日まで,ダニエル・グスタフソン国連食糧農業機関(FAO)事務局次長(プログラム担当)が訪日し,第2回日・FAO年次戦略協議をはじめとする各種行事に出席したところ,評価並びに主要な日程及び行事の概要は以下のとおり。
評価
- (1)日本政府は,食料・農業分野の国連専門機関の筆頭であるFAOの重要性に鑑み,日・FAO関係の抜本的強化に取り組んでおり,昨年1月には日・FAO年次戦略協議を初めて開催し,同年5月にはジョゼ・グラツィアーノ・ダ・ジルバFAO事務局長の4年ぶりの訪日が実現した。今般,第2回日・FAO年次戦略協議に出席するため,グスタフソン事務局次長が訪日し,日・FAO関係の更なる強化の契機となった。
- (2)滞在中,グスタフソン事務局次長は,第2回日・FAO年次戦略協議,東京都内での各種行事への出席,宮城県における世界農業遺産(GIAHS)及び農業・漁業関連施設の視察,個別のメディアインタビュー等を通じて,FAOの活動とその重要性について積極的に対外発信し,日本国内におけるFAOの知名度向上に貢献した。
- (3)また,FAOにおける日本人職員の増強に向けて,グスタフソン事務局次長は明治大学での講演を通じて,FAOが世界規模での食料増産や栄養改善,持続可能な農林水産業の促進に果たしている役割や,近年の日本とFAOとの連携強化,FAOで勤務する魅力とやりがいを日本の若者に伝え,潜在的なFAO職員候補者の動機付けに貢献した。
- (4)さらに,グスタフソン事務局次長は,外務省が主催した「食品ロスを考える国際セミナー さぁ,今日から実践!」において,世界の食品ロスの現状を説明し,日本国内での食品ロス削減に向けた取組を促した。また,同セミナーのティーブレイク中には,福島産果物を使ったフルーツケーキを賞味し,「非常に美味しかった」旨述べた。
主要日程
1月29日(月曜日)
- 国際協力機構(JICA)との協議
- 明治大学における講演及びジョブ・セミナー
1月30日(火曜日)
- 第2回日・FAO年次戦略協議
1月31日(水曜日)
- 谷合正明農林水産副大臣への表敬
- セミナー「持続可能な開発目標(SDGs)と責任ある農業投資(RAI)」にて講演
2月1日(木曜日)
- 宮城県にて世界農業遺産(GIAHS),水産関連施設,いちご及びトマト農家等訪問
2月2日(金曜日)
- スポーツ庁にて意見交換
- 個別メディアインタビュー
- 外務省主催「食品ロスを考える国際セミナー さぁ,今日から実践!」(岡本外務大臣政務官出席)にて基調講演
主な行事の概要
1 第2回日・FAO年次戦略協議(1月30日終日)
- (1)本行事(報道発表)は外務省において開催され,日本政府を代表して高橋美佐子外務省経済局経済安全保障課長及び郷達也農林水産省大臣官房国際部国際経済課国際機構グループ長(参事官),FAOを代表してダニエル・グスタフソン事務局次長(プログラム担当)が出席した。
- (2)日本とFAOは,昨年の前回協議からの両者の取組を振り返り,緊急無償資金協力等を含めた日本によるFAOへの財政貢献,日本国内におけるFAOの活動及び成果の認知度向上,FAOにおける日本人職員による貢献等の進捗状況を確認し,両者のパートナーシップを更に前進させ,2019年に第3回日・FAO年次戦略協議をローマのFAO本部において開催することで一致した。とりわけ,両者は,FAOにおける日本人職員数の増加と望ましい水準の達成に向けて,引き続き両者の取組を継続していくことで合意した。
- (3)更に,日本とFAOは,地域別人道開発支援の強化及び持続可能な開発のための2030アジェンダと持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け,栄養,林業,気候変動等の分野において連携を強化することを確認したほか,今後,2019年に日本が議長国として開催するG20及び第7回アフリカ開発会議(TICAD7),2020年の東京オリンピック・パラリンピック等について意見交換を行った。
2 食品ロスを考える国際セミナー さぁ,今日から実践!(2月2日午後)
- (1)本行事(報道発表)は東京都内において外務省が主催し,グスタフソン事務局次長参加の下,岡本三成外務大臣政務官,中村勝宏FAO親善大使(日本担当),ンブリ・チャールズ・ボリコFAO駐日連絡事務所長,小林富雄ドギーバッグ普及委員会理事長,河合亮子農林水産省食品産業環境対策室長のほか,関係省庁,国際機関,民間企業及び報道機関の関係者など計約50名が出席した。
- (2)冒頭,岡本政務官から開会挨拶(全文(PDF))を行い,世界では8億を超える人々が飢餓に苦しんでいる一方で,食品廃棄の多さが世界的に課題になっており,日本においても,私たち日本人1人当たりに換算すると,“お茶碗約1杯分の食べ物”が毎日捨てられていることを紹介した。また,食料の多くを輸入に頼る日本にとって,食べ物の大切さを十分に理解し,食品ロスを減らすことは,日本と世界の食料安全保障の強化につながる重要な取組である旨述べつつ,グスタフソン事務局次長はじめ,食品ロスに造詣の深い専門家のこのイベントへの参加を歓迎した。
- (3)グスタフソン事務局次長からは,世界では食品廃棄物の総量が13億トンにのぼり,開発途上国においては生産及び収穫後の段階で,先進国においては消費段階で多い傾向にあることを紹介した。また,食品ロス削減のためには,消費者の教育及び意識改革並びに技術の活用が重要であるとともに,食べ残しをつめて持ち帰るための袋や容器「ドギーバッグ」の普及やスマートフォンアプリの開発など日本での取組を紹介した上,日本には食品ロス削減における主導的役割を担うことを期待する旨述べた。
- (4)また,中村FAO親善大使から,昨年5月に日本担当のFAO親善大使に任命されて以来国内外で行ってきた,食品ロス・食品廃棄削減に向けた取組や,食を通じた被災地支援に関する活動についての報告があった。
- (5)さらに,中村FAO親善大使,ボリコFAO駐日連絡事務所長,小林ドギーバッグ普及委員会理事長及び河合農水省食品産業環境対策室長をパネリストに迎え,高橋外務省経済安全保障課長をモデレーターとして,外食を含む消費段階での「食品ロス」に焦点を当て,同問題の解決に向けた取組の推進等についての意見交換が行われた。
- (6)なお,本イベントのティーブレイクにおいて,被災地の復興支援を目的に「料理ボランティアの会」の協力で開発された,福島産果物を使ったフルーツケーキが紹介され,参加者に振る舞われた。
3 明治大学における講演・ジョブセミナー(1月29日午後)
- (1)本行事(明治大学)は,明治大学及びFAOの主催により明治大学において開催され,大学生・大学院生を中心に約260名が参加した。
- (2)第1部では,土屋恵一郎明治大学学長及び高橋外務省経済局経済安全保障課長からの挨拶に続き,グスタフソン事務局次長から「FAOによる世界の食料安全保障とゼロ・ハンガーへの貢献,および日本との関係強化」をテーマとする講演が行われた。同講演においては,グスタフソン事務局次長から,FAOは飢餓と貧困の撲滅をはじめとするSDGsの達成に向けて,食料・農林水産分野のルールメイキングや開発途上国に対する技術協力などを行う国連の専門機関である旨の紹介があった。また,1990-1992年以降,飢餓に苦しむ人口の割合が半減した反面,近年,紛争及び気候変動の影響により飢餓人口が増加しており,世界の食料安全保障に向け,これらの問題や,女性の社会進出,技術の進歩など国際社会の変化に配慮したアプローチをとる必要が生じている旨も述べられた。さらに,日本は,栄養,食品安全,食料システムなどの分野においてFAOの重要なパートナー国であるとして,近年の日・FAO関係の強化に触れ,日本の若者にもっとFAOの活動を知ってもらい,FAOの職員となって世界を舞台に活躍して欲しいとの期待も述べられた。
- (3)第2部では,鳥居高明治大学商学部教授をモデレーターとして,池田ラーヘッド和美FAOパートナーシップ・南南協力部次長からFAOでのインターンシップ,ボランティア及びフェロープログラムの紹介,作山巧明治大学農学部准教授から学生に対する具体的なアドバイス,齊藤慶子氏(明治大学農学部卒業生)からFAOアジア太平洋地域事務所でのインターンシップ経験の共有が行われた。
4 宮城県の世界農業遺産(GIAHS)認定地域及び農業・漁業関連施設の視察視察(2月1日)
- (1)世界農業遺産(GIAHS)は,社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農林水産業と,それに関わって育まれた文化,ランドスケープ,生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムをFAOが認定する仕組で,世界で19か国46地域,日本で9地域が認定されている。
- (2)グスタフソン事務局次長は,2017年11月に認定された宮城県のGIAHS大崎地域を訪問し,冷害や渇水,洪水に頻繁に見舞われる同地域が伝承してきた水路や取水堰などの伝統的な水管理システムの一環として,屋敷を取り囲んで洪水や風から守る屋敷林「居久根(いぐね)」を視察した。
- (3)その後,東日本大震災の津波による壊滅的な被害を受け新たに建設された同県石巻市の魚市場のほか,農業復興に取り組んでいるトマト農家「やまもとファームみらい野」及びいちご農家「亘理浜吉田いちご団地」を訪問し,地元農家の方々と同地域の復興の状況に関して意見交換した。
- (4)また,グスタフソン事務局次長は,昼食時に「いしのまき元気いちば」を訪問し,「料理ボランティアの会」に参加する麺屋武蔵が開発した,魚のあらを使って調理されたラーメン“あら~麺”を食し,日本国内における食品ロス削減に向けた取組に関する理解を深めた。