核軍縮・不拡散

令和7年9月29日
一般討論演説にて演説する城内大臣
グロッシー事務局長と握手をする城内大臣

 9月15日から19日まで、ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第69回総会が開催されたところ、概要は以下のとおり。

1 城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)による一般討論演説

 城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)は、我が国政府代表として総会に出席し、9月15日(総会初日)に一般討論演説を行った(和文(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)。

2 主要な議題

(1)北朝鮮の核問題

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • 北朝鮮に対して、全ての核兵器及び既存の核計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄に向けた具体的な措置をとり、全ての関連活動を直ちに停止するよう強く求める。
  • 全ての加盟国が、関連する国連安保理決議に従って、自らの義務を完全に履行することの重要性を強調する。
  • 北朝鮮に対して、NPTの義務を完全に遵守し、IAEAによる保障措置の実施に対し迅速に協力するよう求める。

 同決議の採択にあたり、日米韓3か国は共同ステートメント(英文)(PDF)別ウィンドウで開くを実施し、国連安保理決議に沿った朝鮮半島の完全な非核化への確固たるコミットメントにおいて団結している旨表明した。また、北朝鮮の核・ミサイル活動は、複数の国連安保理決議に違反しており、北朝鮮に対して、全ての核兵器、既存の核及び弾道ミサイル計画を完全に廃棄するための具体的な措置をとるよう強く求めた。また、北朝鮮とロシアの間の軍事協力に深刻な懸念を表明し、全ての加盟国に対し、関連する国連安保理決議の完全で、包括的で、速やかな履行を求めた。さらに、IAEA事務局による検証能力及び態勢強化の継続した取組への感謝及び支持を表明した。

(2)保障措置の強化・効率化

 包括的保障措置協定及び追加議定書(AP)の重要性の確認、未締結国による可及的速やかな締結の奨励、関連のIAEAの活動への支援等を盛り込んだ本年の保障措置決議案については、コンセンサスによる採択を目指して審議が行われたが、APを巡る一部の文言について加盟国間での意見の一致を得られず、採択には至らなかった。この結果を受け、総会は、事務局長に対し、2026年の総会において2024年の保障措置決議の実施に関する報告を行うよう要請することを決定した。

(3)中東におけるIAEA保障措置の適用

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • 全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに、全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求める。

(4)原子力安全

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • IAEAに対し、原子力・放射線・輸送及び廃棄物の安全、緊急時に備えた準備及び緊急時対応の維持・改善のための取組を継続し、要請に応じて加盟国に対する支援を強化することを要請する。
  • 加盟国に対し、原子力・放射線安全インフラ及び関連する科学的・技術的能力を開発・維持・改善するよう奨励する。
  • 原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請する。
  • 加盟国に対し、適切な場合、国家的な規制プログラムにIAEAの安全基準を使用し、また、IAEAの安全基準を考慮に入れつつ、定期的に法律、規制、ガイダンスをレビューすることを奨励する。
  • 小型モジュール炉、第4世代炉等の先進炉に関し、規制面に関する情報交換と経験の共有を奨励する。
  • 原子力施設に対する攻撃に関し、グロッシーIAEA事務局長が示した、「武力紛争時の原子力安全及び核セキュリティ確保のための7つの柱」及びザポリッジャ原発に関する「5つの原則」に留意する。

(5)核セキュリティ

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認する。サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励する。
  • 新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性を確認する。
  • 平和目的に利用される原子力施設に対するいかなる攻撃又は攻撃の脅威も、核セキュリティを損なう可能性があることを認識し、IAEA事務局長により示された「武力紛争時の原子力安全及び核セキュリティ確保のための7つの柱」の重要性に留意する。

(6)原子力科学技術・応用の活動強化

  1. 非発電分野
    • 一般パートについては、一部の規定内容についての見解相違と、議事運営をめぐる紛糾等の結果として、審議未了につき不採択となった。
    • アフリカ連合のツェツェ蝿及び眠り病撲滅キャンペーン(AU-PATTEC)パート及び統合的人畜共通感染症行動(ZODIAC)パートについては、これらに関するIAEAの活動の重要性を確認し、加盟国の支援の継続・強化を要請することを主なる内容とする決議がコンセンサスで採択された。
  2. 発電分野 以下を主な内容とする発電分野にかかる決議がコンセンサスで採択された。
    • 低炭素エネルギー源としての原子力発電の普及に向けたIAEAの取り組みを賞賛する。
    • 小型モジュール炉に関する国際的な情報交換の促進や加盟国への支援をIAEAに奨励する。
    • 原子力分野での女性の活躍推進に向けたマリー・キュリー奨学金プログラムやリーゼ・マイトナー・プログラムの進捗状況の報告をIAEAに要請し、加盟国にこれらのプログラムへの支援を奨励する。
    • IAEAに対し、原子力分野における人工知能(AI)の利用に関する潜在的な利点と課題について加盟国との議論を継続し、この分野におけるIAEAの活動について加盟国に情報を提供し続けるとともに、原子力分野におけるAIの利用に関して加盟国への支援を継続するよう要請する。

(7)技術協力活動の強化

 一部の規定内容についての見解相違と、議事運営をめぐる紛糾等の結果として、審議未了につき決議案は不採択となった。

(8)技術協力プログラムのパレスチナからガザ地区への拡大

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • IAEAが、特に核医学、非破壊検査、土壌・大気・水への被害と汚染のモニタリングと評価、及び農業の分野において、ガザ地区における人々の苦しみを軽減するため、緊急かつ長期的な支援を提供する上で、重要な役割を果たすことのできる機関であることを強調する。
  • IAEAに対し、パレスチナ向け技術協力プログラムをガザ地区にも拡大するために必要な措置を講じるよう要請する。
  • イスラエルに対し、IAEAの機材および人員のガザ地区を含むパレスチナへの安全かつ妨害のないアクセスおよび搬入を許可し、促進し、確保するよう求める。

(9)ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ及び保障措置

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • ウクライナの原子力施設に対する、また、これらの施設における全ての行為を直ちに停止するよう求め、ザポリッジャ原発から軍事要員およびその他の人員を撤退させるよう求める過去のIAEA理事会及びIAEA総会決議にロシアが留意していないことに懸念を表明する。
  • 特に、公式に認められていない軍事要員等がザポリッジャ原発から即時撤退すること及びウクライナ当局の管理下へ同原発を迅速に戻すことを呼びかける。
  • IAEA事務局長による7つの柱及び5つの原則を含むウクライナにおけるIAEAの原子力安全等確保の取組を評価・支持する。

3 IAEA及び他国政府代表とのバイ会談

 城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)は、我が国政府代表として、IAEA総会のマージンで、グロッシーIAEA事務局長、ライト米エネルギー省(DOE)長官、ビエ・ベルギーエネルギー大臣、エティアンブル仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)長官とそれぞれバイ会談を実施した。
 グロッシー事務局長とは、ALPS処理水の海洋放出におけるIAEAの継続的な関与、北朝鮮やイランの核問題の解決に向けた両者の取組等について意見交換を行った。
 ライトDOE長官との会談では、日米両国は、エネルギー分野を含む原子力の平和的利用及び核不拡散の分野におけるパートナーであること、両国がこの分野で世界をリードするため引き続き連携していくこと、さらには、フュージョンエネルギーの重要性を確認した。
 エティアンブルCEA長官との会談では、原子力エネルギー分野における次世代革新炉の技術協力や、人材育成を含む産業間協力、ITER(イーター)等のフュージョンエネルギー分野での協力など、両国の協力関係を一層の強化することを確認した。
 ビエ・ベルギーエネルギー大臣との会談では、先方からの要望に基づき、我が国の原子炉の再稼働の経験等について説明したほか、両国の原子力分野での協力について意見交換を行った。

4 日本政府代表及び在ウィーン国際機関日本政府代表部大使主催レセプション

 福島の食や観光を含む日本の魅力、ALPS処理水及び除去土壌の安全性、並びに原子力の平和的利用における日本の取組をPRするレセプションを開催し、寿司や福島県産等の日本酒を提供した。レセプションでは、各国代表団や国際機関関係者等が参加し、城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)及び海部篤在ウィーン国際機関日本政府大使から挨拶を行った。

5 サイドイベント

 日本政府はIAEA総会の機会を捉え、以下のテーマでサイドイベントを主催した。

  1. 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉と福島の復興
     同サイドイベントでは福島復興に関する進捗の概観、東京電力福島第一原子力発電所における廃炉の現状、燃料デブリ取出しに向けた戦略、オフサイトにおける環境再生の取組を説明した。また、IAEAから、ALPS処理水の海洋放出に関連して、IAEAのレビューは独立性・公平性・透明性を備え、科学的かつ国際的な安全基準に照らして行われており、本レビューを通じて放出の安全性が確認されているとの見解が示された。
  2. Ac-225を用いた核医学治療の臨床研究の現状と原料となるRa-226のサプライチェーン
     同サイドイベントには、上坂充内閣府原子力委員会委員長が出席し、医療用ラジオアイソトープを用いた治療、核医学治療分野で特に注目を集めるAc-225に関する臨床研究の現状を確認すると共に、Ac-225の原料となるRa-226の需給マッチングについて現状を共有し、世界各国とWin-Winの関係構築に向けた議論に貢献した。
  3. 高温ガス冷却炉(HTGR)が今後のゼロカーボン社会で果たす支配的な役割
     同サイドイベントは日本原子力研究開発機構(JAEA)が主催し、高温ガス冷却炉(HTGR)がカーボンニュートラルを達成する上で果たす役割を世界の原子力関係者に発信し、国内外の社会実装に向けたエンドユーザーの関与や具体的な活用方法について議論した。
  4. シナジー、サステナブル、ユビキタスで切り拓く原子力の新時代
     同サイドイベントはJAEAが主催し、JAEAが設立20年を迎えることを受け、組織発足以前の前身組織含む長年のIAEAへの貢献を紹介すると共に、新たなビジョンとしてJAEA2050+を策定したこと、JAEAにおける直近の研究としてウランレドックスフロー電池に係る取組等が共有された。

     また、原子力分野における女性の活躍促進のためのマリー・キュリー奨学金及びリーゼ・マイトナー・プログラムに関するIAEA主催のサイドイベントに上坂原子力委員会委員長が登壇した。

6 展示ブース

 内閣府が主催する日本ブースにおいて、我が国における第7次エネルギー基本計画の作成及びこれに基づく革新炉開発の取組や、東京電力福島第一原子力発電所における廃炉の進捗を示すコンテンツを展示し、IAEA総会参加者への積極的な情報提供を行った。


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