核軍縮・不拡散
国際原子力機関(IAEA)第67回総会


9月25日から29日まで、ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第67回総会が開催されたところ、概要は以下のとおり。
1 高市早苗 内閣府特命担当大臣の一般討論演説
9月25日(総会初日)、我が国政府代表として出席した高市早苗内閣府特命担当大臣が一般討論演説を行った(和文(PDF)/英文(PDF)
)。演説の主要な内容は以下のとおり。
- 日本は、グロッシー事務局長のリーダーシップを高く評価し、IAEAの活動を強く支持する。
- 日本は、IAEAと協力し、国際的な不拡散体制の維持・強化及び原子力の平和利用の促進に引き続き取り組み、IAEAの保障措置の更なる強化・効率化に向けたIAEAの取組を強く支持する。
- 北朝鮮の核・ミサイル開発は、国際的な不拡散体制に対する重大な挑戦であり、断固として容認できず、日本は、北朝鮮に対して、全ての大量破壊兵器、あらゆる射程の弾道ミサイル及び関連する計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向けた具体的な動きをとることを強く求める、また、IAEA事務局が続ける検証能力及び態勢強化の取組を高く評価する。
- 日本は、全ての関係国によるイラン核合意遵守への復帰を達成するための外交努力を継続する。
- 日本は、ウクライナの原子力施設の状況に重大な懸念を抱いており、ロシアの行為を最も強い言葉で非難する。IAEAによる取組を支援するため、これまでに約1200万ユーロの拠出を実施している。
- 原子力の平和的利用は、気候変動等の地球規模課題への対応のために重要であり、日本は、IAEAによる原子力の平和的利用の促進に係る活動を支援している。
- 日本は、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉と敷地外の環境修復活動を、IAEAの協力のもと、着実に進めてきており、本年7月、IAEA包括報告書が発出され、日本のALPS処理水の海洋放出に対する取組は、関連する国際安全基準に合致しており、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響となることが結論として示された。
- 日本は、科学的根拠に基づき高い透明性をもってALPS処理水の海洋放出について国際社会に対して丁寧に説明しており、その結果、幅広い地域が日本の取組を理解し支持している。
- 8月に、安全性に万全を期した上でALPS処理水の放出を開始し、放出を開始して以降、IAEAはモニタリング結果を透明性高く迅速に確認・公表しており、放出開始から1か月経過しているが、計画通りの放出が安全に行われていることを確認。グロッシー事務局長及びIAEAのプロフェッショナルな取組みに対し、感謝と敬意を表明する。
- 日本は、国内外に対して科学的かつ透明性の高い説明を続けるとともに、人や環境に悪影響を及ぼすことがないよう、IAEAの継続的な関与の下、「最後の一滴」の海洋放出が終わるまで安全性を確保し続ける。
また、中国政府代表から、ALPS処理水の海洋放出に関して、日本の対応を批判する発言があったことを踏まえ、中国代表の発言の後に演説を行った高市大臣から適宜反論を行うとともに、会議終了前に中国代表団が2回答弁権を行使したことから、日本代表団も2回答弁権を行使し反論を行った。
2 主要な議題
(1)北朝鮮の核問題
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 北朝鮮に対して、全ての核兵器及び既存の核計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での放棄並びに全ての関連活動の速やかな停止に向けた具体的措置をとることを強く求める。
- 全ての加盟国が、関連国連安保理決議に従って、自らの義務を完全に履行することの重要性を強調する。
決議採択後、日米韓3か国は、同決議のコンセンサス採択を歓迎するとともに、北朝鮮に対して、全ての大量破壊兵器、あらゆる射程の弾道ミサイル及び関連する計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向けた具体的な動きをとることを強く求め、IAEA事務局が続ける検証能力及び態勢強化の取組への支持を表明する旨の共同ステートメントを実施した。
(2)保障措置の強化・効率化
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 保障措置は、核不拡散のための中核的な要素であり、効果的・効率的な保障措置の必要性、各保障措置協定締結国による協定上の義務の完全な履行の重要性を強調する。
- 事務局長から理事会に対し、引き続き国レベル・アプローチの適用を通じて得られた知見を適宜報告する。
(3)中東におけるIAEA保障措置の適用
全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに、全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求めること等を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。
(4)原子力安全
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 原子力発電及び放射線技術の導入を検討している国の増加に伴い、加盟国の取組及び基盤の維持・向上のためのIAEA及び加盟国間の支援を奨励する。
- 原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請する。
- 小型モジュール炉、第4世代炉等の先進炉に関する原子力安全の観点からの継続的な検討をIAEAに要請する。
- 原子力事故時に適切に情報共有し、原子力発電及び放射線技術を扱う事業者・関係当局・公衆・国際社会における透明性を向上させる。
- 原子力施設に対する攻撃に関し、原子力安全及び核セキュリティ、物理的防護の重要性を認識し強調する。
(5)核セキュリティ
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認する。
- サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励する。
- 新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性、ウクライナの原子力施設への軍事行為への懸念等を確認する。
(6)原子力科学・応用活動強化等
原子力技術の応用に関し、保健・医療、水資源管理、サイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業等にかかるIAEAの活動等についての決議がコンセンサスで採択された。
(7)原子力エネルギー
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 原子力エネルギーの平和的利用に向けたIAEAの役割を確認する。
- 原子力発電所の運転及びIAEAの活動が、持続可能な開発目標(SDGs)達成やカーボンニュートラルの前進に向けて重要である。
- 小型モジュール炉を含む先進的な原子力技術に関する国際的な情報交換を促進するようIAEAに要請する。
- 原子力発電所の経年劣化管理に関する支援をIAEAに要請する。
- 原子力に関する知識管理にかかる対応をIAEAに要請する。
- 原子力分野での女性の活躍推進に向けたマリー・キュリー奨学金プログラムやリーゼ・マイトナープログラムの実施が着実に進展している。
(8)技術協力活動強化
以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。
- 技術協力活動の支援、強化に向けた加盟国の共同の責任、原子力の平和的利用の促進に向けた技術協力活動の重要性やこれら活動を通じたSDGsの達成等へ期待する。
- IAEAに対し、効率的・効果的な事業の実施、資源動員の強化、加盟国やその他関連するパートナーとの協力の強化等を求める。
(9)ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ及び保障措置
以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。
- ウクライナの原子力施設に対する全ての行為を直ちに停止するよう求める過去のIAEA理事会決議にロシアが留意していないことに懸念を表明する。
- 特にザポリッジャ原発からの公式に認められていない軍事的要員等の即時撤退及びウクライナ当局の管理下へ同原発を迅速に回帰することを呼びかける。
- IAEA事務局長による7つの柱及び5つの原則を含むウクライナにおけるIAEAの原子力安全等確保の取組を評価・支持する。
3 第三国とのバイ会談
政府代表として派遣された高市早苗内閣府特命担当大臣は、IAEA総会のマージンで、グロッシーIAEA事務局長、フルビー米エネルギー省核安全保障庁(NNSA)長官、ジャック仏原子力代替エネルギー庁(CEA)長官とバイ会談を実施した。
グロッシー事務局長とは、ALPS処理水の海洋放出に係るIAEAとの連携、ウクライナ情勢に係るIAEAの取組と日本の支援等につき意見交換した。その他の各国とのバイ会談では、日本と各国の原子力政策の現状につき情報共有した上で、今後の協力の在り方について意見交換を行った。
4 日本政府代表及び在ウィーン国際機関日本政府代表部大使主催レセプション
福島の食や観光を含む日本の魅力及びALPS処理水の安全性をPRするレセプションを開催した。レセプションでは、各国代表団や国際機関関係者等150人以上が参加し、高市早苗内閣府特命担当大臣、酒井庸行経済産業省副大臣、引原毅在ウィーン国際機関日本政府常駐代表から挨拶を行った。
会場では、福島県産の米を使用した寿司、福島県産の日本酒を振舞った他、福島県の協賛で赤べこのキーホルダーや関連リーフレットを配布した(レセプションの様子)。