核軍縮・不拡散

令和7年5月14日

 4月28日から5月9日まで、ニューヨークの国連本部において2026年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会が開催された。議長は、ガーナのハロルド・アジマン国連常駐代表が務めた。日本からは、岩屋毅外務大臣(冒頭)、市川とみ子軍縮代表部大使、海部篤ウィーン代表部大使他が出席した。

1 今次準備委員会の概要

  1. 今次第3回準備委員会は、来年の第11回NPT運用検討会議に向けて、過去2回の準備委員会でのやり取りも踏まえ、手続き事項を決定し、実質的事項の議論を深めるための会合との位置付け。
  2. 会議冒頭では一般討論が行われ、岩屋外務大臣が日本のステートメントを行った。また、NGOセッションでは、被爆者の方による被爆証言が行われた。その後、NPTの三本柱である核軍縮、核不拡散(北朝鮮、イラン、中東非大量破壊兵器地帯等の地域問題を含む)、原子力の平和的利用について、順次各分野(クラスター)の討論が活発に行われた。
  3. 核軍縮については、透明性や説明責任の重要性、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効及び発効要件国による早期の署名・批准を求める意見が相次いだ。西側諸国を中心に中国の不透明な核戦力増強への非難が上がり、多数の国が透明性・説明責任の強化の重要性を強調した。中露や多くの途上国による核共有政策への批判に対し、NATO諸国は、積極的・組織的に反論を展開してNPTとの整合性や平和維持が目的である旨を説明。多くのアラブ諸国が、イスラエルのNPT加入や中東非核・非大量破壊兵器地帯の早期創設を要請した。
  4. 核不拡散については、北朝鮮の核・ミサイル活動、イランの核関連活動の拡大等の地域課題に関し、多くの国が懸念を表明した。IAEA保障措置の重要性について多くの国が強調。中国等は、輸出管理は国際的原子力利用に不必要な制限を課すべきでない旨主張。日本を含む複数の国が、輸出管理は不拡散上重要と発言。
  5. 原子力の平和的利用については、原子力科学技術による地球規模課題への貢献や同分野でのIAEAの役割、3S(原子力安全・核セキュリティ・保障措置)の重要性について多くの国が言及した。また、西側中心に多くの国が、ロシアによるウクライナ侵略及びそれに伴うザポリッジャ原発等の原子力安全・核セキュリティへの脅威を批判。
  6. 2026年運用検討会議への勧告案の検討については、議長から配布された勧告案に基づき議論が行われたが、議長は最終日にコンセンサスは得られていないと判断し、自らの責任の下、作業文書「議長による勧告」を配布することとした。また、合意形成を円滑にする仕組みや核兵器国による国別報告書の提出や議論の方法等を内容とする運用検討プロセス強化のための決定案も議論されたが、コンセンサスに至らなかった。
  7. 次回運用検討会議は、2026年4月27日から5月22日までの日程でニューヨークにて開催され、議長はベトナム(氏名は追って通知)が務めることが決定された。

2 日本の対応

  1. 岩屋外務大臣が一般討論で最初にステートメントを行い、対話と協調の精神を最大限発揮し、来年のNPT運用検討会議に向けて一致団結して取り組むべきことを呼びかけた。
  2. 市川軍縮代表部大使及び海部ウィーン代表部大使が、各分野において個別事項(核軍縮、安全保証、核不拡散、北朝鮮や中東を含む地域問題、原子力の平和的利用、運用検討プロセス強化等)についてのステートメントを行った。
  3. 市川軍縮代表部大使が、核軍縮の議題の下で、軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントを賛同国を代表して実施。多くのいわゆる「グローバルサウス」の国を含む過去最多の96か国(日本含む)の賛同を得た。
  4. 日本も参加する地域横断的な非核兵器国のグループである軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)及びストックホルム・イニシアティブは、それぞれ共同ステートメントを実施した。また、透明性・説明責任に関する共同ステートメント(アイルランド・ニュージーランド・スイス主導)、リスク低減に関する共同ステートメント(仏主導)、不可逆性に関する共同ステートメント(ノルウェー主導)、北朝鮮の核問題に関する共同ステートメント(フランス主導)、ウクライナに関する共同ステートメント(ウクライナ主導)にも参加した。
  5. 作業文書を通じた発信・取組としては、日本単独として「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議による提言を作業文書として提出。NPDIとして透明性・説明責任(日本・豪州主導)、軍縮・不拡散教育(日本主導)、FMCT(豪州主導)、CTBT(豪州主導)に関する作業文書を提出。ストックホルム・イニシアティブとして消極的安全保証及び新興技術についての作業文書を提出。核紛争のリスク低減会合としてリスク低減についての作業文書(独主導)を提出。
     また、FMCTに関する共同作業文書(EU主導)、原子力の非発電分野への応用に関する共同作業文書(フィリピン主導)、IAEA保障措置の強化に関する共同作業文書(仏主導)などにも参画した。
  6. 加えて、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議に関するサイドイベントを実施し、岩屋外務大臣が冒頭挨拶をするとともに、パネルディスカッションを行った。また、キリバス及びメキシコと共催で軍縮・不拡散教育に関するサイドイベントを開催し、市川軍縮代表部大使がパネリストとして参加した。

3 今次準備委員会の評価

  1. 核軍縮をめぐる国際社会の分断やロシアによる核の威嚇、北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等により、「核兵器のない世界」に向けた道のりは一層厳しさを増している中、今次準備委員会を迎えることになったが、各国が2026年運用検討会議に向けて、NPT体制の維持・強化の重要性への共通認識を示し、対面で率直な意見交換を行った意義は大きいと言える。
  2. 日本は、岩屋外務大臣がステートメントを行ったことに加え、3本柱全ての分野別の議論に積極的に関与し、現実的で実践的な取組を継続・強化していくことの重要性を強調するとともに、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を高めるよう努めた。
  3. 日本主導で実施した軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントは、合意形成が困難な最近の国際情勢においても過去最多の96か国(日本含む)の賛同を得られ(上記2(3)参照)、軍縮・不拡散教育に対する関心の高さと支持の広さを示すことができた。
  4. 2026年運用検討会議に向けた勧告案は、コンセンサス採択されず、議長の責任の下での作業文書「議長による勧告」として提出されることとなったが、同文書には、核戦力の透明性の向上、FMCTの早期交渉開始、兵器用核分裂性物質生産モラトリアム、CTBTの発効促進、軍縮・不拡散教育等、日本が重視する要素が幅広く反映された。

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