フィリピン共和国

最近のフィリピン情勢と日・フィリピン関係

平成28年1月15日

(肩書きはいずれも当時のもの)

1 最近の内政動向

  • (1)2010年5月、ベニグノ・アキノ3世上院議員(当時)は、大統領選挙に勝利し、6月30日に正式に大統領に就任した(任期は2016年6月まで)。アキノ大統領は、選挙戦当初からアロヨ前政権の汚職・腐敗体質を批判し、故コラソン・アキノ大統領(アキノ現大統領の母親)の人気やクリーンなイメージもあり、国民から高い支持を得ている。2013年5月に実施された中間選挙においても、大統領への高い支持率を背景として、与党陣営が勝利を収めた。
  • (2)フィリピン政府は,アキノ政権下においても、下記2のとおり、南部ミンダナオ島での和平プロセスを推進してきているが、2015年1月、ミンダナオ島のマギンダナオ州ママサパノ町において、フィリピン国家警察特殊部隊とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との大規模な衝突が発生し、双方に多数の死傷者を出した。本件への対応ぶりをめぐって、フィリピン政府への批判が高まり、アキノ大統領の支持率にも影響を与えた。
  • (3)2016年5月に予定されている次期大統領選挙(就任は同年6月末)に先立ち、アキノ大統領は、2015年7月に自身の後継候補としてロハス内務自治大臣(当時)を指名した。

2 ミンダナオ情勢、テロ・治安動向

  • (1)アロヨ前政権下、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で停戦合意が成立し、国際監視団(IMT)がミンダナオ中部コタバト市に本部を設置して停戦監視活動を開始した。アキノ政権下では、2011年2月に和平に向けた予備交渉が開始され、同年8月には、日本において、アキノ大統領とムラドMILF議長との非公式会談が開催された。その後、2012年10月、両者は、最終和平への道筋を示した「枠組み合意」に署名、2014年3月に包括和平合意に署名した。現在、2016年のバンサモロ自治政府の設立のために必要な法整備が進められている。
  • (2)共産勢力(フィリピン共産党・新人民軍・民族民主戦線)はフィリピン全土でテロ活動に従事しており、依然として、治安上の大きな脅威となっている。2011年10月には、ミンダナオ北部の北スリガオ州タガニートにおいて、日系企業も関係するニッケル鉱山施設が、フィリピン共産党の軍事部門である新人民軍(NPA)による襲撃を受けた。

3 最近の経済動向(経済指標は、フィリピン政府発表に基づく)

  • (1)フィリピンの実質GDP成長率は、2010年に7.6%と高い水準を記録した後、2011年は世界経済低迷の影響を受けて3.6%とやや鈍化したものの、2012年から2014年まで、それぞれ6.8%、7.2%、6.1%と他のASEAN各国との比較においても高い伸びを記録しており、経済は好調である。
  • (2)インフレ率は、2008年に世界的な原油・食料価格の影響を受け、通年で9.3%と高い水準となり、国民生活にも大きな影響を与えた。しかし、その後は落ち着きをみせており、2013年は3.0%、2014年は4.1%とフィリピン政府が目標に掲げる3-5%の範囲内に収まっている。
  • (3)貿易構造は、電子機器の半完成品を輸入し、それを半導体等に加工した上で輸出する中間貿易である。2014年には、輸出総額(約618億ドル。前年比9.0%増。)及び輸入総額(約640億ドル。前年比2.4%増。)のそれぞれ41.9%、23.2%を電子製品が占めた。貿易相手国については、2014年では、輸出先が日本(約130億ドル、22.5%)、米国(約87億ドル、14.1%)、中国(約80億ドル、13.0%)の順となり、輸入元が中国(約96億ドル、15.0%)、米国(約56億ドル、8.7%)、日本(約51億ドル、8.0%)の順となった(輸出入を合わせた最大の貿易相手国は日本)。
  • (4)フィリピン経済を支える重要な要素は、海外出稼ぎ労働者による送金であり、貿易赤字もこの送金で支えられた経常収支の黒字によって相殺されている。フィリピン人海外出稼ぎ労働者は、全人口の1割超に相当する約1,024万人で、行き先は、米国が約354万人、中東諸国が約249万人を占める(2013年12月時点)。また、2014年の送金総額は、約243億ドル(うち日本からの送金額は約9.8億ドル)で過去最高を記録した。
  • (5)フィリピンでは、伝統的に農業が主要産業であったが、近年はコールセンター業務等のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業の発展により、サービス産業の比重が高まっている。2015年1月現在、産業別就業者構成は、農林水産業が29.5%、鉱工業が15.9%、サービス業が54.6%となっている。
  • (6)2014年の外国からの直接投資は、約1,870億ペソ(約4,675億円(1ペソ=2.5円))であり、日本(約357億ペソ,19.1%)、オランダ(約328億ペソ,17.5%),米国(約174億ペソ、9.3%)の順であった。

4 外交・安全保障関係の動向

  • (1)アキノ政権の外交政策は、(ア)国家安全保障の強化、(イ)経済外交の推進、(ウ)海外のフィリピン人労働者の権利保護を三本柱とし、これらの分野でフィリピンの国益を確保することがフィリピン外交の目標であるとしている。
  • (2)フィリピンは、1952年に米国と相互防衛条約を締結し、同盟関係にある(フィリピンにとっての同盟国は米国のみ)。1992年の在フィリピン米軍撤退以降も訪問米軍地位協定により、両国は毎年合同軍事演習を実施するなど、協力関係を継続している。2014年4月にオバマ大統領がフィリピンを訪問した際には、国軍間の協力関係をさらに強化するための防衛協力強化協定への署名がなされた。
  • (3)2012年4月、南シナ海の中沙諸島スカボロー礁をめぐり、フィリピンと中国の艦船が対峙する事案が発生した。2013年1月、フィリピン政府は、南シナ海を巡る紛争について国連海洋法条約に規定された仲裁手続に付すことを発表した。2015年10月,仲裁裁判所は、フィリピン政府の申立ての一部について管轄権を認めた。仲裁裁判所による本案及び残された管轄権についての判断が2016年中に下される見込みである。
  • (4)フィリピンはASEANの原加盟国としてASEAN諸国との連携・協力を重視している。2006年から2007年にかけてASEAN議長国を務め、各種国際会議を主催し、積極的役割を果たした。

5 日・フィリピン関係

  • (1)日本とフィリピンとは、緊密かつ友好的な関係を構築してきており、2011年9月にアキノ大統領が公式実務訪問賓客として訪日した際、野田総理との間で「特別な友情の絆で結ばれた隣国間の『戦略的パートナーシップ』の包括的推進に関する日・フィリピン共同声明」を発出し、二国間関係を「戦略的パートナーシップ」と位置付けることで一致した。共同声明では、日・フィリピン両国が経済、政治・安全保障、人的交流、地域・国際社会への貢献といった幅広い分野で協力関係を深めることが確認されている。
  • (2)2013年7月には、日本の総理大臣として6年半ぶりとなる安倍総理のフィリピン公式訪問が実現し、この機会に対フィリピン外交「4つのイニシアティブ」((ア)活力ある経済を共に育む、(イ)海洋分野での協力、(ウ)ミンダナオ和平プロセス支援の強化、(エ)人的交流の促進)が表明された。
  • (3)2015年6月にはアキノ大統領が国賓として訪日した。皇居での歓迎行事,天皇皇后両陛下との御会見,宮中晩餐といった皇室関連行事に加えて,参議院での国会演説が行われた。安倍総理との首脳会談では,「地域及びそれを超えた平和、安全及び成長についての共通の理念と目標の促進のために強化された戦略的パートナーシップに関する日本-フィリピン共同宣言」に首脳間で合意し,両国の関係が、アジア太平洋地域及びそれを超えて共通の理念と目標のために協力する強化された戦略的パートナーシップの段階に入ったことを確認した。「アキノ・フィリピン共和国大統領の訪日」
     同年11月には、APEC閣僚会議出席のため岸田外務大臣が、またAPEC首脳会議出席のため安倍総理がフィリピンを訪問し、それぞれデル・ロサリオ外相との間での外相会談,アキノ大統領との間での首脳会談を行った。
  • (4)日本はフィリピンにとって最大の貿易相手国であり、また、最大の投資国でもある。2008年12月11日には、日・フィリピン経済連携協定が発効した(フィリピンが二国間の包括的経済連携協定を結んでいるのは日本のみ)。本協定の下、2009年以降多数のフィリピン人看護師・介護福祉士候補者が我が国病院又は介護施設で活躍している。
  • (5)フィリピンにとって日本は最大の援助供与国であるとともに、日本にとってもフィリピンは重要なODA対象国の一つである。日本は2012年4月に新たに対フィリピン国別援助方針を策定し、「『包摂的成長』の実現に向けた支援」を援助の基本方針に掲げ、(ア)投資促進を通じた持続的経済成長、(イ)脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定、(ウ)ミンダナオにおける平和と開発を重点分野に位置付けた。
  • (6)重点分野の一つであるミンダナオ和平支援については、対フィリピン外交のみならず国際平和協力の観点からも我が国は重視している。我が国は、ミンダナオ紛争影響地域に対する社会経済開発支援の総称として「J-BIRD(Japan-Bangsamoro Initiatives for Reconstruction and Development)」を打ち出し、これまでに道路等のインフラ整備、人材育成、学校・病院・水道・職業訓練施設等の建設・整備を通じたコミュニティ開発等の分野で総額160億円以上の支援を実施してきている。また、2006年10月から、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との停戦監視等を任務とする国際監視団(IMT)にJICA専門家を社会経済開発アドバイザーとして派遣しており、現在も2名が活動中である。さらに、フィリピン政府とMILFとの和平交渉のオブザーバー役である国際コンタクト・グループ(ICG)にもその発足時である2009年12月から参加している。
     2015年6月のアキノ大統領の国賓訪日時には,首脳間で,新たな自治政府の設立が見込まれるバンサモロ地域の経済的自立の確保により一層焦点を当てる「J-BIRD2」を進めることを確認した。
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