フィリピン共和国

令和2年9月3日
(肩書きはいずれも当時のもの)

1 最近の内政動向

  • (1)2016年6月、ロドリゴ・ドゥテルテ・ダバオ市長(当時)は、大統領選に史上最多得票で圧勝し、第16代大統領に就任した(任期は2022年6月まで)。ドゥテルテ政権は、治安・テロ対策、違法薬物対策、汚職・腐敗対策を最重要課題とし、積極的なインフラ整備や包括的税制改革等を通じてさらなる経済発展を目指している。ドゥテルテ大統領は、就任以降高い支持率を維持しており、2019年5月の中間選挙においても、現政権への約80%の支持率を背景として、大統領派が圧勝した。
  • (2)ドゥテルテ政権は、南部ミンダナオ島での和平プロセスも重要課題と位置付けている。2019年2月にはバンサモロ暫定自治政府が発足し、2022年のバンサモロ自治政府樹立を目指したプロセスが進展している。

2 ミンダナオ情勢、共産勢力の動向

  • (1)2003年(アロヨ政権下)、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で停戦合意が成立し、国際監視団(IMT)がミンダナオ中部コタバト市に本部を設置して停戦監視活動を開始した。2011年2月(アキノ前政権下)、和平に向けた予備交渉が開始され、同年8月には、日本において、アキノ大統領とムラドMILF議長との非公式会談が開催された。その後、2012年10月、両者は、最終和平への道筋を示した「枠組み合意」に署名、2014年3月に包括和平合意に署名した。2018年7月(ドゥテルテ政権下)、前政権下で廃案となっていたバンサモロ基本法が成立し、2019年2月には暫定自治政府が発足した。8月にはモロ・イスラム解放戦線(MILF)兵士の退役・武装解除が開始され、2020年3月までに12,000人のMILF兵士が退役、残りは約28,000人となった。フィリピン政府は、2022年のバンサモロ自治政府樹立を目指している。
  • (2)フィリピン政府と共産勢力との和平プロセスの見通しは立っていない。フィリピン共産党傘下の新人民軍(NPA)は、大都市部を除く全国の広い地域で政府部隊への襲撃のほか、「革命税」を徴収するという名目で企業や富裕層に対する恐喝等を行っており、依然として、治安上の脅威となっている。

3 最近の経済動向(経済指標は、フィリピン政府発表に基づく)

  • (1)フィリピンの実質GDP成長率は、2011年は世界経済低迷の影響を受けて3.7%とやや鈍化したものの、2012年から2019年まで連続で6%以上の高い成長率を実現してきた。ドゥテルテ政権は、毎年の経済成長率を6~8%に設定しているが、2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う国内経済活動の制限措置による影響で、マイナス成長が見込まれている。
  • (2)インフレ率は、2008年に世界的な原油・食料価格の影響を受け、9.3%という高水準を記録したが、その後は落ち着きをみせている。ドゥテルテ政権は、2022年までの毎年のインフレ率目標値を2~4%に設定している。2018年には、物品税の増税等の影響で、一時的に5.2%の高水準を記録したものの、2019年には2.5%と安定した。しかしながら、2020年の新型コロナウイルス感染拡大により先行きの不透明感は増しており、国内経済活動への影響に鑑み、政策金利の引下げ措置が講じられている。
  • (3)貿易構造は、主に電子・電気機器の資本財や中間財を輸入し、その加工品を輸出する中間貿易の形を取っており、恒常的な経常赤字を抱えている。2019年には、輸出総額(約709億ドル。前年比2.3%増。)及び輸入総額(約1,116億ドル。前年比1.1%減。)のそれぞれ56.4%、25.6%を電子・電子製品(特に半導体関連)が占めた。貿易相手国は、2019年では、輸出先が米国(約116億ドル、16.3%)、日本(約107億ドル、15.1%)、中国(98億ドル、13.8%)の順となり、輸入元が中国(約255億ドル、22.8%)、日本(約105億ドル、9.5%)、韓国(約85億ドル、7.6%)の順となった。
  • (4)フィリピン経済を支える重要な要素は、その約1割を担っている海外出稼ぎ労働者等による送金であり、恒常的な貿易赤字もこの送金で支えられた経常収支の黒字によって幾分か相殺されている。海外に居住するフィリピン人は1,000万人を超え、うち海外出稼ぎ労働者は2019年時点で約220万人に上る。主な出稼ぎ先は、サウジアラビア(22.4%)、アラブ首長国連邦(13.2%)、香港(7.5%)、台湾(6.7%)となっている。2019年の送金総額は、約300億ドル(うち日本からの送金額は約18億ドル)で過去最高を記録したが、2020年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、失職した出稼ぎ労働者の帰国が相次ぎ、国内の失業率の増加要因となっている。
  • (5)フィリピンでは、伝統的に農業が主要産業であったが、近年はコールセンター業務等のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業の発展により、サービス産業の比重が高まった。2019年の産業別就業者構成は、農林水産業が22.9%、鉱工業が19.1%、サービス業が58.0%であった。
  • (6)2019年の外国からの直接投資は、約3,901.1億ペソであり、シンガポール(1,763.6億ペソ、45.2%)、中国(886.7億ペソ、22.7%)、韓国(414.8億ペソ、10.6%)、日本(198.9億ペソ、5.1%)の順であった。

4 外交・安全保障関係の動向

  • (1)ドゥテルテ政権の外交政策は、(ア)国家安全保障の持続と強化、(イ)経済外交の推進と実現、(ウ)海外のフィリピン人の権利保護と福利向上を三本柱としている。
  • (2)米国とは、1952年に比米相互防衛条約(MDT)を締結しており、同盟関係にある(フィリピンにとっての条約による同盟国は米国のみ)。1992年の駐留米軍撤退以降も、1998年に締結された訪問米軍地位協定(VFA)や2014年に締結された比米防衛協力強化協定(EDCA)により、両国は毎年共同軍事訓練を実施するなど、協力関係を継続している。ドゥテルテ政権下では、2017年11月に初の比米首脳会談が開催され、トランプ米大統領との関係構築を機に、比米関係は立て直されている。2020年2月、フィリピン政府は一方的にVFA破棄を米側に通知したものの、同年6月にVFA破棄手続きの一時停止を発表した。
  • (3)中国とは、2016年7月、南シナ海問題に関する比中仲裁裁判で、フィリピンに有利な判断が下されたものの、ドゥテルテ大統領は同判断を当面取り上げないとして対中関係の改善に舵を切り、アキノ前政権下で悪化していた比中関係は急速に改善。2018年11月に習近平国家主席がフィリピンを初訪問した際、比中関係を包括的な戦略的協力関係に引き上げることで一致した。2019年8月、ドゥテルテ大統領は比中首脳会談にて同判断を取り上げ、双方の立場の相違が確認された。
  • (4)フィリピンはASEANの原加盟国としてASEAN諸国との連携・協力を重視している。2017年には、ASEAN創設50周年の議長国として、一連の会議を成功に導いた。また、2019年8月以降、ASEANにおける行動規範(COC)交渉の対中調整国を務めている。

5 日・フィリピン関係

  • (1)日本とフィリピンは、歴史的に緊密かつ友好的な関係を構築してきており、2011年9月にアキノ大統領が公式実務訪問賓客として訪日した際、「特別な友情の絆で結ばれた隣国間の『戦略的パートナーシップ』の包括的推進に関する日・フィリピン共同声明」が発出され、両国は二国間関係を「戦略的パートナーシップ」と位置付けることで一致した。また、2013年7月に安倍総理がフィリピンを公式訪問した際、対フィリピン外交「4つのイニシアティブ」((ア)活力ある経済を共に育む、(イ)海洋分野での協力、(ウ)ミンダナオ和平プロセス支援の強化、(エ)人的交流の促進)が表明された。
  • (2)2017年10月のドゥテルテ大統領訪日時に発表された「今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明(PDF)別ウィンドウで開く 」では、同パートナーシップを更に強化していくことを確認した。ドゥテルテ大統領は、日本を「兄弟より近い友人」と呼び、日比関係が「黄金時代」を迎えていると述べている。同年1月の日比首脳会談では、安倍総理からODA及び民間投資を含め、以後5年間で1兆円規模の支援を行うことを表明した。日本からの対フィリピン協力(質の高いインフラ整備、安全保障分野における協力の拡大、海上安全分野の能力強化等を通じた法執行能力強化、包摂的な成長のための「人間の安全保障」、ミンダナオにおける経済開発のための支援)を強化していくことに加え、インド太平洋、北朝鮮・南シナ海問題等にも協力して取り組むことが確認された。
     2020年1月には、茂木外務大臣がフィリピンを訪れ、二国間関係、中東情勢、南シナ海を含む地域情勢について意見交換した。また、同年5月にロクシン外相と茂木外相との間で行われた電話会談では、新型コロナウイルス感染症に対応していくために国際社会の連携が重要であることを確認し、両大臣は、状況が落ち着き次第、様々な分野で二国間対話を加速化させ、両国関係を一層発展させていくことで一致した。
  • (3)日本は、フィリピンにとって主要な貿易相手国(2019年は輸出先第2位、輸入元第2位)かつ投資国でもある。2008年12月11日には、日・フィリピン経済連携協定が発効した(フィリピンが二国間の包括的経済連携協定を結んでいる相手は日本のみ)。同協定の下、2009年以降多数のフィリピン人看護師・介護福祉士候補者が我が国の病院又は介護施設で活躍している。2019年3月には、在留資格「特定技能」制度構築に向けた第1号として、日・フィリピン間で、特定技能を有するフィリピン人の送出し・受入れ・就労問題に基本的枠組みを定める協力覚書が署名された。
  • (4)日本は、フィリピンにとって最大の援助供与国である。また、日本は、フィリピンを重要な開発協力対象国の一つと考えている。日本は、2018年4月に新たに対フィリピン国別援助方針を策定し、「包摂的な成長、強靭性を備えた高信頼社会及び競争力のある知識経済」を援助の基本方針に掲げ、(ア)持続的経済成長のための基盤の強化、(イ)包摂的な成長のための人間の安全保障の確保、(ウ)ミンダナオにおける平和と開発を重点分野に位置付けている。
  • (5)重点分野の一つであるミンダナオ和平支援について、日本は、対フィリピン外交のみならず国際的な平和構築の観点からも重視している。日本は、ミンダナオ紛争影響地域に対する社会経済開発支援の総称として「J-BIRD(Japan-Bangsamoro Initiatives for Reconstruction and Development)」を打ち出し、これまでに行政能力向上、農業を通じた生計向上、道路等のインフラ整備、学校・水道・職業訓練施設等の建設・整備を通じたコミュニティ開発等の分野で総額500億円以上の支援を実施してきている。また、2006年10月から、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との停戦監視等を任務とする国際監視団(IMT)に日本大使館員を社会経済開発アドバイザーとして派遣しており、現在も2名が活動中である。さらに、フィリピン政府とMILFとの和平交渉のオブザーバー役である国際コンタクト・グループ(ICG)にもその発足時である2009年12月から参加している。我が国は、今後も和平プロセスの進捗に応じて支援を強化する方針を累次にわたり表明している。
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