岸田外務大臣
日・ASEAN外相会議(概要)



8月9日,ミャンマー・ネーピードーの国際会議センターにおいて,午後5時15分から約1時間(現地時間)にわたり,岸田文雄外務大臣出席の下,日・ASEAN外相会議が開催されたところ,概要以下のとおり(共同議長:岸田外務大臣,ハオ・ナムホン・カンボジア副首相兼外務国際協力大臣(対日調整国))。
1 日・ASEAN関係のレビューと将来の方向性
昨年12月の日・ASEAN特別首脳会議で採択された「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」において示された4つの柱(「平和と安定のためのパートナー」,「繁栄のためのパートナー」,「より良い暮らしのためのパートナー」及び「心と心のパートナー」)に基づき議論が行われた。ASEAN側の全ての国から,日・ASEAN関係が昨年の日・ASEAN友好協力40周年,日・ASEAN特別首脳会議を経て新たな高みへと引き上げられたことを高く評価するとともに,ODA,日・ASEAN統合基金(JAIF),JENESYS2.0等を通じた我が国の協力・支援に深く感謝する旨の発言があった。
(1)平和と安定のためのパートナー(政治・安全保障)
●我が国の安全保障政策
岸田大臣から,国際協調主義に基づく「積極的平和主義」及びその一環としての安保法制整備の基本方針に関する閣議決定を含め,我が国の安全保障政策に関する取組について説明した。ASEAN側からは,複数の国から,日本の積極的平和主義の下における建設的な貢献を支持する旨の発言があった。
●海洋協力
岸田大臣から,ASEAN諸国との海洋協力を重視し,巡視船艇や通信・警備機材の供与,海上保安機関の人材育成,海洋法分野での協力等を通じた,ASEAN各国の海上保安能力向上への貢献を拡大していく旨述べた。また,今後,防衛装備協力の可能性も追求していく考えであり,その関連で9月にASEAN各国の関係者を日本に招待し,海洋安全保障・災害救援能力構築セミナーを開催する予定である旨表明した。
●テロ・国境を越える犯罪
岸田大臣から,昨年9月に「国境を越える犯罪に関する日ASEAN閣僚会合」が,本年5月に「日ASEANサイバー犯罪対策対話」が初めて開催されたことを歓迎するとともに,本年の日・ASEAN首脳会議において,テロ及び国境を越える犯罪と闘うための協力に関する新たな宣言を採択すべく作業を進めていきたい旨述べた。
(2)繁栄のためのパートナー(経済・経済協力)
●ASEAN連結性支援
岸田大臣から,インフラ整備支援も含む70件に上る「ASEAN連結性支援協力プロジェクト」を着実に実施していく旨述べた。また,民間資金も活用した更なるインフラ整備支援強化の方針を表明するとともに,官民連携による投資に際して,包摂性,強靱性及び能力構築の3点を重視する「人間中心の投資」を推進していくとの考え方を紹介した。ASEAN側からは,ASEAN連結性マスタープランの実現に向けた日本の貢献に深い謝意が表されるとともに,更なる協力への期待が表明された。
●経済連携
岸田大臣から,日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)について,高いレベルの協定を目指し,投資・サービス章の署名に向けて日・ASEAN双方で最大限の努力をしていきたい旨述べるとともに,2015年末までのRCEP交渉完了を目指し,ASEANと緊密に協力したい旨述べた。
●その他
岸田大臣から,連結性やインフラ支援の強化に当たっては,OECDやERIA(東アジア・アセアン経済研究センター),地域の主要な開発金融機関であるアジア開発銀行との協力を重視し,OECD東南アジア地域プログラム等を通じ,OECDとASEANの橋渡し役を担いたい旨述べた。また,日本アセアンセンターに関し,ASEAN各国の経済特区に関するワンストップ・データベースの整備等の事業に期待する旨述べた。
(3)より良い暮らしのためのパートナー(新たな経済・社会問題)
●防災
岸田大臣から,日・ASEAN防災協力強化パッケージを推進していく旨,AHAセンター(ASEAN防災人道支援調整センター)への支援も引き続き重視し,ASEAN各国の防災担当官の人材育成,防災備蓄システムの構築やAHAセンターと各国の防災機関とを繋ぐICTシステムの拡充等について,更なる協力を検討していきたい旨述べた。ASEAN側からは,日本の支援及び協力に謝意が表された。
●その他
岸田大臣から,石炭火力発電の高効率化が現実的な気候変動対策であり,ASEAN各国の安定的な電力供給・高効率化に貢献していきたい旨述べた。また,ポスト2015年開発アジェンダに関し,伝統的な南北対立を克服した,人間の安全保障に基づく効果的な枠組みの策定が重要である旨述べた。
(4)心と心のパートナー(人と人との交流)
●文化・人物交流
岸田大臣から,青少年交流の分野では「JENESYS2.0」,文化・芸術交流の分野では「文化のWAプロジェクト」,スポーツ交流の分野では「Sport for Tomorrow」の下,様々な交流,支援事業が着実に実施されている旨説明した。ASEAN側からは,そのような交流の進展を高く評価する声が相次いだ。
●観光交流
岸田大臣から,2013年以降に導入した査証緩和措置の効果もあり,ASEAN諸国からの訪日客が大幅に増加していることに言及するとともに,双方向の観光促進を通じ,更に人と人との繋がりを強化していきたい旨述べた。
2 地域・国際情勢
(1)南シナ海
岸田大臣から,南シナ海をめぐる問題は,地域の平和と安定に直結し,日本を含む国際社会全体の関心事項である旨述べ,安倍総理が本年5月のシャングリラ・ダイアローグの基調講演において表明した「海における法の支配の三つの原則」について説明するとともに,日本はこの3原則にのっとった行動を支持する旨述べた。また,南シナ海の全ての関係国が,2002年の行動宣言(DOC)策定時の精神と規定に立ち返るという,固い約束を交わすべきであるとの安倍総理の提案を改めて想起した。
(2)北朝鮮
岸田大臣から,北朝鮮による核・ミサイル活動や拡散活動は依然として現実の脅威であり,東南アジア地域を通じた拡散活動を今後も許してはならない,北朝鮮による核実験や弾道ミサイル発射は,対話による問題解決のプロセスにも深刻な影響を及ぼし得るものである旨発言。また,北朝鮮による全ての日本人に関する包括的・全面的な調査結果を見極めたいとの我が国の立場を示した。
(3)国連安保理改革
岸田大臣から,安保理改革について,国連創設70周年となる明年を見据え,具体的進展が得られるよう,ASEAN各国と引き続き緊密に連携したい旨等を述べた。