エキスパートたちの世界~外務省の専門官インタビュー~

エキスパートたちの世界 外務省の専門家インタビュー

軍縮・不拡散専門官 西田さん
米ロ核軍縮のお話

2013年2月

―核兵器保有国の核軍縮の進捗について教えてください。

 「米ロ間では,例えばSTART(戦略核兵器削減条約)という2国間条約をベースに削減努力が進められています。

 現行では,第一次オバマ政権で交渉が始まった新START条約が一昨年以降発効しています。STARTが削減対象とする核兵器は戦略核。戦略核とは,射程が5500キロ以上の,米ロ間で相互に到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)などによって運ばれる核兵器のことです。その内,実際にミサイルに積まれていて,すぐに発射可能な状態にあるものを配備核弾頭と呼びます。このような戦略核は,実際,米国では砂漠地帯の巨大な地下格納庫に配備されていたり,太平洋や大西洋などの海底を走る原子力潜水艦にも搭載されています。STARTI(第一次戦略核兵器削減条約)ではこの配備核弾頭を相互に6000個以下に抑えることとしていました。新START条約では,相互に1550個まで削減することで合意しています。だいぶ数は減ってきていますが,まだそれだけ残っています。」

―核兵器を廃棄したということはどうやって確認するのでしょうか。

 「核弾頭はミサイルと比べてそれほど大きいものではないため,本当にミサイルから外したのか検証することが難しいんです。実際に,当事国の領土に査察官が入って,プロセスの一部始終を確認できるなら別ですが,軍事機密の根幹にかかわるのでそこまでの合意はなかなか得られない。今より相互不信の強かった冷戦中はどう検証していたかというと,主に衛星や偵察機が上空から撮った写真でミサイルや爆撃機等の運搬手段の数を確認し,そこから条約に定められている計算ルールで核弾頭の数を割り出していました。したがって,当時の核兵器の削減交渉といった場合は,核弾頭よりも,ミサイルや爆撃機など,運搬手段に焦点が置かれていたんです。削減にあたっては,空港におかれた爆撃機を破壊し,相手国はその破壊された状態を衛星写真で検証し,合意が履行されたことを確認する。そこに積まれていた核弾頭の行く末については,もう問わない。実際には多くの核弾頭は貯蔵され,解体を待つことになります。このような解体待ちのために貯蔵された核弾頭もあわせると,米国の領域内には現在も8000くらいの核弾頭があるといわれています。」

―核兵器の廃棄とは具体的にどうするのですか?

 「手順としては,まず起爆装置を取り外して核物質を取り除き,この核物質を核兵器用に使われないような形状に処理する。核兵器にはウラン型とプルトニウム型と二つあります。ウラン型は技術的に爆発がより容易な高濃縮ウランを使っており,これをテロリスト等が入手すれば簡単にヒロシマ型の破壊力をもつ爆発を起こすことが出来てしまうため,厳重に管理する必要があります。高濃縮ウランは,海軍の原子力艦船用の燃料や,低濃縮ウランに希釈されて原子力発電の燃料に使われたりします。」

 実は今日の米国の電力の10%は,ロシアの核弾頭から出た高濃縮ウランを希釈してまかなわれているとのこと。米ロ政府間の合意に基づいた措置ですが,冷戦時代を思えば隔世の感がありますね。

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