2009年9月
(アンニョンハシムニカ)=こんにちは!
小学校時代から、家族と一緒に海外で生活したことのある廣瀬さん。様々な外国語が飛び交う環境の中で、特に韓国語の音の響きに魅了されたそうです。アジアと日本の関係に興味を持ち、外務省に入省した廣瀬さんは、「いつか学びたい」と思っていた韓国語の専門家になりました。
「外務省で韓国語を学び始めた当初、先生が録音した韓国語の例文を聞き取って文章にする宿題にてこずりました。ハングル文字と音順(字母の順序)を覚えないと辞書は引けないのですが、日本語には無い微妙な音が聞き取れないため、なかなか正しい単語を探し出せず、一文を完成するのにも一苦労!スムーズに辞書が引けるようになるまでが第一関門ですね。でも、韓国語は日本語と文法や単語が似ていて、日本人には親しみやすく、勉強しやすい語学なのでお勧めです。」
雪岳山(ソラク山)にハイキング。岩盤には名前などが刻まれています。右が廣瀬さん。
廣瀬さんを魅了する韓国語の音の響きとは何ですか?「音の強弱が明確なところですね。例えば、『カ』という音ひとつをとっても、日本語の『カ』に近い音もあれば、発音前に小さなツをつけて『ッカ』と強く発音する濃音(のうおん)や、喉から息を一気に出しながら『カァ』と発音する激音(げきおん)もあり、強い音が特徴的です。また、『イェ』『ウァ』という二重母音などの優しい響きも耳に心地いいですね。語学習得法の1つにネイティブの真似をするというのがありますが、私は韓国語の音が好きだったので、韓国人の話を聞いて、楽しく発音を真似ました。それから、韓国語には敬語が何種類かあるのですが、硬いものだけではなく、柔らかく親しみを込めた敬語というのもあるのですよ。逆に『パンマル(ため口)』の歯切れの良さやテンポも好きですね。」好きな言葉を楽しく勉強できるのは理想的ですね。
韓国のソウルで研修を始めた廣瀬さんは、語学学校の帰り道、毎日のようにプデチゲというお鍋料理の専門店で、その日習った韓国語を実践しました。「たまたまお店に入ったのがきっかけですが、店のおばさんやアルバイトの学生がとても親切で、私が店の前を通りかかるたび『おいでおいで』と呼んでくれたのです。外国人の私が韓国語を学ぶのがうれしかったようで、私のつたない韓国語にずっと付き合ってくれました。何も注文しないのに長居させてもらう日もありました(笑)。」廣瀬さんは、今でも当時のアルバイトの学生と大の仲良しです。廣瀬さんによれば、プデチゲは、辛いスープにスパム(缶詰ハム)、ソーセージ、インスタントラーメン、野菜などが入っているもので、諸説ありますが、「部隊鍋」という当て字があり、戦時中、在韓米軍が用いていた食材を利用して作ったと言われているそうです。
廣瀬さんは、語学学校を経てソウル大学大学院へ入学しましたが、外国人留学生が少ない環境を求め、梨花女子大学に転学しました。「研修中は、とにかく『韓国人と一緒に学び、一緒に遊ぶ』ことを第一目標にしていましたので、住居も韓国では一般的な下宿にしました。でも、学生20人暮らしでトイレ・シャワー共用の生活は、毎日ハプニングばかり。夏は、暑いからお湯は必要ないと水シャワーの日が続き、冬はオンドル(韓国の床暖房)の温度調整が個室毎にできないので寒すぎて眠れなかったり、逆に熱すぎて火傷しそうになったり、本当に色々ありました(笑)。」下宿のほぼ全員が韓国人学生とのことですが、なぜそんなに多くの韓国人が下宿しているのですか?「韓国の学歴社会は有名ですが、ソウルの大学を卒業していることが重視されるようなので、地方から多くの学生がソウルに来ているんですね。」ソウルには、韓国の人口の4分の1が集中していて、極度の人口密集地帯となっているそうです。
韓国服(パジチョゴリ)を着て街を歩く人。
研修中、廣瀬さんは友人の家にしばらくホームステイさせてもらい、韓国人家庭の様子も垣間見ます。「日本との違いを感じたのは家族関係ですね。韓国では儒教思想の影響で、親や年長者に敬意を払います。例えば、友人の家庭では、父親が仕事から帰ってくると、家族全員が部屋から出てきて、『お父様、お帰りなさいませ』と迎えるんですよ!子供達が常に父親には敬語を使うのに対し、母親には敬語の時とそうでない時があるのが印象的でした。また、韓国の女性は普段から良く働きますが、特に秋夕(チュソク)と呼ばれる旧盆には、たくさんの先祖供養のお供え物を準備しなければならず、女性陣はてんてこ舞い。私もお手伝いをしたことがありますが、みな朝から晩まで台所に立ちっぱなしで、感心しました。」
2年間の研修を終え、在韓国日本大使館政治部での勤務が始まりました。仕事を通じて更に高度な韓国語を習得中の廣瀬さんに、早速『日韓犯罪人引渡条約』交渉の通訳という大役が任されることに。「初めての通訳がいきなり複雑な条約交渉で、散々たる出来でした。この条約は、そもそも英語で書かれているのですが、それを日本語と韓国語で協議をしているので、通訳しながら途中で頭が混乱。その度に日本側関係者に条文の詳細な意味などを教えてもらい、助けてもらいました。」廣瀬さんは交渉内容に関する十分な理解がなければ、正確に訳すことはできないということを、この経験を通じて実感したそうです。
「韓国語には、『絶対敬語』というルールがあり、自分より立場が上の人には、身内であっても全て敬語を使用します。また、職名や続柄に『様(ニム)』をつけることが多いのです。通訳する時は、日本語の謙譲語等を尊敬語に置き換え、発言者より地位の高い人には全て『様』をつける必要があります。その切り替えに慣れるまでに時間がかかりました。例をあげると、『課長はいますか?』と電話があった場合の応対は次のようになります。」
日本語:課長は、午後5時まで外出すると言っていました。
韓国語:課長様は、午後5時まで外出するとおっしゃっていました。
知らない人との上下関係はどうやって測るのですか?「実は、韓国人は、初対面の人にいきなり年齢を聞いてくるんですよ!ストレートに『おいくつですか?』と聞かれることもありますが、『何年生まれですか?』、『学番は何年ですか?(=大学入学年は何年ですか)』、『干支は何ですか?』と婉曲的に聞くこともありますね。上下関係が敬語に反映されるので、年齢は重要情報なんです。」韓国では、お酒を飲んだりタバコを吸う時、目上の人に対し正面を向かず、少し斜めの体勢をとるそうです。これは自分が相手と対等では無いことを表現するためだとか。また、日本でも、電車などで年配の方に席を譲る習慣がありますが、韓国はもっと厳しいそうです。廣瀬さんは、電車で座っている時、目の前に年配の人が立った事に気がつかず、その人から『何故席を譲らないのか』と叱られたことがあったそうです。
浮石寺の僧侶。右側に極彩色の太鼓があります。
韓国人は日本人と似ていると言われますよね。「そうですね。似ているので、つい日本の常識や習慣で見てしまうのですが、異なる所はたくさんあるので、『似て非なるもの』という認識を持つことが重要だと思います。私は、韓国と日本では、特に人と人の距離感が違うと思うのです。例えば、韓国人が銭湯(大衆浴場)で『垢すり』をすることは日本でも知られていますが、知らない人同士でも当たり前のように背中をこすり合います。実際に、銭湯で隣に座った人が急に私の背中をこすり始めた時はびっくりしました。そして、その人は方向転換して『はい、私の背中もお願い』という感じなんです。また、大きな荷物を持ってバスに乗ると、前に座っている人が無言で私の荷物を取って膝の上に載せるんです。最初はとても焦りましたが、その人は親切で荷物を持ってくれたんですよ。日韓の違いは、美意識にも感じられます。お寺を例にあげると、日本は柱や装飾が整然としていますが、韓国は隙間やずれ、ゆがみがあって、一見雑な造りに見えます。韓国では、木や石など素材本来の良さと形状を生かす事に美を見いだしているからなんです。」お互いの違いを知り、尊重しあうことが大事ですね。
サッカーW杯の共催や韓流ブームにより、日韓交流は活発になっていますが、最近はどうでしょうか。「2005年に日韓国交正常化40周年を記念した日韓友情年イベントとして、ソウルで『日韓交流おまつり』が行われました。日韓の様々なお祭り団体などが参加し、同じステージやパレードで踊ったり、舞ったりする画期的なイベントでした。うれしい事にこれが今でも年1回行われていて、日本からは青森のねぶたや秋田の竿灯、よさこいソーランが参加し、韓国側からはサムルノリ(伝統楽器を用いた演奏)などが披露されました。こういう市民交流が続いていってほしいですね。韓国では一般的に日本に対する関心が高いのですが、日本人と韓国人がお互いのことを十分理解しているかについては若干疑問が残ります。私は、小さい事でも日韓の「架け橋」になれた瞬間、心からうれしいと感じます。だから今後も言葉を磨き、日韓のコミュニケーションのお手伝いをしていきたいですね。」お隣の国ですから、お互いをよく知り、仲良くつきあっていきたいですね。廣瀬さん、サポートよろしくお願いします!
韓国では5月15日は「先生の日」。先生に感謝の気持ちを伝える日です。
廣瀬さんは、慶尚北道ヨンジュ市の中学校で外交官の体験談を話しました。みんな真剣です。
(パプモゴッソヨ/シクサハショッソヨ) 直訳すると、「ご飯は食べましたか」ですが、挨拶代わりに使われます。
(アイゴまたはアイゴー) 感嘆詞ですが、悲しい時、うれしい時、驚いた時など、幅広く使います。悲しい時は、「アイゴー」と長く伸ばし、驚いた時は、「アイゴ!」と短く。)
(ケンチャナヨ) 大丈夫、気にしない、十分だ、いい等、幅広い意味があり、頻繁に、色々な場面で使われます。
★韓国語を主要言語とする国: 韓国