チャレンジ41か国語 ~外務省の外国語専門家インタビュー~

チャレンジ41か国語~外務省の外国語専門家インタビュー~

2009年6月

英語の専門家 藤本さん

Hello(ハロー)=こんにちは!

 大学卒業後、外資系広告代理店に就職していた藤本さんは、湾岸戦争勃発というニュースに直面し、「国際的な仕事に携わりたい」と外務省受験を決意、仕事も辞めて試験に集中した結果、2度目の受験で外務省試験合格、希望どおり英語の専門家になりました。

ケンブリッジ大学での研修が開始、でも生活は・・・・

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今では良い思い出のカレッジ(右)。研修後ご結婚されたご主人とパチリ。

 外務省で1年間勤務した後、藤本さんは語学研修のためイギリスへ出発。「大学院より学部(undergraduate)のほうが語学の勉強になると聞き、ケンブリッジ大学の社会政治科学部に入学しました。大学内にはたくさんのカレッジ(学寮)があり、私は女子寮に住んだのですが、18~19歳の女子ばかりの共同生活はまさに無法地帯。洗濯機やキッチンなどの共用スペースが凄まじく汚いし、共同冷蔵庫に入れた自分の食材がいつの間にか無くなってしまうのです。留学も海外生活も全てが不慣れだったのに、住むところまで汚くて、精神的に本当に辛かったですね。」

2年間の努力が実ったAnne Jemima

 藤本さんは、大学では必須3科目と選択科目を受講しましたが、週1回のペースで本を読み、英文エッセイを書くのが主な課題で、勉強に追われていました。「一時は落第勧告を受け、困惑しましたが、クリスマス休暇も一人寮に残り勉強を続けた結果、2年に進級できました。生活も、平均年齢が少し高い大学院生用の女子寮に引っ越したので快適になりました。卒業時には、成績の伸びが一番顕著だった者に与えられる『Anne Jemima Prize』を受賞しました。とてもうれしかったです。」 努力あっての受賞ですね。「これまでの人生で、一番勉強したのは、外務省受験の時と、この留学の2年間ですね。一気に白髪になりましたから。その後戻りましたけど。(笑)」

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    大学院用の女子寮の部屋。
    この机でたくさん勉強しました。

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    ケンブリッジ大学の卒業式。
    一人ひとり卒業証書をいただきました。

知る人ぞ知る、在英国大使館の三大行事'98

 研修終了後、在英国大使館に勤務し、広報文化を2年間担当したんですね。「館内の雰囲気も良く、本当にたくさんのことを勉強させていただきました。大使館での集大成は、1998年の三大行事ですね。『アジア欧州会合(ASEM)』『バーミンガムサミット(G8)』『天皇皇后両陛下英国公式ご訪問』と、それぞれが大きな行事にもかかわらず、たまたま4月と5月の2か月間に連続して行われたので、大使館はパンク状態。3つの行事全てにおいて、私は同行記者を受け入れる担当だったのですが、記者執務室や記者会見の会場準備から、ホテルの予約、電話回線の確保やお弁当・車両手配まで、調整や準備で徹夜になったことも度々ありました。当時、大使館にいた人たちは、この経験を忘れられず、合い言葉のように『あの時は大変だったね』と懐かしみます。」

自分に課せられた使命を果たすために

 帰国後、外務省で勤務しながら通訳学校に通った藤本さんですが、学校では、基礎科からなかなか本科にあがれなかったそうです。さすがはプロの通訳の多い英語。「必死に努力を続けて本科、そしてプロ科を修了し、更に通訳検定1級に受かった時はほっとしました。」 藤本さんの努力はまさに、『刻苦して勉学に励む』ですね。その原動力はどこから生まれるのでしょうか。「やはり外務省に採用され、英語の語学専門家に命じられたからには、それをやり通さなければという使命感があったからでしょうか。」

通訳は肉体労働

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2003年 自民党イラク現地調査団

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イラク国連事務所での会談。
この建物が2か月後爆破されてしまいました。

 藤本さんにとって思い出深い通訳は、自民党イラク現地調査団のイラク出張同行だそうです。「出張先の場所柄、手持ちカバンで行くようアドバイスがあり、1週間分の荷物を肩に提げていきました。イラクでは、入国審査などは男女別なので、調査団で紅一点だった私は、検査に時間のかかる女性の列に並ばざるを得ず、常に調査団に遅れをとって走っていました。ですから肩はアザだらけ。バグダットの街は熱風が吹き荒れ、焼けるように暑く、バスの中での通訳は激しく揺れてメモもとれない。そして、バグダットの国連事務所での米軍幹部との会談では、たくさんの軍事用語が飛び交い、本当に目が回りそうでした。その国連事務所が、我々が帰国して2か月後、爆破され、たくさんの職員が亡くなったのです。本当にショックでした。また、アフガニスタンに出張に行った時も思い出深いですね。女性は黒いベールをかぶらなければならないのですが、通訳中にベールが何度もとれてきて、結んでいるうちに話が進んでしまうので、本当に焦りました。」藤本さんは、『通訳は頭脳労働ではなく、肉体労働だ』と思ったそうです。

「英語」はみんなが聞いている!?

 英語は話せる人が多いので、通訳する時も緊張しそうですね。「周囲の人は、しっかり聞いていますから、ちょっとした表現の違いについても、『こっちの英訳のほうが相応しいんじゃないかな』と指摘されることがあります。通訳の身としては、相当へこみますが、本当に重要なことはその会議や会談がうまくいくことなんですよね。そのために多くの同席者がいて、会議の流れをしっかり把握しているのです。ですから、指摘があっても落ち込まず、次はもっと正確な通訳ができるよう努力しようと気持ちを切り替えました。」

語学習得に近道はなし

 藤本さんの勉強法を教えてください。「語彙を増やすには、『社説ノート』を作ることをお勧めします。英字新聞から1日1つの社説を切り取り、ノートの左側に貼り、右側にわからない単語を書き出していくのです。毎日繰り返すと、同じ単語が何度も出てくるので、だんだん覚えます。あとは、『単語日記』を付けること。1日1つその日遭遇した単語や表現をノートに書き留めます。語学の勉強は細く長くという感じですね。」

外務省にはありとあらゆる仕事がある

 外資系会社での勤務経験がある藤本さんから見て、外務省の仕事の魅力はなんですか。「外務省には、ありとあらゆる種類の仕事があるということですね。レセプションに招待されることもあれば、外務省が主催する行事の準備で走り回ることもあります。国際会議に出席したり会談の通訳を行う仕事もあれば、法令を解釈したり他省庁の意見をまとめたりという仕事もあり、様々な仕事を経験することができます。以前、ある人から『夜遅くまで大変そうだけど、外務省は夢がある仕事をしているからいいですよね』と言われたことがあります。外務省はそんな風に見られているんだなと思うと、疲れている時でも、『がんばろう』という気持ちになりますね。」

語学を磨きつつ、多様性と専門性を追求

 藤本さんの将来の目標を教えてください。「英語は世界中で話されていることもあり、専門地域というものが限定されていないので、これまで私が担当してきた仕事も、ヨーロッパ地域、海外広報、気候変動、経済協力と様々です。現在は、地球環境課にいますので、気候変動室にいた経験も生かし、今後も環境問題を多方面から包括的に担当していけたらいいなと考えています。もちろん英語能力も維持して、いつでも通訳ができるようにしていきたいと思います。」 藤本さん、これからの活躍を楽しみにしています。

好きな言葉・印象に残っているフレーズ

-「こんにちは」という一言にも国柄や地域、その人の身分が反映されるのが興味深いと思います。

 【イギリス】 Hello.(あっさりすますことが多い)

 【アメリカ】 How are you doing? / How are you today? (親しみを込めて話しかけてくることが多い)

 【上流階級】 Good afternoon, Good evening.(昼夜きちんと使い分けることが多い)

 【学生間】 Hi, Hiya.(寮ではこれが多い)

-英語圏でYesは明らかな肯定で「文句ありません」という意味。また、謙遜は禁物。

 つい「Yes」と言ってしまいがちですが、相づちを打つだけなら「OK」や、即答できない場合は「Well」などでお茶を濁しておいたほうが無難です。私が一年目に落第勧告を受けてしまったのも、入学後、先生に調子を聞かれて「いや、私なんて全然授業についていけていませんよ」といかにも日本人らしい受け答えをしてしまったことが一因だと思います。今思えば、わかる授業もいくつかあったので「むずかしい授業もありますがまだ始まったばかりなのでがんばります」と、状況を正確に伝え、前向きな回答をしたほうが良かったと思います。

-手紙の結びの言葉 『Tread Bravely』 (勇敢に歩んでいきなさい)

 結びの言葉には、RegardsSincerely yoursといった定型句がありますが、勉強が辛い時期に課題指導の先生からもらった添削にこの結びの言葉が書かれていて、とても励まされました。


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