2008年10月
Guten Tag(グーテン ターク)=こんにちは!
大学では人と違う言語を始めようと思った堀井さん。当時は、折しもボリス・ベッカーやシュテフィ・グラフなどのドイツ人テニスプレーヤーが活躍していたので、ドイツ語に注目、大学ではドイツ文学を専攻することにしました。さらに、大学4年の時には、交換留学プログラムでドイツの南西部にあるチュービンゲン大学に留学、「もっと深くドイツ語を学びたい」と、プログラムの1年延長を希望。その申請のために留学先の先生が推薦状を書いてくれたおかげもあって、合計2年間ドイツで学ぶことができました。
「ドイツの大学は、入学のハードルが低く、大学では誰でも試験や研究発表など規定の課題をこなせば卒業することができるんですよ」と話す堀井さん。外国人が大学の本科を受講する事にも普通は制限がなく、自由に学ぶ事ができるそうです。更には、教育に必要な費用は税金で賄われるため、大学の授業料が無料!最近は少しずつ費用負担を求める大学も増えているとの事ですが、何とも太っ腹ですね。でも、入りやすくて成り難し、途中でやめてしまう人も多いとか。
お気に入りのフライブルクの町並み
留学や旅行を通じ、ドイツで2年以上学んだ堀井さんは、「ドイツ語を生かした仕事、その中でも通訳をやりたい。」と考え、外務省の採用試験に臨みました。語学試験はドイツ語で受験し、見事合格。外務省での専門言語も希望どおりドイツ語に決定しました。ドイツ語で受験した甲斐があったようですね。
一年間の本省勤務を終えて語学研修のためドイツへ出発する直前、堀井さんは大学時代のクラスメートとめでたくご結婚、そして奥様より一足先にドイツへ向けて出発しました。堀井さんがドイツ語研修先に選んだのはフライブルク大学で、以前、交換留学で学んだチュービンゲン大学と同じバーデン=ヴュルテンベルク州にあります。早速、フライブルクで家探しを始めました。「家探しなど、自分の生活をすべて自分で手配・確立していくことも研修の一環なんです。それによって語学力が身に付いてくるんです。」 しかし、時期は9月、新学期が始まるため、多くの学生が寮やアパート探しに集中。とりあえず、堀井さんは奥様がドイツに来るまでの3か月の間、学生寮生活やルームシェアをしながら、家探しをすることになりました。学生寮は最初の1か月間しか空きがなく、その後の2か月間は、3階建ての家を10人で借りるルームシェアをしたものの隣室の大型犬に悩まされ、その後の家探しに至っては10件見ても良い物件にあたらず、散々でした。困った堀井さんは地元の新聞に「家借ります」と広告を出したところ、なんと数件の電話がかかってきました。いくつか見た上で、とても良い物件を見つけることができました。なんでも前向きにやれば希望は叶うのですね。
堀井さんは、フライブルク大学では、外国人の多い講座を極力減らして、ドイツ人とともに学べる「地元クラス」を多く受講。ドイツ人とともに政治学やフランス語を学び、色々な角度からドイツ語の勉強をしました。なかでも大変だったのは、政治学入門コースの一環である「プレゼンテーション講座」。学生が1人ずつ3分間スピーチをするところをビデオで撮影、直後に全員で自分の姿を再生ビデオで見るというもの。「スピーチの合間、自分が『アー』とか『ウー』とか言うことが多かったり、頭を掻く自分の仕草を目の当たりにして、とても恥ずかしかったですが、学ぶことが多く、とても新鮮な講義でした。」
日本語とドイツ語のタンデム・パートナーのボリス。家族ぐるみのつきあいとなりました。
さて、大学生活にもなれてきた頃、堀井さんは通訳のシミュレーションをしたいと考えていました。そのためには、ドイツの要人役をしてくれる相手が必要です。そこで、タンデム・パートナー(自分の母国語を相手に教える代わりにドイツ語を教えてくれる人のこと)を探そうと大学の掲示板に広告を貼りました。しかし、その頃フライブルク大学で日本語を習うドイツ人は少なく、なしのつぶて。でも、そんなことには負けない堀井さん、今度は、ドイツ人のための日本語入門講座の教室に乗り込み、20人ほどの学生に向かって「僕のタンデム・パートナーになってくれる人はいませんか?」とアピール。しかし、学生の反応はなし。教室を見回しているうちに、日本語の教科書をじっと見つめるドイツ人を発見したので話しかけたものの、そのドイツ人は、自分の日本語能力が高くないのでタンデム・パートナーは難しいと遠慮。そんなことにはくじけない堀井さん、なんとか彼をくどきおとします。そしてこの彼こそが、堀井さんの唯一無二のタンデム・パートナーとなり、家族ぐるみでつきあうようになったのです。
「フライブルクでは、いつもタンデム・パートナーのボリスと一緒でした。本当に楽しかった。」と想い出を語る堀井さん。堀井さんがドイツ語の小論文を苦労して書き上げると、いつもボリスがアドバイスを惜しまず、自然な表現や語彙を説明したそうです。
また、堀井さんは奥様と一緒に定期的にボリスの家に招かれ、ボリスの家族やその友人達と様々な話をしたそうです。ボリスのお父さんは地元の裁判所の裁判官だったので、話題は法制度や社会問題から政治・経済に至るまで非常に広範囲に及び、ドイツと日本の現状を交互に話し合ったそうです。「ボリスの家の居間は、友人や近隣住民が出入りする交流サロンとなっていましたね。食事をとったりワインを飲んだりしながらドイツ人達と幅広い話題について飽きることなく話し合いました。難しい単語もたくさん飛び交っていたこともあり、本当に勉強になりました。」フライブルクでの語学研修では、ボリスは欠くことのできない大切な存在となったのですね。
フライブルク大学での研修を終了した後は、ベルリンの在ドイツ日本大使館に勤務することになりました。経済班で仕事をしながら、念願の通訳をすることになりました。「大使はドイツ語の専門だったので、直接、大使通訳をすることはありませんでしたが、大使とドイツ政府の要人との会談のメモを取ることは、通訳を行う上で非常に勉強になりました。大使館勤務中、日本からの来訪者の通訳は5回ほど経験しました。」と堀井さん。一番大変だった通訳は?と尋ねると、「ドイツは東西南北で、かなり言葉の方言や発音の違いがあるんです。あるドイツ要人の通訳をしたのですが、その方はとても早口な上、方言がきつくて、7割くらいわからなかったように思います。会談の内容も事前に勉強してきたのですが、聞き直してもわからないんですよ(笑)。本当に困りました。」
G8洞爺湖サミットでの日独二国間会談において、
和やかな雰囲気の中、両国の共通認識を確認しました。
在ドイツ日本大使館での勤務を終え、帰国後、日本でも通常業務の傍ら通訳をしていたとのことですが、2008年6月、福田総理(当時)が、ドイツ、英国、イタリアを公式訪問した際も、堀井さんは総理に同行し、ドイツのメルケル首相との会談の通訳を務めました。7月7日~9日に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、総理とメルケル首相の二国間会談の通訳を行いました。サミット開催の当日は、運悪く天候がすぐれず、各国首脳の乗った飛行機が遅れがちでしたが、日独の会談は無事行うことができたそうです。会談では、クリーンエネルギー活用や温室効果ガス排出削減が主なテーマとして話し合われ、日独はバイオエネルギー等が重要という共通の認識を示したそうです。「ドイツでは、太陽エネルギー発電や風力発電が盛んで、経済省やいくつかのホテルの屋上にはソーラーパネルが取り付けられていますし、道路脇に小型のソーラーパネルが建てられています。また、風力発電量は世界一を誇っているんです。」と堀井さん。二国間会談が終了すると、メルケル首相は総理や幹部と握手をし、その別れ際、首相は堀井さんに気がつき、「あら」と反応し、握手をしてくれたそうです。名前は知らなくとも、堀井さんの事を覚えていたんですね!
ドイツの父と母(左2人)が孫を連れて
ベルリン勤務時代に遊びに来てくれました。
堀井さんには、『ドイツのお父さんとお母さん』がいるそうです。堀井さんが大学でドイツ文学を専攻し始めた頃、大学において開催されたドイツ人との交流会で知り合いになったナイランドさん(写真左側)です。ナイランドさんがドイツに帰国してからも交流を続けていた堀井さんは、ドイツではナイランドさん夫妻の自宅に何度も足しげく通い、一緒に森の中を散歩しながら、草花の話をしたりドイツ民謡を歌ったりしたそうです。
「外務省の公式のレセプションや交流会でドイツ人と話しているとき、特殊な木の実の名前をドイツ語で言ったり、ドイツ民謡を口ずさんだりすると、結構みんな驚いたり笑ったりするんです。『なぜそんなドイツ語や歌まで知っているんだ?』という感じです。普段のドイツ語の勉強では覚える機会のない分野の事でも、自然と記憶に残っていったのは、何気ない会話の中で色々な事を教えてくれたドイツのお父さんとお母さんのおかげです。」
堀井さん、これからも専門家としての新たな道を切り開いていってください。
Alles Gute(アレス グーテ) 幸運を祈る
Kopf hoch, Brust raus, h_lt die Ohren steif(コプフ ホッホ、ブルスト ラオス、 ヘルト ディー オーレン シュタイフ) 上を向いて、胸を張って耳をピンとたてろ
Eifersucht ist eine Leidenschaft, die mit Eifer sucht, was Leiden schafft.(アイフェルズフト イスト アイネ ライデンシャフト、 ディ ミット アイフェル ズーフト ヴァス ライデン シャフト) やきもちというのは、懸命になって悩みを抱える情熱だ
★ドイツ語を主要言語とする国: ドイツ連邦共和国、オーストリア共和国、ベルギー王国の一部、スイス連邦の一部、リヒテンシュタイン公国、ルクセンブルク大公国の一部