チャレンジ41カ国語 ~外務省の外国語専門家インタビュー~

チャレンジ41カ国語~外務省の外国語専門家インタビュー~

ポーランド語の専門家 牧野さん

(写真)旧市街広場の中心に立つジグモント3世像
旧市街広場の中心に立つジグモント3世像

Cześć(チェシチ)=こんにちは!

 牧野さんは、大学では修士課程でドイツ詩について研究していました。大学で学んだドイツ語を活かした仕事に就きたいと外務省を受験しました。もちろん研修希望言語も第一希望はドイツ語。しかし、合格してみると外務省からは、「お隣の、ポーランド語でお願いします」とのこと。
「結局はポーランド語を勉強し、ポーランドに関わることができたことに、とても満足しています。」
今では、ポーランドが大好きな牧野さんです。

国は隣同士でも、言語は「隣ではない」

 「まずは百科事典で“ポーランド”という単語を引くことから始めました。」
実は牧野さん、第三希望にポーランド語を挙げていたのですが、それまではポーランドについてはほとんど知識がなかったそうです。ましてやポーランド語に至っては、
「どんな言語なのか想像もできませんでした。」
ポーランド語は、スラブ語系の言葉です。それまで牧野さんが勉強していたドイツ語はゲルマン言語系ですから、この2つの国は確かに隣り合ってはいるものの、言語としては決して「お隣」ではないのです。

キリスト教と一緒にラテン語が入ってきた

 でも、大学ではヨーロッパの文学をよりよく理解するためにラテン語も勉強していましたから、
「ポーランド語は、ラテン語と語形の変化が似ていて、勉強する上では、ラテン語の知識が役に立ちました。」
ポーランドは、中世に国家として成立していきますが、この時期に、キリスト教カトリックを受け入れ、今でもとても敬虔なカトリックの国として知られています。ヨハネ・パウロ前ローマ法王もポーランド出身です。カトリックを導入することにより、ポーランドは、西ヨーロッパ文化圏、さらにはラテン文字アルファベット圏に帰属するようになりました。ですから、ラテン語との共通点が多いのだそうです。

丸暗記の効用

 東京でのポーランド語の授業は、厳しい先生の下、マンツーマンでスパルタ教育を受けました。
「一冊の文法書を、そこに載っている全ての例文を“丸ごと”暗記させられました。一週間に40前後の文例を丸暗記。毎週テストがあるので必死で暗記しました。その本が終わると今度は別の入門書を一冊丸暗記。」
文法や語彙を、自然な例文と共に丸暗記するというこの方法のお陰で、牧野さんは、スラブ系言語の専門家の多くが陥る、現地に到着して自分の言いたいことが伝えられないという問題が全くなかった!といいます。(格変化の多いスラブ語を勉強する上での問題点については、これまでご紹介したスロバキア語、チェコ語の専門家インタビューをご覧下さい。)

(写真)広報文化担当官として音楽祭式典に出席。   (写真)広報文化担当官として音楽祭式典に出席。
広報文化担当官として音楽祭式典に出席。

着いたその日から自然に会話が...

 「おかげで、着いたその日から、何不自由なくすぐに生活できました。お肉屋さんで、『このハムを切って下さい』とか、郵便局で『切手を下さい』とか、自然に口をついて出てきました。スラブ語系は、日本人にとっては文法がすごく複雑なので、考えていると言葉になりません。ですから、丸暗記は良かったですね。」
と、今では厳しかった先生に感謝している様子。

バルト海を眺めながら涙の日々

 牧野さんのポーランド生活は、バルト海沿岸のリゾート地、ソポトでの1カ月のサマーコースから始まります。リゾート地とは言っても、地方の小さな町であるソポトでは、当時アジア人は非常に珍しく、電車を降り立った牧野さんに、みんなの視線が集中するのを感じたそうです。街を歩いてもジロジロ見つめられ、子どもたちからはからかわれ・・・牧野さんは出かけるのも嫌になり、バルト海を1人眺めつつ、
「この海を越えて違う国に行きたい・・・(涙)」
幸い2カ月目からは首都ワルシャワの語学学校に移り、各国から来た留学生たちと楽しく授業を受けられるようになりました。

日本がモテモテ

 本格的な研修は、ポーランド南部にある世界遺産、古都クラクフのヤギエウォ大学で始まりました。ソポトの街のような経験もありましたが、ポーランドでは、一般的に日本に対する関心が非常に高く、日本がとても尊敬されているのだそうです。日本のことを「桜の花咲く国」と呼び、「私たちはロシアを挟んで隣国だから。」と言ってくれる人も多かったとか。
「大学の入学式に出たら、すぐに学生たちに取り囲まれて、日本に関する質問をたくさん浴びました。日本の武道の精神やお節料理に込められた意味について、過労死について、ポケモンのキャラクターについてなど、答えに窮するものが大半でした。とにかく日本が大人気で、憧れの国なんだそうです。アジアに対してあまり良い感情を持っていない人でも、日本は別格。」

どこから来る日本人気?

―日本に対する感情が良いのはどうしてですか?
 「歴史的な交流の成果かもしれません。
1920年代頃、ロシア革命の時代にシベリアに送られ、劣悪な環境に置かれていたポーランド人の孤児たちを、日本赤十字社が保護して治療を行い、祖国に帰したことなど、美談がたくさんあります。この話は、数年前に日本のドラマにもなっていました。」

ヤギエウォ大学で、牧野さんは、ポーランド文学とジャーナリズムの授業を受けますが、この大学の日本語学科は、学生の入学したい学科の上位に入るという人気振りだそうです。当然日本語学科の生徒は非常に優秀です。

(写真)ワジェンキ公園のショパン像
ワジェンキ公園のショパン像

厳しい勉強と週末のディスコ

 こうして牧野さんは、ポーランド人の友人をたくさんつくり、大学の学生寮にも入り浸っていたそうですが、ポーランドの学生たちは普段どんな生活をしているのでしょう。
「彼らの息抜きは、週末のディスコ。ウォッカを飲んで、音楽をかけっぱなしで、朝まで踊りっぱなしです。ただし、普段はものすごく勉強します。例えばポーランド文学科では、1日1冊の本を読むことが課され、しかも隅々まで読んでいないとわからないような問題が試験に出てきます。『あの時、主人公が彼女に渡した花の種類は?』とか。だからポーランド人の学生は、アメリカやヨーロッパに留学すると、『秀才』と呼ばれる人が多いみたいです。」

バランスのいいポーランド人

 「現在のポーランドでは、失業率が19%と言われ、若者がなかなか就職できない状況です。ですから若者はみんなアメリカや北欧、イギリス、そして日本などに出たがっています。また、外国文化に対して興味津々で、異質なものを受け入れるという心の大きさがあります。そうやって外の世界に向かって開けている一方で、常にお隣のドイツやロシアといった大国の支配や占領に苛まれてきたという不幸な歴史のせいからかもしれませんが、自分たちの文化を守ろうという強い気持ちもあるので、バランスがとてもいいと思います。」

ポーランド人から学んだこと

 こうしてポーランドの人々を絶賛する牧野さんに、ポーランド人気質を聞いたところ、
「かなり愚痴が多いんですよ(笑)!雨が降っても文句を言い、天気が良くても文句を言う。『太陽が眩しくてくしゃみがでちゃう!』なんて。まるで挨拶代わりに愚痴っています。でも、愚痴を言うとすっきりしてしまうみたいで、最終的には明るいんです。」
そんなわけで、牧野さんが、研修と、大使館勤務とを含めて計4年間のポーランド生活で学んだことは、「個人主義が徹底しているので、皆ひとりひとりが自分の意見をはっきり持っています。私も自分はどうしたいかをちゃんと考えて行動するようになりました。ポーランド人の明るさ、たくましさも見習いたいと思いました。」


牧野さんのポーランド語

好きな言葉

 kraj kwitnącej wiśni (クライ・クフィットノンツェイ・ヴィシニィ)
 ~桜の花咲く国 (=日本の別称です)

便利なフレーズ

 Jestem przeziębiona. (イェステム プシェジェンビョーナ(女性型))
 ~風邪を引いています (=本当に体調が悪い時のみならず、ディスコの誘いから逃げる時にも便利です。)

ポーランド語を主要言語とする国: ポーランド共和国

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