チャレンジ41カ国語 ~外務省の外国語専門家インタビュー~

チャレンジ41カ国語~外務省の外国語専門家インタビュー~

デンマーク語の専門家 松本さん

Goddag! (首都のコペンハーゲンでは“グデー”、ユトランド半島では“グッダウ”)=こんにちは。

 松本さんはクラシック音楽が大好き。シューマンやブラームス、ベートーベンなどに憧れて趣味で勉強していたドイツ語で外務省を受験。それまでは大学院で社会学を研究していました。当然ドイツ語の専門家になれるだろうと思っていた松本さんですが、そこは外務省、一筋縄ではいきません。待っていたのはデンマーク語専門家への道。

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コペンハーゲンの中心、コンゲンスニュートー広場。

デンマーク語に決定!

 「デンマークについては、本当になにも知らなかったので、研修語学がデンマーク語と決まったときは、ただ、ただ、驚きました。」
 と松本さん。しかしドイツ語もデンマーク語も同じ北方ゲルマン語族。やはり似ているところもあるようです。外務省研修所のデンマーク語の先生が、たまたまドイツとの国境に近い地方のご出身で、ドイツ語が流ちょうな方でした。そこでデンマーク語の授業をドイツ語で進めてもらうことに。似ている言葉なので、その方が日本語から勉強するよりもスムーズだったといいます。

「もごもごしてる」

―初めてデンマーク語に触れてみての印象は?
 「発音が難しい!書いてあるのに読まない文字があったり、想像も出来ない読み方をしたり。聴き取りも大変で、もごもごして聞こえるんです。(笑)」
 発音が非常に難しい上に、きちんと発音ができていないと現地の人には全く通じないので、外国人にとっては一苦労。デンマーク語の発音の難しさは、なにも日本人に限ったことではなく、松本さんの観察によると、欧米人でも上手に発音出来ている人は少ないようです。

発音が悪いと家に帰れない?

 「最初の研修の頃に住んでいた下宿の通りが、Parallelvejという名前。この“r”の発音が難しくて、タクシーの運転手さんになかなか伝わらない。発音が悪い、イコール家に帰れない!から、死活問題です!!」
 デンマーク語を専門に勉強している松本さんでさえそんな感じですから、大使館の館員でデンマーク語を専門としていない人たちにとっては、事態はもっと深刻だったそうです。

 発音の難しさは特筆に値する、と松本さん。一説には母音が9~10個、分類の仕方によっては25個もあるということで、カタカナ表記にどうしても置き換えられないようなあいまいな発音が多くあります。そんなわけですから、松本さんは、とにかく発音を勉強することに重点をおき、自分が発音したものをテープに吹き込んでチェックする練習を繰り返し行いました。

文法は楽勝

 既にドイツ語を習得していた松本さんだからかもしれませんが、発音に苦労する分、デンマーク語の文法は難しくないのだそうです。
 「文法は簡単。動詞の活用が少なく、主語が「私」でも「彼」でも「あなたたち」でも述語の動詞は同じ形。またドイツ語のように複雑な格変化もありません。」
 名詞も、昔は男性名詞と女性名詞と中性名詞の3つがあったそうですが、現在では男性名詞と女性名詞が一緒になった「共性名詞」と、中性名詞の2種類だけ。不定冠詞は名詞の前に、定冠詞は形容詞がつかない場合は名詞の後ろに付く、といったルールもきちんと決められているので、勉強しやすいそうです。

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級友と、先生のお宅に招かれて。

フォルケホイスコーレ

 松本さんは、500近い島々から成るデンマークの中でもユトランド半島というところを研修地に選びます。1年目は、デンマーク語を基礎からしっかり学ぶために全寮制の語学学校に入学しますが、その学校、日本人から見るとちょっとユニークな学校でした。
 「デンマークには、フォルケホイスコーレ(英語だとFolk High School、日本語に訳すと国民高等学校)という、18歳以上の人であれば誰でも無試験で入学でき、かつ、学期中もテストが行われないという、成人教育のための全寮制の学校が各地にあります。」

語学と農学

 「私の通ったフォルケホイスコーレは、農家の跡継ぎが学ぶような農学科と、デンマーク人が外国語を学ぶため、もしくは、外国人がデンマーク語を学ぶための語学科がありました。農学と語学という一見全く関係のない学科が、ひとつの学校で行われているのは日本人から見るとユニークですが、これは、フォルケホイスコーレが、1800年代に農民の啓蒙のために始まった歴史と関係があるようです。」

デンマーク産豚肉

―デンマークでは農業が盛んなイメージがありますね。
 「あまり知られていませんが、輸出品は医薬品や化学製品が多いのです。でも、たしかに畜産も盛んですね。実はデンマークの日本向け輸出の半分は豚肉で、ほとんどはハムやソーセージなどの加工用になりますが、たまに私の家の近くのスーパーでもデンマーク産豚肉が売られています。意外なところでデンマークと日本はつながっているんですよ。日本人にとっては、デンマークといわれて思い浮かべるのはアンデルセンくらい、という人が多いかもしれませんが・・・。」

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同じ寮の友達とは家族のように仲良くなりました。デンマーク、ドイツ、ブラジルやグリーンランドのほか、
イランやコートジボワールから難民として、家族と別れて一人でデンマークへ来た人も。

羨ましい!フォルケホイスコーレの学生生活

 松本さんが研修をしていた平成10年頃のデンマークは、左派の社会民主党が第一党となっていて、年間4~5,000人もの難民をアフリカのソマリアやルワンダ、中東、コソヴォなど世界各地から受け入れていました。この人々の多くは、デンマーク社会にとけ込むために、まず、フォルケホイスコーレなどでデンマーク語を習っていましたから、松本さんのクラスも国際色豊か。日本では知り合うことのなかった難民の人たちとじかに接することができ、貴重な体験だったといいます。
 学校は全寮制で、平屋作りの小さな寮が敷地内に点在している造りになっています。ひとつの寮にデンマーク人と外国人があわせて10名くらいうまく配分されており、食事は3食とも学生の全員が食堂に集まって一緒に食べるので、友達を作るのに苦労はなかったようです。それでいて無試験の学校なんて、羨ましい!

デンマークのテレビは英語の吹き替えなし

 松本さんは、研修の2年目は編入試験を受けて、デンマーク第2の都市であるオーフスの大学の政治学部に入学します。オーフス大学はまるで公園の中に大学があるような緑に囲まれた大学。
 「デンマークのテレビでは、アメリカやイギリスのテレビ番組が、吹き替えなしでデンマーク語の字幕付きでそのまま放送されています。子どもの頃からそうした環境で育ってきたデンマークの人たちは、ほぼ100パーセント英語を話します。大学の授業では、ディスカッションはデンマーク語ですが、そのための資料は英語で大量に読んでこい、という感じで、英語の読解力もつきました。」

 松本さんは、現在、ASEM(アジア欧州会合)という、アジアとヨーロッパの関係強化を目指した取組を担当しているアジア欧州協力室という部署で、社会と文化について担当しています。ヨーロッパでの経験と、社会学を研究した経験を活かして活躍中の松本さん。

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オーフス大学の友人と、大晦日に。花火や爆竹を鳴らして大騒ぎします。

デンマーク人の心意気

 デンマークは森に囲まれた美しい国。でもただ自然に恵まれているわけではないようです。デンマーク人の最もポピュラーな交通機関はなんだと思いますか?『自転車』だそうです。自転車用の道路が良く整備されていて、車道・自転車道・歩道の三つでワンセットがふつう。皆、慣れていて、競技並みのスピードで走る人もいるし、国会議員の先生なんかも自転車通勤しているそうです。環境を大切にするデンマークの人たちの心意気を感じました。


松本さんのデンマーク語

面白い表現

 Ingen ko på isen.(インゲン コ ポ イーセン):氷の上には一頭の牛もいない → 問題(危険)なし、ノープロブレム。

 bøje armen(ボイエ アーメン): 腕を曲げる → ビールを飲む

 Wienerbrød(ヴィーナーブロィ): ウィーンのパン → デニッシュ・ペストリー

発音が難しいフレーズ

 Rød grød med fløde(ロズ グロズ メッ フルーゼ):ベリーのコンポート生クリームがけ

ことわざ、決まり文句

 Bedre sent end aldrig.:遅くても全然やらないよりまし。

 Uden mad og drikke duer helten ikke.:食事と飲み物なしでは英雄ももたない → 腹が減っては戦はできぬ

 Den, der kommer først til mølle, får først malet.:最初に粉引き小屋に来た者が最初に粉を挽いてもらえる → 早い者勝ち

 Sælg ikke skindet før bjørnen er skudt.:熊を撃つ前に毛皮を売るな → 取らぬ狸の皮算用をするな

 Vi ses!(ヴィ シース):さようなら、またね。(顔見知り同士で使う表現)

 Tillykke!(ティルリュッケ):おめでとう。

デンマーク語を主要言語とする国: デンマーク王国

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