外務大臣談話
WTO上級委員会の機能停止とWTO改革について
(外務大臣談話)
1 世界貿易機関(WTO)の上級委員会が,12月10日,新規案件の審理を開始できない事態に陥りました。加盟国間では,かねてより上級委員会が紛争の明確かつ迅速な解決を確保するという本来の役割を果たせていないとの強い懸念があります。我が国もこの懸念を共有するとともに,上級委員会の改革は喫緊の課題であると考えています。
2 近年のWTOが,保護主義や不公正な貿易慣行,また,技術革新等がもたらす新たな課題に十分に対応できていないことを踏まえ,我が国は,WTO改革に向けた取組を推進してきました。例えば,WTOが,デジタル経済の新たなルール作りに取り組むよう,電子商取引交渉を共同議長としてけん引し,また,「大阪トラック」を通じこれを促進しています。
3 11月のG20愛知名古屋外務大臣会合では,上級委員会が抱える問題の解決を始めとするWTO改革の必要性について切迫感を共有しました。また,上級委員会が抱える問題について,我が国は,既に本年4月にWTOに提案を出し,議論に貢献してきました。来年6月の第12回WTO閣僚会議に向け,改革の諸分野で実質的な進捗が得られるよう,日本として加盟国間の議論を一層積極的に主導してまいります。
[参考1]上級委員会の機能停止
(1)WTO紛争解決制度は,いわゆる二審制をとっており,第二審として最終的な裁定を行う上級委員会は,7名の委員で構成され,3名で一事案の審理を担当。
(2)上級委員会制度に関しては,従来加盟国の一部から越権行為など具体的な懸念が提起されていたところ,2017年からは上級委員の選出手続が全加盟国の同意が得られずに停止し,一部の空席が続いていた。
(3)本年1月から,上級委員会問題について集中的に議論を行うため,WTO一般理事会非公式プロセスが開始,4月には,日本も豪・チリと共に改革案を提出。また,12月9日から11日のWTO一般理事会において,非公式プロセスの議論の結果を集約した解決案が示されたが,コンセンサスに至らず。
(4)上級委員会は,12月10日をもって,現職3名のうち,2名の任期が切れて,新規案件の審理が事実上不可能な状況となった。
[参考2]上級委員会が抱える問題に関する日本提案(豪州及びチリとの共同提出)
上級委員会の役割・機能に関する現行の規定を改めて確認し,その内容を明確化するとの決定を採択するよう加盟国に提案するもの。明確化すべき規定の具体的な内容として,これまで加盟国から提起されてきた懸念や疑問点(上級委員会の審査範囲,審査期限の遵守,判断の先例的価値など)が含まれる。
[参考3]WTO改革の現状
紛争解決手続の改革に加え,以下の点が課題として認識され,現在議論が行われている。
(1)現行のWTO協定が新興国の台頭など世界経済情勢の変化を十分に反映していないこと等を背景に,21世紀の現実を反映したルール作りを行えるよう交渉機能を再活性化すること。現在,デジタル経済のルール作りに向け,我が国は,豪州,シンガポールを共同議長として,80か国以上の有志国による電子商取引交渉を行っている。また,我が国は,本年6月のG20大阪サミットの機会に「大阪トラック」を立ち上げ,本交渉を始めとするデジタル経済に関する国際的なルール作りを主導している。
(2)WTO協定上の通報義務が十分に遵守されていないこと等を受け,協定履行監視機能を強化すること。