世界一周「何でもレポート」
チャレンジ!外国語:外務省の外国語専門家インタビュー
イタリア語の専門家 和田光宏さん
Buongiorno!(ボンジョルノ!)=こんにちは!
今回は、本年(2026年)に日本との外交関係樹立160周年を迎えたイタリアに焦点を当て、現在、イタリアのミラノに勤務しているイタリア語の専門家、和田光宏さんにお話を伺いました。和田さんは2026年現在、イタリア北部の経済・文化の中心地に位置するミラノの日本国総領事館で、首席領事を務めています。
1 イタリア語との出会い
まず、イタリア語との出会いについて教えてください。
「大学でイタリア語を専攻したことが始まりです。元々、中学生の頃から英語が好きで、高校生の時には大学では外国語を専門に学びたいと考えていました。ある外国語大学の案内を眺めていた際、古代ローマに端を発するイタリアでは、文字通り『ローマ字』が使われており、日本人にとって親しみやすいと書かれていたことに惹かれました。加えて、食文化、サッカー、陽気な国民性、そして真っ青な空といったポジティブなイメージも、私がイタリア語を選んだ大きな理由です。」
古代遺跡の街・ローマ
大学でイタリア語を専攻され、卒業後は、すぐに外務省を目指されたわけではなく、一度民間企業に就職されたそうですね。
「その通りです。大学在学中には、イタリア語を活かせる具体的な就職先をイメージできませんでした。そのため、一般的な就職活動を経て、新卒で民間企業に入社しました。しかし、2年弱で退職し、次の仕事について考えていた時に、大学時代の友人が『外務省にはイタリア語を専門とする職種がある』と話していたことをふと思い出したのです。そこから半年間の集中的な学習期間を経て、外務専門職の試験を受験しました。当時26歳になっていましたが、結果として希望通りイタリア語の専門職として採用されました。」
大学時代に出会ったイタリア語の世界に再び戻られたのですね!友人との会話が外務省との縁に繋がったというエピソードも大変興味深いです。
2 イタリア語は簡単?難しい?
次に、イタリア語の特徴についてお聞かせください。基本的に母音と子音がセットになっていて発音が明確なため、「pomodoro(ポモドーロ)」=トマト、「pizza(ピッツァ)」=ピザのように、日本人にとって発音するのが比較的容易だと聞いたことがあります。
「はい、ハキハキと発音すれば教科書に載っている標準イタリア語には近づきます。ですが、諸外国による支配や、都市国家として独自の発展を遂げてきた歴史を持つイタリアでは、各地の方言が非常に多種多様なんです。日本でイタリア語の基礎を学んでいても、イタリアの地方に在住する人々の会話は、ほとんど理解できず、外務省に入省後、イタリアに在外研修(留学)に出た頃はよく落ち込んだものです。」
イタリアの国土面積は日本の約5分の4程度とやや小さいですが、日本の各地の方言と比べても、イタリア語の地域ごとの差異は非常に大きく、方言というよりも、もはや異なる言語に近いと言われているそうです。
そのような言語環境の中でも、特にローマよりも南の地域で見られがちな「piano piano(ピアノピアーノ)」=ゆっくりゆっくり、や「vediamo(ヴェディアーモ)」=また考えよう、といった精神のおかげで、和田さんも、肩の力を抜くことができたと語ります。
また、日常で使える便利な表現についてもいくつか教えてもらいました。
「In bocca al lupo!(イン ボッカ アル ルーポ!)」
「Crepi il lupo!(クレーピ イル ルーポ!)」
直訳すると「オオカミの口の中へ!」、「オオカミが死にますように!」となりますが、実際には「頑張ってね!」、「ありがとう、頑張るよ!」という意味で、重要な試験に臨む前や転職など新たな環境での成功を祈る際に使われる、とても便利な表現だそうです。
「Ci mancherebbe altro!(チ マンケレッベ アルトロ!)」
お礼を言われた時の返事である「もちろんだよ!」や頼み事をされた際の返事である「遠慮なくどうぞ!」という意味で使われ、気持ちよく対応するニュアンスが出るので、和田さんは気に入っているそうです。
3 本当の「イタリア」はどこに?
イタリアでの生活について教えてください。和田さんは、外務省に入省後の中北部の都市ボローニャでの在外研修(留学)、その後、首都ローマにある在イタリア日本国大使館での2度の勤務、そして現在のミラノでの勤務を含め、外務本省や他国での勤務を挟みながら、イタリアに通算8年ほど在勤されていますね。
ミラノの大聖堂
ミラノはデザインやファッションの発信地(ミラノサローネにて)
「イタリアという国は『こんな国です』と一言では到底語り尽くせないほど、言語と同様に多様性に満ちています。」
言語の地域差が大きいことに加え、地域により人々の気質の違いも大きそうですね。生活をしていて特に感じることはありますか。
「北部の人は、どちらかと言うと日本人に多い生真面目タイプが多いと思います。例えば、約束の時間はきちんと守るし、パーソナルスペースも日本人に近いでしょう。一方で、南部の人は、とにかく大らかで、声が大きく人情に厚い。少しルーズなところがありますが、それも愛嬌という感じですね。ちなみに、家族への愛と夏のバカンスへの情熱は、イタリア全国共通ですよ!」
また、気候、食文化、歴史的背景の違いから生じた独自性が、今も各地で色濃く残っているのがイタリアの大きな魅力の一つだと和田さんは言います。それぞれの独自性を発見していくうちに、イタリアへの愛着がますます深まっていくそうです。
4 イタリアでの仕事
イタリアで経験した仕事の中で特に印象に残っているものを2つ教えてもらいました。
(1)2017年のG7サミット(シチリア島タオルミーナ)
一つ目は、2017年に首都ローマの日本国大使館に勤務していた際、イタリア半島の南西端に位置する、地中海最大の島シチリアのタオルミーナで開催されたG7サミットだそうです。
G7首脳歓迎式典(タオルミーナの古代劇場にて)
大使館の業務の一つに、総理大臣や外務大臣などが出席する国際会議や首脳会談が所在地で行われる際の準備・調整業務があります。外務省では、運営・段取り全般を担う後方支援業務を「ロジ(ロジスティクス)」と呼びますが、総理大臣などの首脳が参加するG7サミットでは、ロジ業務は非常に大規模で綿密な調整が必要になります。
大型行事のロジ業務は、総理大臣が利用する車両や宿舎の手配、G7全体会合や多数の二国間会談の調整、メディアからの取材機会の調整など多岐にわたりますが、直前まで物事がなかなか決まらないことが多いですよね。
「そうなんです。このサミットの際も、イタリア特有の『大らかさ』からか、事前の調整が一向に進まなかったのです。例えば、イタリア政府が各国の首脳に提供するG7サミット会場までの移動手段の電動カートがなかなか到着せず、日本の総理大臣が会場に時間通りに到着できるかやきもきする場面がありました。この時は、首脳行事の担当官として、イタリア語をフル活用して、イタリア人のドライバー一人一人に電話をかけて集合場所に誘導し、なんとか総理の出発予定時刻までに電動カートのスタンバイが完了しました。」
これは苦労したほんの一例だそうで、今思い返しても、ドラマのような出来事が続き、まさにスリリングな経験をされたそうです。
(2)イタリアでの日伊外交関係樹立160周年記念行事
本年(2026年)、日本とイタリアは外交関係樹立160周年を迎え、イタリア各地で記念行事が行われているそうですが、在ミラノ日本国総領事館が管轄するイタリア北部地域でも、日本関連のイベントが数多く開催されているそうですね。
「トリノ祭り2026」で挨拶をする和田さん
「トリノ祭り2026」での武道パフォーマンス
「私は在ミラノ日本国総領事館を代表して、多くのイベントに出席させてもらっています。イタリア語で大勢の人の前でスピーチする時はいつも緊張しますが、主催者の方々の日本に対する熱い思いや、日伊関係促進への情熱に触れると、いつも大きな喜びを感じます。」
その喜びこそが、日伊関係をさらに深める原動力になると和田さんは語ってくれました。
ミラノ聖心カトリック大学での被爆者及び平和に関する講義とコンサートでスピーチをする和田さん
5 二国間関係への希望・自身の抱負、日本の次世代を担う若い方々へのメッセージ
二国間関係への希望と今後の抱負についてお伺いしました。
「『遠くて近い国』である日本とイタリアは、食文化や伝統工芸など共に世界に誇る文化を持ち、長きにわたりお互いに憧れる存在でした。近年は、首脳間の緊密な関係や二国間関係の『特別な戦略的パートナーシップ』への格上げにより、安全保障・防衛、経済・産業、科学技術など、様々な分野で協力が拡大しています。今年(2026年)は日伊外交関係樹立から160年という記念すべき年ですので、ここミラノから、さらなる日伊関係強化の一助となれるよう、日々業務に取り組んでいます。」
日伊外交関係160周年記念ロゴ(在ミラノ日本国総領事館)
最後に、日本の次世代を担う皆さんへのメッセージをいただきました。
「外務省には、学生時代から外交官を志してきた人、私のように回り道をしてから語学をきっかけに外交の世界に足を踏み入れる人など、多種多様な人材を受け入れる懐の深さがあります。地道な調整や交渉を積み重ねて、首脳や閣僚などの外国訪問が成功に終わったときの達成感は他では味わえないものです。外務省の仕事に関心のある皆さんは、外交官を職業選択の一つにして、将来ぜひ外務省の門をたたいてみてください。」
和田さん、Grazie(グラーツィエ)=ありがとうございます!
