エキスパートたちの世界

外交の舞台裏を支える「ロジ」のプロ

令和8年7月22日

 外務省には、語学や国・地域の専門家だけでなく、様々な分野を専門とする「専門官」に認定されたエキスパートたちがいます。今回は、2013年度に外務省の初代「ロジスティクス専門官」の認定を受け、現在は在フランス日本国大使館に勤務する小澤誠一等書記官にインタビューしました。外務省では行事に係る事務的な後方支援を「ロジスティクス」(ロジ)と言います。
 小澤さんは、直近では令和8年6月にフランス・エビアンで開催されたG7サミット(注)をはじめ、これまで数々の国際会議や首脳会談等で「ロジ」業務を担ってきました。そんな「ロジ」のプロに、業務の内容やこれまでの経験について語っていただきました。

(注)「G7サミット」は、主要7か国(G7)およびEUの首脳が参加して毎年開催される「主要国首脳会議」のこと。英語の「山の頂上(サミット)」に由来し、各国のトップ(頂上)が一堂に会して国際的な重要課題について議論が行われる。

1 どのようなことがきっかけで、ロジスティクス分野に関心を持たれたのですか。

 若手だった1999年に、G7サミットやアジア太平洋経済協力(APEC)を担当する経済局総務参事官室(当時)に配属されたのがきっかけです。
 これまでに、日本が主催したG7サミット(2000年九州・沖縄サミット、2008年北海道洞爺湖サミット、2016年伊勢志摩サミット、2023年広島サミット)、横浜APEC(2010年)、G20大阪サミット(2019年)、アフリカ開発会議(2008年、2013年、2016年)など多くの首脳レベルの国際会議の他、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(2021年)、故安倍晋三元総理の国葬儀(2022年)、海外で開催されたG7サミットを始めとする国際会議等への総理大臣・外務大臣等の訪問に携わってきました。
 当初は自ら望んだわけでも、得意だったわけでもありません。しかし、現場の経験を一つずつ積み重ねていくうちに、この仕事でしか味わえない手応えと面白さを感じるようになり、気がつけばこの道一筋、30年になります。

2 まず、ロジスティクス(logistics)と呼ばれる業務について教えてください。

 外交における「ロジ」業務とは、国際会議や首脳会談などの運営・段取りを担う後方支援全般を指します。総理大臣や外務大臣が外国を訪問する際には、日程の調整・管理、車列や専用機などの移動手段の手配、空港・出入国当局との調整、警備、宿泊先、荷物搬送の手配など、非常に多岐にわたる業務があります。訪問前には外務本省と現地の在外公館との間で、綿密な調整が重ねられます。
 首脳宣言等の成果文書の文言交渉・調整等を担う「サブ」業務が外交の「表」を担うとすれば、「ロジ」業務はその舞台を支える仕事です。脚光を浴びることはなくとも、ロジスティクスが機能しなければ、どれほど重要な外交交渉も成り立ちません。外交全体を静かに、しかし確実に支える、それが「ロジ」業務です。

3 ロジスティクス専門官として、特に専門とする分野や、これまでの業務について教えてください。

 専門としてきたのは、主に移送業務です。中心となるのは車両の手配ですが、ヘリコプター、ゴルフカート、エレベーター、エスカレーターまで、「動くもの」であれば何でも担当します。誰がいつ、どこにいるべきか。移動のタイミングは何時何分か。どこがボトルネックになるか。何人が同時に移動するのか。そうした動線を頭の中で緻密に描きながら最適解を導いていく作業は、まるで大きなパズルを解くような醍醐味があります。
 移送業務以外では、2019年のG20大阪サミットで貴重な経験を積みました。開催地の選定という初期の議論から関与し、主催国として国際会議を作り上げる全プロセスを、初めから終わりまで見届けることができました。

タオルミーナ・サミット(イタリア)での電動カート(2017年)
ビアリッツ・サミット(フランス)での軍用機(2019年)
ペルーAPECに向かう機内から(2016年)
故安倍晋三元総理の国葬儀での各国車列(2022年)

4 業務の中で、苦労した経験・やりがいを感じた瞬間を教えてください。

 この仕事の特徴は、業務内容が日々異なり、常に新しい挑戦があることです。経験を重ねるうちに対応の引き出しは着実に増え、かつては戸惑っていたような場面でも、今では落ち着いて動けるようになりました。とはいえ、賓客の訪日が、到着わずか12時間前に急遽取りやめとなったときは、すべての準備が整っていただけに、「まあ、そんなこともあるか」と自分に言い聞かせながらも、落胆は隠せませんでした。その後の事後対応も待ち受けていましたし…。
 忘れられない経験の一つとして、コロナ禍への対応があります。2019年の年末以降、対面外交が突如として停止し、オンラインでの首脳会議という前例のない試みが模索され始めました。そもそも多国間の首脳会議をオンラインで実施することができるのか。どのようなツールを使用して実施すればよいのか。機材の選定、室内レイアウト、同時通訳ブースの設定など、正解のない問いに向き合いながら手探りで準備を進め、各国関係者と何度も通信テストを重ねました。総理官邸で準備を積み重ねるなかで、「これがやがて前例となり、当たり前の仕事になっていくのだろう」と感じながら取り組んだあの日々は、今も鮮明に記憶に残っています。
 国が違えば、仕事の進め方も大きく変わります。日本がサミットを主催する際は、空港、移動手段、会場、宿舎、識別、通訳、食事のメニューに至るまで、早い段階から細部にわたって準備を整えます。ところが他国が主催するサミットでは、食事会場が決まるのが開催の2~3日前、ということも実際にありました。正直、「さすがにそれは…」と思わないわけではありません。それでも、その違いをおおらかに受け入れ、柔軟に動ける姿勢が、現場では何より大切だと痛感しています。

イタリア・シチリア島 タオルミーナ
(G7サミット、2017年)

 言語も地域も問わず世界中を飛び回るこの仕事では、駐在先・出張先で思いがけない味に出会ったり、その土地や人々に魅せられることが少なくありません。これまで外交官として駐在した地は、米国(テキサス州ヒューストン)、イラン、英国、フィリピン、香港、そして現在のフランスと、実に多彩です。2人の子どもたちもそれぞれ外国生まれで、海外生活はすっかり日常の一部となっています。現在は18歳になった息子と、男2人でパリ暮らしです。
 令和8年6月には、現在の赴任地フランスのエビアンでG7サミットが開催され、高市総理が出席されました。春先から準備に追われる慌ただしい日々が続きましたが、そんな中での密かな楽しみが、宿泊先のエビアン駅前の民宿の女将が毎朝焼いてくれる、焼きたてのクロワッサンでした。多忙な時期を、あの香ばしい朝食が静かに支えてくれていました。

フランス・エビアンでの朝食、絶品のクロワッサン
(G7サミット、2026年)

5 これからの目標

 外交の現場には、常にロジスティクスがあります。そこに関わるのは、外務省の若手から幹部、総理官邸や外国政府の関係者、外部の協力会社の方々まで、立場も役割も実に様々です。異なるバックグラウンドを持つ人たちが、ひとつの目的に向かって力を合わせる。その一体感こそが、この仕事の何にも代えがたい魅力だと感じています。
 外務省内では、新たにロジスティクス専門官に認定された職員をはじめ、頼もしい後輩たちが着実に育ってきています。そうした職員が専門家として長く、そしてやりがいを持って働き続けられる環境づくりと人材育成に、これからも力を注いでいきたいと思っています。
 一方で、自分自身の時間も大切にしていきたいと思っています。根っからの雪好きとして、雪山の近くで、仕事も生活も充実させながら、国内外を問わず、これからもそんな日々を歩んでいけたらと願っています。

小澤さん

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