世界一周「何でもレポート」
チャレンジ!外国語 外務省の外国語専門家インタビュー
ノルウェー語の専門家 望月さん
Hei!(ハイ)=こんにちは!
世界一周「何でもレポート」パート2の第25回は、本年(2025年)、日本との外交関係樹立120周年の節目を迎えた北欧のノルウェー王国について、ノルウェー語の専門家、望月さんに登場いただきます。現在は在ノルウェー日本国大使館で一等書記官として政務分野を担当する望月さんに、言語や国、人々、ノルウェーでの生活、日本との関係等について、幅広く語ってもらいました。
ノルウェー語との出会い

(新年1月1日の正午過ぎ)
国際関係への関心から大学時代に国際法を専攻したという望月さん。同じゼミの先輩が選ばれた進路である外務省専門職を身近に感じ、「自分も外交官に!」と考え迷わず挑戦したそうです。ただし、ノルウェー語については大学時代などに勉強していた訳ではないようです。
「受験した年度に指定される専門言語リストの中から、欧州連合(EU)に加盟せず、独自の路線で国際社会に存在感を示しているノルウェーに興味を惹かれ、ノルウェー語を含めていくつかの言語を希望として提出しました。」
試験の結果、希望したノルウェー語を研修言語に指定され、ノルウェーをキャリアの軸とする外交官人生が始まった望月さん。入省2年目からのノルウェーでの語学研修(留学)では、首都オスロに所在するオスロ大学に在籍。北欧独特の自然環境の中での生活にも適応しながら、1年目は一部通常授業を聴講しつつ外国人向けのノルウェー語講座を集中的に受講、2年目は基本的に通常授業を聴講しながら語学力の研鑽に日々勤しんだそうです。
ノルウェー語、書き方が2通り!?

ノルウェー語は公式の書き方がなんと2通り!国名すらも「Norge(ノルゲ)」(首都オスロを含む東部や北部地域で一般的な「ブークモール」での表記)と「Noreg(ノレッグ)」(南西部地域で一般的な「ニーノシュク」での表記)というように異なるそうです。歴史的には、ノルウェーは南方のデンマークの支配を長年受けたためブークモールはデンマーク語の影響が強いそうですが、ニーノシュクは、ノルウェー独自の書き言葉を求める機運が高まった1800年代にノルウェー各地の方言をベースに、全く新しい表記方法として生み出されたものだそうです。ニーノシュクの使用者は少数派ですが国策として保護され、学校教育ではブークモールもニーノシュクも両方必修、また、政府の公文書や国営のテレビ局では少なくとも25%はニーノシュクを使用することが決まっているそうです。
「外国人は基本的にブークモールを勉強します。そのため、突然ニーノシュクで書かれた文章を目にすると、今でも戸惑います。また、聴き取りの面では、ノルウェー人は基本的に自分の出身地の方言でしゃべるので、なまりが強過ぎると正直何を言っているのか混乱することもありますね。ちなみに、ノルウェー語では文章の抑揚や強弱の付け方が非常に大切で、逆に言えば文章を読む際のイントネーションがネイティブのようであれば、多少の単語の発音のズレでも伝わるように思います。」
いわゆる「標準ノルウェー語」は存在しないと言ってよいそうで、外国人にとっては苦労することが多いようですね。主要な欧州言語と比べた場合、主観的にざっくりと言ってしまえば、ノルウェー語は同じゲルマン語派に属する英語とドイツ語の間くらいのイメージで、名詞に性別がある観点からは、英語よりはある程度は難しく、ドイツ語ほどは複雑ではないそうです。
ちなみに、ノルウェー語のネイティブは、同じスカンジナビア言語の隣国のスウェーデン語とデンマーク語もある程度理解できてしまうそうです。

便利なノルウェー語を教えてもらいました。
まずは「Hyggelig(ヒッゲッリ)」。うれしい、素晴らしい等といった前向きな言葉ですが、使用する場面の幅がかなり広く、英語でいう「nice to meet you(初めまして)」や「you are welcome(どういたしまして)」といった場合でも、このヒッゲッリが使用できるそうなんです。とりあえず前向きな姿勢を示したい時には「ヒッゲッリ!」ですね!
また、「Det skal ordne seg(デ・スカル・オルドネ・サイ)」というフレーズに特に思い出があるそうです。
「重要な行事やアポイントメントに取り組む際、緊張している私に対して、大使館で働くノルウェー人の現地職員さんが『大丈夫、なんとかなる』と励ましてくれた際に使われていたフレーズです。この現地職員さんは、最終的には勤続40年超えで定年退職した大ベテランだったのですが、人柄と相まって言葉に説得力が感じられ、大いに勇気づけられたものです。」
大変心温まるエピソードですね!
ノルウェー人は英語が堪能!?

(ノルウェーで盛んなスキー等のデザインが多い)
ノルウェー人は英語がとても堪能だとか。要人との会談も基本的には英語で行われるため、望月さんはノルウェーでの勤務、日本での外務本省での勤務を通じて、正式な会談でのノルウェー語の通訳業務の機会は過去なかったそうです。ただ1度だけ、欧州局西欧課(当時)に配属されノルウェーの担当官だった頃、ノルウェー語での通訳の機会が予定されていたとか、、、?
「はい。2011年7月にノルウェーで発生したテロ事件を受けて、松本外務大臣(当時)が駐日ノルウェー大使館を訪問して弔意を表明することとなりました。その会談はノルウェー語で実施することで調整され、私がノルウェー語の通訳官として同行しました。ところが先方の当時のノルウェー臨時代理大使が英語で会談を始めてしまい、私が急遽英語の通訳を務めることに。せっかくのノルウェー語での通訳機会だったので、ちょっぴり残念でした。」
それでも急遽の英語での通訳に対応した望月さん、さすがです。もちろん、正式な会談でのノルウェー語での通訳業務がこれまでなくても、ノルウェー語ができる外交官だからこそ担える仕事が日常的にもたくさんあるそうです。近年では、コロナ禍においてノルウェー政府から次々と発表されたノルウェー語での政府施策等への対応等、当時大使館で勤務していたノルウェー語を専門とする外交官が大活躍したそうですね。
ノルウェーでの生活
ノルウェーには、入省後の在外研修(留学)で2年、引き続きの在ノルウェー日本大使館での勤務でプラス2年、本省勤務をはさんで、今回2回目のノルウェー駐在で4年近く、計8年を過ごしているという望月さん。ノルウェーでの生活について教えてもらいました。
「ノルウェー人は健康・自然志向で、夏はハイキングやジョギング、冬はスキー(クロスカントリー)に注力する人が多く、冬季オリンピックやスキーのワールドカップの時期は、国営放送ではニュースを差し置いて生中継されます。」
ノルウェーは冬季オリンピックでは伝統的に強豪国で、直近の2018年(平昌)及び2022年(北京)でのメダル獲得数は世界一でしたし、2026年のミラノ・コルティナ大会が待ち遠しいはずですね。

ノルウェーのリレハンメル(12月)




ノルウェーは地理的に北半球の高緯度に位置するため、冬は寒く暗い時間が長く、太陽光が限られるため、ノルウェー人もビタミンDをサプリから日常的に補給している人が多いそうです。逆に夏はいつまでも明るいため、望月さんは睡眠のリズムを整えるのに少々苦労しているとか。

ノルウェーでは家族との時間を大切にする生活スタイルのため定時で帰宅するのが基本で、夏季休暇も長く(慣習的に3週間)、ノルウェー政府職員の多くが休みとなる7月はほぼ仕事がストップしてしまうそうです。
日本とほぼ同じくらいの国土面積に約525万人が暮らすノルウェー。一人あたりの国内総生産(GDP)は世界のトップ10に入っており、欧州の中でもスイス等と並び物価が非常に高いそうです。例えば日本では1000円少々のランチが、ノルウェーだと3000円!?程度の感覚だとか。



また、5月17日はノルウェーの憲法記念日で国祭日(ナショナルデー)。街は大いに盛り上がるようで、国民はみんな民族衣装等の晴れ着を着て、国旗をもって外出するそうです。
ノルウェーサーモン


(ノルウェーサーモンのプロモーション)
サーモンは、日本では今や人気の寿司ネタの一つで、多くのスーパーでも鮮魚コーナーに堂々と並んでいますが、日本で1980年代頃までは生で食べられていなかったことを知ったら、今の若い皆さんは驚くかもしれませんね。本年はノルウェーが養殖サーモンの対日本市場開拓プロジェクトを開始してから40年の節目の年だそうです。
「ノルウェーサーモンが寿司ネタとして日本で広く受け入れられたことは、ノルウェーサーモンの品質保証という点に加えて、日本の寿司のグローバルな普及にもつながり、両国にとってウィンウィンな結果につながったのではないかと思います。」
オスロでは、今やいたるところにサーモンやその他ネタを含む寿司のテイクアウト店があり、スーパーでも握り寿司パックが購入可能だそうです。

ちなみに、ノルウェーも捕鯨国だけあって、スーパーの冷凍食品コーナーには鯨肉が売っているそうです。また、海外ではなかなか難しいと思われる生卵での卵かけご飯がノルウェーでは実現できるそうで、日本人にとっては嬉しい情報ですね。
ノルウェー首相の訪日他


思い出深い仕事の一つは、外務本省の欧州局西欧課(当時)に配属されていた2012年11月に、ノルウェーのストルテンベルグ首相(当時)訪日の受け入れに携わったことだそうです。
その後、同首相は北大西洋条約機構(NATO)の事務総長(当時)に就任し、2017年10月にNATO事務総長として訪日した際には、望月さんはちょうどEUやNATO等を担当する欧州局政策課に配属されており、再び同人の受け入れに従事した時は感慨深く特別な縁を感じたそうで、プログラムの合間にノルウェー語で会話をしたら大変喜んでくれたそうです。
「ストルテンベルグ元首相・前NATO事務総長は、2025年2月の内閣改造で財務大臣として入閣してノルウェー国政に復帰しました。日本政府は、これまでのストルテンベルグ氏の日NATO関係および日ノルウェー関係の強化への功績を踏まえて令和7年度春の外国人叙勲にて旭日大綬章を授章しました。このように、引き続き関係を大切にしていますよ。」
最近では、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のノルウェーのナショナルデーに合わせたアイデ外務大臣の訪日の際に、現場での連絡役を担うリエゾン役として望月さんはノルウェーから一時的に帰国されています。

(2025年6月2日)
ノーベル平和賞
オスロと言えばノーベル平和賞の授賞式が行われる都市として世界的にも知られていますね。2009年にオバマ米国大統領(当時)がノーベル平和賞を受賞、オスロに来訪した際、ちょうど駐在していたという望月さん。米国大統領車列の長さや厳重な警備等、存在感に圧倒されたことを覚えているとか。
昨年(2024年)は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しており、日本政府からも祝意を表明しています。また、大使館では一行のオスロ滞在を側面支援したそうです。
日本・ノルウェー関係

(富士山(赤)とヴァイキング船(青)を表しているデザイン)
日本はノルウェーが1905年にスウェーデンとの同君連合から離脱して完全独立を果たした際に、最初に国家承認を行った国のグループの1つで、本年(2025年)に外交関係樹立120周年の節目を迎えました。本年6月には都内で日・ノルウェー外交関係樹立120周年記念レセプションが開催されています。
日本とノルウェーは、皇室・王室の交流を筆頭に、長年にわたる友好関係にあり、望月さんは、既に良好な関係を一層発展させられるよう尽力したいと熱い想いを語ってくれました。最後に、日本の将来を担う次世代の皆さんに、メッセージをお願いします!
「ノルウェー政府要人は、世界は変化の真っただ中にあると頻繁に発言しています。そのような時代だからこそ、国際関係に関心のある人々には、国際関連のニュースで報道されるような表舞台のみならず、表舞台に至るまでの交渉や調整業務である舞台裏をも経験できる職場である外務省の門戸をたたいていただければと思っています。」
日本から遠く離れたノルウェーについて身近に感じる話をたくさん聞かせていただきありがとうございました!外交関係樹立120年周年を迎えた両国の友好関係の舞台裏に望月さんのような外交官が多く携わってきたのですね。両国のますますの発展を期待します!