世界一周「何でもレポート」

フランス語の専門家 河原さん

令和3年4月6日

フランス語の簡単なフレーズ

 Bonne jourée! / soirée! (素敵な1日を!/素敵な夜を!)
 レストランやお店を出る時に、最後にこのフレーズを言うだけでぐっと感じが良くなります。きっと店員さんも笑顔で返してくれるはずです。

 Je vais vous demander la route (そろそろ失礼いたします)
 直訳すると「帰り道をお伺いします」という意味で、一部のフランス語圏アフリカ特有の言い回しです。知人の家に招待された時、帰る間際に使います。遠回しな言い方で、「もっとお話ししていたいけど帰らなくちゃ」という名残惜しいニュアンスが感じ取れる素敵な表現です。

留学経験と外交官になろうと思った理由

 河原さんは学生時代に交換留学でフランスに行かれたと伺っていますが?

 「大学3年生の時にフランスのリヨンに約1年間滞在しました。一人暮らしも海外生活も初めての経験でした。」

 初めての海外でのひとり暮らしはいかがでしたか?

 「思い返しますと、楽しいこと、辛いこと、悔しいことをいろいろと経験したように思います。この経験が自分の糧となって、外務省に入るきっかけとなりました。」

 河原さんは大学卒業後、民間団体に就職しましたよね?なぜ外交官になろうと思ったのですか。

 「私は大学卒業後、民間団体に就職しました。幼い頃から外交官になりたいという夢があったわけではありませんが、誰かの役に立つ仕事をしたいという漠然とした思いがずっとありました。その中で、留学経験や、多少過酷な状況でも乗り越えていけるような精神力、自分の好奇心や長所を活かしながら貢献できる仕事は何かと考えているうちに、外務省の仕事に興味を持つようになりました。また、仕事を通じて常に学び続けられる環境にも魅力を感じ、外務省で働くことを志望しました。」

フランス語について

 フランス語の発音や文法は難しいと聞きますが、河原さんどのように感じていますか?

 「フランス語は発音や文法が難しい言語だと思われていますが、実はルールが明確に決まっているので、ルールさえ覚えてしまえば、フランス語をより身近に感じられると思います。特に、フランス語は綴り字と発音の関係が明確なので、個人的には英語よりもフランス語の方が発音しやすいと感じています。」

語学研修中のエピソード

 フランスでの研修中の思い出についてお話しいただけますか?

 まずは家探し
 「フランスに着いてまずしたことは、自分の住む家を見つけることでした。契約した川沿いの物件は、景色は絶景だったのですが、紙魚(シミ)という虫が家中に大量発生したり、シャワーが詰まったりとトラブルも多く苦労しました。それでも住めば都。部屋の窓から見える白鳥が優雅に泳ぐ姿に心癒やされ、真下に住んでいた大家さんとも友人のような付き合いとなり、愛着のある場所になりました。」

 官僚養成校での1年目
 「研修1年目はストラスブールにある国立行政学院(ENA)という機関で勉強をしました。ENAは数多くのフランスの大統領や政治家、官僚を輩出してきた伝統ある学校です。」

 なんだか難しそうですが、どんな授業があったのでしょうか?

 「私が在籍していたのは社会人経験者を対象とした1年間のコースで、クラスの半分が外国人、残りの半分はフランス人官僚という構成でした。授業の内容は実務を念頭においた講義や演習が多く、中には予算編成講座や元大使による公文書の起案講座といった授業もありました。」

 そこではどんな出会いがありましたか?

「外国人生徒は40人で、バックグラウンドも年齢も様々でしたが、みんな同じように単身フランスに勉強しに来ていて、すぐに仲良くなりました。仲間の家に集まって勉強したり、授業が終わった後にカフェやバーで何時間もおしゃべりしたり。パリへの小旅行も良い思い出です。今でもお互い連絡を取り合っており、一生ものの仲間ができました。」

(写真1)世界各国から集まった同級生達と (世界各国から集まった同級生達と)

 法律の世界にどっぷり浸かった2年目
 「ENAの授業が実務中心だったということもあり、2年目はアカデミックな分野に没頭したい、そしてどうせやるなら修士号を取りたいという強い思いがありました。そのため、2年目は、以前から関心があったストラスブール大学法学部の刑法・犯罪学コースの修士2年目に編入しました。」

 刑法・犯罪学って難しそうですね!

 「そうなんです。アカデミックな世界に飛び込んでみたものの、実はフランス法を本格的に学ぶのは始めてという無謀な挑戦でした。そんな状況を察してか、入学前に担当の教授から大量の課題図書が出され、夏真っ盛りのフランスのキラキラした季節に、毎日図書館にこもって参考書を読み漁るという地味な夏休みを過ごしました。」

 フランスの大学の法学部はいかがでしたが?

 「夏の間に一通り基本書には目を通したものの、いざ授業が始まると授業についていくのが大変でした。また、クラスメイトの多くは法曹や学者を志すフランス人で、言葉も法律の知識も心もとない日本人と仲良くしてくれるだろうかと環境面の不安も大きかったです。幸いにも優しくオープンマインドなクラスメイトに恵まれ、授業で分からなかったところを教えてもらったり、プライベートでも一緒に遊んだり、彼らの存在は本当に支えになりました。」

 インターンも経験されたそうですが、いかがでしたか?

 「ストラスブール検察とパリ警察で、合計3か月間、インターンとして働きました。検察では、不起訴事件の処理業務など担当検事の下で様々な検察官の仕事に触れました。警察では、被疑者取り調べの同席から近所の小学校での薬物乱用防止セミナーへの同行まで、様々な経験を積むことができました。フランスというと日本では華やかなイメージを持つ人も多いと思いますが、刑事司法分野の勉強を通じて、フランス社会が抱える問題など、フランスの別の顔を垣間見ることができました。」

 大学では試験もあったのでしょうか?

 「学期末に筆記試験と後述試験が行われました。その時の筆記試験で、なんともフランスらしいなと思ったことがありました。筆記試験は1教科につき5時間の論述形式なのですが、刑事訴訟法のお題が「検察官はオーケストラの指揮者といえるか」というなんとも哲学的(?)な一行問題でした。当時、フランスでは、検察の権限を拡大する方向で刑事訴訟法改正が行われていて、それを念頭に置いての出題でしたが、たとえ法学部の筆記試験であってもエスプリを忘れないフランス人の心意気に接した気がしました。最終的に目標であった修士号も取得することができました。」

初めての海外勤務

 初めての在外公館勤務はアフリカのベナン共和国とのことですが、大変だったのではないですか?

 「アフリカに行くのは初めてでしたが、ENAのアフリカ人同級生が、折に触れてアフリカの生活や文化について話してくれていましたので、不安よりも、いよいよ自分の目で確かめる時が来たという好奇心の方が勝っていたように思います。こうして、2014年7月に在ベナン日本国大使館に着任しました。最初にベナンの空港に到着した時に感じた日本の真夏の夜のような体にまとわりつく湿った空気、虫よけスプレーの薬品のにおい、現地の人たちが着ているカラフルな洋服の光景は、今でも忘れられません。」

 大使館でのお仕事はいかがでしたか?

 「在ベナン日本国大使館は比較的小規模な公館ということもあり、総務、経済協力、政務・経済、領事、広報文化など様々な業務を担当しました。経済協力案件のサイト視察やベナン政府の関係者との面会など、日中は外出していることも多く、その後オフィスでたまった事務仕事をするのが日課でした。こうして次第に仕事を覚えていきました。」

 お仕事以外の生活はいかがでしたか?

 「時間があるときは、大使館の同僚やJICA事務所の人たちと一緒に夕食に出かけたり、休みの日に海辺のレストランで食事をしたり、家で読書や映画を観たりして、楽しく過ごすことができました。」

ベナン共和国について

 ベナン共和国は日本人にとって少しなじみの薄い国のように思いますが、どんな国ですか?

 「ベナンはナイジェリアとトーゴに挟まれた西アフリカの小さな国です。一年中マラリアにかかる危険があることを除いては、比較的暮らしやすい国だと思います。」

 ベナンの食べ物について教えてください。

 「ベナン料理は、お米やヤムイモを練ったものに辛くてコクがあるソースを付けて食べるのが基本です。ソースは様々なバリエーションがあり、特にオクラと蟹などを煮込んだものが美味しかったです。
 また、地方に出張する際などに車を走らせていると、至る所に路上で食べ物を売っている人たちがいます。パイナップル、パパイヤ、焼きとうもろこし、その土地の名物のお菓子などなど。途中で車を止めて、買い食いをするのも道中の楽しみの一つでした。」

(写真2)(ベナン名物「イニャムピレ」。ヤムイモをお餅状にしたものを羊肉を煮込んだソースにつけていただきます。) (ベナン名物「イニャムピレ」。ヤムイモをお餅状にしたものを羊肉を煮込んだソースにつけていただきます。)

 おいしそうな料理ですね!ほかに何か特に思い出に残っていることはありますか?

 「日々の生活の中で何気なく触れてきた景色や音が一番思い出に残っています。例えば、大使館で仕事に疲れてふと顔を上げた時に見えるオレンジ色の夕陽、職場に向かう道中ですれ違うアイス売りの笛の音、地方出張の際に何度となく車で通った赤土のデコボコ道など、今でも思い出してはノスタルジックな気分になります。」

 ベナンで猫を飼い始めたとのことですが!

 「ベナンに赴任して数か月が経った頃、私が大の猫好きであると知った知人が小さな子猫を連れて訪ねてきました。突然のことでとても驚きましたが、「ゆず」と名付けて飼うことにしました。我が家に来たときのゆずは身体が弱かったのですが、幸い看病の甲斐あって元気に成長しました。当初から、大切な家族として一緒に日本に連れて帰ると決めていましたので、計画的に必要な手続を進め、ベナンでの任期が終わる頃のタイミングで日本に連れて帰ることができました。今ではすっかり日本の生活に慣れ、元気いっぱいに過ごしています。」

通訳のエピソード

(写真3)(元気に成長したゆず) (元気に成長したゆず)

 通訳業務で苦労される点はどんなところですか?

 「通訳業務は毎回非常に緊張します。事前にできる限りの準備をして臨みますが、それでも満足のいく通訳ができることはほとんどなく、終わった後に「あの部分はこう訳せばよかったと」後悔することが多いです。また、外交分野以外の専門知識を求められることもあります。例えば、ベナンで勤務をしていた時は、ベナンの主要産業の一つである港湾施設で通訳する機会が何度かありました。その際には、港湾システムや貨物船の種類などを事前に勉強し、専門用語の単語帳を作成して準備しました。また、ジュネーブ勤務の時には、フェンシング協会との意見交換で通訳する機会がありました。フェンシングは自分でやったことも見たこともなかったので、インターネットでルールや話題になりそうなことを急いで勉強して、本番に臨みました。」

最後に

  「外務省に入省してもうすぐ10年が経とうとしています。まだまだ勉強することが山ほどあり、自分の至らなさに悔しい思いをすることも多いです。入省時に人事担当の人から言われた『外交は全人格をかけた仕事である』という言葉は今でも忘れられません。周りの同僚や上司を見ていると、外国語ができるのはもちろんですが、仕事以外の知識、経験、さらには個人的な趣味をも総動員して、言語を超えた魅力を武器に外交に携わっている人が多いです。
 これまでも、例えば高校生の時に読んだ本であったり、飛行機の中で時間潰しに何気なく観た映画であったり、一見仕事には全く関係ないように思われる知識や経験が意外な形で役に立ち、コミュニケーションや話し合いが円滑に進むことがありました。だからこそ、この仕事は面白く、これからも好奇心を大切にしながら、全人格をかけて日本外交に携わっていきたいです。」


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