グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 大道 拓馬
(東京都から派遣)
1 外務省に派遣されるまで
私は、2022年4月以降、外交実務研修のため、東京都庁から外務省に約4年間の予定で派遣されており、現在2年目の終わりを迎えようとしているところです。これまで、1年目は大臣官房総務課地方連携推進室において、2年目はアジア大洋州局南部アジア部南東アジア第二課において、外交実務を学んできました。後半の2年間は、在外公館での勤務が予定されています。間もなく本省での研修を終えて折り返しを迎えるにあたり、拙文ながらこの2年間を振り返ります。本体験記が、外交実務研修員制度にご関心のある地方公務員の方々のご参考になれば幸いです。
はじめに、外務省に派遣されるまでの経緯や背景から記したいと思います。発端は、学生時代に遡りますが、当時、外交の仕事に興味を持っていたこともあり、大学及び大学院では国際法や国際政治等の勉強に日々励んでいました。外交への関心はもちろん強かったのですが、ちょうど就職活動の時期にオリンピック・パラリンピックの56年ぶりの東京開催が決定していたこともあり、なかなか携われる機会の少ないオリンピック関連の業務への関心も強かったことから、紆余曲折を経て最終的には大学院修了後の2017年に東京都に就職しました。
入都後は、教育庁及び水道局で勤務したほか、2020年度、2021年度には、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するため、渋谷区保健所、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村のクリニック及び都内宿泊療養施設での業務支援にも携わりました。こうした業務にやりがいを感じる一方、心の奥底では、国際業務、特に外交に携わりたいという思いがまだ残っていました。そのようなときに、都庁内で国際業務に係る公募があることを知りました。都庁の公募の中でも比較的人気が高いらしく、なかなか狭き門だとは思いましたが、挑戦しないと後悔することになるだろうと思い応募しました。書類選考の後、面接試験があり、学生時代から長年感じていた思いなどを述べたところ、幸運なことに、外務省で研修させていただける貴重な機会に恵まれました。
2 地方連携推進室での業務
外務省での研修1年目は、地方連携推進室に配属されました。一見すると外交は国の仕事であって地方とは関係がないのでは、と思われるかもしれませんが、外務省は、地方を重要なパートナーと位置づけ、その国際的取組を支援するため、地方自治体等と連携して様々な事業・取組を実施しています。
同室では、主に総務班の業務に従事しながら、事業班の業務も一部兼任し、幅広く業務を経験しました。総務班では、主に省内他課室、在外公館及び全国の地方自治体からの地方連携に関する照会への対応を行いました。全国の地方自治体からの照会については、北は北海道から南は沖縄まで、都道府県だけでなく市区町村からも、姉妹都市提携に向けた相談や外務省に対する意見書・要望書、面会依頼などが日々寄せられました。内容を精査の上、同室で対応できるものは丁寧に回答し、他課室の所管事項についての内容であれば、省内の適切な部署に取り次ぎました。このような業務を通じ、早い段階で省内の各部署の役割を一通り頭に入れられたことは、2年目に南東アジア第二課へ異動した後も、調整先を素早く適切に判断する上で大いに役立ちました。
また、私は、外交青書の地方連携に関するページの編集、地方連携推進室ツイッター(現X)での情報発信及び「グローカル通信」という同室が配信しているメールマガジンの企画・編集等の業務も担当しました。ツイッター(現X)や「グローカル通信」のネタ探しのために、地方自治体の国際的な取組へのアンテナを高く張っていたこともあり、各地方自治体のユニークな取組を数多く知ることができ、地方公務員としても大変勉強になりました。
ほかにも様々な業務を経験させていただきましたが、ここでは、それらの中から特に印象深かった「地域の魅力発信セミナー」及び「地方を世界へ」プロジェクトについてご紹介します。
(1)地域の魅力発信セミナーにおける司会業務

まず印象的な業務として思い浮かぶのは、2022年10月に外務省と山形県、岐阜県高山市、北海道札幌市及び青森県黒石市との共催で行われた「地域の魅力発信セミナー」において、英語で司会を務めたことです。
同セミナーは、複数の地方自治体等との共催により、駐日外交団等に対し、各地方自治体の特色・施策に関する情報を発信する事業です。これまで、日本語ですら大舞台で司会をした経験がない中、約60名の各国駐日外交団等の前で英語で司会をするということで、やや緊張を感じる部分もありましたが、原稿の読み込み等を含めて入念な準備を行ったことで、当日は無事に司会の役割を果たすことができました。
参加した各地方自治体からは創意工夫に満ちたユニークなプレゼンテーションが行われ、日本の地方の魅力を海外の方向けに発信するお手伝いができたことを大変嬉しく思いました。また、英語で司会を行うという貴重な実践経験を積めたことは大きな自信となりました。
(2)「地方を世界へ」プロジェクト

そのほかの印象深い業務としては、「地方を世界へ」プロジェクトが挙げられます。同プロジェクトは、外務大臣及び外務副大臣が駐日外交団と共に日本の地方を訪れる事業で、駐日外交団に地方の魅力を体験していただき、また、地域の方々との対話を通じて地方への理解を深めていただくことにより、外交団から自国民への発信を促し、インバウンド需要を喚起すること及び外務大臣と地域の方々との対話を通じて地域の更なる活性化を図ることを目的としたものです。この事業は、訪問先の地方自治体と調整し、複数の関係課室が緊密に連携した上で実施したものですが、その中で地方連携推進室は駐日外交団周りの業務を担当しました。私は、2022年11月の長崎訪問、2023年2月の岡山訪問へ同行させていただきました。
私は、主に、駐日外交団への参加のお声掛け、在京大使館との連絡調整、訪問地の空港周りのロジ業務等を担当しました。現地に前日入りし、当日は、各視察先での参加外交団の誘導補佐、昼食意見交換会でのマイク等の調整、記録用写真の撮影などを行いました。
空港周りのロジ業務では、外務大臣、外務副大臣及び参加外交団が空港到着後、時間通りに最初の視察先へ到着できるよう事前に空港管理事務所や各航空会社と綿密に調整しました。当日は、フライトが定刻どおりに到着しないこともありましたが、現場で他の先輩省員や空港関係者と連携して、ほぼ予定通り視察先へ到着することができました。各視察先で参加外交団の皆さんが地元の方々の温かい歓迎を受けて喜んでいる姿を見て、大変嬉しく思うと同時にやりがいを感じました。
3 南東アジア第二課での業務
2年目は、南東アジア第二課に配属されました。同課は、東南アジアのうち海側に位置する、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、東ティモール、フィリピンの6か国に関する外交政策を所管しています。最初の3週間はフィリピン班、その後はインドネシア班及び東ティモール班を兼務、7月途中からは東ティモール班を専任で担当しました。2023年度は、まれに見る当たり年であり、5月のG7広島サミットのアウトリーチ会合に始まり、6月の天皇皇后両陛下のインドネシア御訪問、12月の日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議(日ASEAN特別首脳会議)など、大型行事が目白押しでした。いずれも大変興味深い業務でしたが、中でも特に印象深かった東ティモール訪問と日ASEAN特別首脳会議についてご紹介します。
(1)東ティモール訪問

2023年7月、武井外務副大臣(当時)の東ティモール訪問に担当者として随行することとなり、人生で初めての海外出張先が東ティモールとなりました。私は、会談用参考資料の作成、在外公館との連絡調整、会談のメモ取り及び記録用写真の撮影等を担当しました。
日本と東ティモールの間には直行便がないため、往路はシンガポール経由、復路はインドネシアのデンパサールを経由して移動しました。会談前日の午前中の便で日本を出発し、夕方にシンガポールに到着。その後、夜まで現地視察や意見交換等を行い、そのままの流れで深夜2時30分発のフライトに搭乗し、東ティモールに朝7時30分に到着。8時頃から午前中の間に現地の外務・協力大臣、大統領、国民議会議長、首相へ四連続で表敬を行うという非常に濃密な日程でした。午後は、救急車の引渡し式やディリ港フェリーターミナルなどの日本の無償資金協力によるODAの現場を視察しました。ディリ港ではちょうど一隻の船が出航するタイミングと重なったため、現地の方々が満面の笑顔で船の上から大きく手を振る様子も見ることができ、大変嬉しく思いました。
今回の武井副大臣の訪問は、7月1日のグスマン首相率いる新政権発足後初の海外閣僚の訪問となったこともあり、現地の国営テレビ等においても一日中報道され、日・東ティモール関係の強化にとって非常に有意義な訪問となったのではないかと感じました。こうした二国間関係の発展に良いインパクトを与えられる業務に携われたことは、本当に貴重な経験でした。
(2)日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議
2023年12月には、東京で日ASEAN特別首脳会議が開催され、ASEAN加盟国のうちミャンマーを除いた9か国及びオブザーバーの東ティモールの計10か国の首脳が東京に集まりました。私は、同会議のフリンジで実施された日・東ティモール首脳会談に係る参考資料の作成、在京東ティモール大使館との連絡調整、首脳会談後に発出する共同プレスステートメントの調整を主に担当しました。
共同プレスステートメントについては、多岐にわたる分野の内容を含んでいたため、省内外の数多くの部署との調整を行いながら、東ティモール政府とも調整を行う必要があり、想像していた以上に苦労しました。プレスステートメントの内容に関する先方政府との調整は本番直前まで続き、若干冷や汗が出ましたが、上司や在外公館にも助けていただいたおかげで何とか首脳会談本番までには間に合い、無事に発出することができました。また、今回の会談を通して、両国関係を「包括的パートナーシップ」に格上げすることもでき、日・東ティモール関係の発展に微力ながらも貢献できたことに大きなやりがいを感じました。
4 2年間の本省研修を通して感じたこと
1年目に配属された地方連携推進室では、地方の魅力の発信に関する業務を通じて、改めて日本の地方を見つめ直すことができました。同室では、都庁で勤務しているときよりも幅広く全国の地方自治体の方々と関わる機会があり、日本の地方自治体を都庁も含めて客観的に観察する経験ができたことは非常に有意義でした。また、地域を盛り上げようという熱い思いを持った多くの地方公務員を目の当たりにし、同じ地方公務員として大変刺激を受けました。
2年目に配属された南東アジア第二課では、7月から東ティモール班を一人で任せていただき、一国との外交政策について包括的に見ながら、国内外の多くの関係者と調整を行う経験を積むことができ、今後、国際的な業務を行っていく上で大きな自信となりました。また、東ティモール訪問等を通して、一つの要人往来をとってみても、在外公館の館員も含めて想像以上に多くの関係者が汗をかいて頑張っていることを肌で感じました。こうした地道な努力の積み重ねで外交関係は成り立っているのだと感じ、外交への理解が更に深まりました。
5 おわりに
末筆ながら、これまでお世話になった地方連携推進室、南東アジア第二課、在東ティモール日本国大使館及び在京東ティモール大使館の皆様をはじめ、ご指導いただいた全ての関係者の皆様に改めて深く御礼申し上げます。また、このような貴重な機会を与えていただき、派遣中も適宜サポートしてくださった東京都政策企画局外務部をはじめ、都庁関係者の皆様にもこの場をお借りして感謝申し上げます。
これから約2年間、在外公館での研修が予定されていますが、ここまでの2年間と同じく充実したものとなるよう精進してまいります。研修後は、4年間の研修から学んだことを糧に、東京都の国際業務等を通して少しでも都政へ還元できるよう尽力していきたいと考えています。