G7/G8
G7伊勢志摩サミット議長国会見


(写真提供:内閣広報室)

(写真提供:内閣広報室)
1 冒頭発言
【安倍総理大臣】
まず冒頭に,日本の総理大臣として,このたび,世界中から,この伊勢志摩の地を訪れて下さった皆さんを,心から歓迎したい。
美しい入江,豊かな自然,おいしい海の幸,山の幸。日本の「ふるさと」の魅力を,味わっていただけたのではないか。
伊勢神宮の,荘厳で,凜とした空気に触れると,私は,いつも背筋が伸びる思いがする。神宮は,五穀豊穣を祈り,平和を祈り,人々の幸せを祈りながら,2000年もの悠久の歴史を紡いできた。今日(こんにち)の平和と繁栄は,そうした人々の祈りの上に築かれたもの。その神宮から,今年のG7サミットはスタートした。
「我々がここに集うこととなったのは,共通の信念と責任とを分かち合っているからである。」41年前,「オイルショック」という世界経済の危機を前に,先人たちは,初めて,フランスのランブイエ城に集まり,歴史的な政策協調に合意した。
今日の平和と繁栄は,そうした先人たちが,「未来は変えられる」と信じ,共に立ち向かってきた結果である。そして,今日の平和と繁栄を,私たちの子や孫の世代へと,しっかりと引き渡していく。そのためには,今を生きる私たちもまた,目の前の課題から逃げることなく,力を合わせて立ち向かっていかなければならない。
自由,民主主義,人権,法の支配といった基本的価値を共有するG7,これまで世界の平和と繁栄を牽引してきたG7には,その大きな責任がある。世界が直面する様々な課題に,協調して取り組む明確な意志を,G7の友人達と共に,ここ伊勢志摩から世界へと発信することができた。
最大のテーマは,世界経済であった。株式市場の下落により,世界では,この1年足らずの間に1500兆円を超える資産が失われた。足元では幾分か回復し,小康状態を保っているが,不透明さは依然残っており,世界的に市場が動揺している。それは,なぜか?最大のリスクは,新興国経済に「陰り」が見え始めていることである。
今世紀に入り,世界経済を牽引してきたのは,成長の活力あふれる新興国経済である。リーマンショックによる経済危機が世界を覆っていた時も,景気回復をリードしたのは,堅調な新興国の成長。いわば,世界経済の「機関車」であった。しかし,その新興国経済が,この1年ほどで,急速に減速している現実がある。
原油をはじめ,鉄などの素材,農産品も含めた商品価格が,1年余りで,5割以上,下落した。これは,リーマンショック時の下落幅に匹敵し,資源国をはじめ,農業や素材産業に依存している,新興国の経済に大きな打撃を与えている。
成長の糧である投資も,減少している。昨年,新興国における投資の伸び率は,リーマンショックの時よりも低い水準にまで落ち込んだ。新興国への資金流入がマイナスとなったのも,リーマンショック後,初めての出来事である。
更に,中国における過剰設備や不良債権の拡大など,新興国では構造的な課題への「対応の遅れ」が指摘されており,状況の更なる悪化も懸念されている。
こうした事情を背景に,世界経済の成長率は,昨年,リーマンショック以来,最低を記録した。今年の見通しも,どんどん下方修正されている。
先進国経済は,ここ数年,慢性的な需要不足によって,デフレ圧力に苦しんできたが,これに,新興国経済の減速が重なったことで,世界的に需要が大きく低迷している。最も懸念されることは,世界経済の「収縮」である。
世界の貿易額は,2014年後半から下落に転じ,20%近く減少。リーマンショック以来の落ち込みである。中国の輸入額は,昨年14%減ったが,今年に入っても,更に12%減少しており,世界的な需要の低迷が長期化するリスクをはらんでいる。
現状をただ「悲観」していても,問題は解決しない。私が,議長として,今回のサミットで,最も時間を割いて経済問題を議論したのは,「悲観」するためではない。
しかし,私たちは,今そこにある「リスク」を,客観的に,正しく認識しなければならない。リスクの認識を共有しなければ,共に力を合わせて,問題を解決することはできない。
ここで,もし対応を誤れば,世界経済が,通常の景気循環を超えて「危機」に陥る,大きなリスクに直面している。私たちG7は,その認識を共有し,強い危機感を共有した。
そして,新興国経済に弱さが見られる今こそ,G7がその責任を果たさなければならない。G7で協調して,金融政策,財政政策,そして構造政策を進め,「三本の矢」を放っていく。そのことを合意した。また,アベノミクスを世界に展開してまいる所存。
TPPや日EU・EPAにより,自由で,公正な経済圏を世界に広げていく。女性をはじめ誰もが活躍できる環境づくりや,公衆衛生の危機への対応を含む国際保健の前進は,世界の持続的な成長の基盤となるものである。新興国の成長を支え,世界の需要を底上げするために,共通の「原則」の下に,質の高いインフラ投資を活性化することも必要。こうしたG7のコミットメントを,「伊勢志摩経済イニシアティブ」としてとりまとめた。当然,日本も議長国として今回のG7合意に従い,率先して世界経済の成長に貢献する。世界経済が「危機」に陥るリスクに立ち向かうため,あらゆる政策を総動員してアベノミクスのエンジンをもう一度,最大限ふかしていく決意である。日本として何をなすべきか,消費税率引き上げの是非も含めて検討し,夏の参議院選挙の前に明らかにしたいと考えている。
世界の平和と安定を守る。このこともまた,普遍的な価値を共有する,私たちG7の大きな役割である。暴力的過激主義は,すべての人類に対する挑戦。テロリストの逃げ場をなくし,テロ資金の流入を根絶する。新たな行動計画は,国際社会が連携してテロと闘うための大きな一歩である。欧州へと大量に押し寄せる難民の問題についても,その根本原因を断ち切るため,グローバルな支援を強化することで合意した。
いかなる紛争も,武力の行使や威嚇ではなく,国際法に基づいて,平和的・外交的に解決すべきである。この原則を,私たちG7は,しっかりと共有している。
世界のどこであろうとも,海洋の自由は保障されなければならない。一方的な行動は許されず,司法手続を含む平和的な手段を追求すべきである。そして,その完全な履行を求めていくことで,私たちは一致した。
ウクライナにおける紛争もまた,国際法に基づく,平和的・外交的な手段によってのみ解決される,と確信している。G7として,すべての当事者に対し,ミンスク合意に基づいて情勢を平和的に解決するため,具体的な行動をとるよう求める。
ロシアには,国際社会のあらゆる課題に対し,建設的な役割を果たしてもらいたいと思っており,シリア情勢などにおける平和と安定を達成するためにも,プーチン大統領との対話を維持していくことが重要と考える。
北朝鮮による1月の核実験と,複数にわたる弾道ミサイルの発射を,私たちG7は,最も強い表現で非難する。北朝鮮には,国連安保理決議の即時かつ完全な遵守,拉致問題を含む国際的な懸念に直ちに対処するよう強く求める。
「核兵器のない世界」を目指す。核不拡散と軍縮に向けた,G7の強い決意を,私たちは,改めて確認した。「核兵器のない世界」の実現は,容易なことではないが,それでもなお私たちは,手を携えて,前に進んで行く強い意志を共有している。
私は,この後,アメリカのオバマ大統領と一緒に,被爆地・広島を訪問する予定。被爆地に足を運び,犠牲となった全ての人々を追悼する。そして,被爆の実相を世界へと発信する。それは,「核兵器のない世界」の実現に向けた大きな力になると確信している。あの悲惨な経験を,二度と繰り返してはならない。これが今を生きる私たちの世代の大きな責任である。
私たちの子や孫,そしてその先の世代の子どもたちのために,より良い世界をつくりあげる。今回の伊勢志摩サミットは,その「決意」をG7のリーダー達が確認し,明確な「行動」へと移していく大きなきっかけとなる,充実したサミットになったと考えている。
最後となったが,今回のサミット開催にあたって,大変な御協力を頂いた,伊勢志摩の地元の皆さん,三重県の皆さんに,心からの感謝を申し上げたい。
2 質疑応答
【テレビ東京 宮﨑記者】
今回のサミットは8年ぶりにアジアでの開催となった。南シナ海情勢や北朝鮮など,アジアの安全保障をめぐる環境の厳しさは,欧州各国にしっかり伝えることができたか。
そして,世界経済の議論では,リーマンショック前夜と現在を比較した説明をしていたが,各国とは,先ほど会見で総理は「収縮」という言葉も使われていたが,危機というレベルにまで含めて,どのような現状を共有し,そしてリーマンショック級の事態に発展しうるとするリスクに対しては,どのくらいの財政出動の規模が必要で,また,日本としてどのような具体策を講じて行くのか。
【安倍総理大臣】
今回の伊勢志摩サミットは洞爺湖サミットから8年ぶりに,日本で,そしてアジアで開催されるサミット。アジア情勢については,欧州は距離的に遠い,その関係で現在のこの危機的な様々な安全保障上の危機が増大している,ということを感じていないのではないか,そんな思いを持っておられる方が多くいると思うが,今回は正にそのアジア,日本で開催し,南シナ海情勢や北朝鮮などを巡り,アジアの安全保障環境が厳しくなっていることは,出席した欧州の首脳にも十分伝わったと考える。
南シナ海情勢に関して,私が,一昨年,シャングリラ会合で発表した「海における法の支配の三原則」,すなわち,国家が主張をするときには国際法に基づいて行うべきこと,自らの主張を通すために力や威圧を用いないこと,紛争解決は平和的手段を追求すべきこと,その三原則で議論を進め,各国首脳も賛同し,G7の共通認識となった。
北朝鮮については,私から,本年1月の核実験やその後の度重なる弾道ミサイルの発射を受けた厳しい状況について説明した。その上で,G7として,「核保有」は断じて容認できないことを確認し,安保理決議の厳格な履行確保を含め,緊密に連携していくことで一致した。
また,私から拉致問題について提起した結果,G7首脳から,この問題について懸念が表明され,コミュニケにも明確に盛り込まれた。
世界経済については,我々は,リーマンショックという危機を防ぐことができなかった。世界経済を悲観しているわけではないが,何よりもまず「リスク」をしっかりと認識しなければ,正しい対応を取ることはできない。
この点に関し,我々G7は,世界経済についてしっかりと議論を行い,大きな「リスク」に直面しているとの認識で一致した。
そして,その「リスク」に立ち向かうため,あらゆる政策を総動員して世界の需要を底上げし,持続的な成長に向けてG7が連携して 取り組んでいくという力強いメッセージを,「伊勢志摩経済イニシアティブ」という形で取りまとめることができた。
今後,G7各国が,機動的な財政出動の実施や,構造改革の果断な推進を,協力して行っていかなければならない。
特に,世界の需要を底上げするため,質の高いインフラ投資の実践や,環境,エネルギー,デジタル・エコノミー,人材育成,教育,科学など,経済成長に資する分野で,官民の更なる投資を行っていく必要がある。
日本としても,今回のG7合意を踏まえ,財政面での対応も含めてあらゆる政策を総動員し,アベノミクス「3本の矢」を更に強力に推進していく考えである。
【ブルームバーグ通信社 レイノルズ記者】
経済成長を促進する上で何回か貿易の重要性についておっしゃられた。TPPが今の形で批准されることについてどれくらい自信を持っているか。日本の国会はいつ批准をすると期待しているのか。G7コミュニケの文言には,鉄鋼の過剰供給について入っており,特に中国のせいとされているが,これについてのコメントとG7の議論を伺いたい。
【安倍総理大臣】
各国ともTPPの早期発効を目指して,それぞれの国の国内手続を進めていくということについては,TPP首脳会談においてもそれぞれの国の議論を進めていくことについて改めて一致した訳である。
TPPは,日本経済が中長期的に力強く成長していく基盤となるものであり,基本的価値を共有する国々が経済の絆を深め,その輪を広げていくという戦略的意義を持つものである。
このようなTPPの効果を一刻も早く実現するために,早期の国会承認を引き続き求めていきたいと思っている。そして,国内的にも私がリーダーシップを発揮して機運を高めていきたいと考えている。
中国の鉄鋼等の過剰供給ついてお話があった。過剰供給は,国際的な価格下落を通じて企業収益の悪化や雇用不安など世界経済に大きな影響を与えている。中国政府は過剰生産能力を削減すると表明しているが,我が国としては,その削減量が国際市場の状況に照らし不十分であること,市場を歪める政府支援という根本問題がある限り,削減の実効性がないことを懸念している。
この問題はサミットで議論された。各国は,これらの認識や懸念を共有している。そして,その解決に向けて,市場機能を強化し,市場を歪める支援措置を除去していくことの必要性,OECD等の場を活用し,中国を含む他の主要生産国との対話を行っていくことで一致したことは,大きな成果と考えている。
【時事通信 松本記者】 消費税増税に関してお伺いする。先ほど総理は消費税増税について,夏の参院選前にその是非に関する判断を明らかにされると述べられた。総理としては,その決断について夏の参院選で国民の審判を仰ぐというお考えなのか。仮に消費税増税を先送りという決断を下された場合,野党などからはアベノミクスの破綻ではないかという指摘や批判も出ているが,先送りの決断をされた場合,衆院を解散して衆参同日選挙で国民の審判を仰ぐというお考えはあるか。
【安倍総理大臣】
まず,野党のアベノミクスが失敗したではないかという理論であるが,決してそんなことはない。雇用は非常にいい水準になっている。有効求人倍率も過去でかなり高い水準で推移していると思う。我々はこのアベノミクスを進めてきて110万人雇用が増えた。その前の野党政権時代は10万人減っているわけである。またこれは一部の大都市だけではなくて,地方においてもそうである,有効求人倍率1を超える,一人の就職者に対して1つの職種がある,仕事がある,というと1である。それを超えると思われる。
一応どこかに就職できるという状況であるが,我々が政権をとる前は47の都道府県でたった8つの都県だけが,都道府県だけが,1を超えていたが,今は46の都道府県で超えている。そして賃上げも今世紀に入って最も高い水準で,3年連続行われているわけであるし,パートの時給も過去最高になっている。決してアベノミクスは失敗をしていない,そういうことは,まず最初にはっきりと申し上げておきたいと思う。
その上で,今G7が,世界経済について,現在大きなリスクに直面しているとの,危機感を共有しているわけである。その上で,「大きな危機」に陥ることを回避するため,協力して対応することで国際的に合意をした,この事実は,大変重いものである,と考えている。
議長国として,日本は,率先して,世界経済の成長に貢献していく考えであり,あらゆる政策を総動員して,アベノミクスのエンジンを,もう一度,力強くふかしていかなければならないと決意をしている。
「あらゆる政策」と申し上げている以上,当然,消費税の取扱いも検討するが,現時点で「結論」を出している訳ではない。G7の合意は,今日,まとまったばかりであり,具体的な政策対応については,もう少し時間をかけて検討したいと思う。
そのため,仮定の質問にはお答えできないが,いずれにせよ,参院選挙の前に明らかにしたいと思う。
【ベトナムTV,ヴー・ダク・クオン東京支局長】
G7は海洋安全保障を脅かす行為や現状変更の試みに強く反対する立場をとっているが,もし現状に改善が見られない,ないし,悪化するとしたら,一方的な行為を止めるためにどのような対応を行うのか。
【安倍総理大臣】
海洋の安全保障について,G7各国首脳の間で,国際法の原則に基づく海洋秩序や,航行・上空飛行の自由の重要性,そして東シナ海や南シナ海での現状への懸念といった点につき一致し,首脳宣言にもその旨盛り込むことで,G7としての断固たる姿勢を明確にした。
南シナ海情勢に関して,先ほどお答えしたように,私が,一昨年,シャングリラ会合で発表した「海における法の支配の三原則」で議論をリードし,各国首脳も賛同し,G7の共通認識となった。
また,フィリピンによる国連海洋法条約に基づく仲裁手続の結果が近々出る予定であり,法の支配の重要性の観点から,各国が明確に立場を示していくことが重要。
そしてまた,この議論はG7だけではなく,ベトナムの首相も参加されたアウトリーチ会合でも議論になった。