朝天小学(「小学」は小学校のこと)は,広東省広州市にある公立の小学校です。その歴史は長く,1864年に設立された広州同文館が前身です。同文館とは,清朝末期に外国語人材の育成を目的として設立された教育機関で,広州においては,北京,上海に続く,中国第三の同文館として,日本でも有名な李鴻章の提案によって設立されました。その後,時代とともに学校の名称が数回変わりましたが,学校の所在地は当時から変わっていません。
こうした歴史もあり,朝天小学の校庭には,樹齢300年近くの菩提樹の木が3本あります。学校を訪問したときには,ちょうど1年生の子供たちが,木の傍らで,体育の授業の縄跳びをしていました。中国の南方に位置する広州の夏は大変暑く厳しいですが,大きな菩提樹は,強い日差しから子供たちを守ってくれます。
中国の学校の多くは,6・3・3年制で,日本の小学校・中学校にあたる「小学」「初級中学」の9年間が義務教育となっています。朝天小学は,男女共学で,2016年12月現在,1年生から6年生まで31クラス(4年生のみ6クラスで,その他の学年は5クラス)あり,1クラス約40人,1300名近くの生徒が通っています。教職員数は74名です。中国では,義務教育の場合,原則,生徒・学生の自宅から学校まで3キロ圏内でなければならないとの規定があり,学校に通える居住区が決められています。このため,同校でも,近くに住む子供たちが通っていますが,通学にバスや地下鉄を利用することもあります。
学校では夏用・冬用の制服を決めており,礼服もあります。礼服は,大型行事や毎週月曜日の朝に行われる国旗掲揚集会の際に着用します。また,毎週金曜日は私服の日で,多くの生徒は何を着ていこうか楽しみにしているようです。このほか,運動服があります。
学校は月曜日から金曜日までの週5日制で,授業時間は,午前は8時15分から12時まで,午後は14時集合で17時に下校となりますが,1,2年生だけは授業数が少ないので,週に3日は15時20分に下校します。低学年を中心とした多くの生徒は,保護者による送り迎えのもと,学校に通っているため,登下校の時刻には校門付近がにぎわいます。
昼食は,約3分の2の生徒は学校の食堂でとりますが,家に帰って食事をとることもできるため,一旦帰宅して食事をする生徒もいます。お昼休みの時間が長いのは,中国では,昼食後に昼寝をする習慣があるからです。こうして午後の授業に備え,英気を養うのです。
授業科目は,国語,算数,英語,道徳,コンピューター,理科,美術,音楽,体育,総合学習があります。総合学習は,テーマに即した体験型学習で,学校外活動もあるようです。
また,スポーツ教育や芸術活動にも力を入れて取り組んでおり,バトミントン,囲碁などは広州市の強豪校として知られています(日本の感覚からすると意外ですが,中国では囲碁はスポーツに分類されます)。学校には,囲碁専用の教室もあり,碁盤が刻み込まれた机がたくさんあります。クラスメート同士で切磋琢磨し,腕を上げていくのでしょうか。卒業生の中には,日本で活躍するプロ棋士の方もいらっしゃいます。
学校訪問時に作品を披露してくれた6年生の馬楽君くんは,5歳から書道を,3年生のときから国画(水墨画)を学んでいるそうです。写実性あふれる描写力と,きりりとしながらも繊細な筆致。聞けば,毎日朝と夜に練習しているとのこと。一日一日の積み重ねが,大事なんですね。
このほか,毎週火曜日には,クラブ活動があります。各種文化・スポーツはもちろんですが,面白いのは,広東語の話芸(中国語は「粤語講古」。広東語で小説や故事を読み上げる芸能)を行うクラブもあります。中国の学校教育では標準語(北方方言をベースにした「普通語」)を用いますが,ここ広州の地元の人同士や家庭では,広東語を使っています。広東語の話芸は,郷土文化を大切にする活動といえるでしょう。このほかにも,生物実験,ブロック,ロボット,航空模型などのクラブがあり,バラエティに富んでいます。
校内の行事も多く,4年生の音楽の授業では,校内音楽会に向けて,ロシア民謡の「カチューシャ」や「エーデルワイス」の笛の演奏や合唱を練習していました。先生のきびきびした指導のもと,先徒たちは真剣なまなざしで取り組んでいました。
校内には,元気いっぱいの子供たちの声が響きます。大きな菩提樹の木の下で,みんなすくすくと育っています。
(2016年12月)
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