国連外交

令和5年9月8日

 令和5年度外務省インターン生の小倉朋子(東京大学経済学部3年・国際協力局専門機関室インターン)が、世界観光機関(UNWTO)駐日事務所の大宅千明副代表にお話を伺いました。
 UNWTOの興味深い取組や大宅副代表のこれまでのご経験など、UNWTOへの熱い思いを語っていただきました。そのインタビューの内容をご紹介します。

1 UNWTOとは

(1)UNWTOはどのような機関ですか。

 責任ある、持続可能な、誰もが参加できる観光を促進している、国連の観光分野の専門機関です。日本は執行理事国のひとつです。ユニークな点は加盟国だけではなく、研究機関や企業も賛助加盟員として参加していることです。観光振興には官民の連携が欠かせず、そうした点が賛助加盟員という制度に表れています。

(2)UNWTOからみた観光分野での日本の印象はどのようなものですか。

 UNWTOの加盟国の多くは開発途上国であり、日本は数少ないG7の国として、議論をリードしていくことを期待されています。また、災害が多い日本は、観光分野でも災害からの復興や危機管理の経験、ノウハウを持っており、そうした点からも注目されています。

(3)観光分野における日本の強みや弱みは何ですか。

 日本の観光分野における強みは、観光資源が豊富であることです。日本は、観光大国になるために必要と言われている、自然、文化、気候、食事の全ての面が備わっています。基礎的なインフラもしっかりしており、公共交通が便利であるということも日本の強みだと考えています。
 一方で、日本の観光分野における弱みは、観光地におけるマネジメント・経営人材が不足していることだと考えています。従業員を育成する仕組みは確立していますが、持続可能な観光の発展には、地域をマネジメントする人材の確保や育成が必要とされています。

(4)日本に住む人々が観光分野における課題解決に向けてできることは何ですか。

 まずは住民の一人として自分の住む地域の観光資源に興味を持つことが重要だと思います。地域の自然や文化、産業を観光資源として活用することを「自分ごと」として捉え、その魅力を再確認することがスタートだと思います。
 また現在、Responsible Travelという言葉が注目されています。旅行者側が持続可能性を意識して観光をするということですが、外国では日本人はマナー良く観光すると認識されており、お手本として責任ある観光を世界でリードしていけるのではないかと思います。

2 大宅駐日事務所副代表と駐日事務所について

(1)前職での御経験は現在のUNWTOでの仕事の中でどのように役立っていますか。

 私は2008年に国土交通省に入省し、現在国土交通省から出向する形で駐日事務所の副代表を務めています。直近では、国土交通省の観光庁で国際業務を担当しており、UNWTOに関する業務を行っていました。現職においては、日本政府側の立場が分かることもあり、本部との間に入った際、双方の背景事情を踏まえた調整がしやすいと感じています。

(2)駐日事務所が奈良に置かれていることのメリット・デメリットは何ですか。

 当初、駐日事務所は大阪に置かれていましたが、その後、シルクロードの終着点でもあり、日本文化が始まった場所でもある奈良に駐日事務所が置かれるようになりました。
 メリットは、UNWTOの駐日事務所がある場所として、世界に奈良を知ってもらえることです。デメリットは、東京から遠く、省庁やほかの機関の駐日事務所等のカウンターパートと対面での相談・意見交換を行いにくいことです。

3 観光について

(1)開発途上国、先進国それぞれの観光分野における課題の違いとはどのようなものですか。

 途上国の観光開発において最初に問題になるのはインフラです。ホテルを一軒建てるとしても、水道、下水、電気、交通手段、空港、港からの道路といったインフラの整備が必要です。また、海外から投資を得てこうした開発を行う場合、経済効果がきちんと地域に波及するようコントロールをする必要があります。
 また、途上国は災害に脆弱であることが多いという課題もあります。災害リスクを十分理解せず風光明媚なところが選ばれた結果、災害に弱い場所に観光施設が建てられてしまうことがあります。それによって、災害が起こった際に、被害が拡大したり、復興が困難になったりすることがあります。
 さらに、経済の観光への依存度が大きいことも途上国の課題です。観光に経済を依存している国では、コロナ禍のように外国人観光客が減ると、国の経済全体が危機に瀕することになります。
 一方、先進国では、コロナ前、世界の観光が予想以上に急激に発展した結果、一部の都市でオーバーツーリズムと言われる状況が発生し、渋滞や家賃の高騰、騒音などの悪影響が現れていました。地方にも観光客に足を運んでもらえるようにして、一部の都市への集中を防ぐことも必要です。
 また、先進国でも、観光業に携わる人材が不足しています。特にコロナ禍で観光関連の企業の休業や倒産があり、コロナ後に急速に回復が進む一方で、人手不足が深刻になっています。

(2)コロナ禍やその後の観光分野の変化はどのようなものですか。

 2020年には世界全体の観光客は前年度比で3割近くに落ち込みました。2022年に世界各国で水際対策が緩和され、世界全体での観光客数は、コロナ前の約7割まで回復しました。コロナ禍による打撃は大きなものでしたが、コロナ前に問題視されていたオーバーツーリズム等の課題を踏まえ、観光のあり方を改めて見直し、持続可能なより良い形で観光分野を再興していく「リセットモーメント」とも捉えられています。

 貴重なお話をありがとうございました。


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