国連外交
山田IMO会議部長へのインタビュー
(文責:小倉朋子)

令和5年度外務省インターン生の小倉朋子(東京大学経済学部3年・国際協力局専門機関室インターン)が、国際海事機関(IMO)の山田浩之会議部長にお話を伺いました。
IMOの興味深い取組や山田会議部長のこれまでの御経験など、IMOへの熱い思いを語っていただきました。そのインタビューの内容を御紹介します。
1 国際海事機関(IMO)について
(1)IMOはどのような機関ですか。
IMOは国際的な海事全般を扱う国連の専門機関です。本部は英国のロンドンにあります。海上安全、海洋環境保護、それらに関連する損害賠償などに関する国際条約を策定・改正しています。IMOを設置する1948年に採択されたIMO条約は、1958年に発効し、今年で75周年を迎えます(注)。
(注)設立当時は「政府間海事協議機関」(IMCO)。1982年に国際海事機関(IMO)に改称。
(2)IMOにおける各部門の役割を教えてください。
海上安全部は、タイタニック号事故をきっかけとして策定された、海上安全や保安に関する船舶の技術的な基準を定めている海上人命安全条約(SOLAS条約)等の改正に関する業務を行っています。海洋環境部は、船舶等による海洋の汚染を防止するための規則を定める船舶汚染防止国際条約(MARPOL条約)等の改正に関する業務を行っています。会議部はIMOにおけるすべての国際会議の開催や通訳の手配を行っています。翻訳や文書化に従事する専門家が多く、公式会議は6カ国語で同時通訳が行われます。他にも、IMOには、法律渉外部、総務部、技術協力部などがあります。
(3)IMOとSDGsとの関係について教えてください。
IMOは、SDGsの中で特に目標13(気候変動に具体的な対策を)、目標14(海の豊かさを守ろう)と密接に関係しています。IMOは、国際海運からの温室効果ガスの排出の削減に取り組んでおり、2050年までにカーボンニュートラルとする目標を掲げています。また、IMOにとって海洋環境の保全や海の多様性の維持も重要で、海洋保全に関する国際的枠組みに参加し、また他の国連の機関とともに、科学者や専門家からなる諮問機関を主催しています。
2 山田会議部長について
(1)IMOで働こうと思われたきっかけは何ですか。
前職の国土交通省海事局でIMOで策定された規則の国内法制化に携わり、また在英国日本大使館に出向し多くのIMOの会議に参加しました。このような経験を生かしつつ、IMOの立場から国際的な規則策定に携わりたいと思い、IMOで働くことを決めました。
(2)これまでのキャリアの中で最も印象に残った出来事は何ですか。
IMOの海洋環境部長時代、船舶汚染防止国際条約(MARPOL条約)の改正による船舶からのSOxの排出規制強化(いわゆるIMO 2020)を担当したことです。IMOの規制は従来船舶そのものに関係する規制が多いのですが、この規制を実施するためには、低コストでSOxの排出量が少ない燃料油をエネルギー業界が提供できるかという問題があり、反対の声もありました。そんな中でも、無事に2020年1月から規制が開始されたことは大きな経験でした。なお、今後の船舶からのさらなるGHG排出削減、2050年までのカーボンニュートラルを実現するには、CO2排出の少ない代替燃料が必須になりますが、IMOはこのようなグローバルな課題にも対応できると思います。
3 IMOの取組について
(1)環境問題とIMOにはどのような関係があるのでしょうか。
IMOでは、船舶等からの海洋汚染の防止、海洋生物の多様性を含む海洋環境の保護に取り組んでおり、現在では最優先の課題と言えます。IMOでは、条約などの国際規則を常時アップデートしていますが、その実施は締約国の義務であり、権利です。そのため、IMOでは、国際的に統一された形で条約が実施されるように、多くのガイドライン等も策定しています。また、他の国際機関とも連携しながら、グローバルな環境問題の解決に貢献しています。
(2)国際的な船舶の航行安全に行われるためにIMOではどのような対策がとられていますか。
国際的な航行安全の確保はIMOの基本的な役割です。船舶のソフト・ハードを含む包括的な安全性や船員の資格要件、海難事故の際の救助などがIMOの条約で定められています。また、世界中で起こる海賊行為に関しては、ソマリア沖の海賊への対処にみられるように、各国海軍や海運業界等と連携を図ってきました。さらに、2001年の同時多発テロ以降のテロ対策として、SOLAS条約を改正し、新たに船舶や港湾の保安に関する章を加え対処してきました。
(3)国際的な海洋ルールを作る上で最も困難を感じる点は何ですか。
IMOの特徴として、コンセンサス方式で条約が採択されることが多いということです。国際機関では基本的に多数決で意思決定が行われますが、IMOでは、議論を尽くしてメンバー国の意見の差異をできる限り縮めることで、最終的にコンセンサスが得られたとして条約を採択することが多いのです。通称、IMOスピリットと呼ばれています。そのため、メンバー国間の合意を得られるように会議を運営し、意見を調整することはIMO事務局の重要な役割になります。
最後になりますが、IMOは、他の国連機関と比べていくつかの特徴があり独自であると思われているかもしれませんが、実際には国連組織の一員として本部をはじめ多くの機関と連携しており、今後の海洋環境の保護に興味のある方は、IMOで勤務することもキャリアの一環として御検討下さい。
貴重なお話をありがとうございました。