国連外交

令和5年10月18日
加藤彰浩コーディネーションアドバイザー

 令和5年度外務省インターン生の小倉朋子(東京大学経済学部3年・国際協力局専門機関室インターン)が、国際電気通信連合(ITU)の加藤彰浩コーディネーションアドバイザーにお話を伺いました。
 ITUの興味深い取組や加藤様のこれまでのご経験など、ITUへの熱い思いを語っていただきました。そのインタビューの内容をご紹介します。

1 ITUについて

(1)ITUはどのような機関ですか。

 ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)は、情報通信技術を扱っている国際連合の専門機関です。現在、193か国が加盟しており、900以上の民間企業や大学などの機関も参加しています。本部はスイスのジュネーブにあり、ITU-R(無線通信部門)、ITU-T(電気通信標準化部門)、ITU-D(電気通信開発部門)の3つの部門があります。

(2)所属されている電気通信標準化部門とはどのような部門ですか。

 電気通信標準化部門では、情報通信技術に関する国際標準を決めることで、国をまたいで使われるようなサービスを便利なものにするような取り組みを行っています。分かりやすく携帯電話を例に挙げると、第一世代(1G)のころは、今と違って携帯電話の通信規格が各国で異なっていたので、他の国に行くときには、その国の携帯電話をレンタルしてその国の電話を使わなければならなかったということもありました。製造者からすれば、同じ規格であるほうが多くの国に低コストで製品を売ることができますし、また競争が起きると価格も下がるので、消費者にも恩恵があります。
 電気通信標準化部門では、通信の将来ネットワーク、サイバーセキュリティやスマートシティなど、様々な領域で標準化を行っています。

(3)ITUとSDGsの関係について教えてください。

 ITUが扱うデジタル関連の技術はSDGsが定めるどの目標にも大きく関わっていると感じます。貧困や食糧問題など一見関連がなさそうな課題においても、実は生活を支えるインフラとしてインターネットはなくてはならない存在となりつつありますし、AIなどの新しいデジタル技術も大いに貢献するものだと思います。

2 加藤コーディネーションアドバイザーについて

(1)ITUに赴任するきっかけは何ですか。

 昨年9月に開催された全権委員会議において日本の尾上誠蔵氏が電気通信標準化局長に選出され、今年1月に就任しました。これがきっかけとなり、総務省から尾上誠蔵局長の補佐官としてITUに派遣されることとなりました。

(2)ITU赴任期間中に印象に残った出来事は何ですか。

 尾上誠蔵局長の随行として、様々な国の代表と会談する機会に同席したことです。ITUには193の国が加盟していますが、自分がこれまで関わりを持てなかった国の代表とも話ができ、ITUへの期待などその国のニーズなどを聞くと、視野が一段と広がったように感じます。また、ITUで働く同僚も様々な国から来ており、ランチやコーヒーで同僚と話すだけでも、ダイバーシティを感じる機会にあふれています。

(3)前職でのご経験は現在のITUでの仕事の中でどのように役立っていますか。

 総務省での経験は、利害関係などの調整を行う機会に役立っていると感じます。色々な人の意見を聞きつつ、あるべき方向を見定めていく力が多少は身につきましたが、ITUでも、例えば国ごとや政府・企業間でも求めていることが異なるので、丁寧に意見を聞きつつ、調整をしていくことが求められていると感じます。

3 電気通信について

(1)Society5.0のカギとなる6Gに対して期待することや、6Gの国際的な標準作りにおいて課題となっている点は何ですか。

 6Gでは、これまでの通信技術ではできなかったことができるようになることを個人的には期待しています。私たちが身近で使うスマホが便利になる側面もあると思いますが、例えば自動運転などの新しい技術の裏側で進化した通信システムが使われているなど、私たちが意識しないところでも様々なサービスが便利になる可能性があります。また、現在通信環境が整っていないエリア、海や空や宇宙などの空間でも、衛星通信技術などの発達によりエリアが拡大する可能性があります。
 国際標準化において課題となっている点は、技術の進展に合わせて標準もスピーディーに作らなければならない状況において、関係者が多く、調整がより難しくなっているという点です。ITUもこれまで以上に関係機関と緊密に連携していく必要があると思います。

(2)電気通信分野において、ITUでは産業界の声を取り入れるためにどのような取り組みが行われていますか。

 ITUはそもそも政府だけでなく民間企業や大学なども会員として議論に参加するなど、国連システムでもユニークな特徴を持っています。また、定期的に関係企業の経営層を集めた会合も主催しており、産業界の求めるニーズとITUが向かう方向のすり合わせを積極的に行っています。

(3)デジタルディバイドの縮小に向けてどのようなことが取り組まれており、現時点での課題はどのようなものですか。

 デジタルディバイドにも様々なフェーズがありますが、ITUでは先進国と発展途上国の間の情報格差の是正に力を入れており、特にITU-Dで取組んでいます。
 課題は、生活基盤のインフラが整っていない途上国では、高品質なインフラよりも、まずは最低限の機能でも手ごろな価格で使えるものが好まれます。このように、現地のニーズに合ったインフラの整備をITUは進めていく必要があると考えています。

 貴重なお話をありがとうございました。

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