地球環境
食料・農業植物遺伝資源条約
(食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約:International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agriculture(ITPGR))
令和6年3月1日
1 背景
- (1)1983年、国連食糧農業機関(FAO)の総会は、植物遺伝資源は人類の遺産であり、その所在国のいかんにかかわらず世界中の研究者等が制限なく利用することができるようにすべきであるとの考え方に基づく決議「植物遺伝資源に関する国際的申合せ」(以下「国際的申合せ」という。)を採択した。この国際的申合せに基づき、FAOの下で、世界各国から収集した遺伝資源を大量に保有している国際農業研究センターがFAOと取決めを結んだ上で、内外の研究者等に対しその保有する植物遺伝資源を提供してきた。
- (2)他方、国連環境計画(UNEP)の下に設置された政府間交渉委員会で1992年に採択され、1993年に発効した「生物の多様性に関する条約」(CBD)では、各国が自国の天然資源に対して主権的権利を有することが確認され、遺伝資源の取得の機会の提供は、当該遺伝資源が存する各国の国内法令に従って決定されることとなった。これに伴い、国際的申合せに基づく無制限の植物遺伝資源の提供が、生物資源の保全及び利用に関する最も包括的な国際的枠組みとなったCBDに定める原則(天然資源に対する各国の主権的権利)に矛盾する可能性が指摘されるようになった。
- (3)このような矛盾を未然に防ぎ、又は解消するため、1993年のFAO総会において、国際的申合せをCBDとの調和を図りつつ見直すことが決議された。その後、「食料及び農業のための遺伝資源に関する委員会」(1983年にFAO総会の下に設置)における見直し交渉の過程において、食料及び農業のための植物遺伝資源の取得の機会の提供については、その存する国の国内法令に基づく個別の合意を不要とし、CBDの特則を定める必要があると判断されたことから、FAO加盟国に対する勧告的効果を有するに留まる総会決議に代えて、CBDと同様、法的拘束力を有する条約として作成することとされ、2001年11月にローマで開催された第31回FAO総会において、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」(ITPGR)が採択された。
- (4)2004年6月29日、所定の要件を満たし、本条約は発効した。本条約の事務局は、FAO本部(ローマ)に所在。
- (5)2013年7月30日、我が国はFAO事務局長に加入書を寄託した。2013年10月28日、本条約が我が国について効力が発生した。
- (6)2020年2月1日現在、150か国及び欧州連合(EU)が締結。
2 条約の目的
本条約は、持続可能な農業及び食糧安全保障のため、CBDと調和する方法による
- (1)食料及び農業のための植物遺伝資源の保全
- (2)食料及び農業のための植物遺伝資源の持続可能な利用
- (3)食料及び農業のための植物遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的とする(第1条)。
3 理事会
理事会(Governing Body:GB)は、全ての締約国で構成され、本条約の実施のために必要とされる勧告の採択、本条約の実施のために資金を受領し、利用するための適当な仕組みの設置、本条約の改正の採択その他本条約の目的を達成するために必要な任務を遂行する。理事会の全ての決定は、原則としてコンセンサス方式によって行われる。
- (1)第1回理事会(GB1)は、2006年6月12日から16日まで、マドリッド(スペイン)において開催された。本会合では、遵守(本条約の規定を遵守することを促進し、及び不履行の事案に対処するための協力について効果的な手続並びにそのための実用的な制度)、定型の素材移転契約及び資金供与の戦略に関する決議が採択された。
- (2)第2回理事会(GB2)は、2007年10月29日から11月2日まで、ローマ(イタリア)において開催された。本会合では、遵守、農業者の権利、作業計画及び予算に関する決議が採択された。
- (3)第3回理事会(GB3)は、2009年6月1日から5日まで、チュニス(チュニジア)において開催された。本会合では、遵守の手続及び運用制度、多数国間の制度、農業者の権利等に関する決議が採択された。
- (4)第4回理事会(GB4)は、2011年3月14日から18日まで、バリ(インドネシア)において開催された。本会合では、財政規則、遵守の手続及び運用制度、農業者の権利等に関する決議が採択された。
- (5)第5回理事会(GB5)は、2013年9月24日から28日まで、マスカット(オマーン)において開催された。本会合では、多数国間の制度の実施(多数国間の制度の実施の推進策として、幅広い措置について検討を行うための作業部会の設置)、食料及び農業のための植物遺伝資源の持続可能な利用(作業計画に係る展望、使命及び目標並びに支援策)、農業者の権利、遵守の手続及び運用制度(遵守委員会の規則及び手続、遵守状況の標準報告様式)等に関する決議が採択された。
- (6)第6回理事会(GB6)は、2015年10月5日から9日まで、ローマ(イタリア)において開催された。本会合では、多国間の制度の機能強化に向け、作業部会を引き続き設置して定型の素材移転契約の見直し等を検討することや、遺伝資源の世界情報システムの開発のための作業計画、農業者の権利のための取組等に関する決議が採択された。
- (7)第7回理事会(GB7)は、2017年10月30日から11月3日まで、キガリ(ルワンダ)において開催された。本会合では、空席となっていた事務局長に、暫定事務局長であったケント・ンナドジー氏が全会一致で選任された。また、多数国間の制度の機能改善のための措置については作業部会で引き続き検討することや、農業者の権利の実施促進のための取組、デジタル塩基配列情報の検討を含む複数年作業計画の作成、新たな資金戦略の検討等に関する決議が採択された。
- (8)第8回理事会(GB8)は、2019年11月11日から16日まで、ローマ(イタリア)において開催された。本会合において、条約の資金戦略の強化に向けて資金調達及び金銭的・非金銭的利益配分の支援やモニタリングなどを始めとする資金戦略全般を扱う資金戦略・資金動員助言委員会が常設化されることが決定されたほか、条約実施に係る複数年作業計画(2018年~2027年)等が採択された。多国間の制度の機能強化に向け、作業部会を引き続き設置して定型の素材移転契約の見直しを試みたものの、合意には至らず、最終的には、定型の素材移転契約は現行のものが当面維持されることとなった。また、次期会期間における多国間の制度の機能強化に係る補助機関の活動も行われないことが決定された。
- (9)第9回理事会(GB9)は、2022年9月11日から16日まで、デリー(インド)において開催された。GB8で交渉が決裂して以降、議論が凍結されていた多数国間制度(MLS)の機能改善に関する公式協議を段階的に再開することが決定され、GB11(2025年)で完結することを視野に、「MLS・利益配分機能強化促進アドホック公開作業部会」を再設置し、支払料率の議論を含む主要な対立点について歩み寄りが可能か、会期間に模索することとなった。
- (10)第10回理事会(GB10)は、2023年11月20日から24日まで、ローマ(イタリア)において開催された。多数国間制度(MLS)の機能改善に関する交渉が再開し、「附属書Iの拡大」「デジタル配列情報(DSI/GSD)」「支払料率・構造」に関して意見交換された。GB11に向けて、4回の正式な作業部会に加え、共同議長が適宜、非公式会合や小規模アドホックグループを設置して議論を続けていくことで一致した。
- (11)第11回理事会(GB11)は、2025年11月に開催される見込み。