気候変動

令和元年12月16日

 12月2日から15日まで,スペイン・マドリードにおいて,国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25),京都議定書第15回締約国会合(CMP15),パリ協定第2回締約国会合(CMA2),科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)及び実施に関する補助機関(SBI)第51回会合が行われたところ,概要は以下のとおり。我が国からは,小泉進次郎環境大臣,外務・経済産業・環境・財務・文部科学・農林水産・国土交通各省の関係者が出席した。
 我が国は,首席交渉官・専門家レベルの技術的な交渉に加え,小泉環境大臣が精力的にバイ会談及び閣僚級の交渉に参加して議論をリードし,パリ協定6条(市場メカニズム)の実施指針の交渉等に貢献した。
 また,各国とのバイ会談,政府代表ステートメント,サイドイベントなどあらゆる場面において,温室効果ガス排出量を5年連続で削減している実績や,非政府主体の積極的な取組等の我が国の実績や取組を積極的に発信した。

1 交渉概要

(1)パリ協定6条(市場メカニズム)

 本会合では,COP24で合意に至らなかった市場メカニズムの実施指針の交渉が一つの焦点となった。我が国は, 排出削減の二重計上防止と環境十全性の確保を訴え,首席交渉官・専門家レベルの技術的な交渉に加え,小泉環境大臣が各国閣僚等と精力的にバイ会談を行い,また,閣僚級の交渉においては建設的な提案で議論をリードした。一方で,本議題の下では,技術的論点に加え,各国の利害が絡み合う政治的な側面もあり,すべての論点について完全に合意するには至らなかった。我が国としては,今次会合での議論の進捗をもとに,COP26での採択に向け,引き続き貢献していく。

(2)ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失及び損害)

 COP19にて気候変動枠組条約の下に設置された,「ロス&ダメージに関するワルシャワ国際メカニズム(リスク管理に関する知見の共有等を促進するもの)」のレビューが実施された。一部の国から, 緑の気候基金(GCF)に対し,ロス&ダメージへの支援を求める主張が見られところ,既存の枠組の中で検討を続けることになった。また,ロス&ダメージに対する活動を支援する専門家グループ及びロス&ダメージにおける技術支援を促進するためのサンティアゴネットワークを設置することで合意に至った。

(3)その他の議論

 条約下の長期目標の定期レビュー,気候資金,透明性枠組み(パリ協定の締約国による報告制度)の報告表,ジェンダーと気候変動,対応措置の実施の影響(気候変動対策の実施による社会経済的な影響),適応,技術開発・移転,キャパシティ・ビルディング,農業,研究と組織的観測等の幅広い交渉議題について議論が行われた。 その結果,条約下の長期目標の次期定期レビューの範囲の決定,強化されたリマ作業計画・ジェンダー行動計画の策定,対応措置の影響に関するフォーラム等の6か年作業計画の策定等の成果があった。

(4)COP・CMP・CMA決定

 上記交渉議題の他,COP・CMP・CMA決定文書の中に盛り込む要素について議論が行われた。交渉の結果,締約国に野心的な気候変動対策を促す文言,海洋と気候変動に関する対話を2020年6月に実施すること等が盛り込まれた。また,次回COP26は,2020年11月に英国で開催される。

(5)各国の閣僚級との会談

 小泉環境大臣は,議長国チリ,コスタリカ,ブラジル,EU,フランス,ドイツ,南アフリカ,シンガポール,ニュージーランド,グテーレス国連事務総長,エスピノザUNFCCC事務局長など,13カ国・地域の大臣又は代表及び4つの機関の長とのバイ会談を,のべ36回行い,市場メカニズムの実施指針に関する交渉を主導するとともに,気候変動分野における考え・取組など様々な点について意見交換を行った。

2 我が国の取組の発信

(1)ハイレベル・イベント

ア 閣僚級会合における小泉環境大臣ステートメント

 小泉環境大臣は,世界の削減を加速するツールであるパリ協定6条の市場メカニズムについて,ダブルカウントを防止し環境十全性を確保する実施指針を策定するという我が国の堅固な交渉ポジションをまず明らかにした。その上で,

  • 世界でも最年少の大臣の一人でありミレニアル世代の最年長として,若者の声に耳を傾けつつ,未来への責任を果たすこと
  • COP25までに石炭政策については新たな展開を生むには至らなかったものの,批判を真摯に受け止め,脱炭素化に向けた具体的なアクションをとり続け,結果を出していくこと
  • 日本のアクションが石炭政策への批判でかき消され,評価されない現状を変えたいと思っており,日本が脱炭素化に完全にコミットしていること,必ず実現すること
  • 今年9月に環境大臣に就任してから,2050年までのネットゼロを宣言した自治体数を4から28に増やし,人口では4500万人に到達し,こうした自治体の野心的な行動が,日本国自体のネットゼロ達成を早める大きな力となること
  • TCFDの賛同企業・機関が世界一であり,気候変動に関する適切な情報開示が更なる投資を呼び込んでいること
  • GCFの最大級のドナーとして今後も支えていくこと

など,我が国の気候変動への取組や考えを最大限に効果的に発信した。

イ 適応に関する閣僚級対話

 適応の野心引き上げについて協議し各国の取組事例を共有する「適応に関する閣僚対話」がチリ政府により開催された。シュミット・チリ環境大臣とリレラ・スペイン環境移行省大臣による司会の下,小泉環境大臣を含む4か国(日本,ボツワナ,フィジー,ウルグアイ)の首相・閣僚が登壇し,パネルディスカッションが行われた。

 小泉環境大臣からは,日本で昨年12月から気候変動適応法が施行されたこと,アジア太平洋に対し科学的知見に基づいた適応行動を支援するため,「アジア太平洋気候変動適応プラットフォーム」を設立したこと等を発信した。

ウ GCA(Global Climate Action)プレナリーイベント

 締約国や非政府主体による気候変動対策の取組や成果を共有するGCAのイベントが開催された。日本からは,森下地球環境審議官が,日本における自治体,企業等の取組について説明を行うと共に,日本が提出したパリ協定に基づく長期戦略に脱炭素を一早く位置づけたことを発信した。

(2)公式サイドイベント等

ア GCF

 小泉環境大臣より,最大級のドナー国としての日本の貢献を表明した。また,日本のESG金融の増加,グリーンボンド市場の拡大に向けた取組を説明した。最後に,若者の行動を後押しするため,「GCF for Youth」と言えるような取組をGCFに進めていただきたい旨を表明した。

イ 炭素中立性連合閣僚会合

 トゥビアナ・元フランス気候変動大使の司会のもと,バイニマラマ・フィジー大統領,ショー・ニュージーランド気候変動大臣,ロドリゲス・コスタリカ環境エネルギー大臣,チョミョンレ・韓国環境大臣等が参加した。小泉環境大臣からは,日本が,G7で初めて長期戦略で炭素中立を宣言したこと,自治体・企業など非政府主体の動きが加速していること,東京で開催予定の循環経済ビジネスフォーラムにおいて,同連合に関するセッションを設ける予定であること等を発信した。今般,同連合への加入を表明した韓国から,小泉環境大臣より炭素中立性連合への加盟の後押しを受けたことに謝意が示された。

ウ 国連SDGsパビリオンでのワークショップ

 気候変動対策とSDGsの達成に向けた取組の連携について議論するワークショップが開催された。小泉環境大臣は,WEF(世界経済フォーラム)と共催で,循環経済ビジネスフォーラムを来年5月ごろに日本で開催すること,海洋プラスチックごみについてG20サミットで合意した大阪ブルー・オーシャン・ビジョンに基づき協調した取組が必要であること,国連の気候変動と防災に関する会議を主催すること,気候変動とSDGsのシナジーに関する会議を2021年に主催すること等を発信した。

(3)ジャパン・パビリオンにおける発信

 我が国は,COP25会場においてジャパン・パビリオンを開催し,様々な展示,セミナーを行った。展示について,「Action. Action. Action.」をテーマとして,我が国の強みとなる水素技術,宇宙・海洋観測,フロン対策,風力発電技術等を中心に,緩和と適応の両面から,模型・ジオラマ・パネルを展示,映像を上映した。また,サイドイベントとして,世界の脱炭素化に具体的アクションで貢献するための様々な取組を発信した。主なイベントについては以下の通り。

ア フルオロカーボン・イニシアティブ

 フルオロカーボン(フロン)のライフサイクルマネジメントに関するイニシアティブの設立セレモニーを開催し,小泉環境大臣が本イニシアティブの立ち上げを宣言。フランス・チリ・モルディブ・アジア開発銀行(ADB)・短期寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)が,本イニシアティブの支持を表明した (現時点で,11の国と国際機関,国内の10の企業と団体が支持を表明)。

イ 大阪ブルー・オーシャン・ビジョン

 大阪ブルー・オーシャン・ビジョンのラウンドテーブルを開催。小泉環境大臣より,G20以外の8か国を含む閣僚や幹部に対して,大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを共有。参加国から海洋プラスチックごみ対策への決意が表明された。

ウ 気候変動と防災

 気候変動と防災に関するイベントを開催し,小泉環境大臣より,気候変動適応法に基づく取組,今年6月に立ち上げられたアジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)を通じ,実効性高い適応活動の推進を支援していくこと,気候変動と防災の国際会議を来年開催する予定であること,アジア太平洋適応ネットワーク(APAN)フォーラムを来年9月に主催する予定であること等を発信した。

エ ネット・ゼロカーボンに向けたイノベーションのチャレンジ

 経団連等により,ネット・ゼロカーボンに向けてイノベーションが果たす役割についてのイベントが開催された。小泉環境大臣が出席し,経団連の「チャレンジ・ゼロ」を歓迎し,日本の企業,自治体の取組を,それぞれ「ゼロ・カーボン・カンパニーズ」,「ゼロ・カーボン・シティーズ」として紹介した。また,吉野彰博士がリチウムイオン電池でノーベル賞を受賞したことに言及し,世界全体での炭素中立に向けて,我が国のイノベーション及び国際協力で最大限貢献していく旨を発信した。

(4)その他イベントにおける発信

 地球情報デー(Earth Information Day)において,我が国の気候変動予測研究プログラムの成果や気候に関する組織的観測の重要性等について発信した。


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